ギルマスたちの戦場 そして、遂に動く
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今回始めはダイジェルのギルマスことヴェルガランド視点です。
魔族たちが、ダイジェルの街を焼き払っている。
一体一体が上級職、いや特級職に迫る超強力な個体。
そんなのが、分かってるだけで十数体もこの街に攻め込んできやがった。
「無理に倒そうとするなぁっ!! 防衛に努めてとにかく耐えろっ!!」
「相手は特級職並みの怪物たちだ! まともにやり合おうとなんか思うな!」
「ま、マスター! 東門のほうからも、魔族たちが攻め込んできたようですー!」
「クソが! 結界を絶やすな! スクロールも魔道具も惜しまず使え! 戦いの後のことなんか考えるな、とにかく今を凌ぐことだけを考えろっ!!」
『指揮官』としての能力をフルに使って、人員の能力を強化しつつ魔族の侵攻を食い止めているが、このままじゃ駄目だ。
もってあと一時間、いや下手したらもう数分も耐えられないかもしれない、ギリギリの攻防。
こんな小せぇ街にいったいどれだけの数を投入してきてんだ!
魔族が魔法を放つたびに建物やら施設やら無残に壊されていくってのに、こっちがいくら攻撃しようともケロッとしやがって!
「遠隔魔石爆雷の設置を急げ! アレがあればちったあまともに対抗できるはずだ!」
「え、A区画への設置、完了いたしました!」
「誘導してから一気に起爆しろ! その間に他の区画への設置も急げ! もたもたしてると皆死んじまうぞ!」
カジカワから受け取った怪しげな魔道具は思った以上に有効みてぇだが、量産期間が短すぎて数が限られてる。
コイツがなきゃとっくにダイジェルは滅んでただろう。だが、これも一時しのぎにしかならねぇ!
せめてこっちにも特級職の戦力がいればもう少しマシな抵抗ができるだろうが、手練れの戦力は概ね大きい街や都市に回されてて、この街にまで回ってこねぇ。
他の街に避難しようにも、準備もなにもできちゃいねぇし、そもそも安全な街なんざもうどこにもねぇ。世界中が戦場と化してやがる。
……こりゃ、下手すりゃマジで世界滅亡かもな。
「魔石爆雷、起爆! ……ダメです、多少の手傷は負わせたようですが、魔族、活動続行!」
「ちっとでも手傷負わせたなら上等だ! 魔法でも弓でも遠当てでもなんでもいい! 撃て! 撃ちまくって息つく暇を与えるな! いいから撃てぇっ!!」
我ながら無茶な指示ばかり出している自覚はあるが、足止めをするだけでもこうやって死力を尽くさなければ瞬きほどの時間も稼げない。
犠牲になった衛兵や冒険者の数は既に30を超えている。おそらく、この先さらに増えていくだろう。……俺も含めて。
「マスター! こ、ここは危険です、早く後方へ!」
「うるせぇな! テメェこそ受付嬢のくせになんでこんな前線に出てんだ! 下がれ!」
「し、指揮官のあなたがやられれば状況が一気に瓦解してしまいます! 絶対にマスターは死んではいけません! お願いですから下がってー!!」
俺の怒号にネイアが半泣きになりながら、それでも自分の意見を曲げずに食って掛かってくる。
……普段は頼りないクセに、こんな時だけ一丁前にものを言いやがって。
俺だって好きで前線なんかにいるわけじゃねぇ。
だが、指揮官の強化能力は指示対象との距離が近ければ近いほど、効果が増大していくという仕様がある。
要は後方でぬくぬくと踏ん反りかえって指示を出すより、前線で怒鳴ってたほうが役に立つってこった。
並の相手なら安全圏で指示を出すだけでも充分効果があるが、こいつら相手じゃ気休めにもならねぇ。
ちっとでもマシな手助けをするには、こうやって前線まで足を運ぶ必要がある。
だが、そんな無茶をしても魔族の戦力を考えれば無いよりマシ程度の補助強化でしかねぇ。
くそ、こちとら六十路超えてるジジイなんだぞ! ちったあ手加減しやがれってんだ!
「け、結界防壁、最後のラインまで追い込まれました!」
「このままでは突破されます! どうすれば、どうすればいいんですか!」
「せめて、住民だけでも転移魔法で避難を……」
「バカ、そんな便利なもん誰も使えねぇよ! 第一、避難っつったって他の街も似たようなもんだっての!」
「し、しかし、結界が突破されれば、もう抗う術はありません! このままでは全滅です!」
せめて特級職がいれば、俺のスキル技能と補助魔法を併用して対抗できるレベルまで強化できるんだが、無いものねだりしても仕方ねぇ。
考えろ! 考えろ、考えろ! 今ある手札で、この状況を打開する方法を……!
