旅行の終わり
「じゃあ、元気でな。次会う時は、多分ひ孫を連れてると思う」
「はっはっは、楽しみにしとるで」
「いつでも顔見せに帰ってきな。あと百年は生きとるから」
「……先に俺やひ孫のほうが死にそうだなソレ」
「お邪魔しました、義祖母さん、義祖父さん」
「オハギごちそうさまでしたっす!」
『ピピッ!』
それだけ言って、ファストトラベルを使って別れた。
久々に食った実家のおはぎ、美味かったな。もち米じゃなくて普通の米を使ってるのが妙に口に馴染むというか。
パラレシアのアロライスで再現できるか今度試してみよう。
また来年あたりに顔を出そうかな。
……如月さんと顔を合わせることにならないようにタイミングを計らないと。
ネオラ君たちと合流して、再び日本旅行を再開することに。
……ネオラ君がなんだかゲッソリしてて、レヴィアとオリヴィエが落ち込んでるけどなにがあった。
「いやー、ネオラ君ガード硬いねー。カジカワ君を見習って色々と『男』にしてあげようと思ってたのに」
「……酒が入ってたとはいえ、三人がかりで一晩中襲いかかってくるのは勘弁してください」
「うう……なんで私はあんなことを……」
「……死にたい……」
……聞かないほうがよさそうだなこりゃ。
てか、ネオラ君ってハーレム願望あるくせにいざそういうことになる場面じゃ途端にヘタレになるよね。
そりゃ女性陣から襲われるのも無理ないわ。
……てか、大丈夫なのか? 無理やり貞操奪われたショックでトラウマになったりしてない?
≪問題はないと推測。ネオライフは未だに童t―――≫
あ、もう分かったんでいいです。はい。
……てか、日本じゃそういうのはネオラ君たちの年齢的にアカンからやめろとあれほど(ry
「ん? 梶川さんなんで性転換してんの?」
「ちょっと実家のゴタゴタの騒ぎを解決する時に、ね」
「なにがあったんだよ。てかアンタの実家ってどこ?」
「○○県の田舎町だよ。こっからだとちょっと遠い」
「○○県? ……昨晩、なんかヤクザの事務所が大騒ぎしてたとかニュースでチラッと見たけど、もしかしてソレ?」
もうニュースになってんのかよ。
まあ、如月さんが小泉に向かって発砲してたり、俺が如月さんを窓から叩き出したりしてた騒音を聞いて近隣の人たちが通報したんだろうなー。夜分遅くに申し訳ない。
「……梶川さんの性別がサラッと変わっているのは置いといて、こうしてみると女性だけの集まりでなかなか華やかですね」
「仁科さん、オレ、男! 男だからね!?」
「男からナンパされてた回数が一番多い人がなに言ってるんですか。さっきも他の子を差し置いて声かけられてたじゃないですか」
「クソァ! オレが聞きたいよそんなもん!」
うん、まあ、正直女の子ばっかの集団に俺一人だけ浮いてる感じはあった。
逆にネオラ君は馴染み過ぎ。違和感ゼロやん。
「そんで? 今日はどうしようか」
「映画でも観に行かない? ちょっと気になってたのが上映中なんだが」
「お、例のアニメ映画か?」
「いや、別のだけど……」
「そういえばネオラ、アンタは里帰りしないの?」
「あー、いや、それよりもあそこの映画館に行こうぜ。確か、同じデパートで売ってる揚げたてカレーパンがめっちゃ美味いって評判らしい」
「よし、すぐ向かいましょう!」
「……実家かぁ」
少し寂し気にネオラ君が呟いたのが、やけに耳の中に残った。
そっからしばらくは、昨日のように娯楽や食事を楽しみながら街をブラブラ散策。
監視を任されている仁科さんも開き直って一緒に楽しむことにした様子。後で怒られない? 大丈夫?
時刻が五時を回り、辺りが薄暗くなってきたところで仁科さんの携帯に着信が入った。
「……はい、はい、畏まりました。……皆さん、一旦本部のほうへ向かっていただけませんか?」
「あー、事後処理が終わった後に顔を出せって言ってたな。もう済んだのかな?」
「そのようです。……仕事早いなぁ、もう少しこのままでもよかったんですけどねー」
まあ、ストーカーよろしくこちらを一日中監視し続ける仕事よりはずっと楽しかっただろう。
というか、この人普段どんな仕事してるんだ?
