新装備お披露目
鍛錬開始から十日が経過。
もう三分の一経ったというべきか、まだ三分の二残っていると思うべきか。
毎日、組手が終わるころには全員ボロボロで地面に突っ伏している状態がデフォだが、モチベーション自体は高い。
その成果として、まずジルドとメイバールは鎖鎌戦法や義足の機能を使いこなし始めている。
「せぇいっ!」
「はい隙ありっすー……おおっ?」
「オラオラぁっ!!」
「んふふ、防いだっすか。よーやく自滅する癖が直ったみたいっすねー。あとは武器だけじゃなくて、自分の身体の動きも無意識レベルで動かせるようになればいい具合に仕上がると思うっす」
「無茶言うな! つーか今の防げなかったら頭に直撃コースだったろ!? 殺す気か!」
組手相手のレイナに向かってジルドが鎖で繋がれた手鎌と分銅を投げつけながら、反撃に放たれた手裏剣や苦無を鎖の部分で器用に弾き落としている。
数日前まではどれか一つを操ることすらおぼつかなかったが、今では三つの武器を同時に振り回すこともとりあえずはできるようになりつつある。
というか、今のよく防いだな。時速ウン百kmで投げられた物体を複数同時に防げるようになってるあたり、ジルド君も段々人外への階段を上ってますね。
「……っ! ふっ!」
「うわぁ、なんすかその変態軌道は。縮地ってそんなグネグネ曲がるもんだったっけ……?」
「はっ! せいっ!」
「おおっと、足に仕込まれてる杭を槍に見立てての伸魔刃っすか。ラディアさんみたいな戦いかたしてるっすねー」
「……あっさり防がれたか。やはり目の前の壁は厚いようだ」
「オイコラ誰の胸が壁だふざけんなっす」
「いや、そんなつもりで言ったわけでは ごはぁっ!!?」
理不尽にキレてメイバールを殴り飛ばすレイナ。冤罪パンチやめろ。
メイバールも義足の杭を使って槍術技能を使ったり、例のターンピックを制御できるようになり始めている。冴えてるな。
あの義足を着けてから少し顔に覇気が出てきたような気がするな。最初の間なんか目が死んでたのに。
時々制御をミスって派手にずっこけたりもしているが、あのずっこける動きすら利用できるようになれば面白いことになりそうだ。
この調子なら、あと一週間もすればジルドとメイバールの戦法の基礎は出来上がりそうだ。
一足先に装備を渡したこともあるが、この二人は優秀だな。
残りの三人にも新装備を渡してあるが、まだ全然使いこなせていない。
なぜかって? そりゃ全部ジュリアン謹製の変態装備ばっかだからですがなにか。
「え、ええと、どのボタンを組み合わせれば麻痺だっけ……?」
「こらこら、戦闘中にそんな悠長にしてる余裕なんかないっすよー」
「仕方ないでしょ! この鞭のややこしい仕様にまだ全然慣れてないのよ!」
首を傾げながら鞭の持ち手に仕込まれているボタンをポチポチと押しているのを咎められ逆ギレするミラーム。
格ゲーの必殺技が出せなくて台パンしてるゲーマーを彷彿とさせる姿だ。
彼女に渡したのは毒仕込み鞭。名付けて『サソリの尾』。
持ち手部分に仕込んである複数の毒や薬を対応するボタンの組み合わせで調合し、鞭の部分から分泌させて状態異常を起こすことができるという代物だ。
持ち主の血を登録することで、装備している人間だけはその毒の影響を受けないようにするセーフティも搭載されているので安心して扱える。
調合できる毒や薬の種類は2ケタを超え、状況や相手によって使い分けることがこの武器のポイントだ。
また鞭の部分から分泌させ纏わせるだけでなく、鞭の先から水鉄砲のように放ったりすることもできたりする。
調合できる種類が多すぎてボタンの組み合わせを覚えるのに苦労しているが、少しずつ覚えていってるようだ。
ミラームはやる気がなくて気怠いイメージがあるが、なんだかんだでやるべきことはきちんとやってくれる。
……サボろうとしても無駄だから諦めて従っているようにも見えるが。
いまだにボタンをポチポチ押しているミラームを眺めていると、ドゴォンッ と大きな爆発音と衝撃が後方から聞こえてきた。
なにかと思って振り返ると、ルルベルが鬼先輩を数mばかし後ろに吹っ飛ばしているところだった。
華奢なルルベルが重量級の鬼先輩を軽々と飛ばす様はちょっとシュール。
『ガ、ガル……!』
「だ、大丈夫デスカ? スミマセン、この盾、まだよく分からない機能ばかりデ……」
今のは新しい盾に搭載されている攻勢防御機能の一つ『ボマーシールド』か。
相手の攻撃を受けた瞬間、盾の外側に爆発を起こす攻防一体の機能だ。
反動がちとキツいが、並の相手ならこれだけで粉々だろう。
他にもスキル技能を任意でアレンジする術式を刻んであったり、状況に応じて分割・変形してフレキシブルな運用が可能だったり、とにかく思いついた機能全部詰め込んどけみたいなノリで作られている。
もう盾というより平たいビックリ箱みたいなもので、機能全部を把握することすら難しいという珍兵器である。製作者は例によってジュリアン。またお前か。
『ギミック・シールド』というそのまんまな名前だが、どちらかというとミミックじゃね?
