計画通り
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今回始めも勇者視点です。
魔王に斬りかかった刀身が、半分どこかへ消えてしまっている。
折れているわけじゃない、ちゃんと繋がっているのに見えない。
よく見ると、空間にできた切り傷に突き刺さっている。
いや、空間に傷ってなんだよ! どうなってんだこれ!?
「見事。どうやら、思った以上に上手くいきそうだ」
「なにをっ……!?」
魔王の力が、急激に増した。
顔を見ると、黒い華のような文様が浮かび上がっている。
これは、真魔解放か……!?
まずい、首を掴まれてるこの状況だと、すぐにくびり殺される!
いや、むしろそのほうが好都合か? いったん死んで、準備してから再戦するのも悪くなさそうだ。
「う、わぁっ!?」
そう思ったところで、首をへし折るでも絞め殺すでもなくなぜかオレの身体を投げ飛ばした。
壁に激突して、背中と後頭部に強い痛みがはしった。
痛みに悶絶しそうになりながらも魔王のほうを見ると、顎を手で押さえながら空間にできた切り傷を眺めている。
「ふむ、まさかお前一人の力で開くとはな。どうやら予想以上に今代の勇者は有能なようだ」
「なにを、言ってやがる……! その、空間の傷はなんだってんだよ!?」
「言う義理があるとでも? メニューにでも聞いてみたらどうだ」
くそ、メニュー! あの傷はなんだ! なんで、アイツに攻撃が届かなかったんだ!
≪み、未知の魔法術式を確認しました! この世界のスキルとは別起源の術式! おそらく、アレも21階層から持ち帰った力です!≫
また21階層絡みの力かよ!
こっちの陣営にはジャガイモをサツマイモに変えるだとか一日だけ性転換するだとかまるで用途のない力ばっかなのに、なんで魔王には有用な力ばっか与えてるんですかねぇ!
≪ネオラさん! 今すぐ自殺して再召喚されてください!≫
え、ちょ、いきなりなに言ってんのお前!?
≪いいから早く! 万が一あの傷の先の空間へ放り出されでもしたら……!!≫
「やめておけ。もしも死に戻りを発動しようとすれば、今度こそこの世界を救う手段は無くなるぞ」
っ! メニューとの会話を読み取ってやがる!
「お前が死んで第3大陸にある勇者召喚の祭壇に再召喚された時点で、余は第3大陸を空間的に断絶させる魔法を発動する」
「っ? ……どういう、ことだ」
「断絶すれば、おおよそ一月ほどの間は第3大陸と他の大陸は行き来が不可能になる。船や航空機のような物理的な手段はもちろん、転移魔法やファストトラベルでもな」
……っ!!
このクソ魔王が! なんつー悪辣な手を打ってきやがる!
「第3大陸には、特級職を含めた世界中の手練れたちが集まっているのだろう? 勇者も彼奴らの力も無しに、『今世代の魔族』の軍勢に対抗できるとは思えぬが」
「今世代の、魔族だと……?」
「これまでお前たちが戦ってきた魔族は、前世代の魔王が生み出した遺子に過ぎん。幹部クラス以外は、精々Lv50~60程度だろう。それに比べ、余が手ずから生み出した魔族は最低でもLv80を超える。つまり、前世代の幹部クラスと同等というわけだ」
「それが、どうしたってんだ!」
「その今世代の魔族の数は、現時点でおよそ三万体だ。単騎で都市を壊滅せしめる幹部クラスの魔族三万体を相手に、勇者も特級職もいない人類がひと月もの間持ちこたえられると思うか? 外部の人類が絶滅した状況で、残った手練れたちは戦いを続けられると思うか?」
……ふ、ふっざけんな!!
そんなもん、勝てるわけないだろうが! 一月どころか、下手したら半月足らずで人類滅亡じゃねぇか!
たとえ特級職がいたとしても、そんな数と質の軍勢相手に対抗できるのは、せいぜい一日か二日程度。
そんなオーバーキルもいいとこな戦力を、これまでコツコツと作り上げていやがったってのか!?
