最後のチャンス
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『はぁっ!』
「ういぃっ!?」
魔王が【気功・発徑】を発動し、周囲に衝撃波を繰り出した。
並の戦闘職が使っても相当強い力で吹き飛ばされる技能だ。魔王の能力値で使えばそれだけで大抵の相手をミンチにできるだろう。
あまりの圧力に、壁に磔の状態で拘束される形になった。
まずい、身体が、動かな―――
『【イヴィルレーザー】』
魔王の指から、極太の黒い光線が放たれた。……黒い光線ってなんだよ、矛盾しとるやん。
命中した壁が即座に分解・消滅していく。当たれば今の俺でも即死だろう。
引っ搔くように俺に向かってスライドし、このままではあと半秒も経たずに直撃するだろう。
自分自身にパイルをブチ当てて、回避!!
「ごはっ! ……あっぶなっ!」
辛うじて避けたが、ついさっきまで俺が磔になっていた壁が消滅している。
それを見て、いよいよ死が間近に迫っているのだと、今になって自覚してきた。
『避けたか。あのまま死を受け入れていれば、楽になれたものを』
「じゃあテメェが死んで、一人で楽になってろ!」
『皮肉で言っているわけではない。死のうとも、また生まれ変わるだけだ。余のように記憶を受け継ぐことはできずとも、死後が存在するというだけで安心できるであろう?』
「ふっざけんな! 人生ってのは一度きりだ! たとえ俺が生まれ変わったとしても、そりゃ魂が同じってだけの別人だろうが! テメェみたいに、来世なんかに期待して今を生きることを諦めたりなんかするかバカがっ!!」
ダンジョンで会ったラーヴァ・ドラゴンだって、ほんの数分間だったのに全力で楽しみながら生きることを諦めていなかった。来世に期待なんか全くしていなかった。
次がある、なんて考えてる奴は次の人生でも同じことを言ってすぐ諦めるに決まってる。
……あ、ごめんネオラ君。君は例外だから。泣くな。マジごめん。
さて、啖呵を切ったのはいいが現状をどうしたもんかね。
こっちがいくら攻撃を加えようが、すぐに回復魔法で治っちまう。
弱点の頭部を破壊してしまえば回復する間もなく仕留められるだろうが、弱点に対する攻撃には的確に防御してきやがる。
弱点以外への攻撃は無意味。弱点への攻撃も確実に防がれる。どないせーっちゅーねん。
しかも、こちらは残りの気力がもう半分を切っている。回復ポーションも限られている。
魔王にダメージを与えるには素の状態じゃまず不可能。10倍近い能力値の差を埋めるには気力強化しかない。
それに比べ、魔王はHP・MP・SP全部満タン。
常に全力で動けるし、消耗することもない。
勝ち目は薄い。でも絶対に勝てないってわけじゃない。
そもそも勝つ以外の選択肢なんか俺には許されていない。
出来の悪い頭を総動員し、作戦を組み立てる。
心の中にいる他の四人の意見も聞いて、ひたすら考える。
『そら、次だ。凌いでみせよ』
「うるせぇっ!!」
魔王の繰り出してくる魔法や遠当てを刀で斬り吸収し、魔力操作で跳ね返し、大槌で叩き潰しながらも考え続ける。
十秒にも満たない防御の時間が、どうしようもなく長く感じる。
魔力と生命力はアルマの剣の効果で回復できるからともかく、肝心の気力を回復できる手段がない。
こうして攻撃を凌いでいる間にも、ガリガリと気力が減っていく。
もう迷っている場合じゃない。
すぐに攻勢に出ないと、気力が尽きて詰む。
作戦がまとまった時に、『俺が危ない』とアルマだけ強く反対していたが、もうこれ以外に魔王を倒せる作戦が思いつかない。
反対を押し切って、強引に作戦の実行に移った。
魔力を放出し、その全てを『光エネルギー』へと変換。
まるで太陽が目の前に現れたかのように、広い魔王の間全てが光に包まれた。
それと同時に、思いっきり息を吸って、喉が潰れそうなほどの絶叫を上げた。
「ああああぁぁあぁああああああああ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!!」
『ぬ……!』
