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あと少し

新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。



『グヴァビャァッ!!』



黒竜が爪を振るい、魔力の刃をアルマたちに飛ばしてくる。

その刃一つ一つが、俺たちを殺すのに充分すぎる威力があるのが見ただけで分かる。



「遠当て! 迎撃、いや回避! 避けろぉっ!!」


「え、う、無理、避け切れな―――」


「ちぃっ!!」



レイナとヒヨ子に吸収させようとしたが、駄目だ、ブレスと違って瞬間的な威力が強すぎて吸収し切れないヤツだアレ!

指示がわずかに遅れたため回避は困難と判断し、アルマたちをファストトラベルで一時避難させた。

くそ、遠隔でのファストトラベルは便利だが魔力の消費が地味に激しい。呼び戻すのにも結構な魔力がもっていかれるしな。


先ほどまでアルマたちがいた場所に遠当てが着弾した瞬間、地面が赤く煌めき爆発した。まるで火山の噴火だ。

さらにその周りの地面まで連鎖的に爆発していき、まさに地獄絵図。もしもアレを迎撃しようとしていたら、一瞬で蒸発していただろう。


いくらデタラメな能力値の高さとはいえ、ただの遠当てであんなことになるはずがない。

となると、考えられるのはマスタースキルの影響かな。ブレスばかりじゃなくて、他の攻撃も細心の注意を払わなきゃならんのか。



戦闘を再開するためにアルマたちをファストトラベルで呼び戻した。

急に何度も転移させられたうえに、噴火している地面を見て唖然としている。



「ひえぇ、地面が燃えながら溶けてるっす……!」


「もしもあそこにいたままだったら、全員死んでたかも」


『ピヒェ……!』



顔を引きつらせながら、恐怖心をあらわにする二人と一羽。

こんなギリギリの攻防を、あとどれだけの時間続ければいいんだ……?



「カジカワさん、アレもう自分たちだけじゃ手に負えないと思うんすけど」


「分かってる。向こうは一発でもこっちに攻撃を当てればそれで勝てるのに、こっちの攻撃は一切効かない。今のままじゃ勝つのは無理だ」


「なら、援軍を呼ぶべき。今はまだなんとか防戦を続けられているけど、このままじゃ……」



そう、このままじゃいつ事故って死んでもおかしくない。

ファストトラベルのおかげで緊急回避はできているが、魔力ポーションが尽きたらそれで詰みだ。



「でもなあ、俺たち以外にアレの相手をできそうなやつなんかいるか?」


「……お父さんとお母さん、あるいはネオラたち」


「アルマの御両親は現状手が離せない。あっちはあっちでとんでもなく強力な魔獣と戦っている。もしも無理やり呼び寄せたりしたら、その魔獣の周囲にいる人たちは皆殺しだろうな」


「ネオラさんは?」


「こっちも駄目だ。どうも魔族に洗脳された人質をとられてるみたいで、ファストトラベルで逃げたり人質を逃がしたりしたら、自殺してしまうように操られているみたいなんだ」


「うーわ、最悪じゃないっすか。ある意味自分たちよりも修羅場っす」


「かといって、ここで俺たちが逃げるのもヤバい。俺のトイレ休憩のために全員で宿屋でほんの数分間休んでいる間に、黒竜は周りにブレスを吐きまくっていて俺たちが帰ってくるころには四方数kmの地形が変わっていた」