最後の防衛ラインが、ガラスを割るように砕かれた音が聞こえた。
「……ふん、手こずらせおって。害虫どもが」
結界を砕いた魔族たちが不機嫌そうな顔で、そう呟いたのが聞こえた。
……終わりか。
住民たちも、俺たちも、悲鳴どころかもう呻き声すら漏らせないほどの絶望感を味わっていた。
~~~~~ロリマス視点~~~~~
「走って! 早く走って! 死にたくなかったらさっさと走って逃げろ!!」
「イヴランちゃん! その先の十字路に魔族きてる!」
「ああもう、しつこいったらありゃしないよ!」
バカ姉と連携しつつ、住民たちを魔族たちの襲撃から守ろうと必死こいて誘導してるけど、それだけでも命がけだ。
特級職並みの魔族が、合計で約20体。こんなもん対抗できるわけがない。
あの最強夫婦でもいたのならなんとかなるかもしれないけど、この街にはバカ姉しか特級職がいない。
まあ、それでもこの街はまだマシだ。
ヴェルガの管轄のダイジェルなんか特級職どころか上級職すら数が少ないし、下手すりゃもう滅んでてもおかしくない。
極端に言えばあの暴食スライムが20体いるようなもんだし、もう絶望しかない。
魔力ポーションを何本もがぶ飲みしながら精霊魔法で魔族の動きを妨害してたりするけれど、そろそろヤバそう。お腹タプタプになってきた。うっぷ。
「はぁ、こりゃ今日でアタシも終わりかもねー。まあ、三百年も生きてきたんだし、もう充分か。ハハハ」
「バカ言ってんじゃないよバカ姉! こちとらまだ百年も生きてないんだよ!? やりたいことがまだ山ほどあるし、寿命の短い人間たちはもっとだろうよ! 勝手に諦めたようなこと言ってないで手ぇ動かせっ!!」
「はいはい。……ふー、愛しの妹がこんなに頑張ってるのに、アタシが弱音吐いてちゃ立つ瀬がないってね。ごめんねイヴランちゃん、後でハグしたげるから許してねー」
「やめろシスコン。キモイ。アンタだけ先に逝ってこい」
「ひどくね!?」
……ははは、まだ軽口を叩くくらいの余裕は残ってたみたいだ。我ながら驚きだよ。
こんなこと言ってるけどバカ姉には、……アイナ姉には感謝してる。
とか内心こっ恥ずかしいこと考えてたら、ギルドの職員が大慌てで連絡を寄越してきた。
「たっ、大変です! 神父様が魔族に洗脳魔法で操られて、例のカードを……!!」
「例の、カード? ……え、まさか、ちょっと待てよオイ!!?」
オイオイオイふざけんな。もう今の状況でお腹いっぱいなんだよ。精神的にも身体的にも。
飛行士君が再封印したカードは新しい保管庫に神父様が保管してたけど、まさかアレを再び……!?
「っ!! イヴランちゃんっ! そっち行っちゃダメ!!」
「へ?」
アイナ姉が珍しく厳しめの声で叫んだのが聞こえた直後、目の前に黒い津波が街を飲み込みながら迫っているのが見えた。
……あ、ダメだこりゃ。死んだ。
~~~~~コワマス視点~~~~~
視界の左半分が真っ黒に染まっている。
なにも、見えない。……左目が潰れたか。
「ぎ、ギルマス! もう無理です、逃げましょう!」
「ああ、逃げろナイマ。お前は一人でも多く住民や職員を逃がせ。下手に他の街へ逃がすよりも、まだ魔獣草原にでも逃げたほうが生存率は高いかもしれん」
「ギルマスも逃げるんですよ! そんなボロボロで、戦えるわけないじゃないですか!!」
ナイマの声が、片耳からしか聞こえない。
鼓膜も片方やられたか。……次に鏡を見るのが怖いな。
こんなことなら、もっと私個人の力を鍛えておくべきだったか。
個の力など、群に比べればたかが知れていると思っていたのだが、まさか個々の力がこれほど強力だとは。
……この町の冒険者や衛兵では、無理だ。
現役に比べ勘が鈍っているのもあるが、たとえ万全の状態であってもこの魔族たちには勝てないだろう。
一体一体が第5大陸で見た白い魔族と同等以上の強さとは、反則もいいところだ。
「随分粘るな。どうしようもなく弱いことを除けば、敬意すら覚えるぞ」
魔族がゆっくりと拍手をしながら、下卑た笑い声を上げている。
……口先だけの賛辞に、酷く苛立ちを覚える。
「ぬかせ。まだ、私は、倒れて、いない……!」
「そうか、根性だけは一人前だな。……だがっ」
言葉の途中で、魔族の姿が視界から消えた。
まずい、見失った。どこからくる、左目が見えない、死角から……っ!
