自己紹介
すみません、やっぱ地獄は次回からです(;´Д`)
「はい、ちょっとひと悶着ありましたがまずは自己紹介から始めましょうね」
パン、と軽く手を叩いて仕切り直し。
いきなり呪いの除去なんて訳の分からんことをやったせいで、部屋の中の空気が微妙なことになっておる。
やりだしたのは俺だけどね。
でも先にやっとかないと後で話がこんがらがるだろうし、まず面倒の排除をしたのは間違いじゃないと思う。
……ルルベルを陥れたゴミどもについては、今はまだ味覚がカイワレダイコンオンリーになってるだけだが、後に生まれてきたことを後悔させる予定。
クズとはいえ人の命には変わりないから殺しはしない。でも死んだほうがマシな目には遭わせる。
『頼むから殺してくれ』と言っても決して死なせない。震えて眠れ。
「はい、では俺から。『希望の明日』というパーティのリーダー兼荷物持ち兼事務処理兼炊事担当の梶川光流だ。ヨロシク」
「……要するに雑用担当ってこと?」
「大体合ってる」
「体よく面倒事を押し付けられてるだけじゃないのソレ……」
両足のない青の長髪女性『ミラカラーム』が、俺の言葉にツッコミを入れてきた。
押し付けられてるんじゃなくて俺が自分からやってるだけなんだけどね。
「で、こっちの二人と一羽がパーティメンバー。黒い髪の娘が俺の妻でアルマティナという。金髪のちっこいほうがレイナミウレ。その肩に乗ってるヒヨコがヒヨ子」
「ちっこい言うなっす」
「おい、そっちのちっちゃいヤツどう見ても成人してないだろ!? お前ら成人前の子を連れ回してんのかよ!」
「ちっちゃい言うなっす! これでも成人してるし特級職っすよ!」
「嘘つけ! オレの妹よりちっちゃいだろお前!」
……自己紹介してるだけでなんでこんな言い争いが勃発するんですかね。
金髪ツンツン頭こと『ジフルガンド』君がレイナを見て突っかかってきた。
まあ、レイナが幼く見えるのは無理もないけどな。
「おいガキ。そいつぁホントに成人してるぜ。特級職云々はまぁ嘘だろうがな」
「あぁ? なに言ってやがんだオッサン、どう見てもせいぜい12歳くらいだろ、なにを根拠にンな寝言言ってんだ」
「そいつはオレのガキだ。いくらオレでもテメェのガキの歳くらいは覚えてるぜ」
「は、はぁ!? アンタ、この子の……!?」
さらにそこへ、白髪のボサボサ頭を伸ばしているクソ親父こと『ギルカンダ』が口を挟んできた。
……こいつも扱いに困るわー。いっそ他のトコへいってくれれば面倒が一つ減るのに。
「なぁ、レイナよ」
「気安く愛称で呼ぶなっす。言っとくけど、今回の強化合宿じゃ自分とアンタはあくまで教官と指導を受ける人間に過ぎないっす。過ぎたことでゴチャゴチャ言うつもりはないけど、父親面して偉そうになんかほざきでもしたら残った右手ももぎ取るっすよ」
「ちっ……ガキが、随分と生意気になりやがって」
んー、レイナは意外にもクズ親父に対して冷静だな。
こっちはアイツの姿を視認した時点で殺しにかからないか内心ヒヤヒヤしてたくらいだが、無用な心配だったか。
「あ、そうそう。アンタが自分を身売りしようとしてたことに院長マジギレしてたっすよ」
「ぐっ……!?」
「今度会った時に、尻叩きくらいで済めばいいっすけどねー」
でもこうやってちょっとした報復はする。
これまでのことを考えると挨拶代わりに2~3発ぶん殴って歯ぁへし折るくらいしてもいいと思うが、まあ今はまだその時じゃないってことで。
こっちの自己紹介は済んだので、さっさと本題に入るか。
詳しいことは合宿の合間にでも話せばいいし。
「さて、君たちにはこれからひと月の間修業を積んで強くなってもらって、その実力でもって魔獣のテリトリーの討伐ノルマを稼いだりなんやかんやして実績を積む。その恩赦で刑罰の軽減あるいは刑期を短縮してもらったりできる、という流れになるわけだがなにか質問は?」
「えらく雑な説明だな。じゃあ質問。強くなってもらうって言ってるけど、その目標は?」
「とりあえず全員特級職になってもらう」
「……いやいや、いやいやいや、ちょっと待て。オレたちゃまだ駆け出しか中堅くらいのレベルしかねぇんだぞ? それをひと月で特級職って、まず無理だろ」
「そんぐらい強くなってもらわにゃ意味がない。プランは用意してあるから安心して地獄を受け入れろ」
「不安しかねぇんだが!」
無茶苦茶言っている自覚はあるが、半端に鍛えたところで意味はない。
仮に上級職まで鍛えたとしてもグラマスは納得しないだろうし。
もしも『真面目に鍛え得なかったから報酬は無しね』なんて言われた日にゃ骨折り損のくたびれ儲けもいいとこだ。
「それに、アタシ両脚がないんだけど。こんな状態でどう鍛えるっていうのよ。無理でしょ無理無理」
肩を竦めながらミラカラームがやる気のカケラも感じられない言葉を愚痴る。
うんうん、脚がない状態じゃ戦う以前の問題だよね。
だから見逃してもらえるかもしれないと思うのも当然だよね。
甘えるな。
「ほい、失礼」
「え? ……え、な、に……?」
