反動
「さて、一通り片付いたしついでにこいつらも連行しますか」
「……普通に全員殴り倒しやがった……」
NTR高校生カップルに灸をすえた後に、残った異世界帰還者どもも一人残らずぶちのめしておいた。
大体中級職~上級職相当、一部特級職に片脚突っ込んでる実力者もいるにはいたが、俺からして見りゃ大差ない。
どいつもこいつもチート能力やステータスだけは強力だったが、それを扱う人間の実戦対応能力がヘボ過ぎる。
あの高校生カップルだけは能力値一万相当の強さだったが、ぶっちゃけアルマの御両親のほうがよっぽど強く感じた。
アルマの御両親は数えきれないほどの修羅場や死線を乗り越えた結果として、あのとんでもない強さを手に入れている。
俺が互角の能力値でやり合おうもんなら、まず勝てないだろう。
対して、こいつらは戦いかたがお粗末すぎる。
あの高校生カップルも、本当なら相当やっかいな能力を持っているみたいだが、膂力や魔法を雑に振るう以外に能がないから宝の持ち腐れもいいところだったなー。
で、一分ほど喧嘩という名の蟻潰しをした結果、ある者は壁画と化し、ある者は地面に埋まり、またある者は白目を剥いて悪臭を口から発しながら気絶してしまった。
「しっかしくっさいなーこいつら。ちゃんと風呂入ってんのか?」
「いやどう考えてもさっきからアンタが飲ませてるそのドロドロの臭いっしょ! なんなんすかそれ!?」
「駅前にある海外製品店の食品コーナーで売ってた珍品を混ぜたもんだが、臭すぎるなこれ。……残りは死蔵しておくことにしよう」
他にも食用のタランチュラとか湿布の味がするジュースとかも売ってたんだが、物珍しさからついつい買ってしまった。
……買ったはいいけど、これも拷問用にしか使えなさそうだなー。
死屍累々の、……別に死んでないが、異世界帰還者たちを眺めながら、不良少年が口を開いた。
その顔は、どこか物悲しげにも見える。
「アンタ、ステータスが使えるならこんなに強かったんだな。いや強いのは分かってたんだが、恭介と美香でも敵わねぇとは思わなかった」
「あー、こいつらも弱くはないけど、まあ魔王とかに比べりゃな」
「比較対象がおかしいっす……」
「……正直言って、羨ましいよ。オレも、異世界に飛ばされた時はこいつらやアンタみたいにチートをもらって無双できるんじゃないかって、期待してた」
「……」
「多分こいつらをボコって回ってたのも、正義感とかよりも嫉妬によるところが大きかったんだと思う。結局、オレはこいつらを羨んでいたんだよ」
まあ、異世界転移って言えば主人公がチートをもらって無双するのがお決まりだからな。
なのに、大した能力も与えられず、絶望しかないスタートっていう。
その気持ちは、俺も分かる。
「俺も似たようなもんだったけどな」
「え?」
「異世界に飛ばされて『ステータス』ってもんが見えて、スキルだのチートだのあるかもしれないって期待して、自分のステータスを確認してみたら能力値は全部ゼロ。スキルはなし、どころか取得不可になっちまった」
「……それ、アンタの話か?」
「ああ。能力値にゼロがずらっと並んでて、それでもなんかプラスの補正が入ってるのを見て調べてみたら、ただの安全靴の装備補正だった時の切なさと言ったらもうね……」
「安全靴って……」
それも 安全靴 ATK+2 DEF+5 とか微妙過ぎる補正だったしな。
衣服は装備品としてすら判定されなかったのか、補正値ゼロだったし。
「それが、どうしたら今みたいなバケモンじみた強さになるんだよ……」
「まあ、色々あってな。俺一人じゃとっくの昔に死んでただろうけど、色んな人たちに助けられて今の俺があるんだ。……お前にも、誰か一人でも手を差し伸べてくれる人がいたら、……?」
「……ん?」
「え、あれ……?」
ちょっと無理していいこと言おうとしたところで、急に視界が暗くなった。
周囲を見渡すと、まるで急に日が暮れたかのように陽が陰っている。
え、なんだ、なにが起きた。
「ひ、ひひっ、死ね、死ね、し、ね……」
後ろで放置していたクソデブニートのほうから、そんな声が聞こえてきた。
そういえば、コイツの能力また無効化するの忘れてた。つーかコイツの存在自体忘れそうになってた。
このデブが、なにかしやがったのか?
