女は怖い。男は痛い。
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暇つぶしにお読み頂くだけでもありがたい事だというのに、こういったカタチで評価を頂けるのは本当に嬉しいです。
今後もお読み頂けたら幸いです。
まず縮地モドキで村人たちと魔獣たちの間に移動。
そして野球ボールくらいの石をアイテム画面から取り出し、魔力装甲で覆った後に魔獣たちに向かって投げた。
投げる力と魔力操作による加速の単純な合わせ技だが、威力はどうかな?
投げた石がイノシシモドキの頭に命中し、メコッと内部にめり込んだ。
脳を破壊された魔獣は即死したようで、ステータスメニューと頭部を赤く染めてそのまま倒れた。
んー、燃費も威力も悪くないけど、パイルバンカーとかに比べると正直微妙。
遠距離攻撃できるっていうのはそれだけで強力かもしれんが、でも縮地モドキで距離詰めてパイルぶっ放した方がMP消費少なくて高威力だな。
まあ飛ばすものや飛ばし方を工夫すれば、もっと強力な技にできる見込みはある。要研究だな。
「お、おい、ありゃ誰だ?」
「いきなり現れたようだが、いったいどっから出てきたんだ?」
「あー、すみませーん! 冒険者ギルドで依頼を受注した者ですがー! あれが件の魔獣ですかー?」
ちょっと距離が離れているのでボリューム高めで尋ねてみた。
「おお、ギルドから来てくれたのか! ああ、そうだ! あのクソイノシシ共が作物を荒らしてる害獣だ! けどあんだけいるとさすがに太刀打ちできん!」
「2、3匹程度ならともかく、あの数相手じゃ対応できねぇ! せっかく来てもらったのになんだがあんたも一旦村に避難しろ! 危ねぇぞ!」
すぐに助けを求める前に、まずこっちの心配をしてくれるとはな。
今のやりとりだけでこの人たちに好感が持てるわー。
とか言ってる間に5匹程のラッシュボアが横並びになってこちらに突進してきている。
ありゃもう目の前の俺や村人たちにしか目がいってないな。
だから、側面から飛んでくる大岩にも気付かなかったようだ。
ゴシャッと派手な音を立てながら、大岩がラッシュボアたちに命中し、その体を圧し潰した。
…今の、アルマの魔法だよな? あのイノシシモドキと同じくらいのサイズの岩がすごいスピードで飛んでったんですけど。
≪初級魔法【ストーンバレット】を魔力操作により大岩を飛ばす魔法にアレンジした模様。中級魔法クラスの威力まで強化されている≫
いやいやいや、アレンジっていうかもうほぼほぼ別物じゃないですか。
本当ならさっき俺投げた石くらいの弾を飛ばす魔法なのに、いったいどんだけ魔力籠めたらああなるのやら。
ステータスを確認してみるとMPが50くらい減ってる。そりゃあんだけデカい岩飛ばしたらそうなるわ。あんまり燃費はよくなさそうだな。
サイズをでかくするより、飛ばす速度や弾の形状をアレンジした方がMPの消費は少なくて済みそうだ。あとで相談してみよう。
…残りの魔獣は逃げたか。
ゴブリンたちと違って仲間意識が薄いのか、それとも分が悪すぎると判断したのかな。
日本のイノシシも子供を置いて逃げる親とかザラにいるらしいし、自分本位の習性でもおかしくはないか。
「…今の岩は、いったい…?」
「あっちに誰か立ってるけど、あの嬢ちゃんが…?」
「見た目かわいい子だけどおっかねぇな……」
村人たちが呆然としながら呟いている。いきなりあんなもんが飛んできたらそらびっくりするわな。
手元が狂ってこっちに飛んでこようものなら即死だろうしな。
…この子もあまり怒らせないようにした方が良さそうだ。アルマママほど怖くないけど。女は怖い。物理的に。
ひとまず落ち着いてから村の中に招かれ、依頼人のジェインウェイク氏の家で詳しい事情を聞かせてもらうことになった。
村の様子を見てみると、野菜や麦の畑が広がっててまるで実家のある田舎の風景を見ているような、どこか懐かしさを感じさせる。
おお? あれ、ビニールハウスか? いやビニールじゃないかもしれんがあんなものまであるのか。
≪【ビニルナ】という巨大なクラゲ型の魔獣の体を乾燥・加工することでビニールのような質感の透明なシートを作ることが可能。それを鉄製の骨組みに被せ、内部を火の魔石と風の魔石を使用した魔道具により温度調整し、年中通して野菜の栽培を可能にしている模様≫
なかなか近代的な栽培方法もやってるみたいだな。
これなら土地を借りることができればバニラの栽培も可能かもしれない。
そのためにもまず魔獣騒ぎを早急に収めないとな。バニラ豆まで食われたらたまらん。
≪バニソイ豆はラッシュボアの大好物なので、事態を収拾しない限り栽培は極めて困難≫
よし決めた。駆逐してやる。一匹たりとも逃がさん! 牡丹鍋にしてくれる!
