成長、そして悪化。
因みにキャラの名前はキーボードを適当にガチャって出た文字を組み替えたりして決めてます。
アルマティナの名前はちょっと難産でした。
森の中をしばらく進むと、みっしり茂っていた木々が段々とまばらになってきた。
さらに先に進むと、文字と森の方向に矢印の書かれた看板が見えた。
驚いたことに文字が読める。
異世界の言語で書かれているのに、まるで日本語を読むかのように。
ご都合主義もここまでくると逆に不安になってくるわ。
『→危険区域・魔獣森林グルオーズ 許可がない者は近寄らないこと』
危険区域? 俺そんなとこにいたの?
魔獣森林って、名前からして足を踏み入れた人殺す気満々じゃないですかーやだー。
「あの矢印と逆の方向に、街道がある。道に沿って進めばすぐ街に辿り着ける」
「や、やっと森を抜けた。運動不足の身には応えるよホント」
「戦闘職なのに、運動不足? 風邪でもひいて療養してたの?」
戦闘職じゃないです。多分。そもそも判定不能らしいです。
「いや、だから俺は…。分からないんだ」
「?…何が?」
「自分の、職業が」
自分で言っといてなんだけど、それってニートじゃね?
ほら、アルマも「何言ってんだコイツ」みたいな雰囲気出してるし。
表情あんま変わってないけど。
「どう見ても成人してるように見えるけど、貴方、いくつ?」
「…25だ」
「職業は、誰でも成人した時に決まるもの。貴方にも職業があるはず。言いたくないの?」
「いや、そんなつもりじゃなくて本当に分からないんだ」
「…そう。誰にも、事情はあるものだから。無理に聞いて、ごめんなさい」
なんか変に気を使われてしまった。どんな職業だと思われたんだ…。
ん?成人した時に職業が決まる?
アルマ、16歳って表示されてたような…。
≪この世界では年齢が15歳に達した時点で成人と認められ、所持スキル、及び本人の希望に応じて職業が決定される≫
アッハイ。そうですか。
今、ちょっと疑問に思っただけで自動的に解説画面が出てきたんだけど、異世界に来たばかりの人に対するチュートリアル機能かなんかだろうか。
急に表示されるからちょっとびっくりしたわ。
街道は、森の中の道なき道と比べると進むのがとても楽に感じられた。
平らな道を進めるのがこんなにありがたく感じられるとは。もうあの森行きたくない。…森の中の道が平らになっても行きたくない。
道なりにしばらく進んでいると、塀に囲まれた場所が見えてきた。
あれが最寄りの街だろう。
「見えてきた。あれが私が住んでる街、【ダイジェル】」
「おお~! やっと街が見えた!」
塀で囲まれてるから中が見えないのが残念。魔獣対策かな。
門の目の前まで辿り着くと、鎧を着た兵士が近付いてきた。
別になんかやましいことしたわけじゃないのに、なんとなく緊張するなぁ。
あれだ、警察に職務質問される時の感覚に近い。
「おお、アルマティナ。無事に戻ってきたか」
「うん、特に怪我もない」
「そうか、良かった。ところでそちらの男性は?」
こちらに顔を向けながら問いかけてきた。
落ち着け俺。普通にありのまま正直に話せばいいんだ。
「梶川光流と申します。森の中で、ゴブリンの群れに囲まれているところをアルマティナさんに助けていただきまして、行くあてがないので街まで案内していただいた次第です」
「森の中? 魔獣森林に足を踏み入れたのか!? あそこは危険区域だぞ!」
「それが、夜に目を覚ました時にいつの間にか森の中におりまして」
「捨てられでもしたのか? お前、いったいどこから来たんだ?」
「日本、というところで暮らしていました。ここから近いのか、遠いのかすら分かりません」
「ニホン…聞いたことがないな。少しここで待っていなさい」
そう言って、詰め所に戻っていった。
自分で言っといてなんだけど、怪しいよなー。
言ってることが全部本当でも正体不明なのには変わりないし。
「敬語、話せたんだ」
「…君は俺をなんだと思ってるのかな? 敬語くらい子供でも話せるだろ」
「ごめん、なんかイメージと違うから」
俺のイメージって、ゴブリンに囲まれて助けを求めて叫んだり、かと思ったらキレてゴブリンを棍棒で撲殺したりする感じか? ろくなもんじゃねぇ!
