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姫様の護衛

お読みくださっている方々に感謝します。




 第一大陸の王宮事情は、姫様が九人もいるという一見魔境じみた環境に見えるかもしれないが中身は案外まともだ。

 というのも姫様方とは他に跡継ぎとなる王子がいるので、王位継承の争いなんかはないらしい。

 ……一人だけ男として生まれて王子は肩身が狭そうではあるが。


 で、跡継ぎ以外の御姫様方は毎日好き勝手にしているかというと全然そんなことはない。

 内政として軍部の統率、各領地経営状況の確認、物流やら税金の徴収その他諸々の管理など、それぞれが国王・王子のサポート役として働いている。

 貴族相手の茶会に顔を出したり、また婚約者となる公爵家なんかのサポートも同時に行わなきゃならんので、肉体的にも精神的にもかなりの負担があることだろう。



 そんな姫様方の護衛として選ばれたメンバーが、勇者君、レヴィア、オリヴィエ、アイナさん、アルマママもといアルマパパ(!?)、ヒューラさん、アルマ、レイナ、そして俺。

 ……なんか(異物)が2,3人混じってるが、全員例の性転換薬で女性になっているのでなにか過ちを犯してしまったりすることは無い、はず。


 アルマママからアルマパパ(♀)へ変更になったのは、身重の身であまり無茶するのはよくないと判断してのことらしい。



「……大丈夫だとは思うが、万が一流産にでもなってしまったりしたら、悔やみきれないからね。……しかし、女性の身体になるというのは慣れないものだね……」


「……び、美人ですよ」


「……」



 元の筋骨隆々とした雄々しい姿はどこへやら、まるで似ても似つかない細身の中年美人へと姿を変えているアルマパパ。

 でもステータスにはまるで変化が無い。強さはまるで鈍っていないようで、護衛としては非常に心強い。

 ……それをアルマがものすっごい微妙な表情で眺めてるけど。こんな顔できたのかこの子……。



 それぞれ護衛対象の姫様方に挨拶は済ませてある。

 今日から数日間にわたり第一大陸王国祭が開かれるので、その間は護衛として同行しなければならない。

 ……長時間不自由な状況が続く依頼って、思えば初めてかもしれん。まだケルナ村でのんびりイノシシ狩りをしていたほうがリラックスできるわ。



 勇者君・レヴィア・オリヴィエ・アイナさんは内政担当の第一~第四王女の護衛。

 勇者君を見た途端に姫様方が暴走して着せ替え人形として拉致られそうになってたが、まああの様子じゃレヴィアたちとさほど険悪な雰囲気になったりはしないだろう。

 ……というか、レヴィアとオリヴィエとアイナさんも一緒になって勇者君に色んな衣装を着せようと(ry

 イキロ、勇者君。……いや、勇者ちゃん?


 アルマとレイナはまだ幼い第八・第九王女を担当。

 まだ10歳にも満たない小さなお転婆姫様相手で苦労しないか心配だったが、既に礼儀作法諸々の嗜みは済ませているようで、思ったほど負担にはならなさそうだ。

 むしろ表情に乏しいアルマと見た目が11~12歳くらいのレイナを見て、姫様方のほうが心配そうな顔をしていたくらいだ。

 その子たち、地上最年少にして最強クラスの実力者ですのでご心配なく。


 俺とアルマパパとヒューラさんは軍部総括の第五~第七王女担当。

 ……軍部担当の姫様多すぎじゃない? と思ったりもしたが、つい最近まで魔族の侵攻や魔獣のスタンピードなんかが多発してたから、やむを得ず軍のほうにも姫様方の人員を割かざるを得なかったらしい。

