リベンジ②~必死必生~
感想、ありがとうございます。
折角誘ってもらってなんですが、オフでの飲み会等は都合付かないので無理です。ごめんなさい。
読み続けて下さる方々に感謝を。
奴の頭に刺さっている剣を必死で掴んで、何とか振り落とされないように踏ん張っているが、このままじゃどうにもならん。
魔法剣の要領で剣を通して直接脳を火で焼こうかとも思ったが、振り回されてる状態でそんな細かい制御できるか!
『ブゥアアアガアアアアアァアアア!!』
「こ…の……! いい加減倒れろ!」
血塗れで咆哮を上げるジェットボアに悪態を吐きながらしがみ付く。
くっそ、剣を離したらまた逃げられそうだし、どうしたもんかね。
ん? ジェットボアの動きが止まった? とうとうバテたか、諦めたか?
『ブグルゥゥゥウッ!!」
「う、うわああぁぁっっ!?」
止まったかと思った直後、急に前に向かって走り始めた。
走った先には
ドゴォッ!
「くっ…! てめぇ……!」
『ブガアアアアアァァァァアアッ!!』
俺ごと壁に激突して圧し潰そうとしやがった。
脳をやられてるとは思えないくらいに的確な攻撃してきやがる。こいつ本当に魔獣か?
HPがごっそり減ったのが分かる。まずい、あと何回か今のをやられたらHPが尽きる!
って、やばい、また壁に向かってる!
調子に
「乗るなぁぁぁあああ!!」
バリバリバリバリバリッ!!
『バグブアアァァァァアアア!!?』
「あああああ!! やっぱ痛ぇぇぇえええ!!」
火がつけられる状態じゃなきゃ電気だ!
脳に直接電気を流されたらさすがに動けないだろ! もう痛いとかそういうレベルじゃないはずだ!
俺もHPが残っている状態でダメージが無くても、痛覚を直接刺激されてるから超痛いけどな!
「うああああ!! は、はよ死ねやああああ!!」
『ブグアアアアアアアァァァァァァアアアアアアアッッ!!』
激痛に耐える俺と赤イノシシ。
どっちも聞くに堪えない汚い叫び声を上げている。
我ながらなんて酷い状態だ。
くそ!奴のHPは徐々に減ってきてはいるが、それよりこっちのMPが減る方が早い!
魔力回復丸薬はアイテム画面の中。取り出して使用したいが、この状態じゃ取り出してる余裕がない。
くそ、どうする、どうしたらいい!
感電して上手く回らない頭でどうにか状況を打開しようと考えを巡らせるが駄目だ正気でもこんなもんどうにも
もう自分でも何考えてるかよくわからなくなってきた頃に、誰かの手が、俺の手の上から剣を握った。
「ううぅぅぁぁぁあああっ!!」
絶叫。感電したからだろう、女性の叫び声が聞こえる。
なっ、おい、ちょっ
「あ、アルマ!? お、おい! 何やって!」
「うぅううっ……ぐうううぅぅぅぅっっ……!!」
アルマが、剣を握っていた。おいおい、魔力不足でまともに動けないはずだぞ、というかなにやってんだ!
俺が握ってる剣には結構強力な電流が流れているはずだ。
俺はHPを削れば無傷で済むが、普通の人間が触ればただじゃ済まない。
アルマの手に、徐々に火傷ができてきてるのが見える。
「は、早く放せっ! 電気が流れてるから、ダメージを受けてるぞ!!」
「ば……」
ば?
「【火炎剣】っ………!!」
そう呟いた直後、ゴゥッと音が聞こえ、ジェットボアの頭から青い炎が噴き出した。
『ガアアアアアァァァァアアアアァアァアァア!!』
脳を直接焼かれ、急激にジェットボアのHPが減っていく。
なるほど、魔力の直接操作じゃ火を着火する工程に細かい制御が必要になるからこの状態じゃ無理だが、スキルなら発動後の制御は自動で行われるから、アルマなら!
でも、無茶しすぎだ! 俺が言えた義理じゃないけど!
『ガッガブアアアアアアアァァァァッッ!!!』
「うおっ!?」
「ひゃうっ!?」
最後の力を振り絞ったのか、急に体を振り回して、俺とアルマを振り飛ばした。
咄嗟にアルマをキャッチして、魔力の緩衝材で落下のダメージを無効化。
ジェットボアは、その直後に地面に力なく倒れた。
…ようやく、ようやく倒れてくれたか。
「アルマ、正直すごく助かった。ありがとな。でも無茶しすぎだ。手ぇ火傷負ってるじゃないか」
「…いつも無茶してる、ヒカルに言われたくない……」
「…ごめんな」
アルマの手に感電による痛々しい火傷ができてしまっている。うわ、ところどころ焦げてるじゃん。
回復ポーションで治るかこれ? 傷跡とか残らない?
