異世界アルマ 9話 相対的にすごく優しかった
ごめんなさい、やっぱあと5~10話くらいかかりそうです(;´Д`)
「魔王が代替わりして、いつどこから魔族の襲撃があるかも分からないような状況なのに一人きりで出奔するなんてあなたはなにを考えているんですの!?」
「……ごめん……弱い僕なんかが勇者に選ばれて、皆のピリピリした視線に耐えられなくなって、逃げ出したんだ……」
「弱いことが分かっているのならば、一人で旅に出ることがどれだけ危険なことなのか分かってるでしょう!? ここまで生きていられたのはもはや奇跡と言ってもいいですわ!」
ギルドの床に正座させられて、セリスに説教されている僕。
なんとも情けない有様だと我ながら情けなくなってくるけれど、自業自得だ。
僕は、侮蔑の視線を向けてくる村人たちからも、才能に恵まれない僕を支えてくれた両親からも、文句を言いつつも稽古をつけてくれた彼女からも、全部から逃げたんだから。
「才能もない、体格も恵まれていない、気も弱い。そんなあなたの唯一の美点が苦痛から逃げないことだったというのに、それすら失くしてしまったのですね。呆れてものも言えませんわ」
「返す言葉もないよ。……本当に、ごめん」
「許しません。村に帰ったら、これから毎日特訓ですわ。勇者になったというのであれば多少は成長が早くなったのでしょうし、転職できるまで我が家に監禁して地獄の日々を送らせて差し上げますわ」
「うっ……!」
「まず毎日素振り二千回の後に、わたくしと木刀を使った稽古で骨が折れそうになるほど叩きのめすのを気絶するまで続けます。さらに同格以上の魔物と一対一での実戦訓練も行いますわ。ああ、危なくなったら助けて差し上げますから、精々死なないように気を付けてくださいませ」
「……えっ?」
……あれ、おかしいな。
なんだ今の言葉の違和感は。
「う、うわぁ……あの嬢ちゃん、キツそうな見た目通り、鬼みてぇに厳しいこと言ってやがる……」
「素振り二千回もした後に稽古なんてできるわけねぇだろ」
「しかも同格の魔物とサシでって、下手したら殺されちまうぞ……!?」
な、なんで皆驚いているんだろう……。
あの程度、まったく死ぬようなことないだろうに。
「駄目。あなたに、ウルハは預けられない」
「……あら、あなたは誰ですの?」
セリスの言葉に困惑していると、アルマが割って入ってきた。
「け、剣帝どの、その少女が例のバナナ剣士です」
「あなたには聞いてませんわギルドマスター。……ふぅん、あなたがガダンをバナナ一本で倒したという剣士ですのね」
アルマの顔をまじまじと見つめるセリス。
目を細めて不機嫌そうにアルマに向かって口を開いた。
「彼と共に活動しているようですが、彼とはどういった関係ですの?」
「ウルハは行き倒れて記憶を失くした私を助けてくれた。そのお礼を返すために一緒にいる」
「ふぅん。それで、わたくしにはウルハを預けられないとはどういう意味ですの?」
「鍛錬の内容が酷すぎる。そんなことをしても、ウルハは強くなれない」
「ふん、ウルハと共にいたのであれば、彼の才能の無さは分かっているはずでしょう? 生半可な鍛錬では勇者の職業を得ようとも、強くなることなどできませんわ。このままでは自衛もできず、勇者の恩恵を受けたことへの嫉妬に狂った輩になにをされるか分かったものではありませんわ」
……?