で、例のセーフティなんちゃらとかいう組織の支部にファストトラベル。
施設内にいきなり現れた俺たちを見て職員さんたちが悲鳴上げてたけど、呼び出したそっちだからな。
「あ、あの、そちらの女性は……?」
「梶川光流です。ちょっと性別が変わってますけどお気になさらず」
「……ソウデスカ」
「……あなたの趣味に文句を言うつもりはありませんが、今後は前触れなく施設内に侵入することは控えてください」
もう理解するのを諦めた様子で、淡々と案内をしてくれる職員さんたち。
別に趣味でやってるわけじゃないんだがなー。……つーか趣味で性転換ってどういうことだ。
応接室らしき場所に案内されると、室内にはなんか偉そうな雰囲気の壮年男性が書類とにらめっこしているのが見えた。
面倒事を処理しているギルマスと同じ顔をしていらっしゃる。この人も苦労人っぽいな。
「部長、お連れしました」
「おっとどうも。お楽しみだったところお呼び立てして申し訳ない。本施設の部長を務めている中川と申します、仕事の内容が内容なので無作法ながら名刺はありませんがご容赦を」
厳つい見た目とは裏腹に丁寧な挨拶をして、こちらに座るよう促された。
一緒に茶菓子なんかも並べてもらったりしてるが、えらくフレンドリーだな。
念のため茶菓子に変なもんでも混じってないかメニューで確認してみたが特に問題なし。
「先日の事件の際にはまっことお世話になりました。私たちだけでは対処しきれず、最悪日本、いや世界そのものが滅んでいたかもしれません。……今でも肝が冷える思いですよ」
「いえ、そちらの支援あってのことでしたよ」
「拉致された挙句置き去りにされたアイナさんをオレたちが救い出せたのもアンタたちのおかげだしな。それに、やっぱ故郷が滅ぶのは防ぎたいし」
肩を竦めながらネオラ君も応対する。
……そういえばネオラ君の、『大石 忍』の故郷ってどこなんだろうか。
「ところで、昨日こちらに保護された『堀野』っていうガk……少年は?」
「ああ、あのガキなら事情が事情とはいえ色々やらかしたことに対する指導をしばらく受けてから、ウチに就職してもらうことになったよ」
「言い直したのに普通にガキって言ったっすよこの人……」
「あのガキのせいでこちとらいらん仕事が増えまくってたんだよ! 悪事犯しまくってた異世界帰還者どもをブチのめすだけブチのめした挙句、事情聴取もできない状態にして放置しやがって! まったく、君がアイツを確保してくれなかったら今後も私たちは残業続きだっただろうね」
さっきまでの丁寧な口調はどこへやら、急にフランクになる部長。この人も相当ストレス溜まってそうだな。
堀野、この職場に就職したら初対面の印象最悪でいじめられそう。プゲラ。
「できれば、君たちとは今後も協力体制を維持していきたいと望んでいるんだが、そちらの意見はどうかな」
「まあ、別に敵対する理由もないしそれでいいと思います」
「こっそり仁科さんに見張らせてたのはストーカーっぽかったけど、特に害はなかったしな」
「ありがとう。……ところで今回の報酬の件だが、単純にお金で済ませてしまうのがこちらとしては一番手続きとしてはシンプルで助かるんだけれど、そちらからなにかリクエストは?」
「んー……俺は特になにも、いや、待てよ? すみません、ちょっと相談が」
「なにかな?」
「実は俺の実家、昨晩に異世界帰還者関係のトラブルがありまして」
「なに……?」
「一応、たまたま帰省したタイミングがよかったためにすぐ解決できましたが、俺たちがいなかったらちょっと危なかったと思います。今後そういった脅威が実家にちょっかい出さないように、周辺を監視してもらうことってできますか?」
「ふむ……まあ、それくらいなら」
俺の要求を呑むと、書類にメモを書き込んでいく。
住所などの情報を書いている最中に、ネオラ君が口を開いた。
「あ、お、オレの実家も、できればお願いします……」
「む? ああ、そういえば君も元日本人だったね。仁科の報告によると君は帰省したりはしていないようだったが、顔を見せなくてもいいのかい?」
「……こんなナリですから、会っても信じてもらえませんよ。でも、せめて元気に過ごしてほしいから……」
「……分かった。住所と御家族のお名前を教えてもらえるかな」
少し悲しそうな顔をしながら、ネオラ君も実家の情報を部長へ告げた。
……後でネオラ君にも話をしておくか。
「あと、梶川君だったか。君のことについて少々確認させてもらいたいことがあるのだが」
「え、なんですか?」
「なに、大したことじゃない。ちょっと準備してくるから、待っていてくれ」
それだけ告げた後、応接室からどこかへ歩いていってしまった。
部屋の中に取り残されてしまったが、いったいなんの準備だろうか。
まあいい、なら先にネオラ君に話をしておくか。
「ネオラ君、ちょっといいか?」
「ん、なに?」
「悪いことは言わない。家族がいるんだったら今日にでも顔を出しておけ」
