罵詈雑言飛び交う組手
本日、小説家になろう公式コンテンツ『今日の一冊』にてこの小説のあらすじ紹介を掲載していただきました。
あらすじの執筆や掲載の段取りをしていただいた博報堂のS氏には感謝に堪えません。
非常に読みやすく丁寧に執筆していただきまして、恐縮の至りです。
……丁寧に書かれたあらすじを読んで興味が湧いて、本編も読んでみたら中身がこんなんで『なんだこりゃ』となってる読者の方々の顔が浮かぶようでなんだか申し訳ない気持ちにもなってきますが(;´Д`)
時の流れとは早いもので、修業開始からもう一週間が経過した。
既に全員がLv60近くまでレベリングを進めており、基礎レベルだけ見れば今月中に特級職に到達する見込みだ。
さて、そろそろレベリングだけの修業から次のステップへ進む頃合いだな。
今後は午前をレベリング、午後からは組手の修業に入るとしよう。実戦形式で。
「組手って、教官たちとか?」
「ああ。初めの間はレイナやヒヨ子とか臨時の教官と組手をしてもらって、最終週あたりから俺やアルマともチャンバラしてもらうからそのつもりで」
「お、おう……月末が怖えな……」
「アノ、組手ということハ教官と一対一で戦うということデスか?」
「基本的にはね。一対多人数でやってもいいけど、連携は普段のレベリングで充分練習できてるから組手は個々の能力を伸ばすことを重視しようと思ってる」
「一人が組手している間、他の人はどうするの? 見学?」
「いや、手持ち無沙汰にはならないぞ。レイナ、よろしく」
「はいっす。『身外身の術』!」
「!? え、ふ、増えた……!? 五つ子だったのか!?」
「いや、んなわけないっしょ。忍術スキルでつくった分身っすよ」
指を二本立てながら術を叫ぶと、レイナが五人に増えた。
実体のある分身を作り出す技能で、五人に増えたなら単純に手数が五倍になると思っていい。
分身は本体の半分程度の能力値しかないが、それでも囚人たちよりはまだ強い。
「こうすれば全員同時に組手ができる。分身はちょっと弱いけど、今のお前ら相手にゃ充分だろ」
「教官って変な戦いかた教えるばかりじゃなくて、パーティの仲間も相当変わってるよな」
「自分なんてまだまだ常識の範囲内っすよ。カジカワさんはもっと変っす」
「知ってる」
「お前ら後で俺直々に鍛えてやるから覚悟しろ」
「「ゴメンナサイ」」
遠慮しなくていいんだぞーなんなら二人がかりでもいいぞー。
え、やだ? ならあんま人を変人扱いするのはヤメレ。もう慣れたけど地味に傷付くんだぞ。
「さて、じゃあ今日の組手はレイナ×3とヒヨ子と臨時教官を相手にしてもらう。一時間ごとに教官をシャッフルするからそのつもりで」
「臨時って、誰を呼ぶんだ? 他の特級職の教官でも呼んでくるのか?」
「いや他の教官も忙しいからそりゃ無理だ。まあ実際呼んだほうが早いか。はい、じゃあどうぞー」
「え? ……え!?」
ファストトラベルで、臨時の教官を俺の傍まで転移させた。
え、誰を呼んだのかって?