生命力をミラカラームの両脚付け根部分に流し込み、遺伝子を設計図にして両脚を再生する。
ものの3秒ほどで、治療は完了した。
「脚がないから無理だって? はい治したぞ、これでいいか?」
「え、……え、えええ!?」
素っ頓狂な叫び声を上げるミラカラーム。
その下半身には、ほんの数秒前まで無かったはずの生足が当たり前のように生えていた。
グラマスが欠損持ちの囚人ばっか寄越した理由がこれだ。
生命力操作が使える俺や、最高クラスの上級回復魔法が使える大魔導師さんならそういった重い怪我も、すぐに治すことができる。
『聖者』や『聖女』といった特殊な神聖職の人でも治せるけど、そういった人たちは魔王軍との戦いでケガを負った人たちを治すのに忙しくてそれどころじゃないらしいしな。
毎日魔力回復ポーションを浴びるように飲みながらお腹タプタプの状態で治し続けてるとかなんとか。……お疲れ様です。ホントに。
「あ、脚が、生えて……」
「はい次。盗みの代償にエンコ詰めるのは正直やりすぎだと思うが、今後は万引きなんかするなよ」
「嘘だろ、マジで指が生えてきちまった……。しかも、全然違和感がねぇ」
「おいゴミ、これで腕は治ったろ。鍛錬サボるんじゃねーぞ」
「……けっ」
それぞれ、先ほどまで失っていた部分をまじまじと見つめながら、本当に自分の身体なんだということを確かめるように握ったり広げたりして動かしている。
もちろんレイナの親父も不本意ながら治した。けっ じゃねーんだよ殺すぞ。
ルルベルは特に欠損や大きな怪我はなかったので、小さいケガを治すくらいで済んだ。
最後に緑髪ボサボサ頭の『メイバール』だが、ここでちょっと要求事項を口にしてきた。
「はいラスト。治すから義足を外してくれるか」
「……足は、治さないでくれ」
「え、なんで?」
「これは、俺の弱さゆえに招いたことへの戒めなんだ。こんな状態でも戦闘に支障はないから、このままにしておいてくれ」
……うーむ、なにやらヘヴィな事情がおありのようで。
ちょっと彼についても詳細な資料を後で手配してもらうか。
そういうことなら無理に治すのはまあ野暮だし、義足のままにしておくか。
「脚以外の部分の傷は、治しても?」
「ああ。他の傷はどうでもいい」
「あと、義足のままがいいと言っていたがちょっとガタがきてないか? その義足にこだわりでもあるのか?」
「いや、義足そのものはどれでもいい。……片脚がないことが、重要なんだ」
「分かった。近いうちに新しい義足をこっちで手配するから、それまではそれを使っていてくれ」
「……あまり高い義足だと、金を払えるか分からないから安いもので頼む」
「いや、その分の費用はこっちで受け持つから安心しろ」
「……そうか、感謝する」
義足かぁ。普通なら五体満足の人間よりハンデがあって不利なイメージがあるが、ここはマイナスをプラスに変える方向でいこう。
義足のオーダーをするヤツは、もちろんアイツだ。……さて、どんな変態兵器に仕上げてくるやら。
「なんか、当たり前のように全員治しちまってるけど、アンタなにもんなんだよ……」
「パーティ『希望の明日』のリーダー兼荷物持ち兼事務処理兼炊事担当兼ヒーラー兼戦闘員の梶川光流ですヨロシク」
「役割増えてる……」
「この人のこと難しく考えちゃダメっす。多分、2~3日くらい経ったあたりで理解するのを諦めるから、早くありのままを受け入れたほうがいいっすよー」
そんな『もうやめましょう・・! 名古屋について考えるのは・・!』みたいな言いかたせんでも。
詳しいこと話しても訳が分からんだろうし、直接操作のことを教えるわけにもいかんからもういいや。
「さてさて、今日のところは治った自分の身体に慣れるために、各自で軽い運動でもして過ごしてくれ」
「初日から鍛錬ってわけじゃないのか?」
「まあね。修業してる間以外の時間は基本的に自由行動でOKだし、この街にいる限りは買い物とかに出かけるのも自由だ。他の街に逃げたりするのはダメだけどな」
「はっ、なら今日は久々に酒場にでもいくとすっか。牢屋じゃ酒一滴も飲めやしなかったしな」
「ああ、そうそう。もしも無用なトラブルや犯罪行為なんかを起こした場合は―――」
アイテム画面からオリハルコン製の剣を取り出し、全員に見せつける。
そして、それを素手で捩じ切り、さらに紙屑のようにグシャグシャに捻り潰して床に捨てた。
「今日治した部分を素手で引き千切ってから直接口に放り込んで食わせてやるからそう思え」
そう言うと、その場の全員が顔を青くしながら顔を強張らせた。
「……カジカワさん、脅し文句が怖すぎるっす」
「いや、脅してなんかないよ? ただ悪いことしたらお仕置きするぞーって注意してるだけだってば」
「脅しじゃなくて、本当にするつもりなのが余計怖い」
アルマまでツッコミに回ってきた。
俺だってそんなスプラッタなことしたくないんだけど、こう言っておかないと舐められるからね仕方ないね。
さて、明日から地獄開始だ。
他の教官はどうするか知らんが、効率重視で命に別条のない、かつ緊張感のある鍛錬になる予定だ。
耐えろよ五人とも。
 