「放置してたら、この大陸そのものが危ない。それどころか、他の大陸も黒竜に滅ぼされるかもしれない」


「よーするに、ここで自分たちが黒竜さんを倒さないとダメってことっすか……無茶振りにもほどがあるっすよぅ」



そう、無茶振りだ。

俺も相当強くなったつもりだった。つもりに、なっていた。

でも現実はあのクソトカゲに防戦だけで精いっぱいという。



「策は、あるの?」


「……あと少し、時間が経てばな」


「黒竜さんの消耗を狙ってるんすか?」


「いや、それは期待できそうにない。あいつ、どうやら魔王から魔力とスタミナの供給を受けているらしい。多分、テイムスキルの技能じゃないかな」


「つまり、黒竜だけじゃなくて、魔王の魔力とスタミナが尽きない限り黒竜は消耗しない?」


「ああ、でも駄目だ。先にこっちが参っちまうだろうな」



少なくとも、俺たちより先に黒竜の魔力とスタミナが尽きることはないだろう。

……魔王め、本当に厄介な手駒を手に入れやがったな。



「じゃあ、やっぱり勝ち目なんかないじゃないっすか。どうするんすか?」


「……気が滅入るような状況だが、今は耐えろ」


「なにかを待っているの?」


「ああ、逆転の一手が揃うまであと少し……ヤバい、ブレスがくるぞっ!!」


「げっ! ヒヨコちゃん、吸収っす!」


『コケェッ!』




不意打ち気味に吐いてきたブレスを、レイナとヒヨ子が吸収する。


しかし




「うぐぅぅう……!!? さ、さっきまでより、威力がっ……!」


『コオオオォォォォ……ッ!?』



ここにきて、黒竜が気功纏を使って能力値をさらに上昇させてきた。

それに伴いブレスの威力がさらに増して、吸収し切るのが難しくなっているようだ。



「はぁっ!」



吸収しきれない分のブレスに向かってアルマが攻撃魔法を放って、辛うじて相殺しきった。

まずい、さっきまでマスコットたちだけでしのいでいたブレスが三人がかりじゃないと防げなくなった。

もう休憩なんかしてる余裕ないなこりゃ。



「腹減ってる人がいたら今のうち言ってくれ! 戦いながら食える携行食を出すから!」


「戦いながらって、下手したらもどしちゃいそうなんすけど」


「もどすな、飲み込め」


「お腹痛くなりそう」


「我慢してくれ。あふぉふぉっふぉ(あとちょっと)ふぁはら(だから)


「いやホントに食べながら戦う気なんすか!? てかなに言ってるか分かんないんすけど!」



携行食ことカロリー某を配りつつ、戦闘を続行する。

口の中がパサパサするが、もうそんなこと気にしてる場合じゃない。





『ガヴァァァアッ!!』


「! 速射ブレス! 回避!」


「れ、連発してきてるっす!」


「ヒヨ子! 吸収しつつ、ブレスに向かって撃って相殺! レイナも同様! アルマは重力魔法で黒竜の動きを阻害して、狙いをつけさせないように!」


「分かった!」




俺も魔力の遠隔操作でブレスを相殺しつつ、黒竜の気をひくために周囲を飛び回る。

ここにきてさらにパワーアップしやがってクソトカゲ。




『ヴァ……あア……!』




……? なんか呻き声を漏らしてるけど、まさか苦しんでるのか?

