ひとりじゃない
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ふと、目が覚めた。
知らな、いや知ってる天井だ。いつもの貸家の天井。
…あれ? ジェットボアは? なんで俺寝てたの?
「うぅん……いって!?」
欠伸をしながら背を伸ばすと、急に腹部に鈍痛が走った。
あー、そういえばジェットボアの突進モロに喰らって、意識を失ったんだっけ。
「ひ、ヒカル! 目が覚めた…!?」
「いてて……あ、うん。おはよう」
「…良かった、思ったより元気そう…」
泣きそうな顔をしながら、アルマが話しかけてきた。
そういえば、今までまともにダメージを受けたことってなかったな。いや、コボルトと仲良く落ちて尻打った時とかゴブリンにわき腹殴られた時は別として。
「頭から血を流してる赤い魔獣が、ふらつきながら村の外に逃げていくのが見えて、追いかけようとした時にヒカルが地面に倒れるのが見えて、本当にビックリした…」
「あー、ちょっとその赤い奴にやられてね。突進をもろに受けた時に気絶しちまったみたいだ」
「あれから半日くらい経ってる。大きな怪我なんかはしてないみたいだけど、どこか痛む?」
そういえば、さっきから腹がズキズキするけど骨とか内臓とか大丈夫かな。
ステータス確認。
梶川 光流
状態:正常(軽傷:腹部打撲傷)
HP(生命力) :0/200
…良かった、特に大事にはなってないみたいだな。HP減ったままだけど。
≪睡眠による生命力の回復は、最低1以上HPが残っていなければ不可能≫
さっさと回復ポーション飲んでHPと打撲傷治すか。腹痛いし。
「ちょっと腹が痛いけど、ただの打撲傷みたいだ。ポーション飲めば大丈夫だよ」
「良かった…」
アイテム画面から回復ポーションを取り出して、少しずつ飲んでいく。
んー、不味くはないけど美味くもないな。まあ原料薬草とかだしなー。
んん? 体中にナニカが行き渡っていくような感覚が…これがHP、生命力ってやつか?
MPとはまた違った感じだな。なんつーか、水と油のように混じり合わないけど、どっちも確かに体中に流れているのが分かる。
HPがゼロになって初めて生命力を感じられるようになるとか、なんか死のリスクを乗り越えた修行者みてーだな。そんな上等なもんじゃないだろうけど。
梶川 光流
状態:正常(軽傷:腹部打撲)
HP(生命力) :100/200
…あれ? HP回復したのは分かったけど、腹が痛いままなんですけど。
骨折とかしてない限り、飲んだらすぐ回復するもんじゃないの?
≪梶川光流の場合、ステータス表示におけるHPは元の肉体とは別の判定のため、HPを回復させただけでは肉体のダメージは回復しない≫
な、なんだと!?
マジか。ここにきて二つのコトワリを持ってるが故のマイナス面が見えてしまうとは。今まで都合のいいことばっかりだったのになぁ。
じゃあ、怪我したら自然に治癒するのを待つしかないのか? うーわー。
いや、ちょっと待てよ? こちらの世界の人たちはHPと肉体の状態が連動してるから、HPを回復させたらそのまま肉体も回復するってことでいいんだよな?
≪肯定≫
んー、ならHPを俺の肉体に連動させれば回復できるんじゃね?
生命力ならさっき回復した時に感じとることができた。魔力操作の応用で、生命力の直接操作とかできないかな…あ、普通に動かせるわこれ。あっさりやね。
で、その生命力を打撲を負ったところに集中させてみるか。…それだけじゃ回復しないっぽいな。
なら生命力を使って傷を治すイメージをしてみるか。どんな風に治すかは…どうしよう、上手くイメージできる気がしない。もう体の遺伝子っていう設計図通りに適当に治してもらうようにできないかな。
って、お、おおお? みるみる痛みが引いていく。よし、なんか分からんがとにかくよし! 我ながらなんてアバウトな解決法だ!
