腰が利かん そして帰還
あの悪の秘密結社の幹部みたいなヤツに飛ばされた後、アルマと再会するまでの間に俺は迷路のような場所に飛ばされていた。
パラレシアでも地球でもない、異世界。その中でもさらに特殊な場所にいたらしい。
転移直後、アルマがどこにもいなくて半ばパニックに陥りそうになりながらあたりを探していたが、結局あの生物兵器ことエイリアンもどきしか見つからなかった。
冷静になってからマップ画面を確認すると、どうにも『同じ世界なのに時空が違う』場所にいるらしく、ファストトラベルで合流することができなかった。
再会するためにはアルマと同じ時空へ飛ぶ必要がある。
で、その方法がこの迷路というかダンジョンの最深部へ行けば、繋がりの強い空間があるからそこを無理やりこじ開けてアルマのいる時空へ行くことができる、とメニューは結論付けた。
この世界にも、パラレシアでいう『ステータス』に該当する『プロフィール』という概念が存在するらしい。
自分のプロフィールをメニューで確認してみると、見慣れない項目が目に映った。
名前:梶川 光流
種族:人間
年齢:26
性別:男
職業:■■■■
職業レベル■
職業能力値:0
取得技能
■■■■
出身地:N/A(該当無し)
うん、まあ想定内。
パラレシアでも最初は赤ん坊以下のゴミステータスだったし、始めのうちはなんの恩恵も得られないのは予想できたことだ。
メニューいわく『自分よりも能力値やレベルの高い対象を殺害することで、プロフィールを強化できる』と言っていたし、レベリングの仕方はパラレシアと大差ない。
要は強くなりたきゃ獲物を狩ればいい。それだけだ。
……もう充分強くなった気だったが、ここは異世界。
もしかしたら、今の俺ですらこの世界では雑魚でしかない、なんてことも充分あり得る話だ。
現に、奥のほうでパラレシアの魔王の最終形態に匹敵するほどの力を感じる。多分、こいつがこのダンジョンのボスだろう。
幸い、このダンジョンでもメニューは使えるし、レベリングするための獲物には困らなさそうだし、力を蓄えつつ進もう。とか考えながら先へ進んでいった。
あと、なぜかエイリアンもついてきた。
行くあてがなくて困った様子で、置いていくのも気が引けたので渋々同行を許すことに。
まあ、こいつのキルログを見る限りじゃ人間は一人も殺していないみたいだし、きちんと言い聞かせておけば人間の敵になったりしないように調教できるだろう。
実際、『一人でも殺した時点で駆除対象になるぞ、死にたくなかったら人間は殺すな』って脅したらものすごい勢いで首を縦に振ってたし。……リアクションが人間臭いなコイツ。
道中で出てきたのは、日本に集団で転移してきた悪魔もどきどもが主だった。
どいつもこいつもあの時よりも大幅に強化されていて、大体1~3万程度の能力値を誇るバケモン揃いだ。
まあ、気力強化を使った俺からすればエサでしかないんだけどね。
初日でダンジョンの折り返し地点にまで到達した。
このペースなら、二日目には最深部まで辿り着けるだろう。
二日も待たせてしまって大丈夫かなーとか暢気なことを考えていたが、メニューからとんでもない情報を伝えられた。
アルマのいる場所とこのダンジョンは時間の進み方が違って、向こうの世界はどうやらこちらの十倍近い速さで時間が経過しているらしい。
つまり、現時点でアルマからしたら既に十日近く経っているということだ。
……アカン、悠長に進んでいたらとんでもないことになる、さっさと攻略しないと。と血の気が引く思いだった。
道中の悪魔もどきどもを蹴散らすたびに、どんどん自分が強くなっていくのが実感できた。
元のステータスがショボく感じられるほどに、アホみたいなペースで能力値が上がっていく。
……ちょっとこのダンジョン、レベリングがお手軽過ぎませんかね。
最深部に辿り着いた時点で既に、俺は桁違いの強さにまで成長していた。
名前:梶川 光流
種族:人間
年齢:26
性別:男
職業:■■■■
職業レベル■
職業能力値:23665
取得技能
■■■■
出身地:N/A(該当無し)
パラレシアのステータス能力値が8000ちょっとで、それに対してこの世界の能力値がおよそ23000。
しかもどうやらそのまま加算されているらしく、実質三万を超える能力値にまで成長しているということだ。
しかも普通にこっち側の能力値も気力強化できるという始末。
……ここまで強くなれば、魔王の最終形態だろうが鼻歌まじりにボコれるな。インフレが酷すぎる。
で、最深部に到達すると『魔帝・サタン』と名乗る筋肉質で緑色のハゲが喧嘩を売ってきた。
かつて世界を支配した王だとか強大すぎる力を恐れられてこのダンジョンに封印されたとか聞いてもないのにベラベラと喋ってきて非常に鬱陶しい。
『この魔帝の無聊の慰めとなれることを誇りに思いながら息絶えるがいい!! ――――――オグッヴォヘァっ!!?』
