そんなエサに俺が釣られクマー
「人選間違えてませんか? 他に適任いくらでもいるでしょ」
「いーや、君らならできる! なんせ短期間で何人もの人間を特級職まで育成してのけたんだしね!」
「いやそれは魔王や魔族を倒して結果的にパワーレベリングしたようなものなんですが。それも例の直接操作を使ったうえでの話ですし」
「ああうん、確かに直接操作の技術を広めるのはヤバいよね。実際何度か『あの技術広めるのやめろ』って神託が入ってきてたし」
第一大陸嘔吐もとい王都『アーサー』
第五大陸の王都に勝るとも劣らない規模の大都市の中心に建てられた、冒険者ギルドという巨大なコミュニティの総本部。
その総本部長ことグランドマスターの執務室にて、片や渋い顔で、片や苦い笑い顔を浮かべながら言葉を交わしている。
自分じゃ分からんが、多分絶妙に嫌そうな顔をしているのが俺。
で、まるでロリマスやアイナさんのように飄々とした口調で割と面倒くさい依頼を押し付けようとしてきている美人の女性が、冒険者ギルド最高責任者のグランドマスター『パラレルドラシルア』さん。
この人は『ハイエルフ』という種族らしく、歳は軽く一万歳を超えるという超超御長寿。
なのに見た目はアイナさんと同い年くらいに見える。というか外見そのものがアイナさんやロリマスに似てる気がするんですが。
「そりゃそうさ。あの子たち、私の血縁者だし」
「え、まさかお子さんなんですか?」
「いや、いつ産んだかも覚えてない子の子孫の子孫のそのまた子孫の~ってくらい遠い血縁だけどね。それでもあれだけ似てるのは私の血がいかに濃いか分かるってもんだねー」
それはもうほぼ他人レベルにまで血が薄まってると思うんですが。
てか、ハイエルフの子供はハイエルフじゃなくて普通のエルフを産むのか?
≪『ハイエルフ』はこの世界において唯一無二の存在であり、冒険者ギルドの最高責任者を務めることを『世界の理』によって義務付けられている≫
≪推測通り、ハイエルフが子を成しても通常のエルフしか誕生しない。ハイエルフの誕生条件は前任のハイエルフが死亡することであり、その誕生プロセスは勇者召喚に酷似したシステムが用いられている模様≫
≪ハイエルフの特徴として、寿命という概念が存在せず、職業というステータス項目もない。戦闘職・生産職・神聖職全てのスキルを取得可能で『指揮官』や『忍者』などのレア職業限定スキルも例外ではない。なおレベルキャップが存在し、Lv100で基礎レベルの成長が止まる≫
待て待て、そこまでの詳細は聞いてない。一気に大量の情報を寄越すのは勘弁してくれ。
ていうかコトワリから強制的にギルドの最高責任者任されるとか、できることが広そうな割に随分と窮屈そうな人生を送ってるみたいだな。
「まあ、なんだ。これだけ大きな組織の長ともなるとそうそう簡単に代替わりするわけにもいかないんだよ。仮に冒険者ギルドが潰れるような不祥事でも起こそうもんなら、魔獣の討伐ノルマを満たせずに世界中でスタンピードが発生してあっという間に人類滅亡だしねー」
「……ちなみに、冒険者ギルドっていつから存在するんですか?」
「私が生まれる前からあったらしい。当時おんなじことを聞いたこともあったけど、誰も知らないでやんの。いったい何万年こんな危ういバランスを保ってるのやら。……っとと、話が逸れたね。本題に戻ろうか」
肩を竦めながら語る様は、どこか世界への失望に似たものを感じさせた。
この人、こんな人生送りたくなかったとか思ってたりするのかね。
……俺も日本の工場で働き続けていたら、今ごろこんな顔をしていたのかもしれないな。
「さてさて、どこまで話したっけな」
「戦闘職の育成が急務だとかどうとか。あと日本のお土産のお話も」
「ああそうそう、育成ね。……お土産の話なんかしてたっけ?」
「日本で売ってる『薄い本』が読んでみたいとか言ってたじゃ……あ、違うあれはイヴランミィさんだったわ」
「イヴランなに頼んでんの!? てかなんで私がソレ言ったと思ったの!?」
「声と容姿が似てるものだからつい……」
