打倒赤イノシシに向けて
今回ちょっと短いです。
ジェットボアにやられてから丸一日が経った。
その間に村の人達に今後の対策のための準備や段取りを伝えて、現在人員の割り振りの真っ最中です。
あれから魔獣たちの侵入はないが、恐らくジェットボアの傷が癒えるまで休んでいるだけだろう。
ジェットボアが回復したら、また作物を食べに村に入ってくるはずだ。
その前に打てる手は打っておこう。
まず、ギルドへの助力要請。
いきなり他力本願だけど、冒険者が俺たち二人だけってのはやっぱちとキツい。
というか確実にジェットボアを仕留めたいならもっと上位のランクの人間に頼むべきだろう。あの赤イノシシ明らかに俺らより格上だし。
俺が魔力飛行で飛んで移動すれば、目立たないように遠回りしてもダイジェルまでそれほど時間はかからない。
で、ギルドに助力を要請した後の返答だが。
応援は寄越せません、つーかジェットボアがいるとか依頼に書いてないから正確なランク付けができてないやろ。
一応、依頼を受けた二人は依頼を継続してもいいけど、新たに募集かけるならちゃんとした情報寄越してからにしろや。(意訳)
という回答がきた。無慈悲。
まあ、そもそもスタンピードが去ってからダイジェルに滞在している冒険者たちの数が減ってて、こっちにまで手が回らないというのも理由の一つとしてあるんだが。
魔獣森林が元の状態に戻るまであと2、3ヶ月はかかるらしいし、それまで他の街で稼ぐ人間も多いみたいだ。
宿の女将さんも泊まる人が少なくなって、収入が減ったと愚痴っていたな。それでも月にウン十万から100万近く稼いでるらしいが。…話が脱線したな。
というわけで、ギルドからの支援は期待できず。今ある戦力で状況を打開しなければならない。
…どうしようか。
手持ちのアイテムで、一応奴らに対して効果てきめんな物があるんだが、コレ、あんまり使いたくないんだよなー…。
でも、そもそもこの騒ぎを収めないとコレをどうこうすることもできないし、やむを得ないか、くそー。
なんとしても群れのボス、ジェットボアを仕留めなければならない。強力なステータスを誇るアイツを討伐するには相応の対策が必要だ。
村の戦闘職の人たちはもちろん、非力な生産職の人たちも魔獣対策のために懸命に働いている。
中には大人たちの手伝いを精一杯頑張っている子供たちの姿も見える。騒ぎが収まったら、ご褒美をあげよう。
ジェットボアだけでも討伐できれば、あとは消化試合だ。ラッシュボアくらいなら時間をかければ平時くらいまで数を減らすこともなんとかできるだろう。
しっかし、この村の人たちの団結力はすごいな。誰も嫌な顔一つせずに働いている。決して楽な仕事じゃないだろうに。
「おーい、カジカワさん、もう少し掘った方がいいかなー?」
俺の指示で作業を進めている村人から声をかけられた。
重労働を続けているので皆汗だくだ。
「あ、はーい。そうですね、あともう1mぐらいお願いします」
「うひゃー、そりゃきついな。けどまあもうひと踏ん張りだな。みんな、腰痛めんなよー」
俺なんかを信じて、皆こんなに頑張ってくれてるんだ。絶対に、あの赤イノシシだけでも仕留めてやる。
…ところであいつの肉って美味いんだろうか。今からメニューを考えて…っていかん、獲らぬ狸のなんとやら。今からそんなこと考えてるとフラグになるぞ、ちょっとは食い気を抑えろ俺。
食い気と言えば、あいつらイノシシ魔獣も食べるために村に侵入してるだけで、他には特に悪意も何もないみたいなんだよな。そう考えると、魔獣も地球の動物とそう変わらないように思える。魔獣と言っても邪悪な存在とは限らないんだ。
だが、立場が違えば目的も違う。イノシシ共はその野菜を糧に生きるために、村の人たちは育てた野菜を売って収入を得るために、俺とアルマは双方の騒ぎを村人側に立って解決して報酬を得るために。
この対立に和解はあり得ない。相手に譲れば身の破滅が待っているから。
…難しいこと考えても仕方ない。俺は俺の立場で仕事をこなそう。下手に魔獣に同情でもしてしくじりたくないし。
二日かけて、ようやく準備を整えることができた。あとは魔獣の侵入を待つのみ。
準備と言っても魔獣用の、というかあの赤イノシシ用の罠を村の広場に作ってもらっただけなんだけど、シンプルな作業ながらとにかく人手と時間が必要だった。
で、作ってもらった罠の近くには、簡易コンロとフライパンを準備。
いや、別に罠にはめた後そのまま美味しく頂くとかそういうつもりじゃなくてね? これも罠の一部というかなんというか。
真面目にやってるつもりなんだが、罠の近くにキッチンがある一見意味不明な光景を見るとなんだかとってもシュールな気分。
…自分で用意させておいてなんだが、コレ本当に大丈夫か? 駄目だったら皆にリンチされても文句言えんぞ?
「カジカワさん、罠仕掛けるのはいいけど、ホントに上手く引っかかってくれるかねぇ? 怪しまれて近付かないんじゃねぇのかい?」
「手持ちの道具でおびき寄せる予定です。上手くいくかは正直分かりませんが、何もしないよりずっと討伐できる見込みはあると思いますよ」
村人からも不安の声が寄せられてる。まあこんなシュールな罠見たら当然そう思うよな。
でも俺の頭じゃこれぐらいが限界です。他に良さげな意見も出てこなかったし、上手くいかなかったらその時はその時だ。
もうこれで駄目ならギルマスでも無理やり引っ張ってきて指示を出してもらおうかな。働き過ぎて胃潰瘍になるかもしれんが。
罠の様子を眺めていると、見張りの村人が急ぎ足でこちらに向かってきた。
「カジカワさーん! 魔獣たちが村に入ってきたぞー!!」
「数は20匹くらいで、あの赤い奴もいる!」
…来たか。
さて、それじゃあこっちも罠を起動しますかね。
コンロに着火しながら、頭の中でこれからの戦いの流れを思い描く。
今度は上手くいくといいが。
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