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ステータスなんて、消えちまえ



 神なんかいない。そう思ってた。




 恭介に敗けて、そのまま王城の地下牢に幽閉されることになった。

 何日も、何か月も。薄暗い牢獄の中で。

 悪夢なら早く覚めてくれと、何度も願ったが目が覚めるたびに見えるのは最早見慣れた牢屋の天井だった。


 恭介と美香の活躍ぶりは、地下牢にまで伝わってきた。

 どこかの村をモンスターの脅威から救っただとか、伝説の精霊との一騎打ちに勝って力を認められただとか。

 くだらねぇ。そんなもんは、お前らじゃなくてステータスっていうチートの力だろうが。


 善行を積めば、オレを裏切ったことが許されるとでも?

 そんなわけねぇだろ。たとえ百万人の命を救ったところで、オレを絶望のドン底に叩き落としたことには変わりない。


 むしろ、アイツらの噂が流れてくるたびに怒りは増していった。

 だが、復讐しようにも、もうオレじゃアイツらには歯が立たないことは明らかだった。

 今更オレがステータスを鍛えたところで、たかが知れている。特殊能力もなにもない、凡人では勝てない。


 そもそもこんな場所でできることといったら、筋トレやイメージトレーニングくらいなもんだ。

 モンスターを倒してレベルを上げてステータスの強化、なんてことすらできなかった。



 ステータスなんてものさえなければ、と毎日思い続けた。

 チートなんてくそくらえだ、とこの世界のステータスというものを憎んで憎んで憎んで憎んで。



 そんなオレの願いが通じたのか、それとも単になんらかの条件を満たしたためか。

 王城に幽閉されてから一年が経ったころに、オレはとあるスキルを獲得した。







 名前:堀野 一弘

 性別:男

 職業:凡人


 Lv1


 HP:50/50

 MP:5/5


 基礎能力

 パワー  :F

 スピード :F

 タフネス :F

 マジカル :F

 スペシャル:測定不可能


 スキル

 ステータス・バニッシュ










 あ、やっぱ神様っているんだな、と我ながら酷い掌返しをしたくなった。手首がねじ切れそうなくらいに。








 それからさらに一月ほどが経ったころ、遂に恭介と美香が魔王を倒したという。

 それに伴い、二人と一緒にオレも日本へ帰してもらえると、王から告げられた。



「いやー、楽勝だったなー。もう適当にスキルブッパしてるだけでモンスターも魔王も軽々打っ飛んでいくもんだから、うけるわ」


「でも、日本に戻った途端にこの力が無くなっちゃったりしないかな……?」


「こちらで身に着けた能力は、そちらの世界に帰ってもそのままです。ですので、あまりおおっぴらに披露されると、その……」


「大騒ぎになっちゃうってことね。ま、上手く使うから大丈夫だよー」



 日本に帰っても、ステータスの恩恵はそのまんまってことか。

 好都合だ。



「勇者様方に感謝せねばならぬぞ。お二方の嘆願あっての帰還許可なのだからな」


「……はい」


「いやー、放っておいてもよかったけど、やっぱあのままだと寝覚めも悪いしなー」


「キョー君やさしー」


「ま、色々あったけど、どうか水に流してくれよ!」




 吐き気がした。耳が腐りそうだ。

 顔だけ申し訳なさそうな表情をしながら握手を求めてくる手を、弾いてやりたかった。



「……こっちこそ、二人の関係に気付いてやれなくてごめんな」



 それに対して笑顔で答え、握手に応じた。

 あっさり許すどころか、自分の否すら認めるオレの言葉に少し驚いたような顔をしながらも、しっかりと握り返してきた。



「いいって、いいって! いやぁ、もう怒ってないみたいで安心したよ。こちとらまた殴りかかられるかと思ってビクビクしてたってのに」


「ははっ、殴ろうとしても、オレのパンチなんかもう効かないだろ」


「まーねー」


「そんじゃあ王様、送るのよろしくー」


