伝えなければならないこと
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目が覚めたのは、魔王との決戦から二週間と少し経ったころだった。
始めに目に入ったのは、俺の身体に寝そべりながら眠っているアルマの姿。
……御両親が近くにいたらまた変な誤解をされそうな状況だったな。特にアルマパパ。
いや、まあ、近々誤解でもないと言えることになるかもしれんのだが。
こっちが起きたからってアルマを起こすのも可哀想だし、二度寝しようかと思ったけど眠れず。
……二週間もグースカ寝てたんだったらそりゃ眠れんわな。もう身体バッキバキですわ。
腕に栄養剤らしきものを注入するチューブが付いてたけど、こっちの世界でも点滴の技術があるんだな。ちょっと驚きだ。
眠っているアルマの顔を見ていると、ずっとつきっきりで待たせてしまって申し訳ない気持ちと、寝てる顔も可愛いなーとか浅薄な思考が浮かんできた。
で、しばらく眺めているうちに融合していた時に互いの想いが駄々洩れになっていたことを思い出してしまい、今更になって悶え死にそうなんですが。
うおおああぁぁぁぁぁあああ……! 超恥ずかしい……!!
こんなオッサン予備軍が、こんな華奢な美少女にガチ恋してるとか知られたらそりゃ死にそうにもなるわ。
……しかも、まさかの両想いだったというね。
いや、思い当たる節はいくつもあった。確かにあった。あったけども、勘違いしちゃダメだと思って見ないフリをしていたんだ。
そもそもいつから惚れてたんだろうか。きっかけがイマイチ分からぬ。
互いに腹を刺し合った時か? なんだそのスプラッタなきっかけは。
狩猟祭の時、一緒にデートみたいな食べ歩きした時か? いやあんな色気のカケラもない食べ歩きのどこに恋愛要素があったというのか。ねーわ。
あるいは釣りをした時か? ダンジョンの攻略を進めていた時か? ケルナ村でジェットボアを倒した時か? スタンピードをともに乗り越えた時か? 一緒に修業して魔法剣を使えるようになった時か?
もしかしたら、魔獣森林で命を救われた時から既に一目惚れしてたのかもしれない。
俺もアルマも、そういった日々の出来事を積み重ねていくうちに惹かれていって、異性としての好意だということに気付いたんだと思う。
そんなことを寝ているアルマの頭を撫でつつ考えてしまっている今日このごろ。
……起こして話をしたいような、ずっとこの寝顔を見ていたいような、複雑な心境だ。
これまでの関係が変わってしまうのが怖い気持ちと、より深い仲になりたいと思う気持ちがごちゃ混ぜになっておるのですよ。
もう頭の整理ができなくて口調が若干怪しくなってる。いやいつも通りか?
「……う、……うん……あ、れ……ヒカル……?」
しばらく頭を撫でていたら、アルマが目を覚ました。ジーザス。
「……おはよう、アルマ」
「お、はよう。……目が、覚めたんだ」
「うん、ついさっき起きたところでね。随分長く待たせちまったみたいだな、ごめん」
「……何度も起こしたけど、全然目を覚まさなかった」
「……ホントごめん」
寝起きで低血圧なのか、何日も俺が起きなかったことに怒っているのか、少し不機嫌そうに呟いた。
なんであんなに眠ってたのか俺にも分からん。目ん玉抉り出されたりしてたし、思った以上に魔王との戦いは負担が大きかったみたいだ。
「身体の具合はどう?」
「長いこと寝てたせいか、ちょっと頭がボーっとしてて身体がバキバキ軋んでたりするけど、特に大きな不調は無いよ」
「そう。……ちゃんと起きてくれて、よかった」
いつもの、一見無表情で愛想が無いように見える顔で、溜息を吐く。
今更だけど、御両親はあんなに全力で感情表現してるのになんでこの子はこんな、……いや、あの御両親だからこそか?
きっと、アルマの一挙一動にオーバーリアクションするもんだから、逆にあんまり反応しないようになったとかかな。
長く付き合っていると、仕草や声のトーンなんかでどういう気持ちなのかは分かるようになってくるんだけどな。
ひとまず現状を把握するために、しばしお話タイム。
ギルマスたちの現状とか、御両親修業メンバーの状況とか。
例えばネオラ君はアイテム画面とファストトラベルを駆使して、物資の運び屋として世界各地で活躍してるらしい。
勇者の仕事じゃない気もするが、確かにそれが一番役に立ちそうだ。
……現地の人たちに性別を間違われることに関しては、もう諦めてるとかなんとか。
「大勢の人たちの前で、メニューがイタズラで勇天融合を使って女の子の姿になったりしたから、色んな人から婚姻を迫られてるみたい」
「あはははは、モテモテじゃないか。言い寄ってきてるの男ばっかだろうけど」
「ちなみに、その中にアランも混じってたりする」
「ぶっふぉ!? なにがあったアイザワ君!? ネオラ君が男なの知ってるだろ!? てか、彼ってアルマを狙ってたんじゃないのか……?」
「……『俺じゃ駄目だってのはよく分かった。そっちはそっちで末永く勝手にやってろ』って言われてから、ずっと姿を見せてない」
マジでなにがあった。決戦前にアルマの混じったネオラ君に言い寄ってたって聞いてたけど、あれ以来ネオラ君のほうへ標的をシフトしたってのか?