≪推奨:上空を確認≫
メニューさんが警告画面を表示してきたので、指示通りに天を仰ぐ。
「なっ……!?」
「で、でっか……!?」
そこには、見上げた空を覆い尽くすほどの『なにか』があった。
デカすぎて全貌が見えないが、見た感じ大きな城、いや要塞、か?
メニュー画面には、『超大質量 要塞ユニット』とだけ表示されている。
俺が会場で蹴散らしていた『怪獣型ユニット』のお仲間っぽいなありゃ。
どう考えても、あのデブが召喚したもんで間違いなさそうだ。
やりやがったな、この野郎……!
「堀野! 今すぐあのデブを無力化しろ!!」
「だ、ダメだ……! あいつ、アレを召喚してから、すぐに死にやがった! 死んだ相手のステータスなんか、無効化できねぇよ!」
死んだだとぉ!? くっそ、ならなんであのデカブツは消えてねぇんだよ!
あ、メニューに『召喚者の死後もしばらくユニットは存在し続ける』って表示されてる。解説ありがとう。
で、どうすればいいんですかね。
見たところ、あのデカブツに飛行能力は無さそうだ。今も徐々に落下しているのが分かる。
あんな大質量が高高度から落下したら、地震どころじゃ済まないぞ。
≪直径約2kmの超大質量・大重量。あのままではアイテム画面への収納は不可能≫
≪……大陸プレートの位置などの条件を分析した結果、あのまま落下した場合には日本の大部分が沈没、さらに大津波が発生し、各国に甚大な被害が出る可能性が極めて高い≫
≪要塞ユニットの耐久力は能力値換算して約50万相当。現状、破壊可能なのは梶川光流及びアルマティナのみ≫
≪推奨:落下による影響が出ない質量にまで対象を破壊≫
破壊ったって、ちょっとやそっと砕いたくらいじゃ意味がないぞ。
多少砕いて細かくしたところで、この大質量が地上に落下した時点で日本沈没だ。
……仕方ない、本気を出すか。
「うひぃっ!? か、カジカワ、さん……!?」
「ッッ……!!」
あばばばば、アカンアカン。
『ステータス』と『プロフィール』両方の能力値を気力強化しようとしたが、傍にいたレイナと不良少年が顔を強張らせている。
意識して威嚇したつもりはないけど、無駄に上がった能力値のせいで怯えさせちまったようだ。すまぬ。
……さっさと飛んで、あのデカブツ消し飛ばすか。
魔力飛行で要塞ユニットの近くまでマッハで近付いた。
アレが地上に落下するまで残り何分何秒かすら見当もつかないが、壊して消し飛ばすだけなら十秒もあれば充分だ。
ステータス能力値8000 プラス プロフィール能力値32000 合わせておよそ40000。
基礎能力値だけでも冗談みたいな数値だが、これでもあの要塞を壊すには心許ない。
だが気力強化を使えば話は別だ。
気力操作による強化の倍率には上限がある。
能力値8000の時点では、大体25倍くらいが頭打ちだった。
それ以上強化しようとすると、とんでもない勢いでスタミナが減っていってすぐに枯渇しちまう。
だが、現状の能力値はその5倍。
さらに強化できる幅も25倍の5倍にまで上がっている。
あとは、分かるな?
4万の25倍、そのさらに5倍。
その結果が、 能力値500万 である。
なんてアタマ悪い数値だ。ゆで理論じゃあるまいし。
まるで小学生の妄想みたいじゃないですか。ぼくのかんがえたさいきょうの~ みたいな。
我ながらインフレが酷すぎてもう訳が分からん数値だが、ここまでアホみたいな強さになると後々凄まじい反動が襲ってくるので、気軽に使うわけにはいかない力だったりする。
でも、この状況じゃ全力を出さなきゃ対処できねぇ!
全力で強化したうえで、生命力を籠めた巨大魔力ハンドをいくつも生成。
それらを総動員して、ひたすら巨大要塞を殴り続けてブチ壊すっ!!
