メインタイトル回収
新規のブックマーク、感想をいただきありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
今回始めは、魔王視点です。
勇者とその仲間は、全員が虫の息。
唯一動ける梶川光流も、余を傷付けるほどの力は残っていない。
最早勝敗は決したも同然。
後はこやつら全員を確実に、油断なく、容赦せず屠るのみ。
「く、くっ、くくっ……」
すすり泣くような声が、項垂れている梶川光流から聞こえる。
無理もない。あと一歩で余を仕留め、勝利をおさめることができたというのに、手が届かなかったのだ。
……一歩間違えば、ああなっていたのは余のほうだったかもしれぬ。
『泣くな。お前たちは本当によく戦った。……もう休むがいい―――』
「くくくっ、あはははははははっ!!!」
不意に、笑い声が広間に響いた。
項垂れていた梶川光流が顔を上げて、狂ったように笑い出したのだ。
「あひゃはははっ!! ふ、くはははははっ!!」
『……狂ったか。憐れな』
「ははははは、ははは、は、……ああ、悪い。つい大笑いしちまった」
一頻り笑い続け、おさまった時には落ち着いた様子で佇んでいた。
……狂ったわけではないのか。……?
梶川光流が、なにか白い玉を貪り咀嚼している。
林檎かなにかを齧ったかのような快音。この状況で、なにを……?
『今更スタミナの補給か。それとも最後の晩餐のつもりか?』
「ああ、良かったらお前も食うか? 毒林檎、いや毒梨? で良かったら」
『……毒を呷り、自害するか。それもよかろう』
「いやいや、俺にとっちゃむしろ薬みたいなもんだよ。効果は微々たるもんだがな。……だが」
梶川光流が、果実の芯を捨てた。
「お前には、最悪の猛毒だ」
『………っ!? が、ああああっ………!!!』
急に、猛烈な吐き気が襲ってきた。
頭が熱い。手足がまともに動かない。
なんだ、なにが起きている!?
「最後の晩餐の猛毒、たっぷりと味わえ。その苦しさは俺もよく分かるぞ、うん」
『毒、だと……!? 馬鹿な、余に毒物など通じるはずが、まさか、なんらかのスキルか……!!』
呻く余を見上げながら、梶川光流が口を開く。
「スキル? いらねぇよそんなもん。少なくとも、お前をぶっ殺すにはな」
『が、はっ……!!』
嘔吐感に堪え切れず、吐き出したのは真っ赤な血だった。
口からだけじゃない。目からも、耳からも、血が溢れ出てきて止まらない。
『状態異常、回復魔法を……!』
あらゆる状態異常を回復させる魔法【パナシーア】を発動させたが、まるで効果がない。
一秒ごとに頭の中が熱くなっていく。このままでは、脳が焼け焦げる……!!
~~~~~苦しむ魔王を見ながら二個目の果実を食ってるカジカワ視点~~~~~
しゃりしゃり。あー、やっぱエフィの実っていつ食っても美味いわー。
んー、状態異常回復魔法っぽいのを使ったみたいだが、効果ないみたいだ。
よかったー効いてたらヤバかったわー焦るわー。
『………なぜ、何故効かぬ……っ!!』
「そりゃ効かんだろーな。その毒、お前以外には効かないっつーか、すぐに治せるし」
『余は、毒など喰らっておらぬ! 梶川光流、貴様、なにをしたぁぁあああっっ!!!』
ここにきて、ようやく余裕の表情を崩したな。ザマーミロばーか。
「なにをしたって言われてもなぁ。ただ、魔力を遠隔操作でお前に分けてやっただけだ」
『な、に……?』
「俺はスキルを使わずに魔力を直接操ることができる。パイルバンカーみたいに攻撃手段として扱ったり、他人に魔力を譲渡して回復させたりとかな。で、今回はお前に分け与えてやったんだよ」
『余に、魔力を分け与えた……?』
「『魔力過剰供給』って知ってる? MPが満タンの時に魔力ポーションとか、このエフィの実みたいに魔力を回復させるもんを飲み食いしたりして、最大MPを超えて魔力を回復した際に起こる状態異常なんだけど」
『過剰供給、だと……!?』
そう、俺がこの世界にきた初日このエフィの実を食べて、危うくきたない花火になるところだった状態異常、『魔力過剰供給』。
いや、少量の魔力なら暴走しても胃の中身と一緒に吐き出されるんだが、魔王に供給した量は軽く4ケタを超えているうえに、その魔力を全て頭部に集中させた。
気力はほぼ使い切っちまってたが、魔力はまだ大半が残っていた。
それだけ高密度の魔力が暴走すれば、嘔吐だけで済むはずがない。
たとえ頭を切り離しても、その頭が暴走の起点となっているからどうあがいても無駄だ。
ノイズだらけの中で最後の力を振り絞って、メニューさんがアイテム画面からエフィの実を出してくれたからこそ気付けた、最後の手段だ。
「普通の人間が過剰供給に陥っても、スキル技能なんかを使えばすぐに余分な魔力を消費して正常な状態に治せる。だが、お前、魔力と気力を消耗しないんだろ?」
『まさ、か……!!』
「そう。この毒は、お前以外にはなんの意味もない最弱の、しかしお前にとっては最凶最悪の猛毒ってわけだ」
『ぐ、おおぉおおぉおおおっっ!!!』
魔王の頭が焼けた鉄のように、赤熱色に光っている。ちょっとシュール。
もうあと数秒で暴走するなありゃ。
『こんな、こんな、認められるかっ!! 梶川光流っ!! 許さぬ! 貴様を許さぬ!! 貴様さえ、貴様さえいなければ!!』
「ご愁傷様。じゃあ、最後に言わせてもらうか」
『が、ああ、余は、余は! あ、ぁあああぁああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!!』
未練たらたらな絶叫が広間に響く。
魔王の頭が爆発し、焼け焦げた脳漿があたりに飛び散っていく。
ああ、本当に、なんて―――――
「きたねえ花火だ」
それだけ言うと、目の前が暗くなってきた。
あ、やべ、そろそろ、限界っぽい………。
~~~~~勇者視点~~~~~
「……いや、そんなのアリ?」
一部始終を見ていて、思わず口に出してしまった。
あまりにあっけなく、あまりに酷い結末だ。
勝ったのに、誰も犠牲にならずに済んだのに、全然釈然としねぇ!
