その覚悟はあるか
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今回始めは勇者視点です。
21階層から脱出し、なんだかものすごーく見覚えのある遺跡からファストトラベルで移動。
再び魔王城に行こうとしたが、魔王の間には飛べなかった。多分、転移先に魔王がいるからだろうな。
どうしよう、と思ったところで魔王城のすぐ傍にアルマたちがいるのを確認した。
アルマやレイナには残り枠を埋めるためにあらかじめマーキングしておいたから、彼女たちの下へファストトラベルすればすぐに戻ることができる。
……なるほど、ここまで見越して彼女たちを残り枠に推薦していたわけか。でもそれならアルマだけでよくね?
「いや、アンタが男を残り枠に入れることを嫌がるのを、見抜いてたからじゃないの?」
「しかも最後の方は今のネオラさんよりもさらにレベルが上ですし、レベルが追いつくまでに焦れたネオラさんが他の方をパーティに入れないようにあえて嘘の推薦をしていたと考えるのが自然かと……」
……うん。正直言って今でも残り枠は全部女の子で埋めたいと思ってる。
でももうそんなこと言ってる場合じゃないし、レベルの差は会えばすぐに解決できるって言ってたな。ホントかよ。
≪Lv90を超えた時点でとある機能が追加されますから、多分それを当てにしてるんじゃないでしょうか≫
その機能があれば、レベル差をなんとかできるのか?
≪恐らくは。とんでもない量のリソースを貯めこんでいましたからね。まるで別の世界のラスボスを倒したかのような……≫
21階層でなにやってたんだあの人は……。
まあいいや、さっさとアルマたちと合流するか。
魔王城前にいるアルマの傍に転移すると、何人か見知ったメンバーが揃っていた。
全員が驚いた様子で、……いや、さして驚いてない? なんか全員不機嫌そうな顔でこっちを睨んできてるんですけど。
「やっっっと戻ってきたっすね! 待ちくたびれたっすよ!」
「もっと早く戻ってこいよ。カジカワさん、今一人で魔王と戦ってるんだぜ?」
「……こうして見ると、やっぱ女っぽい男だな。あれはただの気の迷いだったみてぇだ、うん」
「おかえり、ネオラ。詳しい話はヒカルから聞いてる。早く私を残り枠に入れてヒカルのところへ急ごう」
「お、おう……?」
すっごい急ぎ足で詰め寄ってくるんですがそれは。一人ばかし変なこと呟いてるけど。
話がスムーズに進むのは楽なんだが、なんだか釈然としねぇ……。
「私を残り枠に加えてから、すぐに融合して」
「その後におれとバレドとラスフィーンとアラン、あとヒヨコが気力操作でアンタを強化する」
「足手纏いが増えるよか、そうしたほうが役に立つって話だ。……気に喰わねぇがな」
「で、強化が済んだネオラさんを自分が影潜りで魔王のところまで運ぶっす」
「あの人、そこまで考えてたのか……」
魔王の計画もシンプルながらえげつない内容だったが、梶川さんも用意周到だなぁ。
もしもなんかの間違いで、梶川さんが魔王の側についたりしたら……多分三日くらいで人類滅びそうだ。怖すぎやろ。
「ボーっとしてないで早く融合しやがれ。で、さっさと魔王ぶっ殺してこい」
「わ、分かってるよ。じゃあアルマ、仲間枠に加えるから手を出してくれ」
「うん」
アルマの手を握り、残り枠の一つに登録。
で、勇天融合発動っと。
オレとアルマ、そしてレヴィアとオリヴィエの身体が光り輝いて透けていく。
四つの光が重なり、束ねられ、混じり合っていく。
……。
………。
………………えーと。
勇天融合ってさ、オレをベースに仲間枠に入れた人の能力や戦闘経験や知識なんかをプラスするスキルなんですよ。
それに伴い少なからず心や記憶、それに感情なんかの要素も混じり合うわけで。
アルマの梶川さんへ抱いている想いが強すぎて、オレにモロに伝わってくるんですが。
……梶川さん、幸せ者だねぇ。爆発しろ。
光が引いていき、融合が完了した。
後はアイザワやラディアたちに気力強化してもらってからレイナに運んでもらうだけ―――
……?
なんか、皆こっちを見て固まってる? どうしたんだ?
「ふわぁ……!」
「す、すっげぇ……こんなの、見たことねぇ……」
ああ、人が融合するところなんかそうそう見られるもんじゃないから驚くのも当然か。
……ん、アイザワが手ぇ掴んできた。あーはいはい、さっさと強化してくれ。
「結婚してくれ」
……。
は?
は?
はぁぁ?