盾一つに秘められた機能が多すぎるうえに、扱う本人すら把握しきれていないからとにかく対応が難しい。
モノが盾だから攻撃能力に乏しいイメージがあるが、これはむしろ攻撃用の機能が多すぎる。
『ガルッ!』
「ひぃっ!?」
『ガルァッ!?』
鬼先輩が縮地を使って背後に回り込み、ルルベルに回し蹴りを浴びせようとしたところで急停止。
盾の前に魔力のバリアーを発生させる盾術スキル技能『魔障壁』で防いだようだが、鬼先輩の膂力ならバリアーを破壊してそのまま強烈な一撃をかますことができていたはずだ。
しかし、スキル技能アレンジ機能により防御能力が強化されていたため防がれてしまった。
今回は魔力でできた盾を薄くミルフィーユのように重ねて、多段的に威力を拡散させることで勢いを殺して防ぐことができたようだ。
魔力の直接操作による技能のアレンジをどうにか再現できないか試してみたが、なかなかいい具合に仕上げてるじゃないかジュリアン。
「え、ええと、これカナ……? えいっ」
『ガファッ!!』
動きが止まった鬼先輩に向かって盾を構え、盾の裏側に付けられている怪しげなボタンの一つを押すと、盾の中心から人の腕ほどの太さがある杭が勢いよく突き出し、鬼先輩の身体にぶち当たった。
……予想はしてたがやっぱパイルバンカー仕込んでたか。ジュリアン、パイル好きすぎるだろ。俺が言えた義理じゃないが。
鬼先輩、大丈夫? めっちゃ痛そうに悶絶してるんですけど。
最後にクソ親父ことギルカンダ。
他のメンバーに装備渡しといてコイツになにもなしってわけにもいかんので、不本意だが専用装備をオーダーしておいた。
「ぶふっ、は、ハリネズミみたいっすねプフククク……!」
「うるせぇ! くそ、なんでオレがこんなカッコしなきゃならねぇんだ……」
ギルカンダに着せているのは攻防一体の鎧。製作者はやっぱりジュリアン(ry
全身にナイフの刀身部分がビッシリと鱗状に付けられている鎧で、本人の意志に応じて刃の向きを垂直に立てることができる仕組みになっている。
全身の刀身を一斉に立てれば針もとい『刃の筵』の状態になり、近付くことすら難しくなる。
短剣術技能の媒介にすることも可能で、どの刃先からも遠当てや伸魔刃を発動可能。
さらにいざとなれば自爆して四方八方に刃を飛ばす広範囲攻撃を使用可能だ。
「ちょっと待ちやがれ! 自爆ってなんだよ!? なんでンな機能搭載してんだコラァ!!」
「ジュリアンさん、いつも変な兵器ばっか作ってるっすけど今回はいい仕事してくれたっすね。というわけで早速発動してみるっす」
「やらねぇよ!!」
自爆してもまたすぐに鎧を作ってもらうことはできるから問題ないぞ。
お前はズタズタになるだろうがな。はよ、爆死はよ。
どいつもこいつもまだまだだが、日数を重ねればこれらの変態兵器を使いこなせるようになるだろう。
レベリングと組手の工程は目途が立ったかな。やれやれ、一時はどうなるかと思ったがなんとかなりそうだ。
さて、あとは囚人たちがそれぞれ抱えている『問題』を解決しなければ。
最初はルルベルからかな。最近、この子の周りを嗅ぎまわってやがる奴らがチラチラ見えてるし。
カイワレダイコンの刑だけではまるで懲りていないと見える。
次は全身雑巾絞りの刑にでもしてやるとするか。害虫どもが。




