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末路と未来 と惰眠

新規の評価、ブックマーク、感想をいただきありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。


今回始めは相馬竜太(魔王だったもの)視点です。




魔王城が、崩れていく。

()の身体も、徐々に灰になって消えていく。



『魔王だったころの記憶』によると、頭が弾けて死んだ後に『転生の手鏡』が発動したようだ。

梶川光流のメニューがエフィの実を出したように、魔王のメニューも死の直前に手鏡を取り出していた。



あの手鏡は生贄として捧げた人間の魔力と生命力の総量によって、その効果が変わる。



俺の時はわずかに魔力と生命力が足りなかったために、記憶と知識とステータスは引き継げたものの、『相馬竜太の人格』を引き継ぐことができなかった。

しかもなんの冗談か、転生先がまさかの魔王という始末。

その結果、勇者の強さをプラスされた最悪の魔王が誕生してしまった、ということだ。


では、充分な生贄を捧げた場合はどうか?

その場合、記憶も強さも心も引き継いだ、完璧な状態で転生することができる。

本当ならその状態で転生するべきだったんだろうが、俺にはあれ以上人間を生贄に捧げるようなことはしたくなかった。


そしてもう一つ。手鏡に秘められた最後の機能。

充分な生贄が捧げられたうえで、なおかつ手鏡を犠牲にすれば、生前とまったく同じ状態で蘇ることもできる。

生贄は、世界中で魔族たちが殺した人間たちの魔力や生命力を集めれば充分すぎるほどに足りていた。発動させる条件はとうに満たしていたんだ。


つまり、魔王は『身代わりの護符』と『転生の手鏡』の、二つの保険をかけていた、というわけだ。

もっとも、後者に関しては、あまり期待していなかったようだが。



『身代わりの護符』は、『致命傷を負っても死なずに回復する』効果をもった装飾品だ。つまり、死なないための装備。

それに対し、『転生の手鏡』は『死んだ後に蘇る』効果をもったアイテムだ。そう聞くと、結果は同じように聞こえるかもしれない。


しかし、結果はまるで違う。

『魔王が死んだ』と判定された時点で、全ての魔族は休眠状態に入り、次世代の魔王が誕生するまで姿を消す。


そして『魔王が死んだ後に、その身体は塵となり、消える』。それがこの世界のルールだ。

たとえ蘇生しようとも、一度死亡判定が発生した時点でそれは変わらない。

おそらく、魔王の亡骸をネクロマンサーあたりが傀儡として利用する危険性なんかを考慮してこんなルールを作ったんだろう。

現に、今も徐々に身体の末端から崩れ始めている。もって、あと数分ほどだろう。




手鏡による蘇生がどういう働きをしたのかは分からないが、魔王の人格を通り越して相馬竜太の人格を復活させた結果が、今の俺というわけか。

……もうなにもかも手遅れになって、初めて目が覚めるとはな。


結局、俺の願いは叶わなかった。まあ、そもそも叶うはずなどなかったんだが。

ただ、ユカナとの約束を『無理だ』とすぐに諦めるのは不義理だと足掻いただけのこと。

中途半端に望みを叶えた結果、最悪の魔王を誕生させてしまった。


魔王とは人類の人口調整のために生まれる存在だが、一歩間違えれば人類全てが滅んでいた。

俺のせいで、必要以上に大勢の人間が死んだ。この罪は、死んでも償いきれるものではない。

相応の、地獄へ落ちるとしよう。


俺は、消えるべき存在だ。ここで城とともに崩れ去ろうともなんの悔恨もない。

だがあの二人、梶川光流とそれを担いでいたお嬢さんには、未来がある。こんなところで死ぬべきではない。

……転移魔法を覚えておいてよかった。ファストトラベルがあるから不要だと思っていたのだが、スキルのレベルは無駄に上げていたのが功を奏した。

魔王は転移魔法の対象には含まれないから、魔王(ヤツ)が使うことはなかったようだが。







消えるばかりの身となって座り込んだところで、足元になにかが落ちているのが目に入った。

……ああ、そういえばこんなものを出していたな。



「……はは。最後の晩餐が、ハンバーガーとはのぉ」



包み紙を開いて齧り付き、咀嚼する。

もう誰もいない崩れるばかりの城で食べるハンバーガーは、ひどく味が薄く感じられた。

だが、それでもせっかくあやつが土産に寄越してくれたものだ。このまま無駄にしてしまうのも勿体ない。

半ば意地になりながら、完食した。



馳走であった、梶川光流。


お主は、今生を最期まで楽しむがよい。

俺みたいに、つまらん未練など残さぬようにの。



では、さらば。






















あと例のノートは今すぐ焼き払え。頼む。












~~~~~アルマ視点~~~~~











気が付いた時には、ダイジェルの宿屋にいた。

ベッドの上で目を覚ました時に、お父さんとお母さんが泣きながら抱きしめてきた。

……その騒ぎを聞いてレイナとヒヨ子も一緒になって飛びついてきて、押しつぶされるかと思った。



どうやら、私たちは潰れかかった魔王城から無事に脱出していたみたい。

目覚めた時には、あれからもう一週間も経っていた。


脱出が間に合わないはずの私たちを逃がしたのは、多分魔王が使った転移魔法かなにかのおかげだと思う。

なにを思って私たちを助けたのかはもう分からないけれど、最後に見えた魔王の顔が、……ひどく穏やかで優しい顔だったことをよく覚えている。

もしかしたら、あれが過去の勇者の……いや、もう済んだことだ。下手に混乱を招かないように、このことは黙っているべきだろう。



ネオラたちも無事に脱出できたらしい。

……というか、城の爆発に吹き飛ばされてその勢いで城の外へはじき出される形だったらしいけど。