「畏まりました。……これまでありがとうございました、勇者様」





 そう言い放つのと同時に、オレたち三人を青白い光が包んだ。



 目が見えなくなるくらいに光が強くなったかと思ったら、気が付いた時には日本へ戻っていた。


 あの日、あの時、異世界に飛ばされた下校途中そのままの風景。


 いや、飛ばされたのは昼間だったはずだが、辺りはもう暗くなり始めていた。




「に、に、にっぽんだー!!」


「やった、ようやく、帰ってこれたんだぁ……!」



 泣きながら感激する二人を見ていると、感慨深いものがある。

 チートを頼りにしてとはいえ、これまでずっと戦いっぱなしで、こうやって帰る日をずっと夢見てきたんだと、何度も何度も聞かされてきたからな。


 ああ、本当に嬉しそうでよかったよ。



 恭介がスマホで時刻を確認すると、オレたちが異世界へ飛ばされてから数時間しか経っていないらしい。

 なるほど、捜索願なんかは出されてなさそうだな。 




「なぁ二人とも、よかったらこのままカラオケでも行かないか?」


「お、いいねぇ!」


「よーし、一年越しに歌い尽くしちゃる!」



 オレの誘いに、ハイテンションで応じる二人。

 オレと和解できたのだと本気で思いこんでいるのか、それとも仮にオレがなにか仕掛けてきてもどうとでもできるとでも思っているのか。

 まあ実際そうだ。仮に本気でオレが恭介や美香を殴ったところで、ステータスに守られているこの二人には傷一つ付かないだろう。むしろ殴ったオレのほうが死ぬかもしれない。



 カラオケ店へ向かい、かつてのように、いつものように三時間ほど予約してから、BOXに入った。

 入ってすぐに、恭介がテーブルの上にバッグから様々な飲食物を並べ始めた。

 どう見てもバッグに納まりきらない量だが、どうやって詰め込んでいたんだろうか。



「あの世界でこーんなにお土産もらっちゃってさー、もう酒もお菓子もめちゃめちゃウメーのよ!」


「よくこんなに物が入ってたな、そのバッグ」


「ああ、マジックバッグっていって、まあ某青狸のポケットみたいにめちゃめちゃ容量が大きいバッグなんだ。いくら詰め込んでも全然重くならないんだぜ」


「とても便利そうだな」


「他にも不思議アイテムがもうわんさかよ! ああ、異世界召喚されてよかったー」


「そうか、そりゃよかったな」


「じゃあ誰から歌うー?」


「やっぱ最初は言い出しっぺの一弘からだろ!」





「いいや、お前ら二人のデュエットからだよ」


「……え?」




 せいぜい大声で歌いな。

 あの時のオレのように、絶望に満ちた絶叫をな。




 一年間の幽閉生活の末に得たスキル、『ステータス・バニッシュ』を二人に対して発動した。

 レベル1の『凡人』にのみ得ることの許された、最弱にしてステータスに頼る者にとっては最悪のスキル。


 その効果は『ステータスの無効化』だ。

 弱体化ではなく、ステータスという概念の恩恵そのものを消し去る力。


 生まれつきステータスを持っている異世界人に対して使用すれば、生きるための力全てを失い、死ぬ。

 地球人に対して使った場合は、ステータスのない本来の状態に戻る。


 つまり、こいつらはもう超人的な身体能力も、スキルや魔法といった特殊能力も使うことはできない。



「あ、あれっ……!?」


「な、なんだ、身体が……」


「ふんっ!!」


「あがぁぁあああっ!!?」



 急に力を失って、呆然としている恭介の右膝に思いっきり蹴りを入れてへし折った。

 変な方向に曲がった足を押さえて、泣き叫びながら床を転がっている。



「き、キョー君っ!? な、なにしてんのよ、アンタ!! ……あ、あれ、な、なんで、魔法が出ないの……!?」


「なんでだろう、なっ!!」


「うぶぁっ!?」



 オレに向かって魔法を放とうとしたが、不発に終わり困惑している美香の顔面に、思いっきり頭突きをかまして鼻をへし折ってやった。