アイザワが、手を掴んだままとんでもないこと口走ってきやがった。
「おい、ジョーク言ってる場合じゃねぇぞ。てかキメェ。オレは男だってさっきお前自身言ってただろうが」
「俺は本気だ。断言しよう、今のお前は、この世で一番美しい……」
「ちょ、マジでなに言ってんだ!? てか目ぇ据わってんぞ、正気に戻れ!!」
待て待て待て! こいつ、こんなキャラだったか!? 明らかに様子がおかしいんだが!
状態表示を確認してみると、【魅了(極大)】(対象:ネオライフ)とか表示されてる始末。
もしかしてアルマと融合したからか? なに? アルマってサキュバスかなんかだったのか?
「あーあーあー……まあ、ここまで美人さんになったら無理ないかもしれないっすけどねー……」
「バレド、見るな。……悔しいが、これは目の毒だ」
レイナが半笑いで、ラスフィーンがバレドの目を塞ぎながらなんか言ってる。
え、なに? オレ、今どうなってるの?
≪いやー……とりあえず、鏡で御自身の姿を確認してみては?≫
見るのが怖いけど、手鏡で自分の顔を確認してみるか。
「……………Oh」
自分の顔に向けた鏡には、………美の化身が映っていた。
赤と銀の前髪に、アルマを思わせる黒が混じり、さらに容貌がもうえげつないくらい魅力的になってやがる。
ただ顔つきが整っているだけじゃない。なんというか、男の本能を狙い撃ちで連打するくらい性的魅力に溢れているというか、……オレの語彙じゃ表現できねぇ。
身体のほうもオリヴィエの影響であちこち大きいのに、それが調和を乱すことなくまとまっている。
認めたくないが、元々美少女だった融合形態にアルマが加わったことでもう非現実性美少女というか、男の理想をこれでもかというほど詰め込んだ超美少女へと進化してしまいましたとさ。
………ダメだ、これはダメだ。可愛すぎる。美しすぎる。
これがオレ自身じゃなかったら、一瞬も迷うことなく愛の告白するわこんなん。
「………なんでこの子、鏡の中から出てきてくれないんだろうなぁ………」
「その発言、ちょっとナルシストっぽいっす」
「俺が一生幸せにしてやる。魔王を倒したら一緒に―――」
「うるせぇわ! さっさと気力強化しろやボケェ!!」
アイザワの顔を2、3発引っ叩いて頭を冷まさせてから、強引に気力強化させる流れにもっていった。
早く梶川さんのところに向かわないと手遅れになるかもしれないってのに、余計な手間とらせやがって……。
~~~~~カジカワ視点~~~~~
「で、その後すぐにレイナに運んでもらって、やっと着いたと思ったら魔王と握り合いになってたから、隙をついて首を刎ねてやろうかと思ったんだが、避けられちまったな」
「魔王も、そう簡単に倒させてくれるほど弱くないさ。助かった、ありがとう」
どうやら、概ね計画通りに事を進めることができたようだ。
……アイザワ君が色んな意味で心配だが。
「っ! 光流、目をどうしたんだよ!?」
「ああ、魔王に抉り取られた。悪いが、回復魔法を頼む」
「いいけど、オレの魔法じゃ欠損は治せないぞ」
「大丈夫、HPさえ回復すれば自分で治せる。……ほら」
「う、うわぁ、マジで目が元通りになってる……」
ふむ、アルマと融合してるなら俺の生命力操作のことも知ってるのかと思ったが、記憶や知識の全部が混じり合ってるわけじゃないみたいだな。
まあ、あんまりプライベートなことまで知られるのは誰だって嫌だろうしね。
「……なるほど、よもや遥か未来へと飛ばされた勇者を21階層で救っていたとは。やはり、お前は余にとって最大の障害のようだな、梶川光流」
魔王が、こちらを睨みつけながら呟いている。
まあ、やっとの思いで勇者を排除できたと思ったのに、すぐに戻ってこられちゃたまらんわな。
「だが、この時代から一時的にとはいえ切り離されたことにより、勇者蘇生の恩恵はすでに失われているのだろう?」
「……まぁな」
「ならば、最早あのような間怠こしいことをする必要はない。今すぐお前たちを皆殺しにすれば、全ては終わる」
死に戻りの恩恵が無くなっていることは既にバレてるか。
「言っとくが、今のオレはさっきよりも遥かに強いぜ?」
「……そのようだ。真魔解放をした余をも凌駕する能力値とは、驚嘆に値する。凄まじいステータスだな」
外にいるアイザワ君たちにしこたま気力強化してもらってるからな。大体能力値7~8万くらいか?
強化されてなくても、多分能力値一万は超えてるんじゃないだろうか。
……待て。
今の魔王の言葉、なにかが引っかかる。
ステータスが、見えてる?
つまりそれは、メニュー機能が復活している……!?
