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二つの組



 緑茶と茶菓子を出して、しばしなにかすることもなくゴロゴロ。

 客用の茶請けなんかの置き場所も変わってないな。

 勝手知ったる実家だ。まあこれくらいは許されるだろ。



「おう、待たせたの。まあ適当にくつろいで……くつろぎすぎやろ」


「お邪魔しています」


「していますっす」


『ピッ』



 超ダラダラしながら茶を飲みつつ寝っ転がってる俺たちを見て、ジイさんが苦笑いしつつツッコミをいれてきた。

 久しぶりに食べる実家の漬物美味しいです。ぽりぽり。



「家の中、全然変わってねーな。実家のような安心感」


「実家じゃい。……まったく、時折顔を見せに帰ってきてた時はいつも死んだような目ぇしとったくせに、随分とふてぶてしい(活き活きとした)顔するようになったのぉ」


「こっちじゃサビ残サビ勤続きだったからな。……あのままじゃマジで死んでたかも」


「あんな工場(トコ)さっさとやめときゃよかったんじゃ。お前にならこの店継がせてやってもよかったんじゃぞ」


「酒が飲めないのに居酒屋なんか継げないっての」


「謝れ、全国の下戸でも頑張っとる居酒屋さんに謝れ」



 と、いつものように益体のない会話を続ける祖父(ジイさん)()

 その様子をアルマたちが『なに言ってんだこいつら』みたいな顔をしながら眺めている。



「……まるでカジカワさん同士の会話を聞いてるみたいっす」


「ヒカルが素で話してる。仲がいいんだね」


「そういや、挨拶がまだだったのぉ。どうも、光流の祖父の『池田(いけだ) (ごう)』といいます。……お嬢さん方は、光流の嫁さんかなんかかの?」


「自分は違うっすけどね。あ、自分はレイナミウレ、略してレイナっていいます。カジカワさんの仲間っす」


「婚姻前に挨拶もできずにすみません。先日、ヒカルの妻となりましたアルマティナです。アルマとお呼びください」


「……この娘さん、マジで光流の嫁さんだったんか……」



 唖然とした表情でアルマを眺めながらジイさんが呟いている。

 うん、まあ、これまで浮いた話の一つもなかった俺からいきなり『結婚しました』とか言われても困惑するわな。



「こんなに若い別嬪さんが、ようも光流と……。不束な孫ですが、どうかよろしくお願いします。正してほしいところとか、言いたいことがあったら遠慮なくビシバシ言ったってくださいな」


「他人事だと思って好きに言いやがって……」


「特に遠慮はしてません」


「ははは、そうかね。儂もバアさんと結婚した時は毎日毎日ギャーギャー言われて、でもなーんも言い返せんでのぉ。……いや今でも尻に敷かれてるのは自覚しとるがな」


「悲しい自分語りやめーや」



 恐妻家なのは相変わらずか。

 この様子だとバアさんも元気そうでなにより。ジイさんの胃に穴が開かないか心配だが。


 というか、気のせいか俺の周りって恐妻家多くないですかね。パッと思いつく限り3~4人くらい尻に敷かれてる人の顔が浮かんでくるんですが。

 俺も含めて。……女は怖い。



「ま、男なんてのは連れ合いの尻に敷かれとるくらいで丁度ええんじゃ。今の御時世じゃ亭主関白なんぞロクなもんじゃないしのぉ」


「単に頭が上がらないから諦めとるだけだろそれ」


「……お前、キレられること覚悟でバアさんに向かって口答えできるんか?」


「無理」



 お袋もそうだったけど、バアさんのキレかたはヤバい。

 怒鳴り散らすでも暴力振るうでもなく、笑顔で、かつものっすごく低い声でこちらの目をガン見しながら淡々と話しかけてくるんですよ。

 真っ直ぐな視線に耐えきれず目を逸らそうもんならすぐさま『人と話してる時は目を見なさい』と顔引っ掴んで前を向かせてくるし時々『さっき私なんて言ったか覚えてる?』って質問してきて答えられなかったらさらに冷たい視線で説教が延長されるしあばばばばばばばば(想起