そんなことを思っていると、
先程の兵士が誰かを連れてこちらに向かってきている。
モノクルをかけた、白髪の初老の男だ。学者か何かか?
ちょっとステータス確認。
フィルスダイム
年齢:61
種族:人間
職業:鑑定師
状態:正常
【能力値】
HP(生命力) :30/30
MP(魔力) :30/30
SP(スタミナ):30/30
STR(筋力) :58
ATK(攻撃力):29
DEF(防御力):30
AGI(素早さ):50
INT(知能) :213
DEX(器用さ):129
PER(感知) :70
RES(抵抗値):20
LUK(幸運値):98
【スキル】
鑑定Lv10 書記Lv6
【マスタースキル】
真偽判定
気になる点がいくつかあるな。
まず、レベルが表示されてないがなんでだ?
≪例外を除いて、戦闘職以外の職業を持つ人間には基礎レベルという概念が存在しない。≫
え、ってことは、魔獣とか倒してレベル上げしようにもそもそもレベルがないから無理ってことか?
まあ、このステータスじゃそもそも魔獣を倒すのは難しいか。
INTとDEXが他と比べて極端に高いのはなんでだ?
≪戦闘職以外の職業を持つ人間には、一部を除き能力値に上限が設定されている。特にATKはSTRの半分の値になるので、魔獣等に対処するのが難しい大きな要因になっている。また、上限のないものは本人の努力次第でレベル上げに頼らず能力値を上げることが可能≫
なにそれ。要は戦闘職以外魔獣に対して無力ってことじゃん。
ちょっと、いやかなり不自然な仕様だな。理由は?
≪世界の理につき、不明≫
…今後、仕様に関して不自然に感じたことを、全部その回答で済ませる気じゃなかろうな。
で、この【マスタースキル】ってなんぞ?
【マスタースキル】
≪特定のスキルのレベルを最大までアップすると得られるスキル。通常のスキル技能に比べ強力な効果を持ったものが多い≫
ふむふむ。ゲームなんかでよくある仕様やね。
で、真偽判定ってのは?
【真偽判定】
≪言っていること、書かれていることが嘘か本当か見破ることができる。但し、言った、または書いた人間の認識をもとに判定するため、本人の思い込みによる間違いも0ではない≫
…尋問用のスキルか。確かに強力だな。
多分今から質問攻めされる時に使われるんだろーなーやだなー。
「待たせたな。街に入る前に鑑定証明書と、入場許可証の発行を行う。そのためにいくつか質問に答えてもらう必要がある」
「鑑定証明書?」
「ああ。ステータス、及び討伐履歴をまとめた書類だ。聞いたこともないのか?」
ステータスはともかく、討伐履歴? いわゆるキルログかな。
俺のメニューにそんな機能無いぞ。羨ましい。
「すみません、故郷でステータスの確認というものを行ったことすらないもので」
そう言うと、兵士が鑑定師の方を見るが小さく頷くだけだった。
「…お前さんの故郷は随分変わっているな。それでどうやって生活しているのやら。まあいい。それで、これから書類を発行するのだが問題はないか?」
「ええと、手数料とかは必要ですか?」
「心配するな。街の出入りにいちいちそんなものは必要ない。そのおかげで旅の商人が寄ることも多いのだが、中には不埒なことを考えるものも稀にだがいるのでな」
「そうですか。ではお願いします」
そう言うと、鑑定師の爺さんが懐から紙を2枚取り出した。
え、ここで鑑定結果を書くの? デスクの上とかの方が書きやすくない?
