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本当の勇者として

新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。


今回も勇者視点です。


情報交換と相談が一通り終わったくらいに、リアルタイムのパラレシアと繋がってる扉を発見できた。

……いや、正確には現代から624年前のパラレシアらしいが、時間を早く進められる部屋があるらしくそこで624年間分ほど時間を進めてからその部屋に入れば、元の時代に戻れるらしい。


その部屋は真っ白な部屋に数メートル間隔で仕切りがあり、仕切りごとに時計が壁に並べてかけてある、なんともおかしな部屋だった。

……一目見ただけで時空間がおかしい系の部屋だと分かる。



「奥に進み過ぎるなよ、浦島太郎になっちまう」


「……ウラシマ?」


「えーと、下手すると現代に帰るどころか遥か未来に置き去りにされちまうかもしれないってことか?」


「そーゆーこと。奥へ進めば進むほど時間の進みが早く、いやこの部屋の外から見ると遅くなっていくんだ」


「……それも、日本のコトワザってやつなの? よく今の意味不明な単語だけでそこまで理解できるわね……」



似たようなおとぎ話はこっちにもないのかね? リップ・ヴァン・ウィンクルとか。

ひとまず『一秒が扉の外での一年』の地点で600秒、つまり10分。

その次は『一秒が扉の外での一ヶ月』の地点で400秒~といった具合で、慎重に余裕をもって時間を進めることに。



「奥のほうでうっかり一秒でも長く留まってたらとりかえしがつかないからね、まあお茶でも啜りながらゆっくり待とうか」


「……お茶用のテーブルにクッションのついた椅子まで準備してるわこの人」


「先程まで魔王との決戦中だったとは思えないほど、和やかな空気ですね……」



……いや、別にいいけどさ。この人よくこんなに余裕でいられるなぁ。

オレなんかあの魔王とまた戦わなきゃならんのかと思うだけで気が滅入ってくるんだけど。



それも、死に戻りの恩恵無しで。



勇者最大の強みは、何度死んでもすぐに蘇ることができるから、魔王を討伐するまでリスクなしで挑み続けられることだ。

この恩恵がなければ、勇者が死んだ時点で世界が終わる可能性だってある。それくらい重要な能力なんだ。

それが、今のオレにはない。


現代のパラレシアから別の世界、というか未来の死んだパラレシアに飛ばされた時点で、オレは世界そのものに刻まれた死に戻りの術式から切り離されてしまった。

再接続は不可能。神様ならなんとか元通りにできるかもしれないが、仮に連絡がとれたとしても再び接続してくれることは絶対にない、とメニューは言っている。



≪死に戻りの術式は、起動するのもそれを維持するのにも膨大なリソースが必要なんです。それこそもう一人地球から誰か転生でもさせない限り、そんなエネルギーを消費することはできませんよー≫


『リソース』? ってなんだ?


≪広い意味で言えばエネルギーの一種ですねー。というかどんなエネルギーにもなり得る要素、とでも言うべきでしょうか。その『リソース』を、地球人は信じられないほど多く身に宿しているんですよ。スキルが無くてもあらゆるモノになり得る可能性を秘めているというのは、この世界からするととてつもなく膨大なエネルギーを秘めているということと同義なんですよ≫


……よー分からんけど、誰か地球人を生贄にでもしない限り死に戻りは復活しないってわけか。

死刑囚でも連れてきて■してから、そいつのリソース使って再接続とかできないかな。


≪発想が物騒すぎやしませんか!? 無理ですよ! そんなことしたら、今度は地球の神様からペナルティが下されるに決まってます!≫


あー、やっぱ地球にも神様っていたんだな。

その神様の許可がなけりゃやっちゃダメってことか?


≪はい。数百年に一人の条件で、地球で死んでしまった人間をパラレシアに転生させて、その身に宿っていたリソースをパラレシアに還元し、その運び手となった人を『勇者』として転生させているんです。それをパラレシアはもう何度も、何万年もの間繰り返してきました≫


で、今回はオレの番ってわけね。

なあ、それって言っていい情報なのか?


