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閑話 魔王《勇者》の罪と罰

 箸休めに閑話。

 今回はとある勇者(魔王)の、死後のお話。



 ……。


 ここは、どこだ。


 今は、いつだ。



 俺はなぜ、まだ生きている?



 俺の最後の記憶は、崩れ落ちる魔王城。


 末端から徐々に塵となって消えていく、自分(魔王)の身体。


 最後の晩餐は、梶川光流が寄越したハンバーガー。


 ……そして、最後に例の黒歴史ノートの焼却を願ったところで、俺は消えたはずだ。


 いやあのノートマジで消してくれ若気の至りだったんだこっちの技術ならあんな変な武器も再現できるんじゃないかとか考えてた俺がバカだったっていうかなんで何百年も丁重に保管なんかされてんだよふざけんな(ry


 お、落ち着け、今更悶えたところでもうどうにもならん……うぅっ……。



 つーか、マジでここはどこだ。

 見覚えのない建物。真っ白で艶のある石造りの建築物。

 まるでローマかどっかにありそうな神殿、の造りたてを見ているようだ。


 一見、原始的な建物にも見えるが、日本でもパラレシアでも見たことのないものがちらほら見える。

 ランプとも蛍光灯ともつかない、光源がよく分からない灯りや、宙に浮かぶ星の立体天体図。

 空には鳥、翼の生えた人、神々しい真っ白な羽毛を纏う龍、あるいは、なんだかよく分からない毛玉が飛んでいる。

 地面は雲で、ところどころに宝石や黄金が煌びやかな輝きを放ちつつ顔を覗かせている。


 ……ここは、天国か? 死後の世界とは、かくも神々しいものなのか。

 いや、魔王としてあれだけ罪を重ねたんだ。俺に行く末があるとすれば、それは阿鼻地獄以外にないだろう。

 だとしたら、ここは……?


 ううむ、どうにも状況が分からん。

 俺は魔王として生まれ変わり、死の直前に相馬竜太としての人格が蘇り、息絶えた。それは紛れもない事実だ。

 もしかしたら、ここは死後の沙汰を待つ冥府の何処かなのかもしれん。

 ……ん?



 ふと、自分の姿を確認しようと掌を翳そうとしたところで、違和感を覚えた。


 身体が、無い。


 皴だらけの老掌でもなく、魔王の若々しくも禍々しい凶手ですらない、空虚。


 ……身体がないのに、なぜ目が見える。目そのものがないというのに。

 いや、待て。前にもこんな状況に陥っていたことがあったような。


 そう、あれは、忘れもしない。

 日本で、事故に遭って死んだ後に―――――






「……! ……っ!!」


「……。……」





 む、どこからか話し声が聞こえてくる。

 ふむ、閻魔かなにかか? それとも死の神か。

 どちらでもいい。とにかく、今は誰かに会って情報を得なければ話が進まん。


 声のするほうへと足を運んで……足がないがな。

 今しか言えん冗談だな。……なんて限定された状況専用のジョークだろうか。


 とにもかくにも話し声のほうへ近づくと、眼鏡をかけた長い黒髪の美しい女性と、金髪碧眼の小さな少年がなにか話し込んでいるのが見えた。

 んん? 少年のほうはともかく、女性のほうの声はどこかで聞き覚えがあるような……。





「ですから! すぐに例の階層と地球への出入口を封鎖してください! ついさっきも、彷徨って逆走した挙句奇跡と偶然が重なって20階層へ辿り着いた方が、配置しておいた固有魔獣に襲われて亡くなってしまったではありませんか!」


「あー、あれは可哀想だったね。フロアボスの第一形態まで倒すくらい頑張ってたのに。……君んトコの門番、性格悪すぎない?」


「あの場所はそうそう気軽に訪れるべき場所ではありません。だからこそ、残酷であろうとも強固な守りが必要なのです」


「アーハイハイ仰る通りで。ま、可哀想だしアフターケアくらいはしといてあげようか。『恋人のニセモノに殺されたかと思ったら赤ん坊になってて、目の前に変な画面が見える件』みたいな」