「カジカワさんも似たようなもんっしょ。アルマさんに全然頭上がらないじゃないっすか」


「うん、まあ、うん……」


「言いたいことがあれば遠慮なく言えばいいのに」


「いや、特になにか不満があるわけじゃないんだけど、ただアルマは怒らせたくないなぁとは思う。……怒ると静かなのに超怖いもん」



 多分、アルマがキレるのに対して忌避感が強いのは、お袋やバアさんに怒りかたが似てるから余計に怖く感じるからでもあるんだろうな。

 そうじゃなくても親しい人が怒るところなんかそうそう見たいもんでもないけど。



「だっはっは! やっぱそっちもカカア天下かいな!」


「怒ったらヒカルのほうが怖い。……私たちに対して本気で怒ったことなんかないけど」



 そういやこの二人(と一羽)に、特にアルマに対してはまともに怒ったことがないな。

 そりゃまあ当然か。そもそも怒る理由がないからね。

 せいぜいレイナにからかわれたりした時にちょっと反撃するくらいか。



「普段優しそうなのに、怒ると怖いのは血筋なんすかね? さっきガラの悪いオッサンたちを追い払う時と今の穏やかなお爺さんみたいに」


「いやあれくらいは普通じゃろ。怒れば誰でも怖いもんじゃ」


「うん。……ヒカルが怒った時の迫力は、あんなものじゃないし」


「この世の終わりみたいな形相してるっすよね」


「どういう意味だソレ!?」


「お前、どんなキレかたしとるんじゃ……」



 ……はたから見てるとどんなふうに見えてるんだろうか。この世の終わりて。

 お袋やバアさんでもそこまで言われるほどじゃないぞ。 



「血筋でもないってことは、やっぱカジカワさん特有のものなんすかねー」


「この話題まだ続けんの? 実家くんだりまできて話す内容がおかしいやろ」


「んー、よくよく考えたら儂も光流がキレとるところなんか見たことないからのぉ。……ただ、普段優しいのに怒ったら恐ろしいことになるのは、やっぱ親譲りだと思うぞい」


「カジカワさんのお母さんもあんな感じだったんすか?」


「いや、唯じゃなくて―――――」




 とか話している最中に、なにやらやたら派手な音楽がジイさんの懐から鳴り響いてきた。

 ……携帯の着信音か? なんだこのRPGのラスボス戦みたいな曲は。



「あ、バアさんからじゃ。シマコ婆さんのところにおるはずじゃが、こんな遅くになんじゃ? 泊まりこみでもすんのかのぉ」


「着信音がロックすぎるやろ。どんだけバアさん怖がってんだよ」


「バレたら文句言われるんで黙っといてくれや。……もしもし?」



 バアさんにも今日会っておきたかったが、他所に泊まるっていうなら仕方ない。

 また後日に改めて会うことにしよ―――――




『おう、池田 轟さんかい? あんたの連れ合いはこっちで預かってる、すぐに迎えにきな。もちろん、一人でな』


「!? ……誰じゃ、お前」




 ジイさんのスマホから、聞き覚えのないドスの利いた男性の声が聞こえてきた。

 並の人間の聴力だと、はたから聞く分にはなにを言ってるか聞き取れない音量だが、俺やアルマたちなら充分分かる。



『三佐組、と言えば分かるでしょうや。ウチの事務所の場所くらいはアンタも分かっとるだろ。いいから今すぐこいや』


「っ!! おまえ、家内になにを……!!」


『ああ、ついでにシマコっていう婆さんもこっちにおるでな。アンタが大人しゅうくれば、すぐに家に帰したるわ。こなけりゃどうなるかは、分かるやろ?』


「テメェ! 関係のないカタギにまで手ぇ出しやがんのか! それがお前らのやりかたか!」


『日付が変わるまでにゃ顔出せや。こっちも夜更かししたくないんでのぉ。そんじゃ、待っとるでぇ』



 それだけ告げてから プツンッ と通話の切れる音がスマホから発せられた。

 ……どうやら厄介事のようだ。



「……クソッタレがッ……!!」


「なにが起きてんだ、ジイさん。『三佐組』がどうとか言ってたけど、ヤクザかなんかに脅されてんのか?」


「! ……聞こえとったんかいな」



 そりゃあんだけデカい声なら聞こえるわい。



「……このあたりは昔から『組』が二つほど幅を利かせとってのぉ。一つがウチにもケツ持ちを置いとる『一茶組』。んでもう一つがこないだ代替わりしたばかりの『三佐組』じゃ」


