最終決戦開始 なお火蓋
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「……」
「どうした、座れよ」
空から魔王城に向かって飛び降り、窓ガラスをぶち破って魔王の間へダイナミックお邪魔しますしてから、まずは軽く挨拶を済ませた。
その後テーブルと椅子をアイテム画面から取り出し、バーガーショップで買っておいたラッキーセットを二つ取り出して並べてみた。
「日本へ帰った後にな、吉良さんとこうやってハンバーガー食いながらちょっとした慰労会してたんだよ。あの時ジジイはさっさとどっか行っちまったから、今度会った時にこうやって一緒に食えるように買っておいたんだ。食えよ」
「……余は相馬竜太の転生体ではあるが、本人ではない。お前と共に食事をする理由などない」
「つってもなー、転生体ってことはもうジジイは死んじまったんだし、代わりにお前が食ってもいいだろ」
「余と慣れ合いでもする気か。余は、お前の心臓を抉り潰した張本人だぞ」
俺だってお前と慣れ合うつもりなんかないわい。
でも今は一秒でも時間を長く稼ぎたいし、いきなり戦闘開始するよりこうやってフレンドリーなフリして使える材料はなんでも使わなきゃならん。
「ムグムグ、たとえジャンクフードだろうと、こうやって日本で買ったメシを食ってると案外色々思うもんがあるぞ」
「余に望郷の念などない。余の故郷はこの世界であり、この広間だ」
「つーかいつまで立ってんだよ。魔王の前で俺だけ座ってメシ食ってるのがバカみたいじゃねーか」
「実際馬鹿にしか見えぬ」
やかましいわ。律義に冷静なツッコミ入れてきやがって。
気のせいかちょっとイライラしてきてるようにも見えるし、一緒にお食事作戦はここらが限界かな。
ハンバーガーを完食し、残ったポテトとコーラを貪りながら席を立った。
一人前だけ席に残ったままだが、回収メンドイしこのままにしとくか。
「第一、お前はなぜ生きている。余は確かにお前の心臓を抉り出し、潰した。九尾の狐に『心臓を抉り出されたら死ぬ』とお前自身言っていたはずだ」
「あれは実際お前に抉り出されて死ぬところだったから、その場のノリで言っただけだよ。実際死ぬところだったし、あそこから蘇生できたのは俺も予想外だった」
「なに……?」
あー、もしかしてコイツ、俺のハツ抜いた時と九尾の狐と戦った時の時系列を勘違いしてるのか?
魔王のメニューはそのへんの識別ができなかったのかな。いや、アナライズ・フィルターでステータス遮断してたし、比較ができなかっただけか。
「俺が21階層でうろついていたのは、元々お前の目から逃れるためだったんだよ」
「……どういう意味だ。なにを、言っている」
「俺は相馬竜太との共闘の後に日本に戻ってからパラレシアに行ったんだが、そもそもその前に日本から直接この世界に飛ばされて生活していたんだよ。つまり、相馬竜太と出会う前に魔王とエンカウントしていたってことだ。お前は俺のことを知っていたけど、俺はお前も相馬竜太のことも知らなかったってわけ」
あえてややこしい言いかたを長文で言って、情報を整理するために考えさせて時間稼ぎ。
はたから聞いてるとなに言ってるかさっぱり分からんだろうなー。
顎に手を添えてしばらく考え込んでいたが、話を吞み込み理解したのか目を見開いてこちらを睨んできた。
おいおい、考え始めてからまだ一分くらいしか経ってないぞ。もうちょっとゆっくり考えててもええんやで?