その際にアランがちょっとした怪我を負ったこと以外は特に問題はなかったようで、復活したメニューのファストトラベルで帰ってこられたらしい。



魔王と戦っている間に世界中で魔族による侵攻があったらしく、数えきれないほどの人たちが犠牲になった。

第4大陸はヒカルが『先生』に依頼をしていたこともあって、他の大陸に比べて被害が少なかったみたいだけど。

どんな先生なんだろう。いつか紹介してもらってお礼を言わないと。


これまで会ったことのあるギルマスたちも全員生還できたようで、今は復興作業にあたっている。

ダイジェルのギルマスは毎日現場で怒鳴りながら、迅速に建物の修繕や復興物資の分配なんかをしている。歳を感じさせない働きぶりだ。


ヴィンフィートのギルマスは一時あの黒いスライムに飲み込まれてしまったみたいだけど、すぐにヒカルの『先生』がスライムを倒したことで無事に生還できたみたい。

……服が溶けて全裸の状態を晒されたから、落ち込みながら仕事してるらしいけど。


ランドライナムのギルマスは全身に酷い傷を負っていて、本当なら絶対安静らしいけど書類仕事の手を止めていない。

ギルマスが動けない間は受付嬢のナイマがギルマスに代わって現場の指揮をしているみたいで、以前見た姿からは考えられないほど真面目に仕事に取り組んでいるとか。


復興作業だけど、思ったよりもスムーズに進めることができているらしい。

カナックマートさんが事前にヒカルから『近いうちに大量の復興物資が必要になるから準備を』と言われていたらしく、世界中に物資を原価同然で配布しているのが大きな要因の一つだとか。

戦いが終わった後のことまで考えて依頼を出していたなんて、どこにそんな時間があったんだろうか。

今回の騒ぎでカナック旅商会の評価がさらに上がって、復興以外の商談も大量に入ってきたと嬉しい悲鳴を上げているとか。







私が目覚めてからさらに一週間ほど経って、復興は順調に進んではいるもののそろそろ皆が疲弊し始めてきた時に、世界中にその放送は流れた。

内容は『勇者ネオライフによる激励演説』らしい。




『あー、あー、テステス、聞こえますかー?』



姿が見えなくても緊張しているのが分かる、どこか上擦った声。

本当ならあまり目立つようなことはしたくないらしいけど、魔王との戦いが終わった勇者の恒例行事らしく、渋々放送を流すことになったらしい。



『……どこも問題なく聞こえているようですね。では、改めまして。世界中の皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは。僭越ながら今代の勇者に選ばれた、ネオライフと申します。よろしく』



時差を考えてか、朝昼晩に対応した挨拶をしている。

……声だけ聴いてると、女の子が喋ってるようにしか聞こえない。

いや姿が見えてても女の子にしか見えないだろうけど、ますます誤解が広がりそう……。



『半月前くらいに、魔族軍の侵攻により世界中に大きな爪痕が残されてしまいました。あと数日でも魔王を討伐するのが遅れていたら、もしかしたら人類は滅亡まで追いやられていたかもしれません』


『侵攻が始まったその日のうちに迅速に魔王を討伐できたことで、どうにか復興のために前へ進むことができている状況です』


『……しかし、戦勝を喜ぶ前に、失った方々、滅んだ街やその他多くのものへ追悼の意をここに込めて、しばし、黙祷を』



そう告げてから一分ほど、放送魔具から一切の音が消えた。

『黙祷を』と聞こえてから、街中の人々が、いやきっと世界中の人々が、目を瞑って祈っている。



『……このたび、魔王を打ち倒すことができたのは、断じてワタシ一人の力ではありません。ともに戦ってくれた仲間たち、背中を押してくれた方々、そして世界中で戦ってくれた皆様の支えあっての功績であると、今もひしひしと感じております』


『ワタシは『勇者』という職業こそ授かってはおりますが、別段特別な人間というわけではありません。軽薄に笑い、短気に怒り、未知を怖がり、すぐに泣き出すちっぽけな存在です』


『そんなワタシでさえ勇者などと呼ばれる資格があるのならば、世界中で戦っていた、そしてそれを支えてくださっていた方々一人一人が勇者と称されるべきでしょう』


『世界中には、数えきれないほどの『勇者』が今も戦い、働いて、生きています』


『ならばどれだけ打ちのめされようとも、必ず立ち上がり、未来へと人の営みを紡ぎ、繋いでいくことができると信じています。そのために、ワタシもできる限りの協力を惜しまないと約束しましょう』


『長々と拙い演説をご清聴いただきましたことに、謝辞を。では、最後に』





『みんな、戦ってくれて、ありがとう。みんな、復興を頑張ってくれて、ありがとう。……みんな、今を生きてくれていて、ありがとう!』





最後にひときわ大きな声で感謝の言葉を述べると、街中から歓声が響いた。

疲れ切っていた人々の顔に、生気が戻ったように見える。まだ頑張れる、と皆の顔に書いてあるかのように、明るい笑顔が戻ってきた。



大丈夫。世界はまた立ち上がれる。

窓から皆の顔を見ていれば、そう思えた。



だから――――――





「………ヒカル」


「………むにゃむにゃ……あと五日……」




………そろそろいい加減起きてほしい。


お読みいただきありがとうございます。



>黒歴史武器メモが元人格を引き出した一因になってそう


でしょうね。なんせ最後に思ったのがそれという。台無しである。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] なんてオチだwww
[一言] いやぁ、酷いオチだった。だが未来永劫伝える。それが貴様の罪だ。
[一言] 起きたらいよいよ黒トカゲパーティーだー
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