……部屋にアルマたちがいなくてよかった。いたらまた『ウスイホンってなに?』とか聞かれるところだ。
日本旅行から帰ってきた直後に、冒険者ギルドから緊急で総本部にくるようにと促された。
というかもう強制連行だなアレは。ご丁寧に転移魔法まで使いやがって。
で、第一大陸くんだりまできていきなりグランドマスターとの面会をするハメに。どうしてこうなった。
「今回の話はそこらのギルマスなんかから伝えても断られる可能性があるからね。迅速かつ確実に進めるべき仕事だから、私が直々に依頼する必要があるってわけだ」
「……先ほども申し上げましたが、私などよりも適任の方は大勢いらっしゃるかと。たとえば剣王と大魔導師のお二人ならば、匹夫をひと月で豪傑へ変えることだってできるでしょう」
「とっくにあの二人にも依頼出してるよ。大魔導師はお休み中だけどね。というかギルドの特級職全員はもちろん、上級職で育成の上手い人間なんかにも声をかけて協力してもらうことになってる」
今回の依頼の内容だが、かなり面倒くさいものだった。
魔族との戦いの後に生き残った戦闘職たちの育成・強化。その指導役を任せたいとか。
……。
いや、なんで俺やねん。
確かに俺のレベルは無駄に高い。でもそういった指導役というか教官役みたいなのはあんま経験ないんですけど。
せいぜい直接操作のやりかたを教えたくらいだし、今後誰かに直接操作を教える予定はないぞ。
「君が指導するのはちょっと特殊な人材たちでね。他のところに預けるとちょっと手に余りそうなんだよ」
「他の方々の手に余るような人たちを私がどうにかできるとでも?」
「うん」
いや、うんじゃねーよ。
なにできて当たり前だろみたいな返事してんだこの人は。
「いやまあ本当なら君じゃなくて大魔導師に任せてもいいんだけどさ。かなりお腹が大きくなってきてるみたいだからあんまり無茶させられないみたいなんだよね」
「え? あ、あー……そういえばちょっと前におめでたって言ってましたね」
あと数ヶ月でアルマの弟か妹が産まれるんだっけ。
……そのちょっと後にアルマの子供も生まれる予定なんですが。
「頼む、今は一人でも多くの人員を育てる必要がある時期なんだ。こないだの魔族との戦争で上級職の半分以上が死んでしまって、一線級の戦力が不足してる。このままだと魔獣のテリトリーの討伐ノルマが達成できない地域が出始めてしまう」
「んー、まあパワーレベリングでいいならひと月で中堅職を上級職まで鍛えるくらいはなんとかできなくはないですが、いやでもやっぱり無謀な気が……」
「報酬なら出すよ。君、美味しいものに目がないんだってね。なら王族や公爵家にしか口にすることを許されてない超希少食材の特別保有・賞味許可証の発行を―――」
「やらせていただきます」
「……切り替え早いね君」
うむ! やはり今後の世界を考えると人材の育成は大事だよね!
放っておくと世界の危機だし、ここは一肌脱ぐとしようか。
断じて超希少食材につられたわけではない。ないったらない。
……食べたくても許可なしに食べられない食材とかこっちの世界の図鑑で見たことあるけど、正直アレらを自由に食べられるようになる権利は喉から手が出るほど欲しいです。はい。
さーて、そうと決まれば色々と話を詰めてさっさと準備に取り掛かりますかね。
……問題児ばっか押し付けられそうなのが引っかかるけど。
冒険者ギルドグランドマスター『パラレルドラシルア』
金の巻き髪ロング美人。外見年齢は18歳くらい。Lv100。超強い。でも普段はデスクワークばっか。巨乳。
ハイエルフは人類というより、どちらかというと世界の理側の存在に近い。神の使いみたいなイメージ。
世界のバランスを保つうえで極めて重要な役割を与えられており、その影響力は勇者や魔王以上と言ってもいい。
今代のの魔王騒ぎの際はいよいよ人類滅亡かと身構えていたけど、なんか比較的あっさり解決して肩透かしをくらったのも束の間、雑務に忙殺される日々を送っているとか。『滅べ人類』とかよく愚痴ってる。