「なにを言っているのか理解しかねますが、しばらくリソースの供給は充分ですから! これ以上こちらの世界にそちらの人間が迷い込まないように処置をしてください!」


「無理無理。もう既に21階層にはあらゆる時間が繋がってしまってるんだから、『今』ある出入口を閉じたとしてもそのうち新しい扉が生じるだけだよ。むしろ消せば増える」


「くっ……! 2020年への出入り口だけではないというのですか……?」


「うん。某ノブや某ヤッスーの死に際とかにも繋がってるよ」




 要領を得ない会話、に普通の人間ならば思えることだろう。

 しかし、言葉の節々から恐らく例の場所、即ち『21階層』について話しているということが分かった。

 某ノブの死に際って、例の本能寺に繋がってる扉のことだろうし。




「それに、今も何人か彷徨ってる真っ最中みたいだしね。彼らが帰還できる可能性を僕たちの都合で潰してしまうのは、酷な話だろう」


「その帰還者たちのせいで、あなたの星にも大きな影響が表れ始めていることは分かっているのでしょう、『アース』」


「あはは。いやーさすがは我が子たちというか、近頃の子たちはやんちゃで困る。……いや、割と昔っからやんちゃだったかな?」


「近況の乱れぶりを嘆くくらいならば、対策の一つでも練ってはいかがですか」


「だーかーらー、ステータス無効化能力とか持たせた子に抑止力として働いてもらってたりしてるんだってば。別に啓示とか洗脳とかしてるわけじゃないけど、自主的にチート能力絶対殺すマンとして活動してくれてるよ?」


「……珍しいですね。あなたが人間に加護を与えるなど、滅多にあることではないでしょうに」


「つってもチートでもなんでもないけどね。実際、さっきも素の状態の『彼』にボコボコにされてたし。というか、君が気軽にポンポンとチートを与えすぎなんだよ『パラレシア』」




 『アース(地球)』? それに、『パラレシア』?

 ……聞き覚えのある星の名前で呼び合う男女の正体がなんなのか、無い首を傾げながら考え込みそうになったところで、二人が同時にこちらのほうを向いた。





「……おや?」


「あなたは……」




 ……見つかったか。

 いや、別に隠れる理由はないし、どのみち話しかけるつもりだったけどな。


 さて、どうしたものか。

 とりあえず挨拶からか。こんにちは、って口がないのにどうやって喋ればいいんだ。



「あー、ダイジョブダイジョブ。思うだけでそっちの意志は伝わるから」



 あ、そうですか。便利ですね。

 まるでパラレシアに転生する直前にした神様との会話みたいだ。



「というか、ほとんどおんなじ状況なんだけどね。ねぇパラレシア?」


「ええ。……お久しぶりです、相馬竜太さん。こうしてお話しをするのは、これで二度目ですね」




 ? なぜ俺の名を……? というか、やっぱりこの女性の声には聞き覚えがあるぞ。


 この声は………まさ、か……。




「はい、あなたを『勇者』として転生させた者です」



 ……やはりか。

 この女性が、俺をパラレシアに生まれ変わらせてくれた、神様なのか。



「へぇ、覚えてるもんだね。何百年も昔にちょっと話しただけの相手の声を忘れないなんて、随分と物覚えがいい」



 そりゃそうだ。あの死んだ直後にした会話だけは、なにがあっても忘れることはない。

 あの時終わるはずだった俺に、再び相馬竜太として生きるチャンスをくれた恩は、忘れられるはずがない。

 パラレシアで、ユカナやバハムートをはじめとした者たちと出会わせてくれたことには、感謝しかない。



「随分と有意義な人生を送ることができたようで、私も嬉しく思います」


「まあ自力で転生しようとして失敗した挙句、魔王として世界を滅ぼしかけてるけどねこの子」


「……アース、やめて差し上げてください」



 うぅっ……痛いところを突いてくるなこの少年は……。

 だが、事実だ。俺は、取り返しのつかないことをした。




 再び転生してユカナの生まれ変わりと出会うために、21階層でそれを可能にする道具を持ち帰った。


 中途半端に転生した挙句、魔王として何百万、いや何千万人もの人間を殺した。


 死なせた人間一人一人に、かけがえのない人生があっただろうに。


 それは、最早どれほど重いのかすらはかり知ることができないほどの、罪だ。


 自分の都合で、一所懸命に今を生きる人たちの人生を終わらせるなど、断じて許されるべきではない。





「言われてるよ、パラレシア」


「っ……」




 ……?

