二つの満月
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ジェットボアの討伐から三日ほど経過したが、あれから魔獣の侵入は確認されていない。
群れのボスが倒され、統率する者がいなくなったからだろう。仮に今後侵入してきたとしても今まで通り対応すれば問題なさそうだ。
ひとまず、魔獣騒ぎは収まったと見ていいだろう。依頼主のジェインウェイクさんからも依頼はこれで達成したと判断して良さそうだと言われ、何度も何度も感謝の言葉を重ねられた。でも大怪我してるのに立ち上がろうとするな。寝てろ。
村の人たちも、ようやく野菜や穀物の収穫まで安心して栽培ができると喜んでいた。市場に出たら、是非味わいたいものだ。
…うん、やっぱりこの依頼を受けて正解だった。バニラの栽培もようやくできるしな。
魔獣の素材、主に牙と毛皮と肉だが、ラッシュボアは村の解体・精肉屋で処理できるが、ジェットボアは毛皮が丈夫すぎて村の設備じゃ解体できないらしいので、ギルドに持っていって解体してもらうことにした。
狩ったその日のうちにギルドまで運搬したが、なかなか重かった。まああの巨体なら当たり前だが。
まともに運ぼうと思ったら村で借りた荷車に載せたうえで、魔力装甲をパワードスーツのように駆動させてようやく運搬可能という具合で、正直きつ過ぎてやってられないので村から離れたらアイテム画面に入れて、ダイジェルの近くまで来たら再び荷車で運ぶことにした。
うーむ、やっぱりメニュー機能の類は便利だが、人に知られたら面倒だから隠す工作をするのがちょっと大変だな。
ダイジェルに着いてからギルドに運ぶまで街の人たちの視線が皆こっちを向いていた。…そりゃこんなもん運んでたら目立つわな。恥ずかしい。
ギルドに入ってからも、持ってきたジェットボアにネイアさんが驚いて大声上げたり、それに反応して周りの冒険者の人たちの目がこちらに向いたりして悪目立ちする始末。勘弁してください。
あと、本当に俺たちが魔獣を討伐したかの確認の際に、討伐履歴を見るためステータスを確認された時に、なんでこんなにレベルが上がってるんですか、1か月前は10~12くらいじゃなかったですかとツッコまれたりした。
そういえば依頼の確認の時にステータスチェックしてなかったな。というかダンジョンに潜るようになってからギルドに顔出すのが少なくなってたわ。
ダンジョンで採れた素材や武器なんかはギルドを通さず、別の店に売りに持ってったりしてたしな。
普通、Lv10以上になると大体、月に1~2ほどレベルが上がればいい方で、俺とアルマのペースは非常に早い、というか異常な早さでレベルが上がっているらしい。
まあ二人だけのパーティで一人当たりの経験値の取り分がデカいし、村の騒動の前はダンジョンで積極的にLv10以上の魔獣を狩っていたから、レベルが上がるのが早いのは当然なんだが。
バニソイ豆は気温によって収穫までの期間が変化するが、年中通して採れるらしいので今から植えても問題ないみたいだ。
気温が高ければ高いほど育ちやすいらしく、これから暑い季節になるようなので植える時期としてはなかなかいいタイミングだな。
それでも収穫まで約3カ月ほどかかるらしい。それまでバニラ風味のお菓子が食べたければ新たにバニソイ豆を手に入れる必要がある。
…ダンジョンの宝箱からドロップして以来全然見たことないけど。
因みに討伐した魔獣の肉や素材の取り分は、俺とアルマはジェットボア1頭とラッシュボア2頭分ほどもらって、あとは村に渡した。
それではそっちが少なすぎる、もっと持っていってもいい、と村の人たちは言ってたけど、作物への被害は決して小さくないからその分の埋め合わせが必要だろうし、必要以上にもらっても持て余すだろうから、それなら村の人たちにあげたほうがよっぽど有効に使ってくれるだろう。
