とある、無能のお話
今回と次回はとある異世界帰還者絶対許さないマン視点。
この作品らしからぬちょっと胸糞表現あり注意。
読むのがしんどかったら次回のあとがきあたりに簡単なあらすじをまとめときますので無理に読まなくても多分大丈夫です。
影の中から現れた直後にステータスを失い、床に倒れた金髪少女を眺めながら、しばし待つことにした。
さっきまでコイツはあの空飛ぶヒーロー気取りと会話していた。つまり、あの野郎の仲間だという可能性が高い。
誘い出すエサとしては充分だろう。
ステータスを失った途端に死んだってことは、コイツは異世界の人間か。
どこの世界の人間かは知らないが、そっちで勝手にやってりゃこんなことにはならなかっただろうに。
実はあの野郎に無理やり連れてこられたとかなら、まあ見逃してやってもいいが。
金髪少女と一緒に床でノビてるデブを見ていると、嫌悪感しか湧いてこない。
自分勝手な欲望のままに破壊活動をゲーム感覚でやりやがって。
チートを失えば、イキり散らかしてる奴らもこの通り。
空手齧ってるだけの一般人であるオレにすら手も足も出ない。
……お前はどうかな? 空飛ぶヒーローさんよ。
金髪少女が倒れてから数十秒ほど経った時、部屋の壁が派手な音を立てながら崩れた。
壁を壊して入ってきたのは、さっきまで怪獣どもとやり合っていた野郎だ。
「レイナっ!!」
倒れている少女の名前を叫びながら、傍に駆け寄る。
ふぅん、まず仲間の心配をするくらいの道徳観はあるのか。
「落ち着けよ、そいつは一時的に死んでるだけだ」
「……これは、お前がやったのか」
オレの言葉が聞こえているのかないのか分からないが、少女を抱えながらこちらを睨みつけてきた。
思わず息を呑む。これまで見てきた中でもぶっちぎりの威圧感だ。
「だとしたら、どうする?」
「今すぐ!! レイナを元通りにしやがれっ!!!」
叫び声だけで心臓を握り潰されそうな気迫。
ステータスの高さってのは、こういった形でも表れるんだな。こえーこえー。
ま、そんなもんオレからすりゃハリボテにすぎないんだがな。
「『ステータス・バニッシュ』」
「!」
オレの唯一使えるスキルを発動すると、奴の放つ威圧感が萎んでいった。
もう、コイツはオレとなにも変わらない。空を飛ぶことも、超人的な力を発揮することもできない。
完全に無力になったヒーローの抜け殻に向かって駆け寄り、正拳を放った。
急にステータスを失った影響か、ロクに防ぐこともできずにまともに腹に拳を叩きつけることができた。
「がっ……!?」
「ほら、どうした」
「ぐあぁっ!!」
腹を押さえて蹲るクズの顔面を蹴り上げると、無様に鼻血を出しながら仰向けに倒れた。
ステータスさえありゃあ、この程度の攻撃どうってことないだろうに。
やっぱこいつもこれまでの奴と同じ、チートに頼ってばっかのゴミか。
普通人しかいない日本に帰ってやりたい放題ってか? 反吐が出る。
これまでの連中のように……『アイツら』のように、ステータスを奪ったうえで再起不能にしてやるのがよさそうだ。
でないと、どうせコイツもそこのデブのように自分の都合でなにをしでかすかわかったもんじゃない。
……それが、どれだけ周りに悲劇をもたらすのかも自覚せずに。
~~~~~
それは、ネット小説でありがちな異世界転移のようだった。
普通の生活をしていた主人公が、ある日突然異世界に飛ばされる話。
そこではまるでRPGみたいな、レベルだのスキルだの魔法だの、空想の中でしか存在しないはずの概念が当たり前にある、そんな世界。
オレは、オレたちは、そんな異世界もののテンプレみたいな状況にあった。
オレこと『堀野 一弘』と、高校から知り合ってよく遊ぶようになった同級生『加賀 恭介』と、幼馴染の彼女『手塚 美香』の三人で、いつものように下校している時のことだった。
「今度の休み、どこで遊ぼうか?」