「前世代の同胞たちはよく働いてくれた。これまで活発に活動を続けてくれたおかげで、今世代の魔族の数が揃うまでさほど大きな障害もなくことを進めることができた」
「ど、どこまで考えて、お前はそんな……!」
「もっとスマートな手段でもあれば良かったのだが、数と質に頼った人海戦術しか思いつかなくてな。我ながら頭の出来の悪さに歯噛みしたものだ」
魔王がとった手段は確かにシンプル極まりない。ただ強さと数でゴリ押すために周りを固めるだけの、単純な計画だ。
だが、それ故に計画の芯が太い。多少計画に狂いが出たところで、三万体もの幹部クラスの魔族の動かしかたを少し変えるだけですぐに対応できてしまう。
スマートでないことこそが、この計画の強みなんだ。
「さて、どうする勇者殿。数少ない手練れたちとともに一月もの間第3大陸で雌伏の時を過ごした後に再び余に挑むか、それとも―――」
「今、この場でテメェをブチ殺す! そうすりゃ万事めでたしだろうがよっ!!」
刀を構え啖呵を切りながら、魔王を見据える。
もうそれしか手段がない。今すぐ倒さなければ、人類は滅ぶ!
「そう、それ以外に選びようがない。素直で、愚かで、正しい選択だ」
「抜かせぇっ!!」
居合斬りの構えをとり、同時にマスタースキル【次元刃】を発動する準備を整える。
刀剣術スキルによる居合斬りは不可避の速攻。それに次元刃が加われば、リーチの長さという唯一の弱点も消える。
今一度、魔王の首を刎ねて決着をつける!
「……シィッ!!」
鞘を引き、腰を切る。
鞘の内側を、刀身が滑っていく。
鞘から抜き出た刀身が、空を切るのと同時に魔王の首に斬撃を浴びせたところで――――
鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの、甲高くけたたましい金属音が鳴り響いた。
「ぃいぎぃっ!!?」
「……っ!」
殺人的な鋭い爆音に、たまらず悲鳴を上げてしまう。
首を狙った次元刃を魔王が剣で防いだ際、あまりの衝撃にこんな爆音が生じてしまったようだ。
耳の痛みに耐えかねて、たまらず耳を塞いでしまった。
それが、命取りになるというのに。
耳を塞いでからおそらくコンマ01も経たない間に、魔王が目の前まで迫っていた。
鼓膜が破れたのか、魔王の耳から血が出ているのが見える。
だというのに、まるで怯んでいない。こんなものは、慣れていると言わんばかりに。
「■■■■」
「おわぁっ!?」
なにかを口ずさみつつ、オレの腕を掴み再び投げ飛ばした。
すぐにエアステップを使って体勢を整えようとしたが、前を見ようとしたところで腹部に鈍痛がはしる。
「ぐえぇっ!」
思わず汚い呻き声が漏れる。絶対に女の子が出しちゃいけないような声だ。オレは男だけど。
投げ飛ばされたオレに向かって、魔王が魔拳・遠当てで追撃を放ってきたんだ。
しかも連発してきやがる! 避けられない、盾術で防御!
「うぐががあああっ!!」
「……あと少しだったな、勇者よ」
辛うじて盾で受け続けているが、空中で受けてるもんだから踏ん張りが利かずどんどん飛ばされていく。
遠当てを放ちながら、勝利を確信したように魔王が呟いたのが聞こえた。
なに勝ち誇ってやがる! まだ勝負はついてな――――
≪ネオラさん!! これ以上後ろに飛ばされたら……!!≫
メニューが赤い大文字で警告を出してきた。
後ろ? 後ろに、なにが……!?
それは、空間にできた亀裂、いや、大穴。
人一人が辛うじて通れるほどの幅の穴が、オレの真後ろにあった。
あそこは、オレがさっき魔王の首を狙って次元刃を放った場所か……?
さっきの空間の切り傷がそのまま大きくなったように見えるけど、まさかあそこにオレを押し込もうとしてるのか!?