 で、その軍部の方々から『なんで外部の人間に護衛を任せるんだ』と反発の声が上がったりしないか心配だったが、むしろ歓迎ムードで任されました。なんでや。



「剣王デュークリス殿に星割斧王ヒューラ殿、そしてカジカワヒカル殿、どうか姫様をお願いいたします」


「今更だけど、本当にアタシらに任せていいのかい? そりゃ曲者相手にヘマするほどマヌケじゃないつもりだがね」


「いえいえ、この上なく頼もしい限りでごさいます」


「……曲者よりもむしろ姫様にお気をつけゲホゲホッ いえ、なんでもありませんハイ」



 おい今なんか不穏なこと言ってる奴がいなかったか。

 姫様との顔合わせの際にちょっと厳しい目で見られたことは覚えてるけど、もしかして問題児だったりするのか……?










~~~~~第六王女リフィルヴァ視点~~~~~









 



 軟弱。平凡。覇気がない。

 それが、この黒髪女の第一印象だった。



「本日より、御身の護衛を務めさせていただきます。微力を尽くし、盾となることをここに誓います」


「……本当に微力そうね」


「ははは、お手厳しい」


「なにをヘラヘラと笑っているの。言っておくけど、私に傷一つでも負わせようものならその首が飛ぶと知ったうえで護衛に臨むことね」



 軍の演習場で、王国祭の段取りを打ち合わせしながら護衛との挨拶を交わす。

 厳しく窘めても、困ったように笑うだけでまるで緊張感がない。


 まったく、第五王女(ヴィヴィアン)第七王女(ネストファ)には剣王や星割斧王といった名だたる手練れの護衛がついているというのに、私にはこの冴えない女なんて。

 一応Sランク冒険者らしいけど、なんというか強者特有の凄みというものがまるで感じられないわ。

 こんなのに私の護衛が務まるとでも思っているのかしら。


 私は軍部をまとめ上げるために、主に作戦内容を発案する他の二人と違って、前線で戦うために鍛えられた。

 成人してからすぐにレベリングを開始して、一年経った今では16歳にしてLv32にまで上がっている。

 同年代ではもちろん、並の冒険者たちと比較してもそこそこの実力はあると自負しているわ。


 ここまでレベルが上がると、相手の実力も大体肌で感じるようになってくる。

 剣王(デュークリス)星割斧王(ヒュームラッサ)と初めて対面した時は、それだけで全身に鳥肌が立ったことを一秒前のことのように思い出せる。

 それに比べて、この女ときたらただヘラヘラと微笑んでいるだけで、迫力ゼロ。なにも感じない。

 ……もしもの時は、自分の身は自分で守らなければならないようね。


 これならまだ軍部の隊長にでも護衛についてもらったほうがマシだっただろうけど、せっかく勇者様が連れてきてくださった人員を断るのは角が立つ。

 だから渋々ながら了承したけれど、嫌味の一つでも言わなきゃ気が済まないわ。



「あなた、レベルは?」


「微力ではありますが、御身を守るには充分な値かと」


「耳が悪いのかしら? レベルはいくつなのかと聞いているのだけれど」


「……126でございます」



 ……ああ駄目だ。コイツはただの大馬鹿だ。

 こちらが真面目に聞いているのに笑えないジョークで返すなんて、どう考えても舐めている。

 もう今からでも代理を手配するべきかしら。まったく、なんでこんなペテン師を勇者様は―――



「姫様、失礼します」


「は? ……っ!?」



 なにをトチ狂ったのか、急に私の身体を抱えて跳び上がった。

 な、なにしてるの!? 許可なく触れることは不敬罪にあたるということも知らないのかしらこの馬鹿は!



 などと混乱と不満で頭が爆発しそうになったところで、あたりに爆発音が響き渡った。

 私の頭が爆発したわけじゃない。さっきまで私とこいつがいた演習場に、爆炎とキノコ雲が上がっている。



「火急のことで、許しを得る前に御身に触れたことを謝罪いたします。誠に申し訳ございません」


「な、なにが……?」

 

「何者かが、我々に向かって攻撃魔法を放ってきたようです。……それも、かなり高威力の魔法ですね」



 私たちが立っていた場所に、直径数メートルものクレーターができているのが見えた。

 あれが当たっていたら、大怪我じゃ済まない。


 前触れもなくいきなりあんな魔法を放ってくるなんて、暗殺と言うには派手過ぎないかしら。

 いったい誰が……。




「見つけた」


「えっ?」



 黒髪女が呟くのと同時に、身体が仰け反った。

 とんでもない速さで、城の窓に向かって跳んで、いや飛んでいる……!?



「きゃあぁあああああぁあああっっ!!!?」


「申し訳ありません、少々耐えてくださいませ」



 た、耐えろって、もうなにがなんだか分からないんだけど!?

 というかこのままじゃ窓にぶつかって城の中にちょっと待っていいから待ってぇぇえええっ!!




 ガシャン とガラスが割れる音とともに、城の地面に着地したのが分かった。

 想像していたような衝撃やガラス片による怪我なんかはないようだけど、いくらなんでも怖すぎるわよ!


 城の中に入って辺りを見渡してみると、豪奢な場内に相応しくない黒いローブを着込んだ男がいた。

 ここは人の通りが少ない場所だけど、まさか城の中から狙ってくるなんてね。




「はい、犯人発見」


「ぐっ!? なぜ、ここが……!?」


「どこから撃ったか見ればすぐ分かる。大人しく縄につけ」


「ほざけぇっ!!」



 激高した様子で、私たちに向かって魔法を放つ黒ローブ。

 炎の連弾。さっきの魔法と違って一発一発の威力は低いけど、手数と速さが段違いに高い。

 この黒ローブ、おそらく上級職クラスの実力者だ。王宮抱えの魔導師と遜色ない。

 まずい、避けようにもこの手数は……!



「はい止まってー、こちら通行止めとなっておりますー」


「……は?」


「な、んだと……!?」



 ふざけた口調で黒髪女がそう告げると、炎の弾丸が私たちに当たる数メートル手前で、全て停止した。

 まるで見えない壁に阻まれているのかのように、これ以上前に進んでこない。

 私も黒ローブの男も、呆気にとられて開いた口が塞がらない。

 こ、こんなスキルが存在するの? そんなの、見たことも聞いたこともない。



「はい、では元いたところに帰りましょうねー」


「な、なにが起きている、う、うわぁぁぁああああっ!!!」



 止まっていた炎の弾丸が、今度は黒ローブに向かって襲い掛かっていった。

 次々と着弾していって、全て着弾した後には黒いローブよりもさらに黒く焦げた姿を晒していた。



「さて、こいつから情報を聞き出すといたしましょうか」


「あ、あなた、何者……?」


「姫様の護衛にございます」



 唖然としながら問いかける私に、最初の挨拶の時のように穏やかな笑顔で返す黒髪女。

 その顔は一見軟弱で平凡で覇気がなくて、……それでいて、底知れないなにかを覚えさせた。

 さっき感じた死の恐怖すら、まるで些事に思えるほどに。

お読みいただきありがとうございます。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] タイトルを 常識?ねぇよそんなもん!に変えとくべきだった
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