 俺の言葉の最中に、なぜか神様(パラレシア)がものすごく申し訳なさそうな顔をしながら俯いてしまった。 

 そして少年が神様に肘を当てながら、半笑いで煽っている。




「……ええ、そうですね。ですが、そもそも魔王というシステムは人口調整のために私が設計したものです。あなたも魔王となったのであれば、理解できるでしょう」



 あ、あー、そうか、そうだったな。

 魔王として生まれ変わったものは、本能的に人減らしとしての機能のままに動くように設計されている。

 そして、魔王を作ったのはこの神様だ。

 それが本当に人類絶滅を目標として動き出したのは、俺の記憶が影響したからだろう。



「人類を大量に殺戮するシステムを作った私が咎められることはあれど、その役割を押し付けられた魔王に罪を問うのは酷な話です。……悪いのは、真に罪深きはあなたではなく、私のほうなのですよ」


「ホント酷いよねー。人口の数なんて僕みたいにもっと大らかに管理しとけばいいのに」


「……そのせいで、あなたの世界の寿命はもう百年を切っているではありませんか……」


「そりゃ今のところは、の話でしょ。人間の可能性を甘く見ちゃいけないさ。……なんせ、見つけることができる可能性が天文学的に低いはずのこの部屋への扉を開いた『彼』っていう実例もあるくらいだしね。……後で『彼』の記憶を追体験した時にマジでビビったわ……。さて、長々と話すのもこのへんにしておいて、君の今後のお話をしようか」




 ……はい。

 阿鼻へ堕とすも、俺の存在そのものを消すも、御心のままに。




「いや、んなことしないって。さて、パラレシア。この子をお願いね」


「……かしこまりました」




 それだけ言うと、少年は歩いてどこかへ行ってしまった。

 『この子』っていうのは、もしかして俺のことか? あの少年、まるで俺の親気取りみたいな言い分だな。


 眼鏡を拭いてからかけ直し、小さく溜息を吐いてから俺に向かって神様が口を開いた。




「あなたの今後についてですが、少しの間私のお手伝いをしていただいた後に、パラレシアにて転生していただく予定になっています」



 ……え?



「本来ならば地球からリソースを運搬し、勇者としての役目を終えた方には再び地球へとその魂を戻すことになっていますが、あなたは二度目の転生の影響でパラレシアに染まりすぎてしまいました。もう、地球人として生まれ変わることはできません」


「よって、今後のあなたは地球人ではなくパラレシアの人間としてその魂を扱うこととします」


「もう転生しても生前の記憶はありませんし、メニュー機能の恩恵を受けることもできません。そこはご了承ください」



 な、に……?

 ま、待ってください! 俺の罪に対する、罰は……!?



「罪も罰もありません。少なくとも我々の基準からすれば、の話ですが」




 し、しかし……!

 それでは、俺のせいで死んでいった人々に対する償いが……!







「……いえ、まあ、あなたにとっては、ある意味どんな地獄よりもひどい罰が待ち受けてはいるのですが……」






 え?





「と、とにかく、あなたには今後百年間ほど、私の使いとしてパラレシアの監視役とリソースの分配任務を与えます。パラレシアへ直接干渉することはできませんが、この機会に今一度世界を眺めてみるといいでしょう。では、頑張ってくださいね」




 え? え? 

 ええと、あの、話が早すぎて追いつけないんですが、ちょっと? 聞いてますか? おーい……。







 その後、俺は神様の使いとしてしばらくの間下界を眺める観測者としての役割を担うことになった。

 ちなみに拒否権は無かったし、他に選択肢もなかった。なにか言える立場でもないしな。

 ……これが、今の俺がするべきことであるというのであれば、そうするしかない。 


 そう受け入れて、観測者として働くことになった。

 ……神様が呟いた一言に、一抹の不安を抱きながら。



























 観測者として働き始めてから十年ほど経ったころに、『どんな地獄よりもひどい罰』というのがなんなのかを思い知ることになった。


 第五大陸王都『ペンドラゴン』のとある武器屋にて、『勇者『リョータ・ソウマ』設計! 芸術武器をご覧あれ!』とデカデカと書かれた看板の下に、見覚えのある変態兵器の数々が陳列しているのを見た。





 誰か俺を地獄に堕としてくれ。

 お読みいただきありがとうございます。


 こんなふうに死後の話をポンポン出すのは軽率だったかなー(;´Д`)

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] 魔王も救われた感じするな〜
[一言] 魔王を倒すまでの過程で嫌になるくらい大活躍した黒歴史の産物達 決まり手は過剰供給による爆発四散だったが、それまでの過程を生き抜く上でアレらは必須だった。つまり、1人の勇者の黒歴史ノートによっ…
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