「! ……無理だよ。今のオレ、記憶以外はなにもかも別人なんだぜ? 『死んだあなたの家族が生まれ変わって帰ってきました』なんて言っても、とんだ不謹慎イカれ野郎にしか見えないって」
「それならそれでいいだろ。確かに、『信じてもらえなかったからもう関わらないほうがいい』っていうならそうするべきだ。でも、会わないうちにそんなこと言ってどうすんだ」
そう言うと、ネオラ君が俺の顔を睨みつけながら口を開いた。
その目には、うっすらと涙が滲んでいる。
「うるせぇな! 容姿の変わってないアンタはきっと温かく迎えてもらえたんだろうよ! でもオレは違う! こんな男か女かも分かんねぇ顔になっちまって、もしも『お前なんか忍じゃない』って拒絶されたらって、想像するだけで怖くてたまんねぇんだよ!」
「ね、ネオラ……」
「……本当に、大事な家族だったんだよ。オレがいなくなって、きっと悲しんでくれたと思う。でもオレが日本からいなくなったのは去年の話だから、もう一年経ってる。だから、もう持ち直し始めてるだろうし、会わないほうが皆のためなんだよ……」
「あ゛?」
「っ!?」
無意識に、ネオラ君の胸ぐらを掴んでいた。
目の前に顔を寄せて、今度は俺が睨み返した。
「ネオラ、お前、家族はまだ生きてんだろ。生きてるのは両親か? 兄弟か? それとも恋人でもいたのか?」
「な、なんだよ急に」
「もしも、その家族になにか不幸があって死んじまったら二度と会えなくなるんだぞ。お前が死んじまった後の家族がそうだったように、俺の両親が死んだときにそうだったみたいに、な」
「っ!」
「ウジウジ『会わない理由』なんか並べてないでさっさと会ってこい。今のお前、『オレは男だ~』なんて言ってるわりには全然男らしくねぇぞ。それともなにか、お前にとっちゃ家族ってのは、やっぱ会う価値もないようなどうでもいい連中だったのか?」
「……っ! 手ぇ離せ!」
胸ぐらを掴んでいた手を引き剥がされた。
苦い顔をしながらも、決してこちらから目を逸らさずに見据えながら、啖呵を切った。
「ああもう、会えばいいんだろ会えばよぉ! くそ、今更どんな顔して会えばいいんだよチクショウ……!」
「その男か女か分かんねぇ面のまんまでいいだろ」
「うるせぇわ! 性転換したまんまのアンタが言うなや!」
ごもっともで。
……まだちょっとブツブツ言ってるけど、覚悟は決まったみたいだな。
親孝行 したい時に 親はなし っていうし。彼にはそんな後悔を残してほしくないから、ちょっと強めに言ってみた。別にキレた勢いであんなこと言ったわけじゃない。
ま、大丈夫だろ。ネオラ君がこんなに大事に思ってる家族なんだし、きっと笑って受け入れてくれると思う。
「お待たせした。……なにかあったのかい?」
「いえ、なにも」
「なんでもねぇ、です」
話が済んだところで、部長が帰ってきた。
……あんだけデカい声で言い争ってたら外にも聞こえてたはずだ。
多分、空気を読んで話が終わるのを待ってくれていたんだろうなー。
施設の別の場所へ案内されながら、いくつか質問をされた。
歩いている途中、収容房と思しき頑丈そうな扉が見えたけど、このままどっかに閉じ込められたりしないだろうな。
「それで、確認したいこととは?」
「梶川光流君、君が異世界へ飛ばされたのは2018年12月の末日近くだったかな?」
「? そうですが」
「場所は、■■県の××市の○○通りにあるパーキングで合ってる?」
「そこまで分かるんですか、すごい情報収集能力ですね」
「ふむ、やっぱりか。じゃあ、アレは君のものか」
「え? ……え、マジか!?」
案内された先で部長が指差したのは、一台の軽自動車。
俺がまだこっちの世界で生活していた時に使っていたものだった。
……どこいったんだろうなーとは思ってたけど、こんなところにあったのか。
一応、異世界転移の痕跡があったから収容しておいたけど、スペースを圧迫してかなわんから引き取ってほしいと言われたので、アイテム画面へ収納して回収させてもらった。
いやー、まさかまたこいつに再会できるとはな。
パラレシアに戻ったら、ジュリアンあたりに解析させてみるのも面白そうだ。
三佐組の事務所からパクってきた拳銃なんかも一緒にな。ふふふふふ。
「……あと、車内にスーパーで買ったと思われる弁当だったと思わしきものもあるが、いるかい?」
「いりません」
捨てろよそんなもん! どう考えても腐ってるだろうが!
その後、簡単な手続きほど済ませてから解放された。
ネオラ君も里帰りにレヴィアたちハーレムを連れて向かうようで、それが済んだらパラレシアに帰るつもりらしい。
俺たちは一足先に帰るとしよう。ホテルの予約とかもう面倒くさいし。
また来年あたりに日本旅行をするのもよさそうだ。今度はもっと予定をしっかり組んでおいてもいいかもな。
じゃ、帰ろう。あー、実に有意義な旅行だったなー。
帰った直後、冒険者ギルドの本部に連行される羽目になりました。
……いや、別になにか悪いことしたわけじゃないけど、どうしてこうなった。
次回投稿はちょっと間が開きますのでご容赦を(;´Д`)