≪この規模のダメージでは、上級回復ポーションでないと傷跡が残る可能性あり≫
お、乙女の肌にこんな傷跡残したくないなぁ。原因俺だし。ホント何やってんだ俺。
どうにかならないの?
≪…生命力の譲渡による、遺伝子を身体の設計図に見立てての治療ならば、傷跡は残らないと推測≫
え?あ、そういえば生命力の譲渡は試してなかったな。
てかそんなことできるのか?……いや、多分できる。
メニューさんを信じよう。
「アルマ、ちょっと痛いかもしれないけど手を握っていいか?」
「え?…い、いいけど」
なんか顔赤くして手を差し出してるけど、治療のためだからね?
あ、久しぶりに脳内のゴーストが騒いでる。事案以外になんか言えんのかこいつは。
HP、生命力を俺からアルマの手に移動。
火傷に生命力を集中させて、アルマの遺伝子という体の設計図を基に治療するイメージをする。
火傷の下から新しい組織が作られていったらしく、ペリペリと表面の焼けた部分が剥がれ落ちていき、元の綺麗な肌に戻った。
よ、良かった。成功したみたいだ。
「な、治った……!?」
「ああ。生命力を直接操作できるようになったって言ったろ? 俺の生命力をアルマに譲渡して、傷を治したんだよ。傷跡が残らなくて良かった」
「あ、ありがとう……。やっぱり、ヒカルはすごいね」
ふふふ。今回は自分でもすごいと思う。自画自賛? なんとでも言うがいい。
これもアルマにやり方を教えれば使えるようになるのかね?
≪非推奨。梶川光流の場合はステータスと元の体が連動していないため、ノーリスクで治療可能。対してHPと体の状態が連動しているこの世界の人間が生命力操作による治療を行う場合、使う度に命を削るため寿命が短くなるリスクあり≫
はいダメ! 絶対に教えられません!
思ったよりヤバい技術だった。これも人前じゃあんまり使わない方がよさそうだ。
さて、アルマの傷も治ったし、ラッシュボアの残党も村の戦闘職の人たちに狩られたか、逃げるかしたみたいだ。
やっと、終わったんだ。
『グゥッ……』
!?
ジェットボアから、弱々しいながらも、確かに呻き声が聞こえた。
「ま、まだ生きてるのか……!?……でも」
でも、もう何もできないようだ。
残り少ないHPもどんどん減っていってる。
状態も脳の損傷による全身不随と表示されて、あと2分ほどで絶命するみたいだ。
状態の項目の中に、【苦悶・激痛】という表示がある。
…こいつを倒した俺が言うのもなんだが、この状態が2分も続くのは可哀そうだ。できれば介錯してやりたい。
しかし、トドメを刺そうにも、もうそんな力はこっちにも残ってない。コイツが死ねばレベルアップによる回復ができるかもしれないが、それじゃ順序があべこべだ。
…
アイテム画面から、炒ったバニソイ豆を取り出し、残り少ない魔力で砕いて細かくして、ジェットボアの口の中に放り込んだ。
大好物らしいし、これで少しは痛みが紛れるといいが。
これは、ただの自己満足の偽善だ。
こいつが必要だったものはこんなもんじゃなくて、自分と仲間たちが食っていけるだけの食料だったはずだ。
分かってる。俺達人間も、こいつら魔獣も、自分たちが生きるために戦ってたのは同じで、ただ立場が違ってただけだ。
だから、共に生きることはできない。でも、これくらいはいいじゃないか。たとえ、偽善でも、いいじゃないか。
最後くらい美味いもん食って、死んでくれ。
『……』
気のせいか、表情が幾分か安らかになったように見えて、状態の項目に【鎮静】が追加された後、2分を待たずメニュー表示が赤に変わり、息絶えた。
今度こそ、今度こそ本当に、死んだ。
や、やっと、終わった。
俺とアルマも両方共レベルアップしたらしく、HPとMPが全快したのを感じとったが、疲労感がやばい。
…なんだか後味悪い終わり方だ。誰も犠牲にならずに、ジェットボアを仕留められたのに。
「ヒカル、大丈夫?」
「…大丈夫、ちょっと疲れたけどな」
「そう、ならいい」
暗い顔してたのか、心配されてしまった。
いかんな、ボスの討伐を達成したんだから、もっと喜ばないと。
ジェットボアの素材も相当いいものがとれそうだ。特にあの防御力の高そうな表皮は是非装備品に使いたい。
「ところで、あの赤い魔獣のお肉、豆の匂いが染みついてないかな」
…
しまった、言われてみれば。
ま、まあ、タンの部分は駄目になってるかもしれんが、他の部位は大丈夫だろ、多分。
…なんとも締まらないオチだ。
お読み頂きありがとうございます。




