滅ぼしたくないもの 守りたいもの
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「ヤバい、急いでこのクソトカゲぶちのめさないとまずそうだ」
「どうかしたの?」
「……ネオラ君が、魔王に拉致られたっぽい」
「えっ……」
「え、ちょっ、ええっ!? どういうことっすか!?」
こっちのセリフだ。魔王のメニュー、復活するの早くないか?
アレか、前回強制シャットダウンした時の経験を活かして、今回は早めに復帰できるように頑張ったとかかな。
……何度も再起動を繰り返していくうちにデメリットそのものが無くなることもありえそうだ。
もしもそうなったら、誰だろうといつだろうと世界のどこにいようと関係なく魔王が襲いかかってくるということじゃないか。
もうそれは無理ゲーとかそういうレベルじゃない。詰みだ。
元々タイトなスケジュールだったが、さらに余裕がなくなった。
できればもっと色々準備してから魔王に備えたかったが、もうそんなこと言ってられん。
幹部を倒してすぐって話だったけど、まさか本当にこんな早いとはちょっと予想外だ。
再起動までのインターバルを考えたら、もう2、3日余裕があると思ったのに。
ここで黒竜を倒して、レベルを90以上まで上げる。それが俺にできる最後の準備だ。
「アルマ、レイナ、ヒヨ子。さっきも言った通り、ネオラ君が魔王城まで運ばれたことで予定がかなり早まった」
「ってことは、……どういうことっすか?」
「魔王を倒すにしても、俺たちが負けるにしても、今日で全てが終わるってことだ」
「ま、マジっすか……」
「……そう」
『ピィ……』
緊張からか、不安からか、各々神妙な面持ちで声を漏らしている。
そして多分、俺も。
……最終決戦前の空気にもう少し浸っていたいところだが、今はやるべきことがある。
「やれやれ、ドラゴンハンバーグはもうちっとお預けみたいだな。せめてミンチくらいは今のうちに作っとくか!」
『グロォォオオオッ!!』
大槌を構え、唸る黒竜を真正面から見据える。
アルマの重力魔法の影響で、こいつはもう飛ぶことはできない。
機動力がなくなった状態で、お互いブレスも魔力攻撃も効かないとなれば、あとはパワー勝負だ。
構えた大槌の噴出口から、黒煙混じりの爆炎が噴き出る。
剝き出しにした牙と爪が、妖しく鋭く艶やかに煌めいている。
「だぁぁぁぁああっ!!」
『ガァァァアアアッ!!』
爆発機関の爆音を合図に、黒竜の爪と槌頭が衝突した。
「ぐぎぎぎぎぎぃぃぃいっ!!」
『ギャガガガガガアアアアアアッ!!!』
ほんの一秒数える間に、軽く十数回は火花が散って閃光が目に刺さる。
かち合うたびに、黒竜の爪がベリベリと剥げていく。牙が、鮮血を撒き散らしながら折れていく。
爆発機関を使用した大槌の攻撃力補正がどれくらいのものかイマイチ分からないが、黒竜の身体がガリガリ削れてるあたり多分数万単位はあるなこりゃ。
攻撃を命中させる瞬間だけ重量を増やしているのも大きな要因だろうけど、これなら魔王にも充分通用するだろう。
「折れろぉぉお!! 折れろ! 砕けろ! くたばれぇぇぇえっっ!!!」
『ガグゥッ……!! ギャ、ガ、アアァァアアア゛ア゛ア゛!!!』
数百合打ち合ったころには、最早鋼鉄をも噛み砕く牙も、万物を切り裂くはずの爪も、根こそぎ無くなっていた。
人間なら総入れ歯だろうが、ドラゴンならすぐ生え変わるみたいだし大したことないやろ。
『ギギギギャガガガァァ……! カァァアアァァアアッ……!!』
ならばブレスだと言いたげに、口に魔力を集中させていく。
それを待ってたんだよ、クソトカゲ!!
「アルマぁぁぁあああっ!!!」
「はぁぁぁああっっ!!」
『ガギュバッ!!?』
ブレスの予備動作に合わせて、重力魔法の出力を最大まで増幅した。
身動きできないどころかこのまま押し潰せそうだが、ダメ押しだ!