さて、そろそろ依頼人の家に着くころかな。結構歩いたし。
案内してくれてるおっちゃんが足を止めて、一軒の家を指さした。
「あの緑色の屋根に白い壁の家がジェインウェイクさんの家だ。こないだ大怪我しちまってしばらくまともに動けないから、迎えに出られないのは許してやってくれ」
「道案内ありがとうございました。大怪我というと、やはりラッシュボアにやられたのでしょうか?」
「いや、まあ、うん。ラッシュボアが原因っちゃ原因…かな?」
ん? なんだその奥歯に引っかかるような言い方は。
まあいいか、会って直接聞けば分かるし。
うーむ、なかなか立派な家だな。実家より一回り大きいサイズだ。この村の中でも結構偉い人なのかな。
呼び鈴を鳴らし、返事を待ってみる。
「はいはい、どちらさんだい?」
家の奥から男性の声が聞こえてきた。
大怪我してるって割には結構元気そうな声だな。
「すみません、ギルドから依頼を受注した者ですが、ここがジェインウェイクさんのお宅でよろしいですか?」
「おお、よう来てくださった。ささ、上がってくださいな。ちょっとワシは怪我しとりまして動けんので、扉越しで申し訳ないが気にせず入ってくだされ」
「はい、ではお邪魔しまーす」
玄関の戸を開け、さらに声のした方の扉を開けて中に入ってみると、ちょっと驚いてしまった。
頭も含め、全身を包帯で巻かれている男性がベッドに横たわっていたからだ。
なんとも痛々しい様子に思わず目を背けたくなる。
お、おおう。大怪我とは聞いてたけどここまでひどいとは思わなかった。いったいどうしたらこんな状態になるんだ?
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「ああ、お気になさらず。3ケ月もすれば動けるようになれると医者が言っておりましたから、それほど深刻なもんでもないです」
「そうですか…その怪我は、ラッシュボアにやられたのですか?」
「あー、どう言ったもんですかな。詳しい経緯を簡単に説明しますと、5日ほど前に野菜を収穫する前に育ち具合を見ておったのですが、野菜にばかり目がいっておりまして隣にいる家内の方を見ずに話しかけたんですよ」
「はあ」
「何度も話しかけてるのに返事しないからポンポンと手で背中を軽く叩いてもなんも言わないから、どうしたのかと家内の方に目をやったら、家内じゃなくてラッシュボアがそこにいたんですわ」
「え、えええ?」
「まあ、要するにずっと家内かと思って話しかけてたのが実はラッシュボアに声をかけてたんですな。笑い話ですよハハハ」
いや、普通気付くだろ。奥さんに失礼だぞそれ。
「…で、そのまま襲われて大怪我させられたということですか」
「いーえ、ラッシュボアは野菜を食うのに夢中で、こっちには何の関心も持っておらんかったので無事に逃げられました。野菜は大分食われちまいましたが」
「え? ではその怪我は?」
「で、その時のことを家内に伝えたら大目玉食らって、この有様ですよ。ボコボコにされた挙句こめかみに飛び膝蹴り喰らった時には首が折れるかと思いましたわい。いてて…」
…やったの奥さんかよ! ラッシュボアあんま関係ねーだろそれ!
怒ってシャイニングウィザードかますとか随分アグレッシブな人だな奥さん。いやむしろバイオレンスか。
この奥さんといい、アルマママといい、この世界の女性はみんなこんな感じなの? 女は怖い。物理的に。
あほくさー。真面目に聞いて損した…。
「まあワシのことはどうでもいいです。それよりラッシュボアの異常発生のせいで作物の被害はもちろん、設備を壊されたり、襲われて怪我をしたり、このままでは壊滅的な被害を受けることになるでしょうな。村の者たちで出し合ってなんとか報酬は準備しましたので、どうにか討伐をお願いします。この通りです」
「あ、立たなくていいです! 寝たままでいいですから無理しないで!…分かりました。未熟者の身ですが、できる限り討伐に尽力しましょう」
「ありがとうございます…。戦闘職の者たちにも怪我人が出始めてまして、このままでは蹂躙されるのを黙って見ているしかできないところでした。まあワシ以上に重傷の者はでておらんようですがな。ハハハ」
笑いごっちゃねえよ。いいから寝ててくれ。
…畑を借りたいだとか気持ちが分かるからとか軽い気持ちで受けた仕事だが、ここの人たちにとっては死活問題だ。気合入れて討伐に臨もう。
それにこの村で採れる野菜にも興味があるしな。トマトによく似た野菜があったし、あれがあれば一気にメニューの幅が広がる。収穫したら是非買い取りたい。
…結局根底にあるのは食い気か。魔獣とあんま変わらんな俺も。
お読み頂きありがとうございます。




