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鎖鎌の戦士

 今回は手鎌使いの少年ジフルガンド視点です。



 ガツガツと口の中いっぱいにメシを詰め込んで滅茶苦茶に咀嚼して飲み込む。

 行儀が悪いのは分かっちゃいるけど、この癖は直りそうにねぇ。



「そんな急いで食わなくてもメシは逃げないぞーよく噛んで食えよー」



 あまりにきたねぇ食いかたを見かねてか、苦笑しながら教官が諫めてくる。

 分かってる、分かってるんだよそんなこと。でも、理屈じゃないんだよ。


 急いで食わないと、いつ誰にメシを奪われるかも分からないような環境で育ってきたんだ。

 こればっかりは自分でもどうしようもねぇんだよ。


 ……でも、やっぱこの教官が用意してくれるメシはうまいな。

 このサンドイッチも野菜とハムとか玉子とか分厚い肉だとか、飽きないように色んな具をはさんでくれてる。



「お、この半熟玉子サンド美味いな。アルマも料理上手くなってきたなぁ」


「ん、『先生』によく教えてもらってるから」


「次は今週末だっけ? 俺も今度『先生』に教わりにいこうかな」


「……『先生』っすか。本人はアルマさんやルナティアラさんにまでそう呼ばれて困惑してるみたいっすけど」


『ピ』



 へぇ、この玉子サンドってあの黒髪のネーちゃんが作ったのか。すげぇうめぇな。

 戦闘職なのに料理ができるってことは、ギフトってやつか?

 オレも上級職になったからギフトを一つ選べるみたいだけど、なにをとろうかまだ決めてないんだよなぁ。






 昼飯が終わってから、教官がオレに戦いかたの見本を見せるから、囚人たちは見学しているように指示が出た。

 ……なんかオレだけ贔屓されてねぇか?



「気のせいだ。他の囚人たちにもちゃんと変に強い戦いかたや装備を配布する予定だぞ。まあお前が一番若いし期待してるってのはあるがな」


「変に強い……?」



 ……自意識過剰かと思ったらちょっとだけ期待されてた。なんだかむず痒い。

 にしても、取得したスキルの組み合わせが妙だがホントにこんなもんで強くなれるのか……?



 教官に獲得させられたスキルは『鞭術』『槌術』『投擲』の3つ。

 本当なら一日で3つもスキルを獲得することなんて無理だろうが、前日の熟練度稼ぎとジョブチェンジのボーナスを重ねることで無理やり獲得できた。


 その熟練度稼ぎも相当頭おかしい方法だったけどな!

 クソデカい空飛ぶクジラみてぇな魔獣をひたすら鞭やハンマーで殴ったり、石を何度も何度も投げてぶつけたり。

 上手く鞭が振るえないオレのサポート役として、一緒に付き合わされていたミラームのネーちゃんも困惑してたし。


 不思議なことに空飛ぶクジラはいくら攻撃しても、なぜかまるで動こうとしなかった。

 攻撃を当てるたびにわずかだけど傷ついてたし、痛そうに鳴き声を上げてはいた。


 でも、決して動こうとはしなかった。まるで目に見えないなにかに無理やり縛り上げられているかのように。

 ……思い出したらなんだか罪悪感が湧いてきたからこのへんにしとくか。




 魔獣たちが飛んだり跳ねたりしている庭園に戻り、教官がどこからともなく武器を取り出した。

 ……いや、ホントにどっから出したんだ?


 教官が取り出したのは『手鎌』と『分銅』、そしてその二つを繋ぐ長い『鎖』だった。

 なんだありゃ? あんなもん取り出して、なにをするつもりなんだ?




「はい、それじゃあ見本を見せるからしっかり見て覚えろ」


「いや、なんだよそれ? なんでわざわざ鎖なんかで繋いであるんだ?」


「いいから見てろ。……ふっ!」




 教官が鎖を持ち上げ、思いっきり振り回し始めた。

 ビュンビュンと凄まじい速さで手鎌の付いた鎖が回って、その勢いだけで辺りに風が吹いている。



「せいっ!」


『ギャウッ!?』



 充分に勢いのついた鎖付きの手鎌を、空を飛ぶ鳥型の魔獣に向かって投げ飛ばした。

 急に手鎌が飛んできてビックリした様子だったが、ギリギリのところで躱されてしまった。

 おいおい、いきなり失敗してるじゃねーか。



「甘ぁい。プリンより甘いぜトリ公」


『ギ!? ぎ、ギャァアアッ!!?』



 え、は? ……はぁ!?

 外れたはずの手鎌付きの鎖が、まるで生きているかのように軌道を変えて鳥型魔獣に絡みついていく。

 グルグルと巻き付いた末に、先端に付いている手鎌が鳥型魔獣の胴体に深々と突き刺さった。


 な、なんだ今の動きは!?

 あんなふうに慣性を無視したような振りかたなんかできるのかよ!?



