囚人たちの独白
※今回始めのルルベル視点は ■ ■ ■ の表示がされているところまではこれまでの経緯が書いてあります。
正直言って長くて読むのがだるいし、さして重要な部分でもありません。
よって 読 み 飛 ば し 推 奨 です。なら書くな。
~~~~~冤罪の盾使いルルベル視点~~~~~
あの家に嫁いでから昨日まで、毎日が地獄でした。
厳しい寒さが続く辺境の土地を治める貴族。それが私の産まれた家でした。
辺境といっても辺境伯というわけではなく、大した権限もない田舎の『フランノル』男爵家。
宝石の鉱脈があり、牧歌的ながらそれなりに豊かな暮らしができるくらいの財を賄うことができていたのですが、一番大きな鉱山が廃坑となってしまって以来、一気に収益が落ち込んでしまいました。
今では隣の領地から魔石をはじめとした資源を輸入しなければ、まともに暖をとることすら難しい貧乏貴族です。
輸入する資源に対してうちの領地から出せる物品は少なく、収支は常に赤字で返済の目途も立たず、年々積み上がり膨れ上がっていくばかり。
このままでは我が家は破産し断絶。それだけならばまだしも領民たちの生活を維持することすらままならなくなってしまいます。
新たな資源を生産して売ろうにも、寒冷地ですので農作物などの栽培には向きませんし、生息している魔獣を狩って素材を得ようとしても、領内のテリトリーには強力な魔獣ばかりが生息していてとても手が出せません。
幸いなのは、スタンピードが起こらないという稀有な特性のあるテリトリーなので、少なくとも魔獣の襲撃が原因で領内が滅ぶことはないようです。
どうしようもなく立ち行かない経済事情に皆が頭を悩ませていると、隣の領地を治めている『ババリア』侯爵家から婚姻の提案・相談のお話が届いてきました。
『我が家との付き合いも長い。今後もよき関係を保っていくために、貴家の娘さんを当家の息子の伴侶として迎え入れたい』という内容で、この婚姻を受け入れるのであればこれまでの赤字を帳消しにするという、困窮していた私たちにとっては渡りに船の提案でした。
……今思えば、もっと相手の状況などを調べてからどうするべきか考えるべきでしたが。
政略結婚だと割り切ってはいましたが、それでも良き妻として振る舞えば幸せな家庭を築けるかもしれない、という淡い希望をもっていました。
侯爵家に嫁いでから、現実はそこまで甘くないということをすぐに思い知ることになりましたが。
嫁ぎ先では、辺境の田舎者とバカにされる日々を過ごすことになりました。
戦闘職でまともに統治の手伝いもできない無能だと、使用人たちにすら後ろ指を向けられました。
あなた方のほうから私を招いたのではなかったのですか、と喚き散らしたい気持ちを抑えながら、それでも生まれ故郷のために耐え続けました。
戦闘職でも力仕事くらいはできると、本来なら貴族の娘がやらないような重労働の雑用もすすんでこなしました。
……たとえ誰一人、旦那様すら私のことを見ていないとしても。
実る見込みの薄い努力でしたが、それでもいつかは報われると信じていたのに。
ある日、見覚えのない怪しげな女性と、旦那様を含めた侯爵家全員が私を見降ろしながら、冷たい目を向けながらこう告げました。
『もうお前はいらない』
『お前には人殺しになってもらう』
『先のないこの領地とともに破滅してくれ』
……その先は教官に話したままの流れで、冤罪による破滅が私を待っていました。
家族全員を殺し、屋敷に火を点けて金目のものを奪って高跳びしようとしたという、根も葉もない罪で。
真実を言いたくても、呪いをかけられた影響で嘘の証言しかできない。
さらに検察や現場検証の担当にも元ババリア侯爵家の手がまわっていたらしく、流れるようなスムーズさで私は牢獄へ収監されていきました。
ババリア侯爵家の人たちはなぜそんな罪を私に着せて姿を消したのでしょうか。
カジカワ教官が冤罪事件が起こった当時の状況などを調べているようですが、おおよその察しはついています。
……結局のところ、私は始めから生贄として迎え入れられただけだった、ということでしょう。
■ ■ ■
……さて、長々と走馬灯じみた回想を頭の中で流していましたが、そろそろ現実に戻るとしましょうか。
現在レベリングの最中ですが、四方八方から殺傷力抜群の攻撃を繰り出されていまして、今にも死にそうで気が遠くなっていました。
『コケェェエエッ!!』
目の前に、伸魔爪を発動させたニワトリの蹴爪。
あと半秒もしないうちに私の頭を貫いて、殺され――――
あ、いえ、死にませんでしたけどね。
ギリギリで、本当にギリギリで避け、バッシュで弾き飛ばして撃退しました。
ああ、そのバッシュの隙をついて他のニワトリが2~3体ほど襲いかかってきますが、それも必死に盾を振り回して弾き防ぎます。
あああ、弾いている最中に後ろから遠当てをこっちに放ってくるのはやめてください死んでしまいます。
ああああ、遠当てをどうにか『円魔盾壁』で防いだのにプラチナムコッコたちが集中攻撃してきてすぐに破られてしまいました。
ああああああああ゛!!! もう無理ですお願いしますから誰か助けてください皆自分のことで手一杯なのは分かりますが助けてくださいぃぃいいい!!!