というかあんまりもらい過ぎるとしばらく食卓がイノシシ肉だらけになるだろうし、ジビエはたまに食うから美味いのであって、常食はちょっとな…。
まあ、その分野菜や作物の収穫が終わったらおすそ分けしてくれるらしいし、肉ばっかもらうよりそっちの方がいいと思う。
そんな感じで事後処理やらなんやらが一段落ついたところで、やっとダイジェルの宿屋に戻ってきた。
村の宴会に参加したりして帰るのがちょっと遅れてしまった。女将さん不機嫌になってなきゃいいが。
一週間半くらいしか離れてないのに、なんか長旅からようやく帰ってきたような気分だ。実家のような安心感。俺の実家はむしろ村の方の雰囲気に近いけど。
宿に入ってから、夕食を食べてシャワー浴びてそのままベッドインした。ジェットボア倒してから魔獣と戦ったりはしてないけど、事後処理とかで疲れがたまってるからとにかく眠い。
依頼を一つこなしただけでこの疲労感か。冒険者ってやっぱ大変な職業みたいだなぁ。
その分無事にこなせた時の達成感もひとしおだが。報酬もかなりの額をもらったし。
他の依頼もこの調子で挑戦してみるのもいいかもしれない。
明日はどんな依頼を受けようかなー。ギルドの掲示板見てアルマと相談しながらテキトーに決めるか。
さて、ではおやすm――
「ヒカル! 起きてっ!」
ウトウトとし始めたところで、アルマの焦ったような声が部屋の外から聞こえた。
え、なに?どしたの?
「アルマか? どうしたんだ?」
「寝る前に空を眺めてたら、月が、両方とも満月になってるの!」
両方? ああ、そういえばこの世界って月が二つあったな。夜空なんか初日以来じっくり見てないから忘れてた。
いや、それがどうした?
「…はい? そんだけ?」
「それだけじゃない。二つの月は片方が満ちてる分、もう片方が欠けるのが普通なの。でも、今夜の月はどっちも満月。なにかがおかしい」
そりゃ確かに珍しいかもしれんが、こっちの世界の常識に疎い俺からすればそんな驚くことか分からないんですが。
これってなんかの異常の前兆とかなのかな? メニューさん、なんか知らない?
≪二つの月が完全に満ちている状態は、本来の月の満ち欠けの周期に関係なく起こる現象≫
≪二つの満月が現れるのは、魔王の誕生、及び、勇者の召喚が今夜行われる合図である、と前例の記録あり≫
は?
は?
…おいおい、ここにきて魔王誕生とかこりゃまたデカいイベント起こってんな。
しかも勇者召喚も同時にやるのかよ。もう二人だけで隅の方で仲良くドンパチやっててくれませんかね。
「…アルマ、それな、魔王の誕生と勇者召喚の合図らしいぞ」
「え、えええ…!?」
「まあ、すぐにこっちに影響はこないみたいだし、詳しいことは明日話し合うことにして今日はもう寝よう。眠いし」
「ち、ちょっと反応が軽すぎる気がする…! 魔王と勇者だよ!? もっと驚かないの!?」
「知らぬ。今あれこれ考えても情報が少なすぎるし、こんな遅くに調べものしても捗らないだろ?」
「そ、そうだけど…」
「まあ、不安な気持ちも分からないでもないけどな。これから何が起こるやら。あーめんどくさそうなことが起こる予感」
「や、やっぱり反応が軽い…」
釈然としない表情でこちらを見るアルマ。いや、そんな顔されてもどんなリアクションとればいいのやら。
まあ、あたふたして不安を煽るよりマシだろう。実際どれだけ深刻な事態なのかさっぱりだし。
…まあ、何が起こっても対応できるように準備は進めておくとしよう。
でも今日はもう寝よう。魔王が訪ねてきてもガン無視して寝よう。もうすっごい眠いし。おやすみ。
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