「ケツ持ちって、ウチの居酒屋ってヤクザが出入りしてんのかよ?」


「一茶組はヤクザっちゅーか、強きを挫いて弱気を助ける昔ながらの筋の通った極道に近いがの。さほど汚いシノギはしとらんし、ヤクやウリなんかもご法度だとか」


「……もしかして、さっき酒飲んでたガラの悪い客って……」


「ああ、あれがウチのケツ持ちじゃよ。つっても大抵は儂が自分でとっちめちまうから、あんま意味ないけどな」



 ……やっぱアレヤバい人だったわ。つーかケツ持ちが待機中に飲酒してていいのかよ。

 んー、でも言われてみれば確かに、昔っから時々怖い客が入ってたような気がしないでもない。



「で、さっき『一茶組と手を切って、代わりにウチのおしぼり入れろ』って言ってきやがったのが『三佐組』。先代は一茶組と同じで極道の筋を通しとったが、親が代わってからはそこらのチンピラ以下のヤクザ者の集まりになっちまったわい」


「そいつらが、アンタに言うこと聞かせるためにバアさんをさらったってことか」


「そのようじゃ。汚いシノギするばっかじゃなくてカタギまで巻き込むなんざ、あんなもん極道失格じゃ」



 まるで自分が極道みたいな言いかたしてるけど、ジイさんもカタギだよな?

 いやヤクザ顔負けの立ち回りをさっき見たばっかではあるんだが。



「ところで、ケツモチってなんすか?」


「マフィアがウチみたいな店を庇護する代わりに対価を得てる、いわば非合法ボディーガードみたいなもんだと思えばいい」


「ヒカルの実家って、思ったより物騒だった……」


「大丈夫、俺らより物騒な連中なんてそうそういないから」


「説得力がすごいのを通り越してひどいっす」



 とかなんとか緊張感のない会話をしているうちに、ジイさんがなにやらゴソゴソと準備をしている。

 おいおい、鎖帷子着込んだり竹槍や木刀背負ったりしてるけど、どうする気だ。



「悪いの光流、ちっとカチコミ行ってくる。……お前は巻き込まれんうちにどっか遠くまで逃げろや」


「カチコミって、ジイさん一人でか? どう考えても自殺行為だろ」


「仕方ないじゃろ。向こうが一人でこいと言ってきたからには、言う通りにせにゃバアさんたちがどうなるか分かったもんじゃない。ケツ持ち連れていこうもんなら、そのままバラされかねん」


「……三佐組ってのは、そんな簡単に人殺しまですんのかよ」


「する。前に奴らの尻尾を掴もうと潜入した若いもんが、○○湾で水死体になって発見されたしのぉ」



 ……なるほど。

 つまり、バアさんを殺すことも奴らにとっちゃなんのためらいもない、と。




「……ジイさん、聞いてくれ」


「なんじゃ、あんま奴らを待たせるとバアさんが―――」


「いいから聞け」


「っ!?」


「……カジカワさん、顔が危ないっす。お爺さん怖がってるっすよー」



 おっとといかんいかん、思わず半ギレになっちまった。

 悪いのはその三佐組って連中だろ。ジイさん相手にキレてどうする。

 というか、よくあのバアさんを捕まえられたもんだ。



 素手でも木刀を持ったジイさんより強いのに。



 ……待て、そもそもどうやってバアさんを捕まえたんだ?

 バアさんなら一人でヤクザの事務所を壊滅させても驚かんぞ。マジでどうやったんだ……?

 残業続きのうえに休日の時間もあまりとれなくて、しばらく投稿ペース落ちます(;´Д`)

 ロナも更新したいし。




 21階層、現在三人が探索中。

 21人くらい人数が増えたら、近況を投稿してみようかなと(無計画

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
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[一言] 婆さんの戦闘力がおかしいゾ 修羅の国の住人なん?
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