≪よくないです。魔王を倒す前にチクったのがバレたら神様から怒られます。……でも、ネオラさんも薄々勘付いているのでしょう? 本来ならば、魔王を討伐する英雄になるなんて話は、世界規模での茶番劇だっていうことに≫


……まあな。

そもそも魔王や魔族ってのも、人口が増えすぎないための調整装置、つまり間引き屋みたいなもんなんだろ?


≪はい。もしも魔王や魔族が存在せずに人口が増えすぎたら、ネオラさんの……『大石 忍(前世のネオラ)』さんの生きていた地球みたいに、資源の枯渇により緩やかに滅亡してしまうでしょうから≫


こんな話、転生したての人間に言えばモチベ下がるだろうし、そりゃ言えんわな。

まだ魔王を討伐する勇者になってくださいーとでも言ったほうが色々スムーズに話が進むだろうし、特にゲームとか異世界転生モノのラノベとか好きな人間には垂涎ものの話だろう。

……オレがそうだったみたいに。



はぁ……ま、そんなこったろうと予想はしてたから、大してショックでもないけどな。

そんなのは神様側の事情だし、オレがやらなきゃならないことは変わらない。


魔王を倒して世界を救う。

それが、茶番じゃなくて本当の意味に変わっただけだ。

……もう死に戻りができないのは、正直怖いけど。



「おっと、そろそろ来るころだな。皆、これを被って」


「え、なにその変なマント。嫌なんだけど」


「なにか、それを身に着けなければならない理由でも?」


「『天狗の隠れ蓑』っていう、魔力を消費して姿を隠す装備だ。『過去の梶川光流()』がそろそろこの部屋に入ってくるから、それに見つからないようにしないと」



ああ、この部屋を最初に見つけた時の梶川さんがそろそろ入ってくるわけね。……なんともややこしい。

隠れ蓑を被りながらしばらく待っていると、誰かが入ってきたかと思ったらすぐに出ていった。一瞬でよく見えなかったけど、多分アレがその梶川さんなんだろうな。



「ふー、行ったか。じゃあ俺は一足先に帰るから、君たちも頑張ってね」


「なあ、オレたちも早めに出ていったりしたらダメか? 魔王との決戦前にコッソリ隠れながら事前準備とかしたり……」


「やめとけ。一つの世界に同じ人間が二人いるってのは、色々と予測不能な事態に陥る危険性が高いってメニューさんが言ってる」


「それって、どんな?」


「例えば、パラレシアや地球の神様よりもずっと偉い神様からなんらかの天罰が下って、世界ごと滅んだりとか」


「……やっぱ元の時間帯に戻ることにします。はい」



タイムパラドックスとか気にしてるなら、顔を合わせなきゃいいんじゃないかって思ってたけど、神様絡みの問題があるのならどうしようもない。

なにもかも消えるリスクを冒してまでそんなことする必要はないし、大人しく元の時間帯まで待つとしよう。




元の時間帯まで経ったくらいに扉の外へ出て、再び21階層へ。

リアルタイムのパラレシアへ繋がっている扉を開けば、帰ってこられるはずだ。


……死に戻り無しでの、仕切り直しか。



「あーあ、こっから他の世界、それこそ日本にでも逃げられたら、どれだけ気が楽か」


「ネオラさん、それは……」


「ちょっと、まさか今更尻尾撒いて逃げる気?」


「ちょっとした愚痴ってやつだよ。逃げられないことなんか分かってるし、逃げるつもりもない。ただ……」



これまで、何度も死んできた。

レヴィアとオリヴィエにも、同じ苦しみを味わわせてきた。

次は、許されない。


オレはいい。死ぬのは怖いけど、地球で一度死んだ身だ。仮に死んだとしても、元々終わるはずだった人生が本当に終わるってだけなんだから。

でも、レヴィアとオリヴィエは違う。


この二人を気軽に同行させていたのは、死に戻りの恩恵があったからだ。死なせる心配が無いからこそ、魔王を倒すために仲間になってくれなんて言えたんだ。

でも、今は違う。死んだらそこで終わりだ。

だから、絶対に死なせるわけにはいかない。



「死なないでくれよ、二人とも」


「はん、一番死んでるアンタに言われたくないんだけど? それより自分の心配しなさいよ」


「それに、融合するのですから一蓮托生ですよ。ネオラさんが生きている限り、私たちも大丈夫です」



……ごもっともで。

こうなったら、意地でも魔王ぶっ飛ばしてハッピーエンドになだれ込んでやる。

さて、帰るとしますか。確かあの木の扉の隣だったな。








コンコン と、その木の扉からノック音。


……え? ここの扉って、開けなけりゃ安全なんじゃないのかよ?