目くらましと絶叫の爆音。魔王の目と耳はほんの一瞬だが利かなくなったはずだ。
その隙に、魔王の頭に向かって接近し大槌を振りかぶった。
『子供騙しだな。そして、軽い』
「くぅぅうっ……!!」
呆れ混じりに呟きながら、大槌による攻撃を容易く防ぐ魔王。
『この脆弱さ、もう膂力を強化する力も碌に残っていないのだろう? ……諦めよ』
「がはばぁぁあっ!!」
ハエでも掃うかのように、掌で弾かれた。
それだけで、今の俺には大ダメージだ。HPが尽きて、全身が粉々になりそうなほどの痛みが襲いかかってくる。
床に墜落し、手足が変な方向に折れ曲がった。
口から血を吐き、もう指一本動かせない。
『では、死ね』
トドメを刺そうと、足を上げて俺に向かって踏み下ろそうとしている。
他の一切には目もくれず、ただ俺を殺そうとこちらに集中しているのが分かる。
陽動は、上手くいった。
『が、はっ……!?』
「うああああぁあああああっ!!!」
魔王の口から、光の刃が飛び出した。
魔王の背中から、俺を取り除いた状態の美少女もとい勇者君が、魔王の頭に向かって伸魔刃と魔法剣のコンボで刀を突き刺したんだ。
俺を囮にして、他のメンバーの融合状態で残った気力と魔法剣による火力特化の一撃で、魔王の弱点を攻撃。
危険な策だが、もう、これしか方法がなかった。
「くた、ばれぇぇぇえええっっ!!!」
『ぐぎいぃぃぃいいいいっっ!!』
そのまま魔王の脳を真っ二つにしようと、魔刃・疾風を連続して使っている。
それを、これまでにない必死の形相で、刀身に噛み付きながら堪える魔王。
『ぎぃぃいいいいいがぁぁああああああっっ!!!』
「うぁぁあああっ!!?」
魔王が叫ぶのと同時に、また気功・発徑を使って勇者君の身体を吹き飛ばした。
吹き飛ぶ勇者君に向かって、何発も魔拳・遠当てを放ち追撃している。
『死ね! いい加減、死ねぇっ!!』
「あがぁっ!! うぐがががあああっ!!」
十発近く追撃を当てた後に、勇者君の身体が力なく地面に落ちた。
落ちてから数秒後、融合が解けて四人分の身体が地面に身を預けているのが目に映った。
し、しくじっちまった……!
『はぁ、はぁ、はぁ……! 見事、だ……! あとわずかに貫く位置がずれていたら、お前たちの勝ちだった……!』
息を荒げながら、魔王の傷が回復していく。
最後のチャンスを、逃してしまった。
気力も尽きて、能力値の差を埋める術は、ない。
もう、魔王を倒す手は、残されていない。
だから、どうした。
『! まだ、動けたのか』
「動いてる、んじゃねぇ、よ。動かして、るんだ」
魔力操作で、折れた手足を無理やり元通りの形に戻し、動かす。
痛み以外に感覚がない。運動神経はほとんど死んでるっぽい。魔力操作が使えなきゃ、息をすることすらままならない。
『……驚嘆に値する精神力だ。しかし、どうすることもできまい』
「……」
『もう詰んでいる。もう終わっている。これ以上、戦うことなどできないだろう』
うるせぇ、黙れ。
そんなこと、テメェに言われなくたって分かっとるわ。
『だが、敬意を払おう。せめて苦しまずに、逝くがいい』
魔王が、攻撃魔法を発動させた。
黒い大玉が魔王の掌から放たれ、こちらに迫ってくる。
『触れれば一瞬で消える。安心して、死ね』
防ぐことも避けることも、なにもできずに、ただボンヤリと迫る大玉を眺めているしかできない。
それでも、諦めるわけにはいかない。諦めたら、この世界は、……アルマは、どうなる。
「……ヒカ……ル………」
倒れている四人のほうから、擦れた弱々しい声が聞こえた。
まだ生きている。まだ、助けられる。
でも、このままじゃ、死ぬ。
アルマが死ぬ。それだけは、絶対に、許容できねぇ……!!
「カジカワさんっ!!」
「ガキぃ!! ニワトリぃ!! 死ぬ気で防げぇえっ!!!」
『コケェェェエエエエエッッ!!!』
大玉が着弾する寸前で、聞き慣れた声と鳴き声が耳に入った。
「な……!?」
目の前に、レイナとヒヨ子、そしてアイザワ君が大玉に立ち向かっているのが見えた。
影潜りで、ここまで進んできたってのか……!?