『ギュォァアアアッ!!』


「おっと、追加か。丁度よかった、お前も練習台になるがいいー」



 鳥型魔獣を鎖で拘束しつつ、今度は近付いてきたワイバーンに狙いを定めたようだ。

 手鎌とは逆側の先端、分銅が付いたほうをワイバーンに向かって投げた。



『ギィッ!!』



 さっきギリギリで避けたのに絡めとられた鳥型異獣の姿を見ていたのか、分銅を避けずに弾いた。

 弾かれた分銅は、力なく落ちて――――




「ほいほいほいっと」


『ぎ、ギギャッ!?』




 今度は分銅がさっきの手鎌と同じで、生きているかのように、いや、不規則で予測不能な軌道を描きながらワイバーンに向かっていく。

 ど、どうなってんだアレ……!?


 なにがなんだか分からねぇ戦いかたをする教官を眺めていると、隣でミラームが苦笑いしながら呟いた。



「鞭術スキルの応用、いえ、多分鎌術や槌術なんかも使ってるみたいね。鎖を鞭術で、先端に付けてる手鎌や分銅を『投擲』スキルで投げた後に『魔刃・疾風』や『魔槌・疾風』で操って、あの無茶苦茶な軌道を描いているってわけね」


「そ、そんなことできんのかよ……!?」


「普通は思いついてもやらない、……というかできないでしょうね。複数のスキル技能を並列で発動させつつあんな動きをするなんて、私には真似できないわよ」




 言葉にするだけで頭がパンクしそうなくらいワケ分かんねぇことやってるのは分かる。

 ただ鎖や武器を振り回してるだけじゃない。自在にそれらを操りながら、縦横無尽に動き回って魔獣たちを追い詰めてやがる。



「ほいほいっと、オラァッ!!」


『ゴギョベッ!!?』



 何度も襲いかかってくる分銅を必死に弾いているところに教官自らが飛び込んできて、ワイバーンの首に鎖を絡みつけたかと思ったら、思いっきり分銅を引き寄せて鎖を締め付けた。

 その結果、ワイバーンは窒息、いや首がへし折れて動かなくなった。

 


「はい終了。ぶっちゃけ俺の場合はわざわざ鎖を巻きつけてこんなことしなくても、普通に殴り殺したほうが早いんだけどな。まあこういう戦いかたもあるということで」


「……今のを、オレにやってみろってか?」


「最初っからここまでやれとは言わん。だが、こいつを自在にこなせるようになれば間違いなく強くなれる。なんせこの戦法は千年前の勇者『ドライト・ヤナギ』が編み出して、実際にこの戦法で1000体もの魔獣を一晩で仕留めたっていう記録があるくらいだしな。 (俺も昨日初めて) (知ったわ)


「いや嘘だろ。そんなにすげぇ技ならなんで失伝したんだよ」


「単純にマネできるヤツがいなかったんだろ。鞭術をスキルの導線にして先端に付けた武器のスキル技能を発動させるなんて、並の頭じゃ制御できたもんじゃない。俺の場合は無駄に高い能力値 (と魔力操作)で強引に再現してるだけだし、ジルドが使いこなせるようになるには一夕一朝じゃ無理だろうな」



 ……そこまでして習得するだけの価値があるのかって、実際に見てみるまでのオレなら言っていただろう。

 だけど教官が言う通り、見た目はヘンテコだがこの戦法は強力だ。


 あらゆる距離に対応可能だし、複数の魔獣相手にも戦える。

 教官は鞭術以外は『魔刃・疾風』系の技能しか使ってなかったけど、まだまだ他の技能も組み合わせられるだろうし幅広い応用が利くだろう。

 なによりも……。



「戦ってる間、スゲー楽しそうな顔してたなアンタ」


「うん、慣れると超楽しい。相当練習が必要だけどな」


「……一ヶ月で、オレも習得できるかな」


「そりゃお前次第だ。無理そうならまあやめてもいいが」


「やる。ぜってぇできるようになってやるぜ!」



 オレは別に戦いってやつが好きなわけじゃない。

 痛いし苦しいし疲れるし、どっちかというと嫌いなくらいだ。


 でも、さっきの教官はまるでチャンバラごっこでもやってるガキみてぇな、活き活きとした顔で戦っていた。

 あんなふうに楽しく戦えれば、戦闘職として働く甲斐もあるってもんだろう。

 ……すっげぇ難しそうだけどな。


「そういや、教官はどれくらい練習してあんなふうに動けるようになったんだ?」


 (5分ゲフンゲフン) ……一ヶ月くらいかな」


「教官でも一ヶ月かかったのか。なら、オレも気合入れねぇとな!」


「う、うん、そうだねハハハ」



 ? なんでそんな気まずそうな顔して笑ってるんだ?

 まあいいや、そんじゃあ早速午後から試してみるか!













 試した結果、5回に一回は自分に向かって鎌や分銅が飛んできて何度も自滅した。

 頭に鎌が飛んできた時は死んだかと思ったけど、教官が大慌てで止めてくれたから助かった。

 ……はやまったかな、オレ。


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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
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