21階層脱出前に出会った『彼ら』
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今回は少々時間を遡って、未来に飛ばされた時点の勇者視点です。
ここにはなにもない。
今はもう誰もいない。
マップ画面を確認しても、どこまでも草の一本すら生えてやしない。
何度も何度も確認した。でも、結果は同じ。あるのは既に死んだ星の大地。
……そのはずなのに、マップ画面に前触れもなく急に一つの反応が現れた。
そして、その対象はオレの知っている人物だった。
もしかしたらこの反応もすぐに消えてしまうかもしれないという不安がよぎり、全速力でその反応の下へ向かった。
向こうもこちらに気付いたらしく、近付いてくる。
互いの姿がはっきりと見えるくらいまで近付いた時に、思わず涙ぐみそうになった。
「おぉーーーいっ!!」
力いっぱい叫んだ。もう夢でも幻でもいいから答えてほしかった。
その気持ちが伝わったのか、向こうも手を振ってアピールしてくる。
ようやく目の前まで距離が縮まった時には、息切れしながら半べそかいている有様。
我ながら泣いてばっかだな。でも、こんな状況じゃ誰でも泣きたくなるっての。
マップに現れた反応の主は、オレと同郷の日本人、梶川光流その人だった。
……いや、どうやってこんなトコに来たんだこの人?
「はぁ、はぁ、か、梶川、さん、アンタ、なんで、ここに……?」
「お、おう? いや、君らもなんでこんなトコにいるの?」
「せ、戦争中に魔族の幹部を倒してからすぐに、魔王に拉致られて一騎打ちになって、その最中にここに飛ばされたんだ」
「は? いや、え? ちょ、ちょい待って。今の説明の情報量が多すぎる。戦争って、どっかで大きな争いごとでも起きたのか? てか、魔王に拉致られた!? どゆこと!?」
……? なんか違和感が。
オレの説明が下手だったのかもしれないけれど、ちょっとこの反応はおかしい気がする。
まるで第3大陸での戦争のことを知らないような言い草だけど、アンタあちこちでアホみたいに暴れまわってただろ。
「つーか、今はジョブチェンジのために勇者の試練を受けてる真っ最中じゃなかったのか? なんで戦争なんかに参加してんのよ」
「は? いや、勇者の試練なんかとっくに終わってるっての。あの時アンタが遺跡をぶち抜いて一気に最深部まで――――」
≪ストーップっ! ……もしもし梶川さん、ちょっと質問よろしいですか?≫
オレが話してる最中に、メニューが大画面で割り込んできた。
急に表示された画面に梶川さんが目を丸くしている。
「うわビックリした。えーと、これはそっちのメニューさんかな? どしたの?」
≪梶川さん、あなた、今現在なにをしていらっしゃる最中でしょうか?≫
「え? どういう意味? ……えーと、俺は今21階層から脱出しようとしてる途中で、たまたまここに繋がってる扉を開いたトコだけど」
「……21階層?」
待て待て、頭が混乱してきた。
どういうことだ、いったいなにが起きてるんだ?
「で、調べてみたら何百万年後の死んだパラレシアだってメニューさんが言って、生き物もほぼ死滅してるみたいだなーとか思いながらマップを見ていたら、君たちの反応があったからこうやって近付いてきたわけ」
≪………なーるほど。随分とまぁややこしい状況のようですねー。……しかし、どうやら最悪の事態は回避できたようですね。ふぅ、一時はもうダメかと思いましたよー……≫
いやだから待てや! お前一人で納得すんなや!
こちとらもうワケワカメなんですが! 説明を要求する!
≪はいはい、順を追って説明しますからそんなカリカリしないでくださいよぅ。今日生理ですか?≫
生理があってたまるか。いいからはよ、説明はよ。
………。
目の前にいる梶川さんからの情報を現在の状況と照らし合わせ、メニューが現在の状況を解析した結果を表示してきたが、理解はできてもイマイチ納得がいかない内容だった。
簡単に説明するとこんな感じ。
① オレ、魔王にハメられて数百万年後にタイムスリップ。
② 勇者蘇生の術式から切り離されてたから、死に戻りができなくなった。時間を遡行する手段でもない限り帰れない。要するに詰み。オワタ。
③ ……かと思ったら、21階層を攻略中の『過去の梶川さん』がこの時代へ繋がる扉を開き、オレたちを見つけて合流。今に至る。
21階層は時間も空間もグチャグチャの無秩序な階層で、過去現在未来問わずありとあらゆる時代や異世界、あるいは並行世界なんかにも繋がっている。
で、その21階層の扉の中に『数百万年後のパラレシア』に繋がってる扉があって、たまたまそれが魔王に飛ばされた時間とほぼ同じ時間に繋がっていた、というわけだ。
……いや、それ、もうご都合主義とかそういうレベルじゃないだろ。どんだけ奇跡的な確率を引き当ててんだよこの人は。
「……自分で自分の運の良さが怖い。幸運値先生仕事しすぎやろ」
「魔王の幸運値が0なのも関係してるかもな」
「なんにせよ、過去のカジカワさんがここにいるってことは、この人についていけば元の時代に帰れるってわけね」
「よ、よかった……もう、二度と帰れないかとっ……!」
レヴィアとオリヴィエが涙ぐみながら安堵の声を漏らしている。
……うん、ホントによかった。てっきりオレは梶川さんに裏切られてこんなとこで一生を終えるのかと、本気でそう思っちまうところだった。