いや、状態表示は変わらないし、HPもほとんど減ってない。……気のせいか。












~~~~~勇者視点~~~~~












「この奥に、この大陸の魔族長、即ち幹部の方がいらっしゃいますわ」


「……」


「名残惜しいけれど、私がご案内するのはここまでです。うふふ、ではどうぞ」



最深部と思しき場所まで特にトラブルもなく、あっさりと通しやがった。

……いったいなにを企んでやがる。



「人質の解放、忘れてねぇだろうな」


「ええ、もちろん。ほら、ご覧くださいな」



女魔族が指差すと、人質たちの目に煌めいていた紫色の光が薄くなっていき、消えた。



「……あ?」


「あれ、な、なんだ? ここは、どこだ?」


「おとうさん、どこー?」



困惑した様子で周りをキョロキョロ見渡している人たちの状態表示を確認してみたが、どうやら本当に洗脳が解けたようだ。

……意外だ。てっきり最深部に着いた途端に『騙して悪いが仕事なんでな、死んでもらう』って具合になることも想定していたんだが。



「さてさて、私の役目は終わりましたわ。では、お進みくださいな」


「……洗脳を解いた後に、オレがお前を殺そうとするんじゃないかとか考えなかったのか?」


「別に構いませんわよ? 私の役目は『勇者を大人しく最深部まで誘導すること』ですもの。それさえ果たせば、私や人質が生きようと死のうとどうでもいいのです」



こいつ……。

人質も、まさか自分自身でさえも同じ『盤上の駒』としか見ていないのか。



「なんのために? お前たちにとって一番まずいのは、この大陸の幹部が倒されて魔王の城が表舞台に出てくることじゃないのか?」


「ええ、ええ、その通りですわ。しかし、それは不可避の運命。最早勇者(あなた)を止められる者などいませんし、封印も洗脳も拘束も不可能。……実に忌々しいですわぁ」



憎たらし気にこちらを睨みながら、しかしどこか悲し気に魔族が呟く。

……幹部が倒されること前提で案内していたってのか? ますますこいつらの目的が分からん。



「お聞きしたいことはそれだけで?」


「この大陸を滅ぼせるくらい、大規模な破壊魔法の魔法陣がこのアジトにあるだろう。アレを使ってなにを―――」



「か、はっ………!」



「……え?」



問いかけている最中に、女魔族が血を吐いた。

その胸からは、刃が生えている。


女魔族の後ろに、見覚えのある人影が剣を突き刺しているのが見えた。



「そんなもん、とっくにぶっ壊した。ったく、ノロノロしやがって」


「てめぇは……!?」


「アランシアン……!?」



クソガキことアランシアン・アイザワが、しかめっ面で不機嫌そうにしている。

こいつ、他の人質と一緒に洗脳されてたんじゃ、てか今までどこにいたんだ?


口と胸から血を流しながら、女魔族が死に体で口を開く。



「あな、た、まさか、今まで、魔法陣を、破壊、するために……?」


「はっ、テメェが洗脳した人間の数も数えねぇ無能だからこそできた小細工だよ」


「どうやって、洗脳を……」


「答える義理はねぇ」



それは、おそらく『魔力操作』で洗脳を解除したからだろう。

梶川さんも『アイザワ君は半分だけ洗脳された状態で動き回ってるみたいだ』って言ってたし。

……器用なことするなぁ、こいつ。



「おいオカマ。さっさと奥にいる幹部を倒してきな。俺ぁ人質たちを誘導してくる」


「オカマじゃねぇよ! つーかテメェなにしきってんだ!」


「キャンキャン騒ぐなうるせぇな。……外にとんでもねぇバケモンの気配があることぐらい、お前も感じ取れるだろうが。お前も早く援護に向かってやらねぇとやばそうだぞ」


「ああ? 魔王側についた黒竜のことか? それなら―――」



「はははっ、ケホッ、あ、あはははっ……!」



言い争いをしているところに、死にかけている女魔族の嘲笑が割って入ってきた。

思わずゾッとするような、狂気の混じった笑い声。



「テメェ、なにが可笑しい。死にぞこないが、気でも触れたか」


「はは、ははははっ、いえ、いえ、失礼、しました、わ。だって、だって、まさか、ここまでとは、思いま、せん、でしたもの」


「はっ。なんだ、死のうが生きようがどうでもいいとか言ってたクセに、いざ死ぬとなりゃそのザマか。見苦しい」


「あはははっ、がハッ、はははっ、まさか、まさか、あははっ、はは、笑うしか、ありませんわ」



咳きこみながら不気味に笑い続けている。が、そろそろ死ぬ。

最後に消え入りそうな声で呟いた。





「まさか、ここまで想定内とは。魔王様、あなた様ならば、あと少しで、この世界を……」




ネズミの断末魔よりも力ない声なのに、やたら耳に響く声でそう言った後、息絶えた。

……いったいなにを言ってたんだ、こいつは。




「……気持ち悪ぃアマだったな。さっきの口ぶりだと、俺が魔法陣を壊すことも想定内だってか?」


「あるいは、単なる負け惜しみかもな」


「ホントにそう思うか?」


「……さぁな」



女魔族がなにを思ってあんなことを言ったのか。

魔王はどこまで考えているのか、そんなことはいくら考えても結論が出ない。

不気味だ。……このままだと、なにかとりかえしのつかない事態が起きるんじゃないかと、不安ではある。


ただ、さっさと幹部を倒さないと、他の戦場へ援護に向かうこともできない。

今はオレのやるべきことをするとしよう。



「なにぼさっとしてんだ、さっさと幹部ぶちのめしてこい」


「へいへい。『勇天融合』」



幹部との戦いに備えて、あらかじめ融合した状態になっておく。

レヴィアとオリヴィエが光って、オレに統合されていく。

そして、光が消えるといつものスタイル抜群の美少女(オレ)が出てくる。

ああもう、何度やっても女になる感覚ってのは慣れないなぁ。股がスースーするわ。



「さーて、ちゃっちゃとぶちのめしますかね。……ん?」


「……………」



アイザワのガキが、目を見開いて口をポッカリ開けながらこちらを凝視している。

なんだその顔。フレーメンか?

ああ、そういえばこいつには見せたことなかったっけ。



「なに見てんだ。言っとくが、オレだってこんなカッコしたくてやってるわけじゃねぇからな」


「……………………………お前、ホントは女だったってのか?」


「ちげぇよ! 勇者の切り札使うとこうなっちまうんだっつの!」


「……あー、えーと、オカマとか言って済まなかったな、悪かった」


「うるせぇわ!」



色々文句を言ってやりたいところだが、もうメンドクサイ。さっさと幹部倒しにいこうそうしよう。

……おいなに顔赤らめてんだ気持ち悪ぃ。てかお前アルマ狙ってたんじゃねぇのかよ。



お読みいただきありがとうございます。



>蜥蜴の内臓は、食べるの怖いな。


あーダイジョブダイジョブ、牛さんとかと同じように食える設定だから(適当

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[良い点] アイザワ君が面食いで良かった! 喜べアルマ!ヒカル!恋敵は勇者にガチ恋したっぽいぞ!! …………マジでこの子不憫だなぁ [一言] 勇者ちゃん、幸せになれよ……!
2024/02/01 20:23 退会済み
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