胴体に、まるで猪の突進でも受けたかのような猛烈な衝撃。
壁まで飛ばされている最中、魔族が片脚を上げているのが見えてようやく自分が蹴られたのだと分かった。
壁に叩きつけられて、後頭部と背中に激痛が走るのと同時に血反吐が口から漏れた。
鼻の奥にツンとした刺激が走る。全身に痛みと熱さと冷たさがごちゃ混ぜになったような感覚が襲いかかってくる。
……身体が、動かない。
「がっ、はっ……! はぁっ、ぁっ……!!」
「……惨めなものだ。どれほど立派に立ち向かおうとも、弱ければなんの成果も上げられぬ」
「お前はよく戦った。今、楽にしてやろう」
魔族たちがゆっくりとこちらに歩を進めていくのが聞こえる。
……これまで何度か死を覚悟したことはあったが、今回はこれまでとは比べ物にならないほど死の気配が近いのが分かる。
魔族の足音が、死神のそれに聞こえる。……事実、そうなのだろう。
ナイマは、他の者たちはうまく逃げられただろうか。
私はいい。もういいんだ。
ただ、他の誰かが生き残ってくれれば、それで……。
「おい、向こうから人間どもが逃げようとしているのが見えるぞ!」
「あの方向は魔獣のテリトリーじゃないか。ヤケになって進む方向を間違えたか」
「いや、広いテリトリーに広がって逃げられたら全員殺すのが面倒だ。今すぐ追って皆殺しにしろ!」
……やめ、ろ。
やめて、くれ。
たのむ、もう、だれにも、死んでほしく、なんか……っ!
「……だれ……か……」
「んん、なんだ、遺言か? それともこの期に及んで泣き言でも漏らしているのか。はっ、少しは見所があるかと思ったが、所詮人間などこの程度か」
無様でみっともなくて、本当なら死んでしまいたいほど恥ずべきことでも、なにかに縋らずにはいられなかった。
たのむ、頼む……。
だれでもいいから、たすけて、くれ………!
「さぁ、死ぬがいい。案ずるな、すぐ楽になる」
魔族が、私にトドメを刺そうと、腕を振り上げた後
その魔族の首から上が無くなっているのが見えた。
『………グルッ』
まるで魔獣の唸り声のような、しかしどこか知性を感じさせるような声が聞こえたかと思ったところで、私の意識は途絶えた。
~~~~~とある、鬼神視点~~~~~
「な、なんなんだこいつはぁぁぁああああっ!!?」
「し、真魔解放を あぎゃぁっ!!!」
脆い。
弱い。
話にならぬ。
「ま、待てぇっ!! 貴様、なんのつもりで我らを」
『グルッ』
「おごぁぁあっ!!」
「て、テイムされているわけでもないのに、なぜコイツは人類に味方するのだ!?」
ほんの少し小突いただけで有象無象共が砕けていく。
まるで枯れ切った落ち葉のようだ。
この群れの住処にいる『色付き』どもはこれで最後か。
黒毛が言うには、他にも攻められている群れの住処がいくつかあるようだ。
全く、師使いの荒い弟子だ。今度の飯はいつもの十倍は無ければ承知せぬぞ。
山岳の近くの群れや、ヒトの雛が大勢いる群れの住処、その近くの小さな群れの住処は既に掃除した。
次はこの先の大きな集まりの群れと、その先の群れを片付けねばな。
我ならば、三つ数えるうちに次の群れへ向かえる。
色付きどもよ、往生するがいい。
そしてさっさと戻ってきて飯作れ黒毛。我は空腹だ。
お読みいただきありがとうございます。
>カジカワのちょうはつ!―――
さらに真魔解放で2倍! 合計4倍だー!(ゆで理論
実際、あの挑発にはデメリットしかなかったという。アホや。
>何となく猿の惑星のラスト思い出しました…
「なんてことだ、ここは地球だったのか」と自由の女神見ながら呟くシーンは有名かつ分かりやすい絶望シーンですよねー。
でもあれだけ未来なら普通原形残ってないんじゃ(ry
>ええ、他にももうここに書くことも憚られるような悍ましい厨二ウェポンがそれはもう山のように(ry
しかも一つ一つかなり精巧に設計されているから痛々しさ倍増。そりゃ魔王キレるわ。