……まさか彼があっちの嗜好に目覚めるとは。人生なにがあるか分からないなー怖いわー。
「レイナとヒヨ子は?」
「復興の最中にスタンピードが起きないように、このあたりの魔獣のテリトリーで狩りをしてる。あそこまで強くなると、ほとんどレベルは上がらないみたいだけど」
「あー、もう特級職だもんなー。……俺たちも、魔王を倒した影響でえらいことになってるし」
レイナとヒヨ子のステータスをマップ画面ごしに確認してみたが、両方ともLv82にまで上がっている。
人間にしても魔獣にしても、最年少最強じゃなかろうか。
黒竜を倒した時点で、アルマの職業は『エンド・パラディン』へとジョブチェンジしていた。
さらにそこへ魔王討伐の経験値が加算されて、なんかもう凄まじいことになってらっしゃいます。
今のアルマのレベルは109。御両親を一回り近く上回っている。
能力値もスキルも段違いに強くなってるな。平均4500って、鬼先生と互角やん。
ちなみに俺はLv126。……魔王にトドメを刺した、というか結果的にほぼ単騎で倒したことによって、レベルの上がりかたがえぐいことになってるな。
ネオラ君の仲間枠からは既に外れているみたいだけど、それでも能力値が最低でもジャスト8000。気力強化を使えば10万は余裕で超えられる。
今なら真魔解放した魔王とも余裕で殴り合えそうだ。最終形態はさすがに無理だが。
まあ、こんなデタラメな強さなんかもう必要ないだろうけどね。もう魔王いないし。
「早めに魔王を倒したとはいえ、それでも結構な被害が出たみたいだな」
「うん。冒険者や衛兵とか、防衛軍の人たちが頑張ってくれていたから住民の人たちの犠牲は少なかったみたいだけど、それでも数えきれないくらい多くの人が亡くなった」
あの最終決戦の時に、『一番ヤバい戦場にいるのは俺たちだ』なんて思ってたけど、今世代の魔族を相手にする相対的な強さを考えると、各地で戦っていた人たちのほうがよっぽど絶望的な戦いに身を置いていた。
それでも逃げずに立ち向かい、犠牲になった方々には感謝しかない。……黙祷しておこう。
「アルマの御両親も相当暴れてたみたいだな。何気にレベルが上がってるみたいだし」
「ずっと戦い続けてて、最後には魔族が逃げ出してたのを追いかけてたみたい……」
「……まあ、そうなるだろうね」
アルマの御両親担当のエリアは、他と比べても人的被害が格段に少ない。
……ただ、暴れすぎたせいで下手したら魔族よりも街を壊してるかもしれないという地獄。仕方ないのは分かるけども。
「私が起きた時に真っ先に抱き着いてきて、また絞め殺されるかと思った」
「元気すぎだろ。まあ、お互い無事でよかった」
「そのあと、お母さんがとんでもないこと言ったのを聞いてから、また気絶した」
「え、なに言われたの?」
「……『アルマちゃんは、もうすぐお姉さんになります』って、お腹をさすりながら言われた」
「お、おおぅ……。随分と歳の離れたキョウダイが産まれそうですね」
アルマママ、まさかのおめでたである。
……寝起きでそんなこと言われたら脳の処理追いつかんわそりゃ。
………。
しばらくそんな具合に話をしていたが、肝心なことをまだ話していない。
戦いが終わったら、伝えたいことがあった。
……それを口に出したらフラグが立つから、あえて黙っていたけれど。
その言葉は、男性のほうから伝えるのが原則らしい。
それを女性のほうから伝えるのは、一人の男性に対して他にライバルがいたりする場合とか、あまり一般的じゃないとか。
誰が作ったか知らんが、その原則を無視して女性から伝えたりしたら『好きな女に想いを伝えることもできないヘタレ』と男性側が思われることもあるとかなんとか。
……現代日本でこんなルールがあったら、猛反発されて炎上しそう。
言わねばならん。
ものっすごい口を開くのを躊躇しているが、どうしても言わなければならん。
それが、彼女の心を見てしまった、俺の役目だ。
それが、彼女に見られてしまった、俺の想いだ。
「……アルマ。落ち着いて、よく聞いてほしい」
「……ヒカルのほうこそ落ち着いて。身体と声がものすごく震えてる」
アカンアカン、こんな時まで締まらないとかもうカッコ悪いとかそういうレベルじゃない。
深呼吸深呼吸。……ラマーズ法はもうやらんぞ。
「アルマ」
「……なに?」
「一人の男として、君が好きだ」
お読みいただきありがとうございます。
次回で、このお話もとりあえず一区切りとなる予定です。
次々回以降の更新に関してですが、後日談的なショートストーリーをいくつかまとめて書いて投稿していく形になると思います。
要するに、ある程度話が書き上がるまで更新はストップしてしまいます。ストック? ないですゴメンナサイ(;´Д`)
今のところ構想してるのは
・魔族の侵攻で手練れが大勢死んで、後進の冒険者たちの育成が急務。カジカワブートキャンプ。
・現代日本旅行。勇者君たちも一緒に行ってやっぱトラブル発生ががが。
・十年後
こんな感じ。構想だけで細かいところなんも決まってないです。最悪エタる。
>起きたらいよいよ黒トカゲパーティーだー
肉料理ばっかになりそうですが、一応する予定。
今更ですけど、ワニの肉は食べたことあるけどトカゲ肉って美味しいんですかね……?
>いやぁ、酷いオチだった。だが未来永劫伝える。それが貴様の罪だ。
実際、数百年前の勇者が遺した貴重な資料ですので、保存魔法をかけられて数千年は受け継がれていく模様。地獄か。
>なんてオチだwww
真面目なままで退場なんか絶対させません。これそういう小説じゃねーから!
>面白いな、さすがあれを使って魔王を倒すなんて、全然思いませんでした!
倒しかた思いついたのつい先月という無計画。思いつかなかったらどうやって倒してたのやら。