そう思っているうちに、鑑定師の持っている紙がぼんやりと光り、文字が浮かび上がってきた。
おおお? あれ、スキルか?
≪鑑定スキルLv2技能:【鑑定投影】鑑定結果を紙に写し出すことができる≫
要するにスキャナーと印刷機の両方の機能が鑑定スキルにはあると。結果を紙に残すには便利だな。
鑑定結果を鑑定師と兵士が確認している。プライバシーとかないのか。いや、俺も勝手にステータス確認したけどさ(前科2犯)。
二人とも目を見開いたり、微妙そうな顔をしたり、しまいには憐れみと胡散臭さが絶妙に混じり合った表情でこちらを見ている。
ええ、職業不明でステータス全部ゼロですが何か?
スキル? ねぇよそんなもん! くそっ。
「…これ本当に正しいんですか? 赤ん坊よりステータス低いんですけど」
「ああ、うん。鑑定した儂自身が一番信じられんわ。ステータスを改ざんや隠蔽した形跡もない。これで正常みたいじゃ」
「職業不明、ステータスがほぼ全部たったの2。しかもスキルが※取得不可※って表示されてる。呪いにでもかかってるのでしょうか?」
おい、待て、今なんて言った?
ステータスが2に上がってるのは基礎レベルが上がったからだろうが、スキルがなんだって? 取得不可? えええ?
「状態は正常じゃ。呪縛の類ではなくこれで普通なんじゃろう。なんじゃこれ。さらに討伐履歴を見てみぃ」
「コボルト1体、ゴブリン2体!? お、おいお前! あの森で魔獣を倒したのか!?」
「あ、はい。まぐれですけど」
「まぐれで魔獣が倒せるか! というかこのステータスでいったいどうやって倒せるというんだ!?」
「え、えーとですね」
まず、コボルトを倒した時の状況を説明。
気配を感じて木に登る→コボルトも登ってくる→落ちそうになった時にコボルトの首を掴む→仲良く地面に落ちる→俺、尻を強打。コボルト、死亡。
…おいジジイ、目ぇ逸らして口角つり上げて肩震わせてんじゃねぇよ。話してて死にたくなってくるだろうがチクショウ。
ってアルマも無表情のまま体をプルプルさせないでくれ! もういっそ笑ってくれよ!
で、ここまでは笑い話で済んだんだが、ゴブリンを殴り殺した経緯を話したところで兵士と鑑定師の面持ちが変わった。
「すみませんフィルスダイム氏、今までの経緯に虚偽はありませんでしたか?」
「無いの。この者は真実のみを語っておる」
「しかし、それではこのステータスでゴブリンを殴り倒したことの説明がつかない。いったいどうなってるのでしょうか?」
「なにやら妙なところの生まれらしいし、儂らの知らん未知の力を持っておるのかもな。この場で説明をするのは難しそうじゃし、とりあえず街に入る前に確認だけ済ませておくか」
「は、はぁ」
鑑定師が、俺の瞳を真っ直ぐ見据え口を開いた。
「カジカワとやら、お主はこの街に何をしに来た?」
「…行くあてがないので、街まで案内してもらってから今後のことを考えようかと」
「この街に、また住民に害をもたらす気は無いか?」
「ありません。トラブルに巻き込まれて正当防衛をする可能性は、否定できませんが」
「…ふむ、良かろう。許可証を発行するから、手続きの準備を」
あらあっさり。ちょっと確認作業雑すぎませんかね。その方が助かるけど。
「いいのですか? 正直不可思議な点が多すぎる気が…」
「先程の確認をして、この街で大きな問題を起こしたものはおらん。大丈夫じゃよ」
