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リア充ムーブ



 旅行の前準備として、パラレシアの通貨である金貨なんかを換金してあるので路銀は潤沢にある。

 その質屋にボられそうになったりしたけど、ちょっと威圧したらすぐに適正価格で取引してくれた。

 ……質屋の店主さん、脅した時に何度も気絶と覚醒を繰り返してたけど、こっちの人間相手に威圧の加減を誤るとヤバそうだなこりゃ。



「さて、まずはどこへ行こうか?」


「ここは娯楽かな。ボーリングとかゲーセンとか」


「いやまずは服屋でしょ。街中を歩いている人たちの視線が気になるし……」



 あー、うん。さすがにいつもの冒険者スタイルではないけれど、それでもちょっと浮いてるしね。

 

 ……この人数の服を買うとなると、なかなか財布へのダメージがでかそうだなー……。



「ちょっとお腹が空いてるし、服を選んだらご飯食べにいきたいっす。こっちのご飯はやっぱり普段カジカワさんが作るような料理が主なんすかね?」


「店によるなぁ。ファミレスとかならメニューも手広いし、行ってみるか。……ペット可のところじゃないとヒヨ子が一緒に食えないけど」


『ピ?』


「で、あちこちで食ったり遊んだりしてどっかに一泊するわけだけど、もう予約とかしてあるの?」


「いや、まだ。まあ駅の近くあたりはホテルも多いし、夜になってからでも遅くないでしょ」


「ふーん……あ、そうだ。梶川さんとアルマはラブホでもよくね?」


「アホか! アルマまだ17歳だからな!? いくら夫婦でもこっちじゃ普通に犯罪だっつの!」


「ヒカル、『らぶほ』ってなに?」



 知らなくていい。今後行くつもりは毛頭ない。多分。

 ……さっさと服屋行くか。安い服屋でもいいけど、皆にとって日本(異世界)なんて滅多にこれる場所じゃないし、ちょっとお高い店にでも行ってみよう。







 近場にあった男女対応のブティックで、しばし試着タイム。

 ネオラ君がまたいつものように着せ替え人形にされるかと思ったが、速攻で選んで着替えおった。




「ネオラ君、随分とボーイッシュな服選んだねー。可愛い服いっぱいあったのに、もったいないなー」


「いやこれが普通だからね? オレ男だからね? アイナさんこそそのミニスカはちょっと攻め過ぎじゃ……」


「屈んだらすぐに下着が見えてしまいそうね……」


「私たちの世界のファッションとはまた少し違った印象ですけれど、どの服も綺麗ですね。時間があれば、何時間でも眺めてしまいそうです」



 日本の女性もそんな感じだよね。いやファッションにこだわってるなら男も似たようなもんだろうけど。

 彼女たちにとってはこの店の服全てが異世界ファッションなんだろうけど、特に忌避感なく選んでいる。



「へぇ、ブラウスの上に着込むジャケットなんかの組み合わせで、印象がまったく変わるんすねー。むむむ、奥が深いっす……!」


「素敵な服ばかり。……迷う」



 アルマとレイナもこうやってゆっくりと服を見ながら選ぶことができるのが新鮮なのか、あれこれと試着しながら楽しそうにしている。

 ちなみに俺とネオラ君は10分くらいで選び終わって待ちぼうけ。暇だ。

 ……ま、まあ、目の前で美人たちのファッションショーが行われてると思えば苦にならないな。うん。




 異世界ファッションから日本のトレンドスタイルへと着替えて、いよいよ日本観光開始。……財布が一気に軽くなっちまった。

 日本観光と言っても、清水寺とか金閣寺とか修学旅行で行くようなところを巡るわけじゃない。

 ごく普通の風景や娯楽や食事を楽しむだけの、まあ休日の日本人の過ごしかたを体験するようなもんだ。


 都会の人ごみに飲まれるようなところじゃなくて、閑散とした地方都市だから比較的トラブルにも巻き込まれにくいだろう。

 ……どうか旅行中、トラブルに巻き込まれませんよーに。








