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改造開始

 3回目のワクチン接種の後、そのまま風邪ひいてダウンしてました(;´Д`)



 修業二日目。


 全員顔色が暗く、特にミラームが死んだような顔をしているのが気になるが、今日もレベリングだ。

 原因としては脱走ができないことを悟ったこともあるんだろうが、支度金の大部分を失ってしまったことがショックなのかもしれない。

 あんな端金、これからいくらでも稼げるのにね。



「よーし、全員朝食と食休みは済んだなー。なら昨日の分の討伐報酬を配布するから各自受け取れー」


「……え? 討伐報酬って、アンタらに払われるんじゃないのか?」


「は? なんで?」



 なに言ってんだコイツ。

 なんでわざわざお前らの金をネコババするようなマネをせにゃならんのか。意味分からん。


 ……あー、そういえば一応グラマスからは囚人たちが仕留めた分の魔獣の討伐報酬や素材は、俺たちの好きにしていいと言われていたっけ。正直大して必要ないんですけど。

 稼ごうと思えば一日で昨日の百倍くらい稼げるし、彼らにも息抜きをするための資金が必要だしな。




「お前たちが仕留めたんだからそっちに金が入るのは当たり前だろ。あと魔獣の素材も全部解体してもらって換金するから、後日素材屋からの支払いが確認でき次第そっちも受け取るように」


「ほ、ホントに……!? 私たち、罪を犯した囚人なのよ? なんでそこまで待遇がいいの……?」


「これから徐々に厳しくなっていく地獄に耐えて、モチベを維持するためだがなにか」


「……納得デスね」


「き、昨日よりキツくなっていくってのかよ……」




 それぞれ仕留めた分の報酬を手渡していく。

 単純に仕留めた数だけじゃなくて、戦闘の貢献度なんかを考慮した値を受付嬢が出してくれたので、あまり魔獣にトドメを刺せなかったルルベルなんかの報酬が少なかったりもしない。



「今度は脱走なんかのために使うなよ。無駄になるだけだから」


「……分かってるわよ。はぁ、またこうして地道に魔獣を仕留めて報酬を受け取る生活に戻ることになるとはね……」


「地道って、一人頭数十万エンはあるんだが……」


「え、高ぁっ!? あ、そ、そうか。昨日仕留めてた魔獣たちは高レベルの危険なものばかりだったものね。……一日で数十万って……」



 お金の入った袋を眺めながら、目を丸くして驚いている。

 これだけで並の冒険者の月収くらいはあるし、こういった反応になるのも当然といえば当然か。


 あと、アルマも強化魔法をかけた分だけ経験値と討伐報酬を受け取っていたりするが、今のアルマにとってはどちらも大した報酬でもない。

 RPGで例えるなら本編クリア後の世界で、中盤始め辺りの敵を何体か狩った程度の非っ常に微妙な収入だ。



「ただ、これだけ稼げたのは強化魔法と強力な装備のおかげだからな。自分の実力だと勘違いしないように。まあ、一月後にはこれくらい楽勝で稼げるようになってるだろうがな」


「分かってるわよ。今でもあんなバケモノたち相手に生き残れたのが不思議なくらいだわ」


「さて、今日は第五大陸の魔獣森林の奥地でレベリングするぞー。毒の胞子が舞ってる危険区域だから状態異常耐性付与のアクセサリと防塵マスクをちゃんと着けとけよーでないと肺が腐って死ぬぞー」


「……なんでそんなところでレベリングしようとするの……」


「あと稀にLv70以上の魔獣も混じってるから、見つけたら油断せずブチ殺せ」


「いやそこは見かけたらすぐ逃げろって言うところじゃねーのか!?」


「ヤバそうだったなら協力して倒せばいい。どうしようもなかったら逃げていいけど、まあ大丈夫だろ。多分」


「多分!?」



 本当にヤバそうだったら俺たちが救助するつもりだけど、それを言ったら緊張感がなくなるので黙っておこう。

 さて、今日はどれだけレベルが上がるかな?













 で、二日目終了。

 なんだか雑なまとめかたしてるように聞こえるかもしれないが、特に見所がなかったから仕方ない。


 強いて言えば、さっきルルベルがミニマム・ヨルムンガンドに遭遇した挙句丸呑みにされて、それを大慌てで他のメンバーが救助していたところがちょっとした修羅場だったな。

 ……あのヘビ公、もしかして割と頻繁に出没する魔獣だったりするのか? だとしたら定期的にこの森林を見張ることも考える必要があるかもな。




「……………」


「ぅぁぁ……」


「わ……わたし……生きて……る……?」


「ぉぉ……ぁぁぁ………」


「……ヘビさんハ……もう……嫌デス……」




 初日同様、死屍累々の状態で地面に突っ伏す五人。特にルルベルがヤバい。飲み込まれたから胃液で装備がちょっと溶けてる。

 今にも死にそうな顔で呻き声を漏らしているが、全員五体満足だから無問題。義足は除く。


 うむうむ、順調順調。

 しかし、当たり前とはいえやっぱ基礎レベルや能力値が上がるだけってのはやっぱつまらんなー。

 いや基礎能力を上げないとこの先の修業に耐えられないからやってるわけなんだけど、


 ちょっとフライングしてスキルや戦闘技術向上の訓練も進めるべきかな。

 いや、でもここまでズタボロになった状態じゃそんな体力残ってないか……?