「…分かりました。許可証を持ってきます」
そう言って、兵士は再び詰め所に戻っていった
一応、問題なしと判断されたみたいだ。良かった。
あ、そうだ。鑑定師ならこっちからも確認したいことがある。
「あの、すみません、ちょっとお聞きしたいことがありまして、宜しいでしょうか?」
「む、なんじゃ?」
「…路銀が無くて、持っている物を売りに出したいのですが、どこか物を売れる場所はありませんか?」
「物によるが、何を売りたい?」
「薬味の類と、エフィの果実を少々。夜明け前に採取したものですから鮮度には問題ないかと」
「ほほぅ、どれ、見せてみぃ」
そう言って、薬味とエフィを鑑定してもらった。
見てる様子から、品質に問題は無さそうだ。
「良ければ、儂が買い取ろうか? あ、森生姜はいらん。それ、風味がきつくて漢方薬ぐらいにしか使い道ないぞ?」
森生姜ェ…。
仕方ない、自炊する時に使おう。落ち込むな森生姜。
「それはありがたいのですが、おいくらで引き取っていただけるのでしょうか?」
「それは売りに出すほうが決めることではないのか? 儂、鑑定師じゃけども」
いや、鑑定師だからこそ妥当な値段を教えてほしいんだけどなー。
…メニューさん、値段の相場とか分かりませんかね。
≪採取してからまだ半日以内の場合の末端価格の相場は、
紫蘇の実12個:1200エン
大胡麻の鞘3個:1500エン
エフィの実5個:50000エン
合計52700エン≫
あ、相場分かるんだ。そしてお金の単位はエンなのね。なんかちょくちょく「和」のテイスト入ってる気がする。
…ってエフィ高っ!? 一個一万!? こんな高いの!?
≪天然で、もぎたてのエフィの実は冒険者ギルドに依頼を出しでもしない限り、入手は困難。地方によってはさらに何倍もの価値がある場合もある≫
おおう。こんなことならもっともいでおけば良かった。
あ、でもアルマに食べさせたことは微塵も後悔してないよ。うん。ホントに。
「ええと、それでは鮮度も考慮しまして、
紫蘇の実12個:1200エン
大胡麻の鞘3個:1500エン
エフィの実5個:50000エン
合計52700エン
でどうでしょうか?」
メニューの言った相場をそのまま喋った。コピペ? そうですが、何か?
ホントはもうちょっと高めに言って、相手に値下げ交渉させた方が相場と同等、あるいはそれ以上の収入が見込めるかもしれないが、
鑑定師が相手だしなぁ。高めに言って怒らせてやっぱ許可取り消しとか言われても困るし、交渉の末に相場より安めに買い叩かれてもここは我慢しとこう。
「…お主、鑑定スキルは持っておらんはずじゃが、どのように値段を決めた?」
「…見ただけで、大体の相場は分かるものなんですよ」
あ、危ない。咄嗟に「故郷でこれくらいの値段で売ってた」とか言いそうになったけど、この爺さんに嘘は通じないんだった。
メニューのことを知られると、さらに面倒くさそうなことになりそうだからここは嘘を言わず、肝心なことは隠しておこう。
「まぁ、良かろう。品質に問題は無さそうじゃしその値段で買い取ろう」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
あれー? 交渉なしであっさり決まった。
最悪3割引きくらいは覚悟してたんだけど。
下手に値段を上げなかったのが良かったのかな?