「カラオケとかよくない? また三時間くらい歌い通したい」
「で、最終的に全員喉が疲れてきてマイクの押し付け合いになるやーつ」
「私の喉を舐めるなー! その気になれば一日中だってリサイタルしたるわー!」
「こないだ歌いすぎて一週間くらい喉潰れたままだっただろーが。声変わりすぎてオッサンかと思ったわ」
「ヒロ君、ひどーい!」
いつもの帰り道、いつものなんてことない三人での会話。
「しかし、美香ちゃんホントかわいいよなー」
「ふっふふ、キョー君も私の魅力にメロメロかい? なら小遣い寄越せ。ジャンプしてみ? ん?」
「なにそのカツアゲみたいなノリは!? この娘コワイ!」
「恭介、美香に手ぇ出したらさすがにキレるぞ」
「いやむしろ俺が手を出されそうなんだけど!? どうどう、落ち着けって! ……いやちょっとさすがに空手やってる拳で殴られたりしたらシャレにならんからマジでカンベンしてくれスマンスマンスマンってば!」
拳を構えるオレを半笑いで宥める恭介。
悪いヤツじゃないんだが、時折美香を見る目が危ない気がする。
親友にNTRされるとか現実でそんなことになったりしたら、いくら親友でも許せねぇからな。美香もまんざらでもなさそうな顔すんな。泣くぞ。
駄弁りながら駅に向かって歩いている途中で、急に地面が消えた。
「え?」
「ぇあっ!?」
「うおぉっ!?」
なにが起きたのか理解する間もなく、三人とも闇の中へと落ちていって、墜落した先は見覚えのない場所だった。
「な、なんだ……?」
「なにが、起きたの……? ここは、どこ……!?」
豪華、豪奢、荘厳。どこもかしこもキラキラ輝いていて、それでいて下品さなんて微塵も感じられない、計算されたデザインとレイアウト。
まるでおとぎ話の中に出てくる王様が住む城のようだ、なんて考えてしまった。
まるで、じゃなくて、まさに、だったというのに。
で、そっからの展開はテンプレそのまんまだった。
偉そうな、というか実際偉い王様から、ここは地球ではなく別の世界で、オレたちはこの世界に召喚された存在なんだと。
喚び出した理由は、この世界を今にも滅ぼそうとしている『魔王』を討伐して、世界に平和をもたらしてほしいというテンプレオブテンプレ。
もう自分たちだけではどうにもできないから、オレたち地球人に頼るしかない状況だとか。
異世界の、というか地球から喚び出された人間は、この世界では規格外の能力を発揮できる『勇者』としての素質があるとかなんとか。
……もうありきたりすぎてこのあたりの説明をすることすら面倒だ。
「あー、ネットの小説とかで百回くらいこの導入見たことあるわー」
「右に同じ。ベタベタね」
恭介と美香が暢気かつ冷静に現状を確認している。
随分肝が据わっているなぁとか思いながら、オレも冷静なふりをしていた。
内心、そのネット小説の導入のように異世界へ飛ばされたという状況に、胸踊らされて仕方がなかったけれど。
それで、異世界人特有の能力の中に、自らの状態、ゲームなんかで言ういわゆる『ステータス』を確認できる特典があるから確認してほしいと告げられた。
念じるだけで自分のステータスを確認できるというから試してみると、マジで目の前にゲームのステータスウィンドウのような画面が現れた。
名前:堀野 一弘
性別:男
職業:凡人
Lv1
HP:50/50
MP:5/5
基礎能力
パワー :F
スピード :F
タフネス :F
マジカル :F
スペシャル:■
スキル
なし
……初見でも分かる。どう見ても勇者のそれじゃない。
職業の時点で凡人とか書かれてるし、どのステータスも『F』としか書かれていない。
この手のステータスって、大体は『A』に近いほど強いイメージがあるんだけど、『F』ってのはどう考えても雑魚のそれだよな。
異世界召喚された勇者とはいえ、最初はこんなもんなのかと思ったその時に、隣にいた恭介と美香が声を上げてはしゃいだのが聞こえた。