アイザワ君とヒヨ子はマスタースキルで、レイナは短剣で大玉の魔力を相殺・吸収している。
一時的に大玉の進行が止まったが、大玉の威力が高すぎて相殺しきれない。
「【アタッチメント・攻撃力特化】ぁぁぁああっ!!!」
アイザワ君が、剣を構えて叫ぶ。
大玉がみるみる薄くなっていく。
あれは、あの剣の能力か? 能力値を変動させて、マスタースキルの効果を強めたってところか。
「おい、飲め! 死ぬんじゃねぇぞ!」
「ラディア、君……?」
「回復ポーションだ! アンタ、傷だらけじゃねぇか! すぐに飲まねぇと死んじまうぞ!」
同行していたのか、ラディア君が回復ポーションの瓶を口に押し付けてきた。
液体が口の中に入ってくるのを、なんとか嚥下していく。
回復した生命力を操作して、身体の傷を治していく。
どうにか自力で動けるくらいにはなった。
『まだ、仲間がいたか。……無駄なことを』
「む、む、無駄なんかじゃないっす! ど、どんだけアンタが怖くたって、カジカワさんのほうがもっと怖いっす!!」
『コケェ! コケェッ!!』
「……いやお前、その言いかたはどうよ……?」
明らかに怖がりながらも、魔王に向かって啖呵を切るレイナとヒヨ子。俺をダシにすんな。
一応助けてもらったから文句は言わんが。
『無駄だ。お前たちが来たところで、なんの意味もない!』
魔王が地面を殴りつけた。
「うわぁぁああっ!!?」
『コケェェエッ!!』
「が、ぁぁああっ!!?」
スキルもなにも使っていない、ただの拳を地面に振り降ろしただけでこの衝撃。
全員が吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた。
誰も死んでこそいないが、それだけで全員が満身創痍にまで追い込まれてしまった。
いや、違う。
俺だけは、まだ、動ける。
『では、今度こそ、逝くがいい』
魔王が再び引導を渡そうと近寄ってくる。
あと、数秒で、殺される。
頼む。
助けてなんて言わない。
土壇場で都合よく隠された力が覚醒、みたいな安っぽい展開にも期待しない。
ただ、この場で、魔王をぶちのめして皆で帰る方法を、誰か教えてくれ……!!
≪………・……≫
!
目の前に、一瞬だけ見慣れた青い画面が表示されているのが見えた。
め、メニュー、さん?
≪……魔王・……・……・・・…討伐……方・……模索…………≫
ノイズまじりで途切れ途切れだが、確かにメニューの表示が目の前に映っている。
≪・・…・・…該当アリ・…■・…・・‥…討伐可能…・…‥・‥・‥≫
!!?
討伐、可能!? まだ勝ち目はあるってのか!?
その方法はなんだ!
≪・・・・●・・・・‥/…・■・…・・・・‥・≫
ノイズが酷くなってきた。
一時的に復帰したけど、また休眠状態に戻ろうとしてるってのか!?
頼む! 頑張ってくれ! その方法を、教えてくれ!
プツンッ と再びなにかが切れるような音が響き、画面が消えた。
方法を伝える前に、休眠状態に入ってしまったようだ。
く、くそ、くそ! まだ方法はあるってのに、それがなんなのか分からねぇ!
あとちょっと、あとちょっとだったのに……!!
『なにやらメニューと会話していたようだが、無駄に終わったようだな』
魔王の言葉を、項垂れながら聞いていると
俺の目の前の床に、なにかが置かれているのが見えた。
これ、は……?
お読みいただきありがとうございます。
>弱点か〜――――
それは普通の人からすれば、なんでもないようなこと。
しかし、魔王にとっては最悪の毒です。
>お久し振りです、最近忙しくて読めてなくて―――
御感想、誠にありがとうございます。
例の感染症もまだまだ油断できませんし、地震なんかも起こっていますが、私は元気です。
皆様も、どうかご無事でありますように。
>無限だろうがなんだろうが死ぬまで殴って切って貫いて削ってやれば死ぬんだよ―――
実際、もっとレベルが上がればゴリ押しできなくはないという。
でも今回は正攻法とはかけ離れた方法で―――――




