リベンジ①
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簡易コンロにセットしたフライパンがいい具合に温まってきたようだ。
そのフライパンに、あるものを投入。
そう、イノシシ共の大好物というバニソイ豆だ。
…今回、依頼を受けたのはこれの栽培のためでもあったんだがなぁ。まあ、育てる分は少しとっておいてあるが。
生のままでも奴らにとってはとても食欲をそそる匂いがするらしいが、炒った豆の匂いとなるともはやそんなレベルではないらしい。
メニュー曰く、『この豆を食べる』ということ以外の思考がまともに出来なくなるほど魅力的に感じて、この匂いに抗うのはほぼ不可能だとか。なんかヤバい薬の中毒者みたいだな。
みるみるバニラの匂いが村に広がっていく。奴らは鼻がいいからすぐにこちらに気付くだろう。
魔力感知をしてみると、早速ラッシュボアが近付いてくるのが分かった。方向は、俺から見て10時の方向か。
「あっちから来るぞ、構えて」
「分かった」
アルマにラッシュボアが向かってくる方向を伝え、迎撃の準備をさせる。
なるべく一発で仕留めてほしいものだ。メインはまだ来ていないんだから。
ラッシュボアの姿が見えた直後、バシュッとアルマからストーンバレット(強化ver)がラッシュボアに放たれ、その胴体を貫通し絶命させた。
うむ、まずは一匹。上手く当ててくれたな。
一発当たりおよそ20ほどMPを消費する。このままだといずれ枯渇してしまうが、消費したらすぐに俺からアルマに魔力を譲渡するのでそう簡単には魔力切れは起こさないだろう。
それに、俺ももう少しでレベルアップしそうなので、MPが切れそうになったら俺がラッシュボアを仕留めてMPを回復すれば大分余裕ができるはずだ。
さらに緊急用にとっておいた魔力回復丸薬もあるし、MPに関しては問題ないだろう。
因みにその丸薬は素材屋の婆さんから餞別にもらったものだ。スタンピードの時に使うのを忘れてた。あれを渡しておけばラスフィーンももう少し楽に戦えたかもしれないのに。反省。
本当は俺が仕留めたほうがMPの消費が少ないだろうが、それはあくまで近距離で魔力パイルバンカーを当てられたらの話だ。
ラッシュボアは罠になるべく近付けさせたくない。あれはジェットボア用に仕掛けたもので、ラッシュボアが引っかかったりしたらそれで詰んでしまう。なのでなるべく遠距離で仕留めたい。
俺の魔力投石じゃ頭に上手く当てないと仕留めることができない。一匹仕留めるのに手間取って、その間に他の個体が来たらそれで罠が台無しになる可能性がある。
アルマの魔法なら遠距離でも高い威力があるので、ここは安定を取ってアルマに任せることに。
で、豆を炒ってから10分経過。
既に仕留めたラッシュボアの数は10を超えている。
どんどんこちらに誘い込まれていて、イノシシホイホイと言わんばかりに突進してくる。
案の定、途中でMPが少なくなってきたので、俺が2匹ほど仕留めてレベルアップ回復。
これで俺のレベルは16。アルマはこないだの襲撃の時に上がったばっかりだから17のままだ。
俺はともかく、アルマのMPは常にMAXに近い状態を維持しておかなければならない。今のところはまだ余裕があるが、万が一メインが来る前にMPが切れたら計画が破綻してしまう。
というわけではよこい赤イノシシ。消耗戦でも狙ってんのか。
って、来てる。どんどんこっちに向かって近付いてきてるのが分かる。
他の奴とは明らかに格が違う。魔力量も、移動するスピードも。
手下が多くやられたのを感じとって、自らその原因を排除しに来たか。
とうとう、目で見えるところまで近付いてきた。ちょっとステータス確認。
魔獣:ジェットボア
Lv26
状態:魅了(食欲)・頭蓋骨損傷(軽微)
HP(生命力) :504/557
MP(魔力) :170/170
SP(スタミナ):149/342
あ、違う。コイツ手下がやられたとか関係なく、単にバニラの匂いに釣られただけっぽい。群れのボスがそれでいいのか。
おや、頭のダメージがちょっと残ってるな。逃げる時にふらついてたって言ってたし、意外と効いてたのかな。
「来たぞ、準備してくれ!」
「分かった…!」