「うわ、なんか色々表示されてる!」
「基礎能力っての、AとかSばっかだな。もしかしてこれってかなりのチートだったりする?」
……もう、この時点でなにが起きているのか薄々勘付き始めていた。
頼むから冗談であってくれ、と願いながら二人のステータスを確認すると、オレと比較するのも馬鹿馬鹿しくなるくらい反則的に強い表示がされていた。
名前:加賀 恭介
性別:男
職業:バトルマスター
Lv50
HP:2600/2600
MP:1300/1300
基礎能力
パワー :S
スピード :S
タフネス :S
マジカル :A
スペシャル:S
スキル
全武器支配LvMAX 全武器掌握LvMAX 闘気神法LvMAX 全流派皆伝 ………
名前:手塚 美香
性別:女
職業:マスターメイジ
Lv45
HP:980/980
MP:3900/3900
基礎能力
パワー :C
スピード :B
タフネス :C
マジカル :SSS
スペシャル:SS
スキル
全属性魔法LvMAX 全補助魔法LvMAX 魔導戦法LvMAX ……
オレがLv1で、表示されてるステータスがクソザコなのに対して、二人のステータスは最初っから強力なのが一目でわかる内容だった。
……ああ、そうか、そういうことか。
召喚された勇者たちの中で、オレだけが無能扱いされるパターンか。
「ううむ、片やバトルマスター、もうお一人はマスターメイジですか。しかも、既に高レベル。異世界の勇者というのは凄まじい実力を秘めていらっしゃいますなぁ」
「だが、その分ハズレの方のステータスは、なんとも悲惨な有様ですねぇ。ここまで弱いのは逆に珍しい」
「……ひどいなコレは。『凡人』なんて初めて目にする職業だが、ステータスを見る限りじゃ戦闘向けの職業でもないし、スキルも取得していない。無能もいいところだ」
あーはいはい。テンプレテンプレアンドテンプレだな。
この後、恭介と美香には好待遇でオレには冷遇するんだろ? 分かってるぞ。
「お二人の勇者様方にはしばらくの間戦闘訓練をしていただき、戦いというものに慣れていただきます」
「で、そっちの凡人はどうする?」
「処分しろ」
「はっ」
なっ……!? 冷遇どころかいきなり処分かよ!
こいつらそれで恭介や美香から不興を買うかもしれないとかそういったことを考えられないのかよ! 馬鹿か! 馬鹿なのかこいつら!
「おとなしく縄につけ!」
「っ! 誰が、つくかボケェッ!!」
「ぐはっ!?」
オレに殴りかかってきた兵士たちに、素手で応戦する。
幸い、ステータスの影響で弱くなったとかそういったこともないようで、空手で鍛えた技は充分にこの世界でも通用するようだった。
一人や二人くらいなら、ステータスとは関係ない素の実力だけでもなんとかなりそうだ。
だが、この人数差はまずいな。オレ一人じゃ限界がある。
そうだ、恭介たちはステータスチートを授かったっぽいし、今なら戦えるかもしれない。
ここは三人で協力して、この場を切り抜ける!
「恭介! 美香! 力を貸して………がごぉぁっ!!?」
オレの後ろにいる二人に協力するように求めようとしたところで、背中に衝撃が走った。
まるで自動車にでも轢かれたんじゃないかってくらい強く、身体がバラバラになりそうな痛みに襲われた。
数メートルほど派手に吹っ飛んで、ゴロゴロと無様に地面を転がっていく。
なにが起きたのか確認しようと顔を上げると、そこにはオレを眺めながら醜悪な笑みを浮かべている恭介と美香の姿があった。
恭介の片脚が上がっているのを見るに、どうやらオレを恭介が蹴り飛ばしたようだ。
「きょう、すけ……!?」
「うわ、すっげー飛んだ! これってマジで強くなってるヤツじゃん!」
「あははっ! ヒロ君、まるでヒーローもののやられ役みたい! うけるー!」
な、なにが起きてんだ……!?