「レイナ! ヒヨ子!」
「ヒヨ子ちゃん! ありったけもってけっすー!!」
『ゴゲェェェェェエエエエエッッ!!!』
レイナによる魔力譲渡と気力強化により、これまでで最大サイズの巨大化をするヒヨ子。
蹴爪だけで黒竜の巨体を踏み潰し、身動きを封じている。
こんな巨体を維持できるのはほんの数秒だけだろうが、それだけでいい。
『が、ガガカカカカァァ………!!』
「……最後だ」
ハンマー投げのように魔力の鎖で大槌を振り回し、何度も爆発させて運動エネルギーと遠心力を増していく。
ドラゴンからしてみれば小さな小さな小槌にすぎないソレは、すでに黒竜を屠るのに充分な破壊力を秘めている。
ミニマム・ヨルムンガンドを仕留める時にも、これやったっけな。
ヒヨ子の蹴爪に当てないように狙いをつけて、渾身の力を籠めて黒竜の身体に向かって振り下ろすっ!!
「どぉおおりゃぁぁぁああああああああッッ!!!!」
『ガ、ア、ァァァァアアアアアッッ!! ガバハァァアッ……!!!』
新生大槌による全身全霊の一撃。
空を切る音は、まるでジェット機のように甲高く鋭く力強い。
命中した瞬間、黒竜の胴体が抉れ、爆ぜた。
大穴が開いて、辺りに肉片と血糊が撒き散らされていく。
……致命傷だ。おそらくもう身動きすらまともに―――――
『が、が、ガ、ガガガッババババババアアアアアア!!!』
「な、なんだ……!?」
黒竜の身体が、激しく痙攣し始めた。
しかも全身が光ったり止んだりの点滅を繰り返している。
え、なにこのまるで『これから自爆しますよ』的なエフェクトは。
てか、魔力が、黒竜の中で今にも破裂しそうなくらい膨れ上がってるんだけど……!?
≪テイムスキル技能【爆獣弾】 テイムしている対象の命と引き換えに大爆発を起こすスキル。この技能を発動中、対象の能力値は倍化する。暗黒神竜クラスのステータスを有する対象が爆発した場合、この大陸の半分が更地と化す規模であると推測≫
そのまんまだった! そんなベタな!
魔王の野郎ぉぉおお!! 最後っ屁になにしくさっとんじゃゴルァア!!!
「な、なにが、起きてるの……!?」
「なんかチカチカしてるんすけど、これってまずいヤツじゃ……」
「自爆する気らしい……! あと数秒で爆発する!」
「え、ええ!?」
どうする!? どうする、どうすればいい!
大槌でトドメを、あっやべっ、さっきのハンマー投げ潰しの時に黒竜を貫通したみたいで、地面にめりこんでて回収できねぇ!
なら素手で、いや能力値が倍化してるから強化しても弾かれる!
ファストトラベルで移動して、……被害を受けるのがこの大陸から移動先へ変わるだけじゃねーか! 界〇様のところにでも送ってやりたいが、そんな都合のいい知り合いはおらん。
……………っ。
うん、無理。オワタ。
俺たちのパーティと、マーキングしておいた人たちだけでもファストトラベルで避難させよう。
残りはどうするかって?
見捨てるしかない。どうにかしようにも、もう本当にどうしようもない。
……精一杯やった結果がコレか。最悪だ、最悪だ。俺は、最低の無能だ。
『ゴゴゴォォオオオオ……ッオオ、おお、おおお、お、お……!!』
「……?」
ファストトラベルする寸前、黒竜の点滅が止まった。
身体のあちこちから煙が出ているが、破裂寸前まで膨れ上がっていた魔力がまるで空気の抜けた風船のように抜け出ていく。
これは、自爆が中断されたとみていいのか……?
なぜ?
『……皮肉なものよ。よもや、死ぬ間際になることで、解放されるとは、な』
「! お前……!」
先ほどまでの猛り狂った獣のような雄叫びとは一変、落ち着いた様子で黒竜が喋り出した。
今更になって、正気に戻ったってのか?
≪【爆獣弾】の能力値倍化効果により魔王の能力値を上回ったため、テイムの抵抗に成功した模様。しかし、時間が経てば再び支配下におかれる可能性が高い≫
最後っ屁のために発動させたスキルがアダになったってのか?
魔王、そこまで考えてなかったのか。間抜けか。
だがおかげで助かった。
内心ホッとしているところで、黒竜が牙のない口で喋り出した。
『疾く、儂の息の根を止めよ。次に操られれば、今度は正気に戻れるか分からぬぞ』
……!