あれ? もしかして、セリスは怒っているとかじゃなくて、真剣に僕を鍛えようとしてくれているだけなのかな。
てっきり、逃げた僕を折檻するために追いかけてきたのかと思っていたのに。
「だから、そう言ってる。ウルハには才能がない。だから、普通の鍛錬じゃ駄目」
「? なにを、言っていますの……?」
「そんな生温い鍛錬じゃ意味がない、って言ってる」
「……はい?」
……ああ、うん。僕が感じてた違和感の正体が分かった。
素振り二千回とか骨が折れそうになるまで、気絶するまで稽古するとか言ってたけど、それじゃあ地獄とは言えないもの。
「たかが二千回程度の素振りじゃ正しい姿勢は身に着かない。その三倍は必要」
「え?」
「骨が折れそうになるほど打ち込むって言ってたけど、なんで折らないの。下手に手加減なんかしたら、実戦でも半端な痛みだけで済むと勘違いして大怪我しかねない。後で回復すれば済む話だし、遠慮なく折ればいい」
「あ、あの……?」
「気絶するまで続けるって言ってたけど、気絶すれば終わりじゃ駄目。何度でも叩き起こして立ち上がらせないと、窮地に追い込まれた時にすぐに諦める。弱音を吐こうが泣き叫ぼうが容赦なく続けるべき」
「う、ウルハ! あなたこれまでこの女になにをされてきたんですの!?」
あまりに酷く、残酷ささえ感じさせる物言いに、セリスがドン引きしながら顔を引き攣らせている。
……うん。セリスってものすごく優しかったんだって、アルマとの鍛錬を受けているとしみじみと感じていたなぁハハハ……。
「ひ、ひでぇ……人の所業じゃねぇ……」
「おい勇者君! お前マジで無理はやめとけ! 死ぬぞ!」
「……もしかしてズタボロになって帰ってきてたのは、魔物じゃなくてあの嬢ちゃんにやられてたからなのか……?」
周りの人たちも、僕に向かって同情の目を向けながら騒いでいる。
ま、まあ確かにつらい鍛錬ではあるけど、そのおかげで強くなれたわけだし。
「あ、あなた! ウルハになんという仕打ちをしていたのですか! それでも人間ですの!?」
「別に無理に続けさせたつもりはない。嫌ならいつでもやめればいいとも言っておいた。でもウルハは『もっと厳しくしてくれ』と言って、より強くなろうとやる気を出し続けた」
「なっ……!?」
「ま、マジかよ!?」
「ナヨナヨした見た目の割にマゾっ気が強すぎるだろ……」
「変態だ、変態がおるでぇ……!」
変態じゃないよ! 人聞きの悪い!
……いや、はたから見ていると、僕って変態に見えるのかな? なんだかすごくショックだ……!
それを聞いたセリスが、怒りはどこへ消えたのやら憐れみを籠めた目で僕を見ながら腕をとってアルマから引き離した。
「な、なんてことですの……! 未熟だの無能など罵られ続けた挙句に勇者などと言われ追いつめられてしまって、心が壊れてしまったのですね……!!」
「壊れてないよ!? 強くなろうと必死なだけなんだってば! ……いや、まあ、ちょっと無茶しすぎかなとは思うけどさ」
「ちょっとじゃありませんわ! こんなサディスト女にウルハは預けられません! 今すぐ帰りましょう!」
「駄目、あなたじゃ優しすぎる。ウルハが心配なのは分かるけど、強くするためにはもっと厳しくあたらないといけない」
「あなたが厳しすぎるんですわ! いくらなんでも限度っていうものがあるでしょうが!」
「ちょ、いたいいたい! 引っ張らないで!」
僕を取り合うように、セリスとアルマが腕を互いに引き寄せようとしてくる。
いや、ホントに痛い! 僕の身体で綱引きをするのはやめてほしいんだけど!
「……可愛い女の子二人に言い寄られてるのに、全然羨ましくねぇのはなんでだろうな」
「てか放っておいていいのか? あのままじゃ腕がもげそうなんだが」
冷静に見てないで早く止めて!
ちょ、もげる! ホントにもげそうだから離してくれぇぇ……!!
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「魔神器は集まったのか?」
「は、はい……あとは、人族領にある『天叢雲剣』さえ回収できれば、揃うはずです」
「早急に回収せよ。手段は問うな、邪魔するものがいれば容赦なく殺して構わぬ」
「し、しかし、人族とはできる限り不干渉がでいるべきかと。もしも刺激しすぎて勇者が派遣されたりすれば……」
「聞こえなかったか? 手段は問うなと言ったのだ。それとも、貴様も先代のように喰らい尽くしてやろうか」
「ひっ……! し、失礼いたしました……!!」
「分かったらさっさと下がれ! グズグズしていると、貴様らから皆殺しにしてやるぞ!」
「は、はいぃ……!」
「クククッ、待っていろ化け物どもめ。魔王を取り込んだ私がさらに魔帝の力を得ることができれば、貴様ら二人を屠った後に日本を、いや世界をも我が手中に収めてくれる……!!」
お読みいただきありがとうございます。