そして、鑑定士が財布を取り出し、…財布だよなあれ。なんか中身より財布本体の方が高いんじゃないかってくらい立派な装飾なんですけど。
ジャラジャラと金貨やら銀貨やら銅貨やらを取り出し、こちらに渡してきた。
≪貨幣の価値は
白金貨=1000000エン
大金貨=100000エン
金貨=10000エン
銀貨=1000エン
銅貨=100エン
小銅貨=10エン
石貨=1エン
と指定されている≫
そうですか。また勝手にいきなり表示されたよ。有難いけどびっくりするからもうちょっとなんとかならんのかなぁ。
お金を受け取った後、果実と薬味を手渡した。
「ありがとうございます。これでなんとか当面は凌げそうです」
「それは何より。こちらもここまで新鮮なエフィは早々ありつけるものじゃないのでな。食うのが楽しみじゃよ」
「あ、食べる前にMP、魔力を5以上消費しておいた方がいいですよ。魔力が減っていないと過剰供給になりますから」
「心配無用じゃ。先程の鑑定投影で消費しとるから、むしろ足りないくらいじゃよ」
「そ、そうですか。すみません」
「仕事で消費したのだから謝る必要はない。ああそうじゃ、鑑定証明書の写しを渡しておこう。ほれ」
先程の鑑定用紙の一枚を受け取った。
内容は、俺のメニュー表示画面とほぼ同じみたいだ。
梶川 光流
Lv2
年齢:25
種族:人間
職業:ERROR(判定不能)
状態:正常
【能力値】
HP(生命力) :10/10
MP(魔力) :5/5
SP(スタミナ):0/3
STR(筋力) :2
ATK(攻撃力):2(+2)
DEF(防御力):2(+5)
AGI(素早さ):2
INT(知能) :2
DEX(器用さ):2
PER(感知) :2
RES(抵抗値):2
LUK(幸運値):2
【スキル】
※取得不可※
EXP(トータル経験値) :17
NEXT(次のレベルに必要な値):30
討伐履歴
コボルト×1
ゴブリン×2
称号
なし
これまた異世界の言語で書かれているが、問題なく読める。
ん? 称号?
≪魔獣の討伐数や、スキルの使用回数等特定の条件を満たすことで称号が与えられる。称号には能力値やスキル等に影響を与えるものも存在する≫
あーはいはい。そうですか。まあそれは今は置いておこう。
…能力値、HPMPSP以外はたったの2。ゼロよかましか。まぁ、そこは大きな問題じゃない。
問題はスキルの項目。さっきの会話、聞き間違いとかじゃなかった。
取得不可って。
Lv1の時点じゃ「なし」って表示されてたから、もしかしたらなんらかのスキルをもとに職業が決まる前にレベルアップすると、スキルが取得できなくなる?
そうしないと戦闘職の者以外に基礎レベルが存在する人間が発生する可能性があって、不平等になるからか。
あくまで俺の考えた仮説だが、現在の状況を見ると嫌になるくらい筋が通ってる気がする。
それなら全ての職の人間に基礎レベル与えておけよ。なぜこんな仕様にした。
となると、職業が決まっていない成人前の子供が、奇跡的に魔獣を倒したりしてレベルを上げたりしたら同じ現象が起こるのかな。
≪この世界の人間は、この世に生まれたその瞬間にスキルを最低一つは取得する。また、成人前の子供にはレベルの概念が無いのでレベルアップは不可能≫
…えー。じゃあ、異世界人だからスキルを持ってなくて、職業も決まらなくて、戦闘職か生産職かまだ分からないけど成人してるからレベルの概念があって、そんな状態でレベルアップしたもんだから起こったレアケースってことか?
≪推測を肯定≫
そこは否定していいんだよ? 要するに俺、一生スキルも無くて職業も決まらないままこの世界で生きてかなきゃいけないの?