その後、何度も死ぬような目に遭いながらもどうにか初日の修業を生き延びることができました、
……自ら望んだ道とはいえ、地獄はまだ終わってなんかいないのだと強く実感いたし、まし、た……ガクッ……。
~~~~~鎌使い・ジフルガンド視点~~~~~
午前中のレベリングは比較的楽だったから油断してた。
確かにあらかじめ教官は言っていた。『プランは用意してあるから安心して地獄を受け入れろ』ってな。
……初日からここまでキツいとは思わなかったぜ。
「はい、そんじゃ街に戻るぞー。夜の7時から合宿用に部屋をとっておいた宿屋で夕食だから、それまで自由行動なー」
カジカワっていう黒髪の教官がそう告げると、周りの景色が草原から街の中に変わった。
転移魔法か? 魔法使い系の職業なのかな。
いや、おかしいだろ。この教官、素手で剣を紙屑みてぇにグシャグシャにしてたし、どう考えても肉弾戦特化の職業のはずだ。
スクロールを使った様子もないし、どうやって移動したんだオレたち……。
考えてもキリがねぇ。やめだやめ。
あの金髪のちっこい教官も『2~3日で理解するのを諦めるようになる』とか言ってたし、細かいことは気にしないようにしとこう。
……つーか、単純にあの教官が何者かを考えるのが怖ぇし。
にしても、今の状況はブタ箱に放り込まれた囚人たちへの対応としちゃ破格の条件だと思う。……修業の過酷さに目を瞑ればの話だけどな。
宿はあるし3食タダ飯付きで軽く昼寝できるくらいの休憩アリで、修業時間以外は街の外へ出なけりゃ自由に行動できるって、下手したらそのへんの冒険者よりいい暮らししてねぇかオレたち。
しかも支度金まで渡してくれて、当面の金には困らねぇ。
そういや、結構な数の魔獣を討伐したけど討伐報酬や魔獣の素材なんかはどうなるんだろうか。
まあ普通に考えたら教官の懐に入るんだろうが、なんか奴らにいいように使われてるみたいで腹立つな。
……この地獄みてぇな修業を乗り越えて、刑期を満たして解放されたら、オレもまともに金を稼げるようになるんだろうか。
盗みなんかしなくても、毎日ガキたちに腹いっぱい食わせてやれるようになれるんだろうか。
~~~~~レイナの親父・ギルカンダ視点~~~~~
「ちっ……」
酒がまずい。
こんだけボロボロになるまで身体を動かした後だってのに、美味くもなんともねぇ。
高い酒も安酒も、まるで泥水みてぇに苦い。
腕を失くす前は仕事の後の一杯のために生きているってくらい好きだったってのに、まるで旨味を感じられん。
それでも飲まなきゃやってられねぇ。
レベリングが過酷だってのもあるが、今の状況が気に喰わねぇ。
レイナを、娘を売ってまで取り戻したかった左手が、あっさり治っちまった。
酔った勢いであの男爵にあんな契約しちまって、もう後に引けなくなって、どんなことをしてでも治そうと何年も足掻いても治せる目途が立たなかったってのに。
それを治したのがあの野郎だってのが、気に入らねぇ。
なぜかレイナの隣にいるアイツの面を見ているだけで、腹が煮える思いだ。
……なんだって、あんな奴についていくことになったんだろうな。
レイナも、オレも。
……ああ、酒がまずい。
「うふひひひひ、あー、このおさけおいひいっすね~っひひひ~~~」
「くぉらレイナ! 宿に戻る前から酒飲むなっつってんだろうが! ったく、そんなとこだけあのバカ親父に似やがって……」
………あー、やっぱアイツはオレの娘なんだなと、漫才じみたやりとりをしながら千鳥足で歩く様を後ろから見て思っちまった。
そんな様をフェリアが見たら雷落とすぞオイ。
~~~~~義足の槍使い・メイバール視点~~~~~
命を捨てるような修業は、心地が良かった。
もういつ死んでもいい。そう思いながらギリギリの攻防を繰り広げている間は久々に生きた心地がした、気がした。
戦友とともに最後に戦った時も、生と死の狭間で足掻いていた。
今はもう、どこにもいないがな。……俺のせいで、俺が弱かったせいで……。
物思いに耽っていると、教官から呼び止められた。
新しく義足を作るために、色々と俺の身体を計測する必要があるらしい。
「ふぅむ、正直言ってこの義足は出来がよくないな。左脚とのバランスや関節の位置が微妙にズレてるし、可動域も狭い。おまけにジョイント部分に使われている衝撃緩衝材がまるでオモチャのそれだ。これでよく実戦での使用に耐えたものだと感心すら覚えるな! フハハッ!」
「そうか。ジュリアン、新しい義足は何日くらいで作れそうだ?」
「うむ、義足本体を作るのに一日、疑似運動神経接続の術式付与に一日、追加のアレコレに二日といったところか」
「そのアレコレだが、こないだ渡したオートマチックやリボルバーみたいな銃器を取りつけたりとかはどうだ?」
「それがだな……どうもあの『銃』というものを我では、というか鍛冶や魔具作成のスキルでは理解できないようだ。むしろ理解することを拒んでいるような感覚すらあったのである」
「んー、やっぱ銃の概念はこの世界じゃタブーっぽいな。地雷や爆弾は作れるのに、不思議なもんだ。まあ、銃が流通するようになったりしたら生産職の人でもバンバン魔獣を狩れるようになって、戦闘職の仕事を大分奪われることになるだろうし、無理もないか」
教官が連れてきた『ジュリアン』という魔具士の青年が、俺の身体の具合を見ながら訳の分からない会話を繰り広げている。
義足の本体と疑似運動神経というのはまだ分かるが、アレコレとはなんだ……?
