鋼鉄の
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魔獣が攻めてきたらいつでも対応できるように村に住み込みで滞在することになった。
空き家をただで貸してもらえて、生活必需品なんかも貸し出してくれた。宿代の節約にはなるな。
現在5日目。これまで既に20匹近い数を駆除している。
昼夜を問わず、村のあらゆる方向から攻めてくるので肉体的にも精神的にも結構キツい。
まあ魔獣が攻めてくる時以外はたっぷり休息がとれるからさほど衰弱したりはしてないが、飯どきや寝てる時なんかに侵入されるとホントウザい。
残業、トラブルによるサービス休出が日常だった向こうの生活と比べればまだマシだけど。工場は今頃俺の代わりに誰か入ってるんだろうなー。どうでもいいかそんなこと。
「結構仕留めたと思うんだが、これでもまだ半分もいってないんだよな。依頼が達成扱いになるまでどれだけかかるやら」
「魔獣相手に魔法のアレンジの実験ができるから、退屈はしてないけど」
その発言はちょっと怖いです。マッドサイエンティストかな?
まあ俺も石弾の形状を弾丸に近いようにして回転を加えながら飛ばしたらどうかとか、サイズを大きくするんじゃなくて飛ばす速度を強化したらどうかとか、割とノリノリでアドバイスしてたけどさ。
アドバイス通りに撃ってみてもらった結果、魔獣の体を突き抜けるほどの貫通力になった。それでも1発ごとに20くらいMP消費するけど。
銃弾のイメージを伝えるのに少し苦労した。いや俺の説明が下手なだけだが。
俺が実践して教えようにも、まず石弾を作ることができないんだよなー。
魔力の物質化は何というか、燃えるガスとか水なんかは空気を魔力でなんやかんやして作ることができてるっぽいけど、石を『創り出す』っていうイメージがどうも上手くいかん。
なんやかんやとか言ってる時点で相当曖昧な魔力の使い方してるのが分かるな。我ながらこれでよく自力で魔法なんか使えるもんだ。
石ころ一つ創るのにすら結構ちゃんとした制御が必要みたいだ。魔力をそのまま物質化してるのか魔力を使って空気かなんかを原子変換してるのかすら分からん。というかどちらにしろやり方が分からん、さっぱり分からん。
「お、おい! 大変だ! 魔獣が村に入ってきた!」
貸家のドアから村人が大慌てで入ってきた。
またですか。もうこれで何回目なのやら。
「分かりました。数はどれほどですか?」
「数は今分かってるだけで20匹はいる! これまでとはまるで規模が違う!」
おおお、20匹とな。
これまで5~10匹程度で攻めてきてたのに、一気に増えたな。
ていうか、むしろ今までなんで一度に攻めてこなかったのやら。罠でも警戒してたのか?
「結構な数ですね。急いで仕留めないと」
「それと一頭だけ毛色が違う、赤くてでかい奴がいた。他の魔獣はそいつに従っているように見えたが」
「群れのボス、でしょうか?」
「多分な。あいつは他の奴より相当強そうだった。出くわしたら気を付けたほうがいい!」
「了解です。行こう、アルマ」
「うん」
ボスかぁ。そいつを倒せば今回の魔獣騒ぎも収まるのかね。
…どんだけ強いんだろうか。ラッシュボアはLv10に達していない奴でもホブゴブリンに匹敵するステータスだし、上位個体となると結構強そうだなぁ。
油断せず、容赦せず事に当たるとしよう。
魔獣共が村に侵入したと連絡を受けてから30分ほど経過した。
村のあちこちから侵入してくるのでなかなか対処が難しいが、ここ数日の奴らの動向を見る限りやっぱり農作物を食べることを最優先にしているらしく、大きい畑に向かえば大体2、3匹くらいは見つかるようだ。
俺が駆除した魔獣だけで既に7体。別行動をとっているアルマもおそらくそこそこ倒しているだろうし、村の戦闘職の人たちも全員で立ち向かえば2、3匹くらいなら十分倒せるだろう。
…さーて、順調に狩りが進んでいるように見えるが、俺の視界に入ってきたアレの対処をどうしますかね。