どうすんだよこれ。就職もできないだろこれじゃ。
ゴブリン共に囲まれた時とはまた違った絶望感。あの時は死にたくないって本気で思ったけれど、今は、生きる気力がごっそり抜け落ちた気分だ。
「…どうしようかな、俺」
「ヒカル、どうしたの?」
深刻そうな顔してたからか、アルマが声をかけてきた。
「あ、うん……。聞こえてたと思うけど、俺、スキルを持ってないどころか、この先で取得することもできないみたいだ」
「……」
「当然、職業も、ない。ステータスも、赤ん坊より弱いってさ。笑えるだろ? はははっ……」
「……ヒカル」
「……ああ、うん。愚痴ってばかりじゃ何も解決しないよな! 悪い! これまで色々助けてくれてありがとな。これからどうするかは宿に泊まってぐっすり寝てからでも考え――」
「大丈夫」
食い気味にそう言って、アルマは俺の手を握ってきた。
そして、俺の顔を真っ直ぐ見て言葉を続ける。
「この手で、ヒカルが魔獣を倒したところを、私は確かに見た。赤ん坊より弱くなんかない。絶対に」
「……そうかな」
「働く場所に困ってるなら、私が冒険者ギルドに紹介する。薬草採取とか、生産職の人でもできる仕事は結構あるから、真面目に働けばお金には困らないはず」
「いいのか、こんな無能な奴紹介するだけで一苦労じゃないか?」
「無能じゃない。大丈夫。私もギルドで駆け出し程度の実績はあるから、それなりに信用はされてる。それに、討伐履歴を見せれば戦闘職じゃなくても自衛くらいはできるって証明できる」
「……そっか。そう言うなら、もう少し助けを借りさせてもらうよ。本当に、ありがとう」
「うん」
やばい、泣きそう。一気に生きる気力が復活してきた。
この子、いい子すぎるでしょう。アルマさんの優しさは天井知らずやでぇ。ぐすん。
「青春じゃのう。ほっほ」
おじいちゃん、空気読んで。まじまじ見てんじゃねーよ! 恥ずかしいだろ!
その後、許可証を兵士から受け取り街の中に入っていった。
宿へは冒険者ギルドで登録を済ませてから行くことになった。ギルドって、どんなとこかな。
~~~おじいちゃん視点~~~
「ほほほ。なかなか愉快な奴じゃったのう」
街の中に足を進めるカジカワという青年とアルマティナを見送りながら、思わず呟いた。
あの小僧、鑑定結果を見て見るからに落ち込んでおったが、アルマティナのお陰ですぐに気を取り直しおったな。単純な奴じゃのー。
まあ、抱えとる事情はそう単純でもなさそうじゃが。
まず、ステータス。おかしなところが無いかと言われると、むしろまともな項目の方が少ない。
ほぼ全ての能力値がたったの2。スキル取得不可。職業判定不能。
なのにコボルトとゴブリンを討伐した履歴がありよる。何がどうなっておるのやら。あ、いかん。コボルトの件を思い出したらまた腹筋にダメージ負いそうじゃ。ぶふっ。
しかも現在のスタミナが0なのに【飢餓】状態になっとらん。正常のままじゃ。この時点で儂らとは違う理のもとに生きておるのが分かる。
そのうえ、スキルなしで品物の価値を的確に見極めおった。……あれ? 儂、お払い箱じゃね?
どうやったか聞いてみたが、嘘は言っておらぬが肝心なことは話しておらんなアレは。いったいあやつには何が見えておるのやら。
先程買い取ったエフィを手に取り齧る。うむ、美味い。やはり天然もののもぎたては違うのう。市販の黄ばんだ物とは新鮮さがまるで違う。
新鮮な実をありがとのう。【異世界からの漂流者】殿。願わくば、その歩む先に、幸多からんことを。
鑑定Lv10技能【世界の啓示】
『世界の理』より与えられ、隠されている称号を看破することが可能。
『世界の理』により隠されている称号は、この技能以外では確認することができない。
【称号】
【異世界からの漂流者】(隠された称号)
このせかいとはちがうせかいからきたひと
お読み頂きありがとうございます。
街の中に比較的簡単に入場させてあげたり、交渉なしであっさり買い取ったりしてるのはおじいちゃんなりのささやかな応援だったり。
『コイツ面白そうじゃな、トラブル起こしたらそれはそれで見てみたいわー』とかちょっとだけ思ってたりもしますが。
書き溜め分を一気に放出したので、次回更新までちょっと期間を頂きます。
追記:誤字修正、貨幣に大金貨の項目を追加。