「勇者の恩恵は、大きく分けて三つある」
≪うっ……!?≫
≪……!?≫
魔王がなにかを語り出した直後、俺とネオラ君のメニュー機能にノイズが走った。
いつもの青い画面表示に、ブラウン管テレビの砂嵐のような耳障りな音が響く。
「一つはブレイブスキルをはじめとした、勇者特有の豊富で強力なスキルと強靭な能力値。二つ目は蘇生の恩恵。そして―――」
≪ま、・・…ずい、です・…! これ……・は・・!≫
≪■妨害……・ウィルスに酷似・……・…強制的に……・…機能停止の…・…≫
「メニュー機能の存在だ」
魔王が語っている間に、メニューたちのノイズがどんどん悪化していく。
なんだ、なにが起こってやがる……!?
「余のメニューは不完全な転生により、機能不全に陥っている。いくつかの機能を失ってしまったが、逆に新たな機能が一つだけ増えていた。メニュー機能の不具合を拡大し、他者のメニュー機能にも影響を与える機能だ」
「その機能が、コレだってのか!?」
「その通り。一時的にメニュー機能を強制休眠させる『サポート・ウィルス』とでも言うべき機能。こちらのメニューも休眠状態になってしまうが、お前たちほど深刻な事態には陥ることは無い」
まずい、このままだとアイテム画面に貯め込んでいた回復ポーションなんかも取り出せなくなっちまう。
いや、それよりも!
「メニュー!! 今すぐネオラ君に――――」
≪……『リソース譲渡』・・…既に・…・……完了……・…≫
プツンッ となにかが切れるような音がして、画面表示が消えた。
アイテム画面やマップ画面、ステータス画面なんかを開こうとしても、なんの反応も示さない。
……やられた、まさかこんなことまでできるなんて……!
「さて、互いにメニューの恩恵が無くなったわけだが、回復アイテム等の手持ちは充分か?」
「て、てめぇ……!」
「その様子だと、どうやら大半はアイテム画面に放り込んでいたようだな。恥じることはない、……相馬竜太もそうだったからな」
あのジジイの性格だと、ゴミなんかも大量にアイテム画面に放り込んでそうだな。魔王のアイテム画面、汚部屋説浮上。
……残っているのは、アルマがすぐ使えるように持たせておいた数本のポーションくらいか。
魔王相手には、ちと心許ないな。
「では、早々に処分させてもらうとしよう。…………ぐ、うぅぅ………!!」
魔王が唸りながら蹲った。
苦しんでいるようにも見えるが、違う。
どんどん感じられる力が、いや身体そのものが膨れ上がっていってる。
まさか、最終形態になろうとしてやがるのか……!?
「させっかい!!」
魔王に向かってネオラ君が刀で斬りかかったが、魔王を覆う黒い障壁によって阻まれた。
……変身の途中で攻撃するのはNGってか。
「くっそ……ダメだ、手ごたえがまるでねぇ。突破できる気がしねぇんだけど」
「変身の妨害はできないか。……なら、その間に済ませちまうか」
ネオラ君に向かって、手を伸ばした。
「…………マジでやるつもりか?」
「やんなきゃ、多分勝てないぞ。魔王の力が、さらに何倍にも膨れ上がってやがる。打てる手は全部打っておかないと」
「……えーと、オレのほうがレベルが低いから無理じゃね?」
「メニューさんが休眠寸前に『リソース譲渡機能』でネオラ君に経験値を譲渡した。今のネオラ君は、俺よりもレベルが上のはずだから問題ない」
そう、Lv90を超えた時点でメニューさんには『リソース譲渡機能』という機能が追加されていた。
俺が得た経験値を使用せずに保存しておいて他の人間に譲渡し、強制的にレベルアップさせることができるというトンデモ機能だ。
21階層の時点で例の九尾の狐BBAから得たリソースを一時保存するために、この機能の一部をメニューさんが無理やり開放していたようだ。
誰かに譲渡することはLv90以上にならないと無理だったが、今の俺なら譲渡可能。
かなり膨大な量の経験値だったようで、最後にちらっと見えたネオラ君のレベルはLv94にまで上がっていた。
そこに、俺の能力値をプラスすれば、もしかしたら魔王の最終形態に対抗できるかもしれない。
最終確認のために、ネオラ君が口を開いた。
「……融合したら、一時的にとはいえ光流も女になっちまうぞ。その覚悟はあるか?」
……。
あああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!
嫌だ! 絶対に嫌だ!! なにが悲しくて自分の息子とお別れせにゃならんのか!
でも、これ以外に打つ手が見当たらねぇ! 分かってる! 分かってるけど、チクショウメェ!!
「……………………………………すっごく嫌だけど、もうそんなこと言ってられん」
「じゃあ、やるぞ」
「……やっちゃってちょうだい」
そう告げた直後、ネオラ君が俺の手をとってから、二人の身体が光に包まれた。
……ああ、覚悟していたとはいえ、おお、もう……。
お読みいただきありがとうございます。