野菜畑の方に、作物を貪っている件の赤毛のイノシシの姿が見える。
魔獣:ジェットボア
Lv26
状態:正常
【能力値】
HP(生命力) :557/557
MP(魔力) :170/170
SP(スタミナ):329/342
STR(筋力) :357
ATK(攻撃力):357
DEF(防御力):294
AGI(素早さ):320
INT(知能) :78
DEX(器用さ):38
PER(感知) :271
RES(抵抗値):39
LUK(幸運値):58
【スキル】
魔獣Lv3 四足獣Lv4 体術Lv4
つっよ。なにコイツ強すぎでしょ。
ウェアウルフが可愛く見えるレベルなんですけど。
攻・守・速、どれをとっても隙が無い。弱点を強いて挙げるなら器用さが低いからおそらく細かい小回りが利かないだろうということと、抵抗値が低いから状態異常にかけやすいかもしれないというぐらいか。
つってもスパークウルフの角はもう無いし、爆音キノコも持ってないうえに村の人たちにも被害が及ぶから駄目だし。
魔力を光エネルギーに変えて目眩まししようにも今日は天気が良すぎる。今の俺の魔力変換じゃちょっと効果が薄そうだ。
空からの絨毯爆撃も、村に被害が出るかもしれないし飛行士の情報が漏れる可能性があるのでできれば避けたい。
結論:ガチでやりあうしか方法がねえ。
…えー、嘘でしょ。
とりあえず、奴の視界の外から奇襲を…待てよ、あいつの視界の外って真後ろくらいしかなくね? 目、顔の横に付いてるし。
つまり奴の尻に向かって攻撃しなきゃならんわけか。…なんかやだな。
あんまり近付きたくないし、奴の真後ろから少し離れた所から遠距離攻撃しよう。
太さ直径10cmくらいの木の杭に魔力装甲を纏わせ、先端の魔力は特に鋭くしておく。
俺の手を離れると魔力装甲は拡散を始めてしまうが、着弾までのわずかな時間なら問題ない。
今更だけど、固めた魔力を魔力装甲っていうのはちょっと安直すぎたかな。
で、狙いを奴の尻に向けて、発射!
ギュンッ! ギィンッ!
…はい?
え、ちょ、弾いただと!? 今の、尻に直撃コースだったんだけど!
ラッシュボア相手なら尻から頭まで貫通してもおかしくない威力だったんだが。
どんだけ固い尻なんだよ。鋼鉄の尻か? なんだそりゃ。
『ブゴオオオォォォォッ!!』
うわ、今の攻撃に怒ったのか、こちらに向き直って咆哮を上げながら突進してきた。
まあ食事中に尻に杭をぶつけられたらそりゃ怒るわな。俺だってキレるわ。
って速いなオイ! ラッシュボアとは比較にならんくらい速い! ボーっと見てる場合じゃなかった!
尻が駄目なら、突進してくるその頭への攻撃ならどうだ!
俺に突っ込んでくる、ジェットボアの頭に向かって、魔力パイルバンカーをぶち当てる!
ギュウンッ!!
「なっ!?」
こちらとの距離が5メートルほどに縮まったところで、さらに奴の速度が上がった。
体に淡い光を纏っての突進、これもスキルか!
≪四足獣スキルLV4【轟突進】:瞬間的に能力値を1.5倍にまで高め突進する技能≫
見てる暇ねーよ!
この、パイル発動!
ダァンッ!!
ビキビキ……ッ! バキンッ!
ま、マジかい。頭にぶち当てた魔力パイルバンカーの杭が砕けた。
鉄と同じくらいの硬度があるはずなのに、あっさり砕きやがった! てか固めた魔力って砕けるのか、知らなかった。
『ゴアアァァアアッッ!!』
少しは効いたのか、頭から血を流しながら雄叫びを上げている。
だが、それでもこちらを逃しはしないと、再度突進をこちらにかましてきた。パイルは、もう間に合わない。
咄嗟に全身に魔力装甲を纏わせ、直撃に備えたが
ドガァッ!!
「がっ……!」
全身に、強い衝撃が走る。
痛い。そう、痛いんだ。
痛みが走るということは、ダメージを受けている。即ち、ステータス分のHPが尽きたみたいだ。どんだけ強い突進だよ。
あ、やばい、いし、き、が……
そこで、俺の意識は途絶えた。
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