 まずは腹ごしらえということで、ペット可のファミレスへ。

 こんだけの人数が一度に来るとなると店側も大変かもしれないが、飯時のタイミングからずれてるしまあ大丈夫か。



「いらっしゃいませー! 何名様でしょうかー?」


「七人に、ペットが一羽。禁煙席でお願いします」


『ピピッ』


「あら可愛い……畏まりましたー。ペット用のカートへ乗せて、他の席に行かないよう目を離さないようにご注意くださいー」



 肩に乗っているヒヨ子を見せながら案内を受ける。

 ペット同伴で飲食店に入ることなんか初めてだけど、ペット用のカートなんかあるんだな。……ヒヨ子にはちょっとデカすぎる気もするが。



「ず、随分高級そうな店だけど、支払いとか大丈夫なのかしら……?」


「大丈夫だよ。てかファミレスを高級そうとか言われても」


「あー、まあこっちの飲食店とかまだなじみが無いだろうし、そう思うのも無理ないでしょ」


「広いし、店員さんが運んでる料理もとても美味しそう」


「ひえぇ……! あのおっきなハンバーグ一つでおいくらするんすかね……?」



 異世界カルチャーショックというか、パラレシアの飲食店に比べて煌びやかでキラキラしてるファミレスの雰囲気にたじたじなご様子。

 アルマやレイナも目を丸くしてキョロキョロと目を忙しそうにしている。

 大丈夫だ、問題ない。俺たち全員の一食分で、さっきの服屋1~2人分の値段くらいだから。……むしろ服屋で散財しすぎた。



「はい、どれにするー?」


「な、なんすかこれ!? 絵が動いてるっす!」


「えーと、タッチパネルってやつでな? 指の動きに合わせて表示されてる画面が……」


「……こっちの文明、ちょっとおかしな方向に進み過ぎじゃないの? 長いこと生きてるアタシでもこんなの見たことないんですけど」



 メニュー注文用のタッチパネルを操作するだけでこの有様。中世あたりの人に見せても似たようなリアクション返ってきそう。

 パラレシアも文明が進んでいないわけじゃない。魔石なんかを使った魔道具の中には地球側のものよりも優れた性能をもつものも少なくない。

 だが、『娯楽』とかそのへんを突き詰めたものに関してはまだまだ地球のほうが進んでいると思う。

 ……映画とか見に行ってみても面白そうだけど、今の時期面白そうなのやってるかなー。



 パネルを弄ってるだけで時間がどんどん過ぎていきそうなので、文明云々の前にまずメニューを選んでもらうことに。


 俺はリブロースステーキ定食。鉄板ですね。

 アルマはチキンドリア、レイナは特大ハンバーグ、ヒヨ子はチキン南蛮を却下されてカツとじ定食。だから共食いはやめろ。

 ネオラ君は鮭イクラ丼定食、レヴィアはハヤシライス、オリヴィエはシーフードピザ、アイナさんはカルボナーラと好みが分かれた注文をしている。

 これだけでも充分かもしれないが、せっかくだし適当にサイドメニューやデザートをあとから注文するとしようか。



「ねえ、ホントに支払い大丈夫なの? 今頼んだのだけでも、軽く5~6万エンくらいしそうなんだけど」


「んー、その十分の一くらいの値段かな」


「え、やっす!? なに?、こっちの世界の料理って価格崩壊でも起こしてるの?」


「いや、オレたちからすれば向こうの世界の料理の値段が高すぎるんだよ。……転生したてのころに、飯屋の値段に度肝を抜かれたっけなぁ……」


「……ちなみに自分の頼んだ特大ハンバーグはおいくらなんすか?」


「988円だってさ」


「や、安すぎて金銭感覚がおかしくなりそうっす……!」



 もうなにに対しても驚いてるな。見てる分には面白いが。

 これから色んなところに行くたびに、こうやってはしゃいでくれるんだろうか。

 楽しみな反面、落胆させてしまわないか心配でもあるな。



「あ、ドリンクバーも全員分頼んでおいたから、好きな飲み物を選んできなよ」