なんてきたねぇ手だ! グッジョブ梶川さん、アンタ最低だ! あ間違えた、最高だ!
「ヒカルっ!」
決め台詞を言った直後に倒れたカジカワさんのもとまで、アルマが駆け寄っていく。
さっきまで半死半生だったのに、よくあんな元気に走れるな。……ああ、魔王を倒したからレベルアップして回復したのか。
ステータスはまだ確認できないが、レベルが100以上も上だった魔王を倒した影響で、とんでもない量の経験値が入っているのが感じ取れる。
多分、全員軽くLv100は余裕で超えてるな。この力があれば魔王相手にも後れはとらなかっただろうに。……今更か。
「お、終わったの……?」
「皆さん、ご無事ですか……?」
「ああ、皆生きてるみたいだ。……梶川さんが、決めてくれたよ」
こういうのって、勇者が勝負を決めるべきだと思うんだけどなぁ。
それを全部梶川さんに押し付けちまって、なんかもうホント申し訳ない気分だ。
……やっぱ、勇者なんてガラじゃないなオレは。
「あのバケモンをマジでぶっ殺しやがった……。あのオッサンこそ本当の魔王なんじゃねぇか……?」
アイザワが半笑いで顔を引き攣らせながら呟いている。
やめたれ。ちょっと同意しそうになるだろうが。
「……ん?」
全員無事で魔王を倒せたことをどこか未消化感を覚えつつ喜んでいると、地面が揺れ始めた。
いや、地面じゃなくて、城全体が揺れてる……?
まさか、そんな、そんなベタな……!?
「な、なぁ、おれの気のせいかもしれないけど、なんか揺れてねぇか?」
「気のせいじゃないわ、確かに揺れてる……!」
「城が、崩れていってます……!」
やっぱりか! 魔王を倒したら、そりゃ崩れるのがセオリーですよね!
はよ脱出しないと! ファストトラベル……使えねぇ! メニューが眠ったままじゃねーか!
「崩れる前に脱出するぞ! 死にたくなきゃ、死ぬ気で走れぇっ!!」
「マジかよ! もうこちとらヘトヘトだっての!」
「アルマ、早くしなさい! モタモタしてると潰されるわよ!」
「ヒカルが、目を覚まさないの……!」
「ああもう、担いで運ぶぞ! てかレイナの影潜りだったら、ってこっちも気絶してるし!」
『コケェッ!』
梶川さんをアルマが、気絶したレイナをデカいニワトリが背負って運ぶことに。
ああもう、魔王を倒した時点で再召喚の祭壇あたりにでもビューンって飛ばすくらいのサービスしてくださいよ神様ぁ!
お読みいただきありがとうございます。
……魔王のこの倒しかた、思いついたの今年の初めくらいなんで伏線回収でもなんでもないです。
>よし!!こうなったら魔王を食おう!!
その発想は無かった。吹いた。
でも美味い魔王だったらマジで食ってたかもしれないという恐怖。
>単純に計算問題にするなら無限にゼロをかけてやるだけで済むんだが…―――
そんな上等で頭のいい手段は思いつきませんでした(;´Д`)
皆さんそれぞれの予想コメが面白くて、こっちのほう採用したほうがいいんじゃないかと何度も思いそうになります。文才も脳みそも貧弱ゆえ致し方なし。
>メニューさんが最初からその手段を梶川に―――
メニューも、『魔王の強大な能力値に対抗する手段』を優先して策を練っていたので、『能力値の差を考慮しない手段』を模索せざるを得ない状況になって初めて、ということでしょうか。筆者にも分からぬ(;´Д`)
エリクサーとか、色々と倒す手段を皆さまが考察しているのを拝見させていただけるのもとても楽しく、嬉しく思います。誠に感謝。
……我ながらひっでーオチだなぁとは思いますが、どうかご容赦を(;;;´Д`)