「んじゃ、ここにこいつを取り付けて、地面に突き刺してこう、グルッて旋回できるようにしたりとかは?」
「ううむ、それならば左脚にも術式付きのブーツを履かせればなんとか。……しかし、そのようなことを実戦でできるようになるには相当な訓練が必要だと思うが」
「でもロマンがあるだろ?」
「うむ、ロマンは大事だな! ところで、それ以外にもここをカパッと開いて中からこう……そしてさらに追加でこんな具合に……」
「それ最高。オメーなかなか分かってるじゃねーか」
「ふはは! マイ・カスタマーほど非常識な発想でもないがな!」
……なにやらそのアレコレとやらの話で盛り上がっているようだが、楽しげに話している姿が酷く不気味に思えてきた。
今更死ぬことなど怖くはないが、この二人が用意した義足を装着することには一抹の不安を覚えるな……。
~~~~~脱走鞭使いミラカラーム視点~~~~~
深夜の宿。
皆が寝静まったのを確認し、疲労困憊の身体に鞭を打ちどうにか宿からの脱走を実行した。
まさか初日に、それも疲れ果てているはずの状態で脱走を謀るヤツなんかいないとでも思っているのか、見張りもなにもなくあっさり抜け出せた。
正直言って、あの教官の修業にはついていけないわ。
待遇は悪くない。衣食住は保障されているし自由時間だって充分にある。
でも、それらを考慮してもあのレベリングはアタマおかしいとしか言いようがないわ。
いくら強化魔法をかけられたうえで強力な装備を配布されたとはいえ、あの数相手に五人で戦えなんて無茶振りを通り越してほとんど死刑宣告じゃないの。
……誰も死なずに乗り越えられたのが不思議でならないわ。
その成果として基礎レベルは一日でありえないほど上がったし、『命知らず』なんてレアな称号も得られた。
だけど、こんな生活をあとひと月も続けていたら死ぬ。絶対死ぬ。
それに、あれだけ死ぬ思いをして討伐した魔獣の報酬や素材はきっとあの教官たちの懐へ入ることになる。
私が他人を利用するのはいいけど、されるのは絶対にごめんよ。
……あんな悔しい思い、もう二度とするもんですか。
というわけで私はイチ抜けます。皆ごめんなさいね。頑張って。
さて、支度金の大半をはたいて深夜の便を予約しておいた闇馬車で港町まで移動して、第五大陸へ向かう船に乗れればこっちのものね。
明日の朝には港町に着くでしょう。
馬車の中で揺れるうえに簡単な寝具だけだから寝心地は悪いけど、疲労で満たされた心身はそんなことお構いなしに微睡んでいく。
ああ、今日は、よく眠れそう、ね……。
「はい、おはよう。食堂に朝食が用意してあるから、9時までに食べておけよー」
起きた時にはもう朝で、合宿用に割り当てられた部屋のベッドで寝ているところに教官の声が聞こえて目が覚めた。
………………なんで?
私は確かに昨夜脱走して、馬車でこの街から逃げた。
支度金は闇馬車代を払った分無くなってるし、決して夢なんかじゃないはず、なのに。
「あーそうそう、誰にも迷惑かけてないし犯罪やトラブルを起こしたわけでもないから今回は不問にするけど、逃げようとしても金と時間を無駄にするだけだから承知しといてくれ」
…………………………………………は、はは、は。
疑問符で埋め尽くされた頭にそんな言葉を叩きつけられて、思わずベッドで大の字になりながら変な笑い声が漏れてしまった。
あの教官、私の脱走に気付いていなかったわけじゃなくて、連れ戻そうと思えばいつでも連れ戻せるから放っておいただけだったんだ。
もうダメだ、私は逃げられない。
「しっかり食っておけよー、今日は昨日より魔獣のレベルが高いテリトリーでレベリングするからなー」
し、死ぬ、死んでしまうぅぅ………!
現時点での21■■探索者たちのメモ
A「あのリゾートもどきは性格悪すぎると思う。クソが」
B「ネコ缶うめぇ。食べてると心が荒んでくるくらいうめぇ」
C「どっかのギャグマンガの人気投票みたいな状況なんだけどなんだコレ」
D「尻が痛い」
E「五人分の報告書書くの超大変」