……正直、少し意外だった。
俺のイメージだと、このクソトカゲは自己中で戦闘狂気取りのワガママクソ野郎で、他者を顧みることなんざしないと思っていたのに。
そのクソトカゲが自ら首を差し出してきているのを見ると、なんだか気がひけてこないこともない。
……我ながら甘いなー。
「……えーと、俺としても今すぐ殺してやりたいところだが、魔王を倒せば解放される可能性もなくはないぞ。土下座して謝る気があるのなら、殺すのを待ってやっても―――」
『戯け。次に操られれば正気に戻れぬかもしれぬと言ったのが聞こえなかったのか。瞬きほどの間に再び儂は魔王の傀儡へと変わっておるのかも知れぬのだぞ』
どうやら、思ったよりも余裕がなさそうだ。
こうやって話せる時間も、多分そう長くないんだろう。
『それに、儂がお主らに詫びる道理なぞない。言ったはずだ、儂に謝罪させたければ力ずくで屈服させよ、とな』
「お前、もう地べたで這いずるのが精一杯だろうが」
『ファハハッ。貴様らが勝ったのは、魔王に操られた愚かな傀儡であろう。儂は、負けておらぬ。故に、頭も下げぬ』
よし、やっぱコイツ殺そう。
ちょっとでも情けをかけてやろうとか考えた俺が馬鹿だった。
『第一、聞けばお主が怒っておったのはそこの小娘に危険が及んだ原因が、儂のせいだからというではないか。ならば儂と小娘の問題であって、お主は関係なかろう』
「あるんだよ。……お前も、これから俺たちが魔王をブチ殺すって言ったら、心中穏やかでいられないだろ」
『何故? 魔王を倒すことに、儂が文句を言うとでも?』
「……知らないのか? 魔王は、お前の飼い主の相馬竜太の―――」
『魔王はリョータではない。最期を看取った儂が断言する。たとえ生まれ変わりだろうが、記憶があろうが、あんなものがリョータであるわけがない。貴様如きが余計な口を挟んでくるな!』
血反吐を吐きながら、激痛に身を強張らせながら、なお俺の言葉にくってかかってくる。
それは、まるでアルマを身の危険に晒した黒竜に怒る俺を見ているようで……。
『ああ、なるほど。そうか、そうか。お主が怒っておったのは、こういうことか。ファハハッ、分かってみれば至ってシンプルな答えであったな』
黒竜も同じことに気付いたのか、腑に落ちたように納得の言葉を漏らしている。
コイツと同じことを感じてしまったと思うだけで、反吐が出そうだ。
……理解できないわけじゃないが、な。
『さて、お喋りの時間は終わりだ。トドメをさすのは、お主ではなくそこの小娘に任せるがよい』
「え、……私?」
『左様。お主があの草原で命の危険に晒されたのは、儂が原因だ。お主が報復に儂を仕留めれば、それで万事解決だ。……ぐぅっ』
そう言いながら、生えてきた爪で自分の首に切り傷をつけていく。
まるでここを狙えと言わんばかりに、ウロコと皮膚の装甲を引き裂いた。
「でも、私はあの時のこと、もう怒ってない」
『そうか。しかしそれでも、お主が儂の首を刎ねよ。それとも、そこの番に手を汚させるか?』
「つっ……!?」
黒竜の戯言に、アルマが顔を赤くして絶句している。
……本当に今すぐ殺してやったほうがいいかなこりゃ。
『最期に、黒髪の雄、……ヒカルよ。今代の魔王は、力だけでは勝てぬ。いくら大きな力で対抗しようにも、『無限』には勝てぬ』
「は? ……なに言ってんだ?」
『しかし、『無限』は決して『無敵』とは限らぬ。案外、なんてことないことが魔王の弱点かもしれぬぞ。精々頭を柔らかくして知恵を絞るがよい。………っ!』
それだけ言ったところで、再び黒竜の身体が点滅し始めた。
まずい、また自爆が始まったのか!?
『小娘ぇ!! なにを呆けておる! 早う首を刎ねぬかぁっ!!』
「っ!」
『斬らねば皆死ぬぞ! お主の愛しい者も、大事なものも、なにもかも儂が滅ぼしてしまうぞ! 斬れ! 早く斬れぇぇぇええっっ!!!』
「アルマっ!!」
残った全魔力を変換し、全気力をアルマの膂力強化に回した。
この状態ならアルマでも、強化した俺と大差ない攻撃が出せるはずだ。
「……さようなら」
ただ一言、それだけ呟いて剣を構えた。
黒竜が自らつけた首の切り傷に向かい、アルマが剣を振るって――――――
『リョータが大好きだった、この世界を守ってやってくれ』
首だけになった黒竜がそう言ったのが、確かに聞こえた。
≪レベルが一定以上に達したのを確認。メニュー機能のアップグレードを開始≫
お読みいただきありがとうございます。
>腕が千切れるどころじゃすまなそう。
並の人間が扱えば、下手すりゃ粉々でしょうねー(;´Д`)
ミサイルを振り回してるようなもんですし、今の状態の主人公でも辛うじて扱える、といった具合でしょうか。