アルマに合図を送り、罠の近くに作った足場に登ってもらう。
そして、俺は豆の入ったフライパンを持って罠の上に移動。地面スレスレを浮いているので俺は罠にかからない。
ほれほれー、こっちの豆は甘いぞー。匂いが。なお味は辛苦い模様。まあ勿体ないからお前にはやらんけど。
『ブゴオオオオオオォォォォッ!』
咆哮を上げながら、凄まじい勢いで突進してくる。さあ、そのまま行くがいい。
地獄にな。
ズボォッ!と音がした後、ジェットボアの姿が消えた。
正確には仕掛けておいた落とし穴に落ちただけだけど。
深さは奴の身体の高さの倍ほどある。無理を言って大分深めに掘ってもらっておいた。
イノシシの跳躍力は意外と高い。自分の高さくらいの壁や塀なら軽々と飛び越えることができる。
魔獣と言うファンタジー生物ならもっと高く飛ぶこともできるだろう。このくらいの深さの穴なら問題なく脱出できるだろうが、別に閉じ込めることが目的じゃない。
ただ、アルマの魔法を確実に当てるためにほんの少しの間、動きを止めてくれればそれで充分だ。
「はあぁぁっ!」
アルマが声を上げながら、魔法を発動した。
落とし穴の上から、巨大な岩が出現し、ジェットボアに向かって落下していく。
…あれがストーンバレットだと言っても誰も信じまい。魔力操作でジェットボアの3倍くらいの大きさにまで強化されている。
たった1発に200弱ほどのMPを費やしてようやく放てる巨岩。大きすぎてあまり前には飛ばないし、攻撃魔法としては失敗作だが対象が下にいるならこれほど恐ろしい魔法はそうそうないだろう。
ジェットボアは穴の中にいるから逃げ場はない。もう遅い、脱出不可能よ! ぶっ潰れよぉ!
ズゥンッ と地面を揺らしながら、落とし穴に巨岩が落ちた。
「うぅっ…」
アルマが頭を押さえてふらついている。
魔力不足のようだ。あれだけの魔法を使えば当然か。
ジェットボアは逃げられずに潰されたようだ――
が
ビキッ ビキビキッ
巨岩に亀裂が走る。
…まあ、予想してなかったわけじゃない。
奴のステータス画面はまだ青いままだしな。
バガァンッ! と音を立てながら、巨岩を砕き、穴からジェットボアが飛び出してきた。
アレを喰らっても死なないのかよ。【気功纏】と【轟突進】を使って辛うじて脱出したみたいだな。
だがさすがに無傷では済まなかったようだ。前足と後ろ脚が一本ずつ骨折、肋骨も破損し、いくつか内臓にもダメージがあるとステータスに表示されている。
それでもまだHPは半分近く残っている。まだ死には至らない。
さて、傷ついたその体で、これに対応できるかな?
ジェットボアの後方、…要するに尻に向かって、アイテム画面に入れておいた着火済みの火蝦蟇の油を飛ばす。
火が付いたままでも入るのはちょっと意外だった。他のアイテムが焦げたりしないのかな?
『ブグゥッ…!』
血反吐を吐きながら、迫ってくる炎を辛うじて回避した。
折れた足で、傷付いた身体でなおこの俊足。やっぱりそう簡単にはこいつは倒せそうにないな。
だが、避けた直後にこれをどう捌く!
ギュンッ! と奴に向かって低空高速飛行。
飛行の勢いを、魔力パイルバンカーの一撃に乗せる!
さらにパイルの杭は魔力を固めたものではなく、アルマから借りたミスリル刃の剣だ! これでも防ぎきれるか!
ダァンッ! ドスッ!!
避けた直後の硬直の隙を突かれ、回避も防御も間に合わなかったようだ。
ミスリル刃の剣が、ジェットボアの頭部に深々と突き刺さり、脳を貫いた。
や、やっと決着か。こいつは紛れもない強敵だった。
しかし、タフなやつだったな。まさかあの巨岩の下敷きにされてもステータスが赤くならないとは
!?
なっ
『ブフゥゥゥッ……! ブウウゥゥウウゴオオアアアアアア!!!』
ありえない。
脳を貫かれたはずのジェットボアが、咆哮を上げた。
ステータスを見ると、HPがまだ100程度残っている。
状態に脳裂傷が追加されているが、まだ死には至っていない。いやそこは生物として死んどけよ! タフすぎるだろ!
頭に刺さった剣を掴んだままブンブン振り回される俺。あばばば! 目が回りそう。
どうすんだよ、コイツ。
どうやったら死ぬんだよ、コイツ。
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