ヤバい、このままだと扉の向こうからバケモノでもこっちに入ってくるかもしれない!

……落ち着け、ここは冷静に、丁重に、開けないようにお断りさせてもらおう。

ええと、なんて言えばいいんだどうしようどうしよう入るなとか言ってかえって入ってこられても困るしどう言えばいいんだああもう悩んでる時間はねぇ!



「入ってます」


「アッハイ、すみません」



アホかオレは! トイレの中かっつーの! もっと他に言いようがあっただろ!

そして普通に返事しやがったよ扉の向こう側の人! なに? トイレ行きたかったの?

……これ以上変なもんに絡まれる前にさっさと元の世界に帰ろう。ノックされた時に心臓止まるかと思ったわ……。


お読みいただきありがとうございます。



>ハーレムに入ってないけど、合体はしているためNTR成功と言っても―――


アルマが勇者にNTRかと思ったら勇者がNTRとか、これもう分かんねぇな。


>意外なキーパーソンと聞くとMr.サタン思い出します。


子供のころは某野菜人の主人公やそのライバルのM字がお気に入りだったのですが、大人になって読み返してみるとサタンなんかのサブキャラの魅力にも気付かされますね。


>相変わらず扉がカオスw


扉によっては開けた時点で即死する扉なんかも極々低確率ながら混じってますが、そこは幸運値先生のおかげで回避している模様。

悪夢の中でずっと青白い場所で探し続けている彼の元ネタの場所は、初見で死にまくったなぁ……。

前髪の一部が黒い銀髪の少女、いったい廃棄物何番なんだ……(棒


>カジカワさんが勇者ちゃんを寝取るというのは思いつかなかった―――


言いかたぁ! 違うから、そんなことにはならないから!

魔王は勇者の転生体だからか、間接的にも直接的にも人間を殺しまくった結果幸運値が下がっていき、0になってしまったようで。黒歴史はそっとしといて差し上げて。


>ステータス偽装のアイテム手に入れた所で、梶川の腕を食べた娘―――


あ、そうそう、関係ないけど、次回作も書き始めてたりします。関係ないけど。関係ないけど(すっとぼけ

レベルの件ですが、その通り。現在の勇者ちゃんはLv89、梶川はLv91ですので今のままじゃ融合できません。今のままでは。


>採取形態があるなら、クラフト系のチートかな?―――


ごめんなさい誤字修正させていただきました勘弁してください(;;´Д`) ……なーんでこんな誤字見逃すかなぁ……。

神のところにも行けますけど、神は基本的に直接干渉するのはNGですのでなんの助けにもなりません。あと吉良さんは懲りずにまた異世界旅行中。なんかポストアポカリプスっぽいところで商売やってるらしいですよ?

アルマはともかくレイナを推薦した理由についてはまた後日。まあ、残り枠を確保しておくために適当な口実を言ってただけって話なんですが。


>このごに及んでNTRとか別の意味で勇者やな。―――


みんなそんなにNTRが好きか。脳破壊されすぎやろ。

アルマの容姿やキャラは勇者にとっても魅了的に感じるようで、梶川がいなけりゃ絶対にハーレム入りさせてたでしょうね。アルマが梶川好きすぎるのを見て諦めてるみたいですが。


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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] 元々人間の残基はひとつなんだよ…?ひとつの命しかじゃなくてひとつの命もなのに、
[一言] 入ってたんお前かい! レベリングとか異物集めとか出来んかったんかぁ オーマイゴット、ファッキューダイですわ ところで、資源枯渇って言うけどアレも毎年のようにそうなるとかならんとか2転3転し…
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