「色のついたジュースがいっぱいっすけど、どれがどんな味なのか分かんないっす……」


「一杯ずつ飲み比べてみれば? 飲み放題だし」


「飲み放題……!?」


「え、それって、たとえば十杯くらい飲んでもいいってことっすか?」


「極端な話、百杯飲んでも大丈夫だぞ。……糖尿病になりそうだけどな」


「自分、ちょっと飲み物コンプしてくるっす!」


「トイレが近くなるから程々にしとけよ」


「ヒカルたちの世界って、やっぱり変わってるね……」



 そう言われるとそうかもな。

 このドリンクバーだって元をとろうと思ったら20~30杯くらい飲む必要があるらしいし。


 ドリンクを飲みながら待っていると、次々と料理が運ばれてきた。

 全員分揃ったところで、合掌しつつ料理を口にする。



「あー、やっぱ安全で新鮮な魚の切り身が食えるのはいいなぁ……」


「それ、生の魚じゃないの? 平気なの? ……あとその乗ってる赤い粒はなに?」


「イクラだ。鮭の卵だよ」


「さ、魚の卵ですか……」


「他は美味しそうな料理ばかりなのに、変わったのが好きなんだねぇネオラ君は」



 パラレシアでも一応生の魚を出す店はあるにはあるが、新鮮さにかけたり寄生虫入りだったり大体ヤバい。

 安全に食える店となると、貴族御用達の超高級店くらいなもんだろう。

 それを手ごろな価格で気軽に食えるって、日本はやっぱ恵まれてますなぁ



「ドリア、美味しい。……ヒカルのも、美味しそう」


「ああ、良かったら一口食べる?」


「うん」



 そう言うと、口を開けながら待機するアルマ。

 え? まさか『あーん』して食べさせてほしいと? うそん。


 ……やるよ、やってやろうじゃないか。



「……はい、あーん」


「あむっ。……美味しい、ありがとう。こっちのも、食べて?」


「え、お、おう……?」



 チキンドリアを乗せたスプーンを吹き冷ましてから、こちらに差し出してきた。

 まさかのカウンターとな。いやそもそもアルマが言い出してきたことだし、一方的にペースを握られてるんじゃないかこれは。



「あーん」


「あ、あーん……ムグムグ」


「美味しい?」


「う、うん、うまい、よ」



 ……二人きりの時ならまだともかく、他の人の目がある中でするのは非常に恥ずかしいんですがそれは。

 なんか結婚してから色々と積極的になってきて、ちょっとたじたじな今日このごろ。

 嬉しいけれども! すごく嬉しいけれども!



「うぬぬ、見せつけてくれるじゃないの……! ネオラ、私にも一口ちょうだい! な、生でも食べてみせるんだから!」


「わ、私にも……お願いします……!」


「アタシもー!」


「……おいカジカワさん。アンタらのせいでオレの鮭イクラ丼がただの白飯になりそうなんだが……」


「……代わりに分けてもらいなよ」



 そしてこんな二次被害が出てる件。

 ……嫁がいっぱいいるって大変だね。俺には一人で充分すぎるよ。






 にしても、日本(こっち)に帰ってきてからからどうも視線を感じるなー。

 ……特にアルマから『あーん』をねだられたあたりで視線の圧が強くなったような……。












 ~~~~~











「こちら偵察班。ただちに対象を爆破する許可を求む」


「却下。どうせロクな理由じゃないんだろうが」


「だってあんなクッソベタなシチュを今時するもんですか普通!? もう嫉妬心だけで軽く2、3人くらい呪い殺せそうなんですがそれは!」


「やめんか! いいから黙って監視を続行しろ!」


「あうぅ~……! リア充どもめ~!!」


「はぁ……。今のところトラブルは起きていないようだが、……いや、待て。この反応は……!?」



お読みいただきありがとうございます。

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