梶川 光流
状態:正常
HP(生命力) :70/200
傷を治した分、生命力が減ってるけど状態が完全に正常に戻ったな。HPが減って傷が治るってなんかおかしい気がするけど。
「ふ、ふふふ…」
「ひ、ヒカル、具合が悪いならまだ寝てた方が…」
怪我の功名で、新たな技を習得して思わず笑みがこぼれた俺に、顔を引きつらせながらアルマが話しかけてきた。
「あ、いや大丈夫です。お願いですからその不審者を見るような目はやめてください」
「いきなり笑いだして、どうしたの…?」
「なに、今回、生命力がゼロになるようなダメージを受けてからポーションを飲んだら、自分の生命力を認識できるようになったみたいなんだ」
「…え」
「で、その生命力を操作して自分の怪我を治したりできるようになった。他にも何ができるか今後試してみようかと」
「ヒカル、ちょっと待って」
いきなり食い気味に話しかけられた。
その表情は、厳しく、それでいて今にも泣きだしそうな、そんな顔だ。
「生命力がゼロになったって、どういうこと」
「え、ええと、さっきも言ったけど、あの赤毛の魔獣と戦った時に、モロに突進を受けちまってな。その時に生命力を全部削られて、気絶してしまったみたいなんだ」
「…生命力がなくなったら、普通は死んじゃうよ」
「ああ、大丈夫。俺は別の世界のコトワリも持ってるって、鑑定師の人も言ってたろ? こっちの世界の生命力が無くなっても死んだりしないよ」
「…大丈夫、じゃない。全然、大丈夫じゃない…!」
アルマは、そう言って、涙を流しながら俺の顔を真っ直ぐ見つめている。
「ヒカル、お願いだから、ひとりで無茶するのは、やめて。あなたが、傷つくのは嫌だし、万が一死んじゃったりしたら、わた、し…! うぅ、ふ、えぇっ………!」
とうとう、本格的に泣き出してしまった。
…いかん、罪悪感のせいで、胸が滅茶苦茶痛い。腹の打撲傷の比じゃないくらいに。
「…ごめん、アルマ。心配かけちまったな」
「…ひっく、…うぅ……」
「俺も一人でなんとかしようとする前に、まず誰かに助けを求めるべきだった。アイツ、今まで見てきた魔獣の中で一番強いかもしれない。本当なら、まだ俺たちが戦えるような相手じゃないかもしれない」
「……」
「でも、あいつを放っておけば、村への被害が収まらない。きっとまた群れを率いて村にやってくると思う。ここの人たちともこの数日で結構仲良くなっちまったし、見捨てるのはちょっとな」
「…うん」
この5日間、滞在している間に魔獣に襲われて被害が出ているだろうに、貴重な食料を分けてくれたり、騒ぎが収まったら畑を貸してくれないかと言ったら、全然いいぞ、むしろ余った土地を活用してくれるなら大歓迎だと言ってくれたり、この村の人たちの心の温かさに触れて、なんとしても魔獣騒ぎを解決したいと思うようになった。
強敵が現れたからと言って、尻尾巻いて逃げるようなことはしたくない。
「今度は、一人で無茶したりはナシだ。…アルマ、力を貸してくれるか?」
「…当たり前。…ぐすっ……いくらでも、力になる」
まだ赤く泣き腫らした目で、それでも強い眼差しで言葉を返してくれた。
…うん、パーティなんだし、やっぱり協力するのは大事だよな。
なんでもかんでも抱え込むのは、向こうでの悪い癖だ。頼るべき時には、迷わず力を貸してもらおう。そして、それ以上にこちらも相手の助けになろう。
で、綺麗にまとまったところで、どうすっかなー。
アイツ、能力値がアホみたいに高いし、特にあの素早さはヤバい。近距離で突進スキルを使われると回避できないくらい速い。
攻撃力はこっちのHPを一発でゼロにするくらい強力。もしもアレをアルマが受けていたらと思うとゾッとする。多分、死んでたんじゃなかろうか。…絶対に、攻撃を受けさせないようにしよう。
おまけに防御力は半端な遠距離攻撃くらいなら簡単に弾くし、近距離でパイルバンカーぶっ放したらパイルの方が砕ける始末。スキルによる能力値補正があったとはいえ、アレはないわー。さすがに向こうもノーダメージじゃ済まなかったみたいだが。
まともにやりあおうとした時点でこっちの負け。搦め手前提でいかないとお話になりませぬ。
手持ちの道具で、なにかあいつに使えそうなもんがあったっけ?
お読み頂きありがとうございます。
メインタイトル指定するとサブタイまでそれに連動するのなんとかならないのかな…