「はい、全員お疲れー。街に戻って風呂入ってからメシ食うぞー」


「ちょ、ちょっと、もうちょっとだけ、休ませて……」


「はよ立て。そして風呂で汗と胃液を流せ。くさいぞ」


「て、てめぇ、ついさっきまで、あのクソデカいヘビと戦ってたの、見てただろう、が……!」


「立てねぇ……」


「まあミニマム・ヨルムンガンドがまた発生してたのは想定外……ってわけでもなかったけど、正直かなり手こずるとは思ってた。よく討伐できたな」


「あ、ありがとうございマス……デモワタシが飲み込まレタ時くらいは助けてほしかったデス……」



 半溶けでボロボロの装備を脱ぎながら、ルルベルがジト目で睨みつつ愚痴を言っている。ゴメンて。



「装備はちょっと溶けちまったけど身体は無事だろ? ホントに消化されそうでヤバかったら助けてたよ。ホントホント」


「……そんな軽く言われテモ」


「嘘つけ! 全然助ける気なかっただろ!」


「つーか、さっきのヘビ、飲み込まれたネーちゃんを省いてオレたち四人が全力で攻撃し続けてようやく倒せたんだぜ? アンタ、そんなあっさり倒せるもんなのかよ?」


「うん」


「いや、うんって……っ!?」



 呆れたような、諦めたような表情で俺の返答を復唱していたジルドの顔が驚愕のソレに変わった。

 俺の顔、の上のほうを見上げながら、口をパッカリ開けてアホ面のまま固まってる。




 ……やっぱこの森、定期的に掃除したほうがいいかもしれない。




『シャルルルルル………』



 

 俺の後方に、ミニマム・ヨルムンガンドがか細い鳴き声を漏らしながら佇んでいる。

 もう一体いたん(おかわり)ですね分かります。



「えーと、おかわりがきたけど、お前らまだやれる?」


「「「「「ムリ」」」」」



 ……老若男女様々な囚人たち全員が、一糸乱れず声をハモらせながら答えた。

 実戦の連携もそんくらいスムーズに進められればいいのにね。




『シャァァァアアッ……!!』



 さっきのルルベルよろしく、俺を丸呑みしようと口をかっ開いて迫ってくるヘビ公。

 コイツの鳴き声も今となっちゃなんだか懐かしく感じなくもない。


 俺はもうレベリングする必要はないし、特に金にも困ってないからむやみに討伐するのはちょっぴり気が引け……ないな別に。

 やっぱ放っておくと世界滅ぼす系モンスターは死ね。



「はい、どーん」


『ボグォビャバッ!!』



 指先から魔力の塊を雑に放ち、ヘビ公の頭にブチ当てて弾き飛ばした。

 あの時はパーティ全員で連携して全力全開で大槌を振り回してようやく倒してたのに、今じゃこの有様。

 アレだ、RPGとかで序盤にクッソ苦戦した相手が、終盤に再戦してあっさり力押しで倒せてしまってちょっと寂しい気持ちになる感覚に(ry



「はい、掃除も終わったし帰るぞー」


「……いま、なにがおきたんデスカ……?」


「攻撃魔法、か……? やっぱアンタ、魔法使い系の職業なのか……?」



 違います。強いて言えばもうすぐ親父になるオッサン予備軍です。

 説明するのも誤魔化すのも面倒くさいので、頭の無くなったヘビ公の死体に釘付けになってる囚人ズの言葉を無視してさっさとファストトラベルで街へ戻った。


 その後、街に戻ってもへたり込んだまま動かない囚人たちを魔力操作で釣り上げて銭湯に叩き込んだ。

 ボケっとしてないでさっさと風呂入れ。くさい。




 二日目の修業も問題なく終了。

 全員滞りなくレベルが上がり、最後のミニマム・ヨルムンガンドを討伐した時点でジルド以外は上級職にジョブチェンジしている。

 ジルドだけレベルが40台のままだが、かえって好都合だ。



 宿屋に戻ってから、貸し切っている食堂の一部スペースに食事を並べて夕食。

 なんだか小学生男子あたりが好きそうなメニューばっか作ってる気もするが、ガッツリ食べられるものじゃないと身がもたないだろうからボリュームのある料理になりがちなのよ。