とかイキりながら襲いかかってきたのを気力強化グーパンで処理。どういう悲鳴だ。
んー、魔王と違って回復魔法とかも使えないみたいだし、ぶっちゃけ弱い。拍子抜けもいいとこだ。
その後、自称魔帝を地面に叩きつけてから身体中をフミフミしていると、魔帝の周囲の空間が割れた。
そのまま割れた空間に魔帝が飲み込まれたかと思ったら、すぐに割れた空間が元通りに塞がった。
どうやら向こう側、つまりアルマたちがいる世界への道が一時的に開いて、そこに逃げ込んだらしい。
もっかい開けないかなーとか思いながら、日本で悪魔もどきたちを追い返した後に空間を魔力で無理やり繋ぎ合わせた要領で、逆にこじ開けられないか試してみた。
結果、割とあっさり開いた。どうやらここは時空同士の繋がりが強い場所のようで、比較的容易に空間を開けることができるようだ。
で、逃げた魔帝を追ってダンジョンから向こう側の世界に渡ると、アルマの姿が見えた。
現時点で既に二十日近く待たせてしまっているので、とりあえずジャンピング土下座で謝罪。
ようやく再会することができた。
その後は、まあアルマの知ってる通りだ。
記憶喪失に陥っているのは正直予想外だったが、特に大きな問題もなくてなにより。
……俺と離れ離れになっている間に他の男と一緒に行動していたことに思うところはあるが、一線は越えていないみたいなのでセーフ。
魔帝をブチ殺して、それを取り込んだ魔王を現地の勇者ことウルハ君に討伐させて、アルマを引き留めようと覚悟を決めたウルハ君を殴り飛ばして、こっち側の世界のゴタゴタにはケリがついた。
……あとは、アルマの記憶を取り戻すだけなんだが、その方法が……。
メニューいわく、俺との接触がきっかけで徐々に記憶を取り戻しつつはあるらしい。
しばらく二人きりで過ごしていればいずれ元通りになる見込みらしいが、それだと完全回復まで早くても一ヶ月はかかるとかなんとか。
もう少し早くならないかと聞いてみたが、一応方法はあった。あったんだが……。
俺との接触がきっかけだから、より強く接触すれば急速に回復して下手すりゃ一晩で完全に記憶を取り戻すこともできる見込みらしい。
『治療』のため、21階層にある休憩所っぽい部屋で一晩過ごしてから帰るとしよう。
……治療の内容を言うのも無粋なので、その方法は各々勝手に想像していただきたい。
とんだトラブルもあったが、異なる世界の力を得ることができたので収支で言えば大幅にプラスという結果に終わった。
21階層を経由して日本に戻ればほぼノータイムで帰還できるし、日本にいるであろうネオラ君たちを長期間放置することもないはずだ。
「やれやれ、とんだ長期旅行になっちまったな」
「……でも、すごく有意義な時間だった」
俺に御姫様抱っこされながら、満足そうな顔でアルマが相槌を打つ。
え、なんで抱っこしてるかって? 腰に力が入らなくて歩けないとかなんとか。察しろ。
「そうか、ウルハ君はどんな男だった?」
「頑張り屋で、我慢強くて、格好良かった」
「……俺よりも?」
「うん」
「ごふっ……!」
グサッとアルマの口撃が胸に突き刺さって、思わず崩れ落ちそうになるのを辛うじて耐えた。
う、うぐぐ、アルマにそこまで言わせるとは……!
……もう2~3発殴っておけばよかったかな……。
「勘違いしないで。私が一番好きなのはヒカル。格好いいところだけじゃなくて、頼りないところも、優しいところも、怖いところも、全部全部好き」
「……そう言うのは反則でしょ」
アルマが笑顔で言うと、破壊されそうになった脳が急速に回復していくような感覚を覚えた。
……舌先三寸で俺を翻弄するとは、アルマ恐るべしである。一生カカア天下になりそう。
さて、治療も心の整理も済んだし、さっさと日本へ戻るとするか。
日本へ通じる扉を開いて、その先を見ると―――――
『コッケェェェェエエエエッ!!!』
『ゴッギャァァァアアアアッ!!!』
……ビルよりもデカいニワトリと、特撮に出てそうな怪獣が雄叫びを上げながら海上で殴り合っている光景が目に映った。
「……ここは誰? 俺はどこ?」
「ヒカル、現実を見て。あと逆」
……もうなにもかも忘れたい気分だ。
というか、なにが起こっているんだアレは……。
お読みいただきありがとうございます。
ちなみに、最終的に二人のプロフィールはこんな感じ。
魔王討伐のお手伝いと、魔帝をブチ殺した分の能力値加算によりなんだかよく分からない値に。
名前:アルマティナ
種族:人間
年齢:17
性別:女
職業:■■■■
職業レベル■
職業能力値:12901
取得技能
■■■■
出身地:N/A(該当無し)
名前:梶川 光流
種族:人間
年齢:26
性別:男
職業:■■■■
職業レベル■
職業能力値:32001
取得技能
■■■■
出身地:N/A(該当無し)