「オララララララララララララァァァァアアアアアア゛ア゛ッッ!!!!」
絶叫しながら、ひたすら要塞を殴って粉々にしていく。
別に叫ぶ必要はないが、気合が入ってつい声を上げてしまった。
殴るのと同時に砕けた破片をアイテム画面に放り込んでいるが、全ては回収しきれない。
大部分は収納できたが、細かな破片が残ってしまった。
残った小さな岩石でも、地面に着弾したら甚大な被害をもたらすだろう。
日本沈没とはいかないだろうが、人や物に当たれば目も当てられないことになってしまう。
ならば。
アイテム画面に収納しておいた爆裂大槌こと『ドラゴン・バスター』を取り出した。
そしてすぐさま大砲型へと変形させて、ありったけの魔力を籠めて、発射!!
「 ってぇぇぇえええいっっ!!!」
ドラゴンのブレスを思わせる、いやそれすら霞むほどの超極太の光線。
その光は、要塞の破片を一粒たりとも残さず、塵になるまで分解していった。
元々火属性の爆発とブレスしか発射できなかったが、ジュリアンに改造してもらったことで必要に応じて属性を切り替えられるようになった。
今のは火属性の『焔竜結晶』から光属性の『煌竜結晶』へと切り替えて放った、いわばレーザー光線みたいなもんだ。レーザーっていうにはちょっと極太すぎるけど。
え、そんなもんいつ手に入れたのかって? 第五大陸での戦争中に竜の死骸を大量に手に入れたのを、『時空推進機能』で加工したものですがなにか。
異なる属性でも問題なく機能するように調整してくれたジュリアンには感謝しないとな。完成した時には過労で死にそうな顔してたし。
破片を消し飛ばし終わったところで、ようやく一段落ついた。
ふぅぅ……魔力もスタミナもほとんど使い切っちまった。
反動が怖いが、今回は致し方なし。
……『治療』のために、お金が一気に無くなりそうだなー……。
仕事を終えたので、残った魔力でレイナと不良少年のもとまで魔力飛行で帰還。
……戻ってくるなりドン引きしたように後すざるのはやめてくれ。
「いやー……カジカワさん、一段とまたバケモノ化が進行してるみたいっすねー……」
「……とりあえずアンタが人間じゃないのは分かった」
分かってねーよ! また頭突くぞテメェ!
レイナも普通にバケモノ化が進行とか言うのやめろ。まるでもはや徐々にバケモノになるのが普通みたいな言いかたじゃねーか。
「お前らな、人が一仕事終えて帰ってきたのに対して……っ」
文句を言ってやろうと口を開こうとしたところで、猛烈な脱力感が襲ってきた。
思わず倒れそうになるのを、片膝をついてこらえた。
「だ、大丈夫っすか……?」
「あー……あんだけ無茶したら、さすがに反動がな……」
「反動って、どうしたんだ……? ま、まさか命を削ってるとか……」
慌てた様子で駆け寄ってくる二人。今更心配すんなや。
とか思ってるところに、ゴグゥゥ~~~…… と品のない音が俺の腹から上がった。
「……カジカワさん?」
「……腹が減って動けません。アルマのいるファミレスにファストトラベルするから、魔力を分けてくれ」
「アッハイっす」
「この異世界帰還者どもはどうすんだよ」
「マップを見る限りじゃ、そろそろレイナの協力してる組織の人たちがここへ到着するみたいだし、その人たちに任せておけばいいだろ。いいからメシ食わせてくれ、死ぬ……」
「うわ、お腹から魔獣の鳴き声みたいな音が鳴ってるんすけど!?」
ゴギュルグゴゴゴゴ……! と明らかに人体から出ちゃいけないような音が響き始めてきた。
飢餓感もそろそろ限界だ。早く何か食わないとマジで死ぬ。
『プロフィール』の分のスタミナを消費しすぎると、ここまで酷い反動がくるのか。
こりゃ、普段はOFFにしておいたほうがよさそうだなー……。
お読みいただきありがとうございます。
デブが死んだのは、ユニット作成の反動で寿命が尽きたためです。