空間の大穴の先には、荒野が見えた。
なにもない、本当になにもない平地が、草一本すら生えていない干からびた大地が広がっているのが見える。
本能と理性が、同時に警鐘を鳴らした。
ダメだ。あそこに行ってはダメだ。
行けば、とりかえしのつかない事態になると、理屈抜きに理解できてしまった。
「では、さらばだ」
「が、ぁぁああああっっ!!!」
しかし、魔王が無慈悲にもダメ押しと言わんばかりに遠当てと攻撃魔法で無理やり押し込んで、とうとう大穴の向こう側へと押し出されてしまう。
早く、早く戻らないと、
……あ、ああ……!!
すぐさま戻ろうとしたところで、穴は、閉じてしまった。
なにもない大地と、ボロボロに打ちのめされたオレだけが、ここには残されていた。
≪お、おしまい、です。なんで、なんで、こんな、ことに……!!≫
なに言ってんだ! 魔王が近くにいない今なら今すぐファストトラベルで魔王城に、……いや、魔王がいるところにも飛べないんだったな。
なら他の大陸へ飛ぶぞ! 急がないと、三万体もの強力な魔族による侵攻が……
≪……無理、です。ここは、いえ、『今』は、もう、どこへ行くこともできません。ここが終着、です≫
な、なにを言ってるんだ?
そもそもここは、いったいどこなんだよ……!?
≪ここは、既に死んだ星の末路です。人類も、魔族も、なにもかも無くなってしまった、死の大地。術式から切り離されてしまったので、死に戻りすら、もうできません≫
既に死んだ星の、末路?
≪はい。ここは、『今』は、……数百万年後の、死したパラレシアです≫
~~~~~魔王視点~~~~~
「は、ははは、はははははっ……!」
思わず笑い声が漏れた。
上手くいった。なにもかも、完璧に。
勇者が飛ばされたのは、この星の末路。
21階層から持ち帰った『タイムリープの術式』によって、勇者を今の時代から消し去ることに成功したのだ。
この術式を実用レベルまで調整するのには苦労したものだ。
飛ばす先の時代や座標の指定、使用回数や開かれる時間の維持など、課題は山積みだった。
中でも一番の問題は、時間を移動するのには膨大なエネルギーが必要という点だった。
それは、余が真魔解放をしたうえで最終形態へ移行して辛うじて開けるかどうかというほどの力。
下手をすれば、勇者を飛ばす前に死なせてしまう可能性すらあった。
しかし勇者が予想以上に絶大な力を手に入れていたことで、真魔解放の力との衝突のみで穴を開くことに成功した。
死に戻りができるうえに、あれほどの力を発揮できるとなれば、たとえ他の人類が絶滅しようともいずれ余の首を再び刎ねることもできたであろう。
だが、この世界から存在そのものを消し去ってしまえば、その脅威も無くなる。
勇者の存在が消えてしまえば、あとは消化試合だ。
第3大陸を空間的に断絶した後、他の大陸を今世代の魔族たちの手で蹂躙し、残った特級職たちを殲滅すれば魔族の勝利となる。
上手くいった。上手くいってくれた。
全てが計画通りに進んでくれた。
永き雌伏の時を終え、これより、魔族の時代を始めようではないか。
~~~~~
≪勇者ネオライフの、時間移動による消失を確認≫
……そうか。
メニュー、ファストトラベルでマーキングしている人たちと、俺たちを他の大陸へ移動。
空間が断絶される前に、避難しておかないとな。
≪了解≫
ふー。勇者君、飛ばされたかー。飛ばされちゃったかー。
計画通り。
……なんかこう言うと、どこぞの死のノートを持った悪役主人公みたいだなー。
お読みいただきありがとうございます。
>魔王のレベルっていくつですか?―――
魔王のステに関しては、あと少しで公開いたします。
魔王のメニューは、勇者時代に使えていたものが不具合付きで使用可能です。
あと、ちょっとした独自の進化もしてたりしてなかったり。
未来の彼らは、まあ、その、モロバレですねーorz