 痛みに手で押さえている顔に、さらに膝蹴りを何度も何度も何度も入れて、ふた目と見れたもんじゃないくらいまでグシャグシャに潰す。



「うあああ!! う、あぁあああ!! かおが、が、かお、が、あぁ……!!」


「な、なんで、一弘……!」


「それはなにに対しての『なんで』だ? ステータスを失ったことに対してのか、それともなんでこんなことをするのかってことを聞いてるのか?」


「す、ステータスを、うしな、った? え……?」


「ステータス・バニッシュっていってな、選んだ相手のステータスを無効化できる、オレが唯一使えるスキルだよ。魔王相手にでも使ってりゃ、お前らの代わりに世界を救うこともできたかもな。もうあの世界のことなんかどうでもいいけどよ」


「ゆ、許してくれたんじゃ、なかったの、かよ……!」


「ああ、スマンスマンありゃ嘘だ。お前らもオレに隠れて裏で寝てたんだし、おあいこだろ、なあっ!!」


「うぎゃああああっ!!」



 床に倒れたままの恭介の腕を掴んで、曲がっちゃいけない方向へ無理やり曲げた。

 ステータスさえあれば、回復魔法なりなんなりで治すこともできるんだろうが、今の状態じゃあどうにもできないだろ?



「まあ、命だけはとらないでやるから、これで勘弁ってことで。あ、ついでにこのバッグ、便利そうだから中身ごともらってくわ」


「ま、待って、ステータス、返して、顔を治して、元に、戻して……!!」


「やだね。ま、元々なかったもんだし、普通に生きていく分には不便じゃないだろ。折れた手足や顔は、恭介の金で整形でもして治せばいいさ。そこまでバキバキになってちゃ、元通りにするには難しいだろうけどな。それじゃーなー」


「か、一弘ぉぉぉっ……!!」





 オレに縋りついてくる二人の頭を蹴っ飛ばして気絶させてから、一人で退室し店から出た。




 二人への復讐を終えて、カラオケBOXから出た時に、初めて心が晴れた気がした。


 ざまあみろ、クズども。

 ざまあみろ、ステータス!

 そんなもん、必要ねぇんだよ!

 日本にまで、そんなクソみたいなもん持ち込んでんじゃねぇ!



「あはははははっ、あっはっはははははっ!!」



 笑いが止まらない。

 オレを裏切った報いだ。

 オレだけ、のけ者にしやがった罰だ!

 存分に苦しみやがれ、クズがッ!!



「ははははは、ははは、は……はぁ……」




 腹を抱えながら一頻り笑い倒した後に、達成感は消え去り、酷い虚無感に襲われた。


 これが、オレの望んだことか?

 こんな、クソッタレでなにも残らない、なにも成し得なかった結果を、オレは求めていたのか?




 ……なんで、こんなことになっちまったんだよ……。




 お読みいただきありがとうございます。


 読むのがダルい人向けのここまでのあらすじ


①男子二人と女子一人の高校生仲良し三人組、下校途中に異世界転移。

②他二人、超チート能力に目覚める。一人だけダメダメ。オワタ。

③しかも実はそのチートの二人、付き合ってた。ダメダメ男子の彼女だったのに、チート男子にNTRされてた。オワタ。

④キレて殴りかかったけど全然敵わず。そのままお城に幽閉されて毎日恨み言漏らしてたらなんかスキル目覚めた。

⑤ごめん、ダイジェストでも長いからこのへんでやめるわ。メンドイ。


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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] いや、異世界で殺しとけし。日本だと傷害罪やら暴行罪になると思うし。
[一言] カラオケ店での事件は問題にならなかったのか…? それともこれが発端で何らかの組織に見つかって保護された? 能力的に対異世界兵器としては優秀だし、戦闘力が高いわけではないから反抗しても終了は容…
[一言] あれえ? 異世界で○すならともかく、 このあと傷害罪で訴えられなかったの?
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