「今日の晩飯はラーメンだ。バイキング方式で麺とかスープとか乗せる具とか好きなように盛り付けて食べるがいいー」


「ら、らーめん?」


「うん。知らんのか?」


「見たところ麺にスープをかけて食べる、スープパスタみたいなものに見えるけど……」



 ……過去の勇者はもうちょっと自分の故郷の食文化を広めておくべきだったと思うの。

 メニューいわく、自分たちが食う分ばっか作るばかりであまり積極的に広めるようなことはしないヤツばっかだったらしいが。

 地域によっては郷土料理みたいな扱いで勇者の料理が根付いているところもあるらしいが、さて。



「まあどんなふうに盛り付けるかは各自好きにしなさい。こんなふうに山盛りにすることも許す」


「……家畜のエサみてぇな盛り付けだな」



 某〇郎系ラーメンよろしく野菜マシマシの丼を見てドン引きのジルド君。言い得て妙だが大体合ってる。

 でもなんだかんだ皆結局真似してドカ盛りの器を完成させてるっていうね。腹減ってるししゃーない。





 ズルズルとラーメンを啜り進めていると、ジルドが声をかけてきた。

 メシ中におかわり以外でこいつから話しかけてくるのは珍しいな。



「教官、討伐報酬の件でちょっと相談があるんだけどよ」


「ん、どしたの?」


「……オレの分の討伐報酬を、『テヴァルラ』っていう街にある、オレが寝床にしてたボロなあばら家に送ってもらうことってできるか?」


「んー? 仕送りってことか? てか『あばら家』?」


「ああ。あそこは家賃が必要ない、というか家のないガキたちが占拠してるようなところでよ。オレ以外にも小さいガキが何人も身を寄せ合って暮らしてた」


「ふーん、孤児院みたいなもんか?」


「そんないいもんじゃねぇけどな。誰も管理らしい管理なんざしてねぇし、でも街の住人からすりゃ小汚いホームレスをひとまとめにできる場所として放っておける、まあ言うなりゃ人間のゴミ捨て場みてぇな場所だったよ」



 自分の住んでた場所をそんな卑下せんでも。

 まあそんくらいいいだろとか返そうと思ったところで、久々に脳内のゴーストがなにかを囁いてきおった。


 ……。


 この外道がー!(自作自演

 でも実行。外道で結構。





「あのなジルド、討伐報酬をお前に直接渡すのと他の街にある特定の施設に送るのとじゃ手間が全然違う。しかもそのあばら家、公的な施設じゃないんだろ?」


「う……無理なのか?」


「仮に送ったとしても配送分の手数料は当然とられるし、あばら家の誰に渡すかを正確に伝えなきゃちゃんと届くかどうかも分かんねーぞ。ぶっちゃけかなりメンドクサイ手間がかかる」


「そ、そうか……」



 ここまで嘘は一切言っていない。

 まあ面倒なことには変わりないが、やろうと思えばどうとでもできる。



「ま、俺ならできなくはないけどな」


「! やってくれるのか……?」


「ただし、条件がある」


「じ、条件……?」


「明日のレベリングで、多分お前は上級職にジョブチェンジする。その時に特定のスキルを取得できるように、メシが終わってから熟練度稼ぎをしろ。やりかたの指示は俺が出す」


「え、ええ……?」



 ぶっちゃけ、今回の囚人たちの中でも特にジルドにはかなり期待している。

 若いし他人を思いやれるし根性あるし。……盗みの前科の件は置いといて。


 ただ、やっぱ現状のスキルだけじゃどうしても限界があるわけで。

 片手用の手鎌をメインウェポンとして、さらに補助技能として2~3つほどスキルを獲得すれば、戦闘能力がはね上がること請け合いだ。



「……分かった。要はスキルを獲得できるように特訓すれば、仕送りをしてくれるってことでいいんだよな?」


「ああ。あとミラーム、お前もちょっと付き合え」


「え、なんで私まで!?」


「ジルドの特訓にお前のスキルが必要なんだ。その分報酬は出すから」


「えー……もう今日は休みたいんだけど……」


「ちなみに脱走しようとしたことをギルドに報告した場合、刑期が延長されるそうだが」


「ああもう! やるわよ! やればいいんでしょもう!」




 よしよし、快く承諾してくれてなにより。

 さーて、ジルド君魔改造計画の始まりだ。胸が躍る。



 ああそういえば、ジュリアンが義足の完成が思ったより早くなりそうだって言ってたな。

 ふふふ、着々と囚人たちが人間やめるための準備が整っていってるな。


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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] ミニマム蛇の強さ。比較的序盤の強敵で全力出せば勝てないこともない、はFF5のドルムキマイラくらいかなあ?あからさまに全滅確定なトラップモンスターじゃないあたりが。
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