『……ガル?』
深紅の肌に丸太のように太く逞しい手足、シックスパック通り越してもうなにがなんだか分からないほど筋肉質なボディ。
鬼先生、ではなくその手下たちのリーダーこと『鬼先輩』である。
例の魔族騒ぎの際に鬼先生に引き摺られるように無理やり付添わされて、魔族を何体か仕留めた甲斐あって大分成長している。
元々はオーガの上位種『ハイオーガ』だったが、今ではSランク下位魔獣『グレーターオーガ』にまで進化していて、鬼先生を除けば魔獣山岳で最強の魔獣にまで上り詰めていた。
まあそれでも鬼先生のデコピンにすら耐えられないんだけどね。
「お、おい! こいつ魔獣じゃねーか!?」
「ただの魔獣じゃない。臨時の教官を務めるグレーターオーガの鬼先輩だ」
「いや意味分かんねーよ! 従魔の首輪もしてねぇし、こいつテイムすらされてねぇだろ! 組手どころか殺し合いになるだろ!」
「事前に話は通してあるから大丈夫大丈夫」
「どうやって!?」
『ガル……』
急に現れた鬼先輩にビビる囚人たちと、いきなりこんな所に転移させられて困惑している鬼先輩。
ちなみに鬼先輩には組手の後にメシを奢る契約で手伝ってもらう段取りを組んでいる。
え、鬼先生を呼んで手伝ってもらえなかったのかって? 無理。絶対無理。
元々モノを教えるのがドヘタクソなうえに、こないだサラッと最終進化しててさらに手加減が下手になってたし。
彼らと組手なんかさせたら五人分の肉塊、いや肉粒が辺り一面に撒き散らされることになるだろう。グロし。
その点、鬼先輩は気遣いができるし部下たちに無茶な指示を出したりもしないし俺が鬼先生にボコられて愚痴ってても聞き相手になってくれるし、教官としては下手な人間よりも適任かもしれない。
……この鬼、ホントに魔獣か?
「見た目は強面だが、ちゃんと手加減してくれるから安心しろ。ただあんまり腑抜けたことやってるとぶっ飛ばされるから気は抜くなよ」
「えええ……」
「はい、それじゃあスタート」
こうしてレイナたちと囚人たちの組手が始まった。
これまでのレベリングだけの修業がいかに楽なものだったか思い知ることになるだろう。
それを裏付けるように、先ほどから戦いかたがなっちゃいない囚人たちに向かって罵詈雑言混じりの叱咤激励が飛び交っている。
「はい、新しいオモチャに夢中なのは分かるっすけど、義足のワイヤーばっかりに頼らない! ワイヤーを出す時にいちいち膝を上げるから隙だらけになってるっす! あと、ちゃんと槍のリーチを活かせっす! なんで短剣相手に槍が不利になってるんすか! もっと速く足を動かして間合いをとれっす! ノロマ!」
「くっ……!」
「鞭の先ばっかりで攻撃するなっす! そんなノロい鞭なんか目を瞑ってても避けられるっすよ! 鞭の腹の部分と先端を同時に操りながらなにか投擲したり素手で殴りかかったり工夫するっす!」
「む、無茶言わないでよ! 頭が2~3個ないとそんなの無理よ!」
「はいはいはい! 無意味に短剣を右手・左手に持ち替えるなっす! 持ち替える瞬間に攻め込まれたら無防備っしょ! あと握りが甘い! せっかく生やしてもらった手は飾りっすか! あと死ね!」
「ちっ……随分と逞しくなりやがって。……今ナチュラルに死ねっつったか?」
『コケッ! コケェッ! コケコケコケコケッ!! コッケ! コケェ!!』
「いやなに言ってんのか分かんねーよ! 怒ってるのは分かるけどなにが言いたいんだよ!?」
「えーと、『鎖を回して投げる瞬間が隙だらけだから投げてる間も油断するな。あといいかげん自滅する癖を直せ。自分で自分を攻撃するなんて赤ん坊でもしないぞ。お前の頭は飾りか、枯れた芝生みたいな頭しやがって』だそうだ」
「口悪っ!? 枯れた芝生!? ……ってかアンタもなんで分かるんだよ!?」
「あうぅっ!?」
『ガ、ガル……?』
「だ、大丈夫デス。ちょっと防ぐのを失敗してしまいマシタ……」
『ガル、ガルル』
「は、はいスミマセン。次からは威力の高い攻撃はまともニ防がず受け流しマス」
レイナは分身しながら言いたい放題、ヒヨ子は翻訳しないと分からないからってめっちゃ口悪い。
……相対的に鬼先輩が一番優しく指導してるんですがそれは。てかルルベルは翻訳無しでよく言ってること分かるなオイ。
新しい装備の機能や戦法に慣れることも重要だが、こういった白兵戦の基礎鍛錬も同時進行しないと必ずどこかでボロが出る。
しばらく毎日午後からが地獄だろうが、耐えろ。
俺も進化した鬼先生との鍛錬頑張るから。
……はぁ、なんでアレ以上強くなったりするかなー鬼先生……。