「……理解した。なんとも因果な話だ。よもや相馬竜太とお前が出会うきっかけと、その原因となった余との邂逅の時が逆だとは。こうなると最早どちらが卵か鶏かも分からぬな」
「今の言いかたでよく分かったな」
「分かるさ。余とお前だけは、理解できるはずだ」
いやー、正直俺が今の説明の仕方されても『訳分からん』ってなりそうなんだけどなー。
……あ、やべ。剣に手をかけやがった。
もう戦う気満々だわコイツ。切り替えはやぁい。
「……念のため聞いておこう。この世界を去り二度と戻らず日本あたりで死ぬまで暮らすというのであれば、見逃すこともやぶさかではないが」
「その気ならこんなトコまでこねぇっつーの」
「だろうな。……ならば、死ぬがいい」
うわ、殺気がビンビン伝わってきますわ。もう一触即発。戦闘回避不可。
でも、時間稼ぎのための最後の材料が残ってるからそれだけ試させてくれ。
「待った。戦いの前に、冥途の土産代わりにこっちの質問にも答えろ」
「これ以上話すことなど無い」
「お前の質問には答えてやったのに、俺からの質問には答えないってか? せこいわー魔王せこいわー」
「……なにを聞こうというのだ」
お、乗ってきた。はっ、チョロいわーマジチョロいわー。
さーて、下手したら状況悪化するかもしれんが、どうしても試したいことがあってですね。
「えーと、そんじゃあ聞くけどいいかー?」
「さっさと話せ」
「んじゃ聞くけど、『フェブロニア公爵家』ってところに相馬竜太の遺した手記があってだな、その内容について聞きたいんだが」
「………………なんだと?」
「『神をも殺すチェーンソー』ってのはアレか、某RPGのネタを基に設計したのか? 『あと天を衝くドリルランス』とか描かれてたけど、これも某アニメのネタかなんかか?」
凍り付いたかのように動きが止まる魔王。
……そりゃそうなるわな。
「あの手記の内容にいたく感動して、今代のフェブロニア公爵家の当主になるはずだった男が跡を継ぐのを拒否して手記に書かれてる武器を再現しようと武器職人になってたりするんだけど、どれも敵より先に扱う人間を殺しかねない酷い厨二兵器ばかりでもう色んな意味で痛々しくて見てられなかったなー。そのへんお前はどう思―――」
ガギィンッッ!!! と甲高い金属音が魔王の間に響き渡った。
魔王の振るった剣が俺の大槌とかち合った音だが、その爆音と衝撃波だけで並の人間なら死んでもおかしくないほどの威力。
魔王の顔を見ると、今にも憤死しそうな苦々しい笑みを浮かべている。なんちゅー顔だ
「余は相馬竜太ではない。故に遺した手記の内容などどうでもいい」
「……ホントにそうか?」
「だがお前の言葉を聞いていると、心の何処かの何者かが『今すぐ殺してでも黙らせろ』と煩いのでな。悪いが疾く死んでくれ」
アカン! やっぱ状況悪化するだけだった!
でも聞きたかった! こればっかりは試さずにはいられなかった! 後悔も反省もしていない。
相馬竜太の意識も完全に無くなったわけじゃないのかもしれないということが分かったが、その残った意識に殺意を向けられてる件について。
ああもう、こうなりゃヤケだ! かかってこいやこの厨二病ジジイがぁぁぁぁああっ!!
~~~~~勇者視点~~~~~
もう、終わりだ。
ここにはなにもない。今は誰もいない。
あるのは死んだ星の大地と、俺とレヴィアとオリヴィエだけ。
≪ワタシも、いますよ≫
うん、そうだな。ごめん。
……なんで、こんなことになっちまったんだろうな。
オレが油断しなければ、オレがもっとうまく立ち回っていれば、こんなことには……!
≪ネオラさんは悪くありませんよ。悪いのは魔王と、……この事態を予測していたにもかかわらず黙っていた、梶川光流です≫
そこだ。梶川さんはなぜこうなることを黙っていた?
梶川さんの話だと『21階層で未来のことを教えてくれる協力者がいて、その人の情報を基に今後の計画を立てた』って言ってたのに。
梶川さんにとって、オレが邪魔だから、あえてこうなることを黙ってたのか?
戦友だと思ってたのは、オレだけだったのか……?
≪……もう、過ぎたことです。悩んでも、悔やんでも、もう……≫
「う、ううぅっ……!」
今になってようやく、涙が出てきた。
レヴィアもオリヴィエも同じくらい絶望してるはずなのに、オレが真っ先に泣き出しちまった。
「ネオラ……」
「ネオラさん……」
魔王や梶川さんが憎い、と感じるよりも、悔しい、と思った。
なにが『魔王との戦いの最中になにが起きても、希望を捨てるな』だ。
なにが『どうか信じてほしい』だ。
その結果がこれじゃないか。
最後まで、信じてたのに――――
≪ね、ネオラさんっ!!≫
……今度はなんだよ。
もう疲れた。なにも考えたくない。もう、休ませてくれ。
≪それどころじゃありません! マップ! マップを見て! ……信じられない……! なぜ、こんなところに……!?≫
いや、ホントにどうしたんだよ。
この世界が終わる前の遺物でも残ってたのか?
え、あれ?
なんで、こんなところに、いるんだ?
お読みいただきありがとうございます。
>相馬竜太の黒歴史朗読会の会場はここですか?
YESYESYES。よく覚えていらっしゃいました。
……忘れてたわけではないのですが、決戦前にこんなのをねじ込むのはちょっと無理があったかなー(;´Д`)