それどころか、この人がオレたちを救ってくれるキーパーソンだったっていうのに。……うわ、なんかすっごい申し訳ない気分だ。
「……えーと、俺もリアルタイムのパラレシアの扉を探してる最中なんだけど、見つかるまでもうしばらくかかりそうなんでそのへん了承しておいてね」
「帰れる見込みがあるならいくらでも待つよ。……本当に助かった、ありがとう」
内心罪悪感があるにはあるが、『見捨てられたかと思ってた。疑ってごめん』なんて過去の梶川さんに言ってもイミフだろうし、ひとまず礼だけ言っておく。
『気にしなくていいよ』とだけ言いながら、21階層ってところまで案内してくれた。
21階層は右も左も上も下も扉だらけで、なんというか平衡感覚とかが狂いそうになる不気味で不思議な場所だった。
扉の種類も数も様々で、中には扉といっていいのか分からないようなのまである。
「うーん、どの扉だろうなー。ここか?」
梶川さんが鉄製のドアを開けると、中には前髪の一部だけ黒い銀髪の女の子が鎖に繋がれて蹲っているのが見えた。
こちらを見向きもせずに、ただ体育座りの状態でなにかをブツブツ呟いている。
「あ、違うわ。お邪魔しました」
バタン と迷わず扉を閉めおった。
……待て待て、なんだ今の。てか誰だ。
「……いや、今の放っておいていいのか?」
「いちいち気にしてたら何年経っても帰れないぞ。どんな事情でああなってるのかも分からないし、深入りするとロクなことにならないって俺の勘が言ってます」
うーん、今の子チラッとだけしか見えなかったけど、なかなか可愛い子だったような。てかスタイルもかなり良かった。
「なに鼻の下伸ばしてんのよこのドスケベが!」
「イタァイ!」
とか考えてたらレヴィアに蹴られた件。……はいはい、もう次行きましょ。
ガチャリ
「なぁ、アンタ、オレの目玉を、知らないか。落としちま―――」
バタン
「はい次」
「……なんだよ今の……」
「ここじゃああいう出オチみたいな扉が大半占めてるから。考えたら負けだ」
虚ろな目で梶川さんが語る。……多分、今までもずっとこんな具合で探索し続けてたんだろうな。
……その後も何十枚も扉を開けて元の世界への扉を探し続けた。
その間に互いに情報交換をし合って、元の世界へ帰った後にどうするべきかを相談しつつ探索することに。
「下手に未来を知ると、もしも教えてもらった情報と違った行動をとった時にどんな事態になるか予測できないから、おおよその情報だけ教えてくれないか」
「ああ、タイムパラドックスってやつか?」
「うん。メニューさん曰く、下手したら世界そのものがリセットされかねないらしいから、言っちゃヤバそうな情報は伝えないように頼む」
「なにそれこわい……」
あんまり細かい日数とか教えるとヤバそうなので、『大体一週間くらい』とかあえて曖昧な言いかたで今後の情報を梶川さんに伝えておく。
これで梶川さんが向こうに戻った時に、人類側がある程度有利に立ち回れるように色々と手を回してくれるはずだ。
「それにしても、魔王相手にたった3人で挑んだのか?」
「フルメンバー揃える前に拉致られたんだっての。未来の梶川さんからは『アルマとレイナをメンバーに入れて融合した後に、影潜りと魔法剣のコンボで奇襲して魔王を倒して』って言われてたけど」
「んー、悪くない作戦だけど、正直言って魔王の最終形態相手じゃちょっと能力値が低い気がする。……ん、メニューさんどうしたの?」
勇者の仲間枠の残りに誰を入れるべきか相談していると、梶川さんのメニューが画面を表示してきた。
≪残り二人分の枠に入れる人物の提案。一人はアルマティナ。もう一人は……≫
………。
いや、うん。
正直その発想は無かったわけじゃないけど、どうなんだそれは……。
「……えー。いや、それ、勇者の強みの大半が無くなると思うんだが」
≪それを補って余りあるほどの効果があると推測。『真の勇者』の仲間枠に加入した者は、能力値が大幅に上昇するため、このメンバーならば融合したうえで気力操作を適切に使用すれば、魔王に勝てる可能性が一番高いと推測≫
「……それで、勝率は?」
≪……約50%弱程度と推測≫
「一番高くて50%もないのかよ……」
……オレも梶川さんも正直気が進まないが、この際四の五の言ってられん。
それ以外に入れるべき人も思いつかないし、戻ったらまずアルマと合流して、最後の一人とも融合して魔王に挑もう。
……できればオレ以外は全員女の子を入れたかったなー。アルマも合流するっていうのなら正直このままハーレムに入ってくれても あ、梶川さんゴメンナサイそんな人を眼力だけで睨み殺すような顔でこっちを見ないでくださいすんませんマジスンマセンでした!!
お読みいただきありがとうございます。
>こんな場面でも、さらっと惚気る主人公(笑)―――
最早アルマ以外の女性を異性として意識できなくなってるくらいにはゾッコンです。でも年齢差とか気にしてるのか未だに自分からスキンシップをとることすら躊躇っているという奥手ぶり。ヘタレ。
>他の二人と勇天融合したときた口調とか変わらなかったのに―――
口調というか、梶川光流に対する対応に影響があるという具合でしょうか。
……ちなみに融合してるネオラ君にもアルマの感情が混ざってるので、梶川を異性として見てしまうのを自分のものではないと意識的に否定し続けなきゃならんという地獄。