なんで、恭介がオレを攻撃してんだ、なんで、美香がそれを見てバカみたいに笑ってんだ。
ま、まさか、オレたちを召喚した連中に洗脳でもされてるのか……!?
「なん、で……美香……! 目を、覚ませ……!」
「あ、なにが起きてるか分かんない? 『目を覚ませ』って、もしかして私たちがこの人たちに操られてるんじゃないかーとか思ってたりする? プゲラ。そんなわけないってのー」
「あー、黙ってたけどさ、実は俺と美香ってちょっと前から付き合ってるんだわ。スマン」
「………は、ぁ?」
なにを、言っている。
コイツ、今、なんて言いやがった……!?
「つーかさ、お前と仲良くなったのも美香に近付くためだったんだよね、そこはまあ我ながらマジで酷いと思うよ、うん」
「ゲスいよねーキョー君。ドン引きだよー」
「そういう美香だってちょっと諭吉さんちらつかせたらすぐ付き合ってくれたじゃん。ホテルまで5分だったでしょ」
「いやー、貧乏育ちなもんでーはははー」
「俺、割とデカい会社の御曹司なんで一生金には困んないんよ。家事もメイドが全部やってくれるから遊び放題だって言ったら、結婚までOK出してくれたよ。……ホント、惚れた相手ながら尻が軽いよなぁ」
「キョー君、ひどーい!」
「ぅ……うそ……だ……」
耳を塞ぎたかった。
目を瞑ってしまいたかった。
なのに、怒りに目を見開かずにはいられない。
拳を握るのに夢中で、耳を塞いでなんかいられない。
「で、そんなことお前に言ったら空手パンチでボコボコにされるのが目に見えてるじゃん? だから適当なところで高校中退して二人でどっか遠くに行こうとしてたんだけど、こういった状況になったなら話が早いよな?」
「て、めぇ……!!」
「こいよ、一弘」
「恭介ぇぇぇええええっ!!!」
ほんの数分前まで親友だと思ってた奴がゲス野郎だと知ると、叫ばずにはいられなかった。
殺してやる、殺してやる!!
「死ね!! シネ! し、死ねっ!! クソ野郎がぁっ!!」
「……お前、こんなに弱かったっけ? 遅いし軽いし無駄が多いし、話にならないんですけどー。 ほいっと!」
「ごぁがっ……!!」
何度も殴りつけた。
怒り任せじゃない、確実に相手を仕留めるために身体が動いた。
多分、普通の人間なら殺せるくらいに鋭く拳を突き出したと思う。
それを、恭介は片手間に、文字通り片手だけで軽々と全て防ぎきってみせた。
そして目にも留まらない速さでオレの腹を蹴って反撃してきた。
速すぎる、堅すぎる、重すぎる、強すぎる。
これが、これが『ステータス』ってやつの恩恵なのかよ……!!
素の状態なら、百回やって百回オレが勝つ自信があるが、今の恭介は強すぎる。
勝てない、ちくしょう、クソッタレ、勝てない、勝てねぇ……!!
たった一発蹴りを受けただけで、身体が動かねぇ。
「あー、ただ、俺も悪かったよ。だから、命だけは助けてもらえるように頼んでおくから、それでカンベンな?」
「ふざ……けっ……!」
「じゃーねー、ヒロ君ー」
ダメ押しと言わんばかりに、美香の手の平から魔法と思われる光の弾がオレに向かって放たれた。
直撃を受けて、そのまま意識が薄れていき、気を失った。
ふざけんな、ふざけんな。
なにがステータスだ、なにが勇者だ。
てめぇら、そんなもんに頼らなきゃ、街の不良一人にも勝てなかっただろうが。
オレが、これまでどれだけお前らを守ってやったと思ってやがる。
許せねぇ。
絶対に、許せねぇ……!!
お読みいただきありがとうございます。
かなり展開が早いけど、長々書くようなキャラじゃないし。




