苦戦悪戦容赦せん
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『グオオオォォオオォォオオォオッ!!』
「そっちにブレスがくるぞ! レイナ、ヒヨ子!」
「了解っすー!」
『コォォォオオオ!!』
アルマに向かって放たれたブレスを半分はレイナが何度も切り裂きながら吸収し、残る半分をヒヨ子が吸い込む。
それぞれ黒竜に吸収されない方向へ放出して、次へ備えている。
「アルマ! 黒竜を重く!」
「分かった!」
飛行中の黒竜を重力魔法で重くして、適時動きを妨害してもらっている。
黒竜のマスタースキルの影響で効果が減退しているが、これだけでも充分だ。
地面へ落下するのを回避しようと必死に羽ばたく黒竜に向かって、火力特化パイルの準備をする。
といっても、打ち込むのは魔力の杭ではなくアダマンタイトのインゴットだ。
魔力攻撃は吸収されるだけだが、火力特化パイルによって射出される物体は吸収できないはずだ。
まるで大砲のように派手な音を立てながら、高重量のインゴットが黒竜目がけて放たれた。
並の魔獣やドラゴンなら掠っただけで身体が抉り裂かれる威力だ。
『ゴァウッ!!』
「……くそ、弾かれた」
だが、本体に届く前に【ドラゴン・スケイル】に阻まれて、本体まで届かない。
仮に届いていたとしても、ダメージを与えられるかは微妙なところだが。
やっぱ今は無理に攻撃するよりも、持久戦に徹したほうがよさそうだ。
『ガヴァァアァアアァア!! アァァアアァッ!! ヒャヴァァァァアァアア!!!』
まるで弾丸のような勢いで、黒竜の身体からこちらに向かって黒いウロコが射出されてくる。
そのウロコそんな使いかたできるのかよ!?
「ウロコが飛んでくる! 吸収はできない! 迎撃!!」
「【大地剣】!」
「【死刃結界】!」
アルマは巨大化した剣で、レイナは蜘蛛の巣のような魔力の細い糸の結界を張り巡らせてウロコを弾いている。
一発一発が十分な殺傷力だ。迎撃するのも楽じゃない。
『ガアァアァアアァアァアアアッッ!!!』
「ブレス! ヒヨ子、巨大化して吸収! 気力強化を忘れるな!」
『コケェ!!』
とにかく仲間たちに指示を出すのに忙しい。
ちょっとでも指示をミスったら一気に危ない状況になり得る。一時も気が抜けない。
「アルマ、補助魔法かけ直し! スピードアップ!」
「うん!」
「ヒヨ子! 黒竜の突進を迎撃! 気力を籠めて思いっきり蹴り飛ばせ!」
『コケェェエ!!』
「レイナ! 煙幕を焚いて目くらまし!」
「はいっす!」
「ヒカル! 魔力の補給をお願い!」
「任せろ!」
『コケェッ!』
「なに、気力の使い過ぎで腹が減っただぁ!? ああもう、後ろに下がって弁当食ってろ!」
「カジカワさん、自分ちょっとそろそろトイレに行きたいんすけど!」
「あー、俺も行きたいけど今手が離せないからついでに代行で行ってきてくれ!」
「いや意味分かんないんすけど!?」
忙しすぎて自分でもなに言ってるか分からん。
俺以外が一時離脱してもなんとかなるが、俺が抜けた状態で黒竜を相手にするのはちと無理だ。
つまり俺だけぶっ通しで戦う必要がある。ブラックだわーハハハー。
……でもトイレ休憩くらいはきっちりしておこう。
え、アイテム画面に直送したらどうかって? ……それやったらなんか大事なものを失いそうなので却下。
『ヴャガアアァアアヴァアアギアァァアアァアアア!!!』
「さっきからうるせーな! 喰らえぃ!!」
文句を言いつつ、『オリハルコンの破片』を火力特化パイルの要領で弾き飛ばし、まるで散弾銃のように黒竜に向かって浴びせた。
今度はドラゴンスケイルを貫通したものの、肝心の本体には大したダメージがない。人間に例えるなら細かい砂利を浴びせられた程度か。
くそぅ、やっぱ決め手がない状況じゃコイツを仕留めるのは無理だ。
まだか、まだなのか。はよしてくれー!
~~~~~勇者視点~~~~~
「くそ! 我らでは抑えきれん……!」
「たかが小娘三人ごときが、ここまでの力をもっているというのか……!!」
「だぁれが娘だゴルァ! 【セイントレーザー】ッ!!」
「ウギィァァァアア!!」
魔族どもを薙ぎ払いながら、幹部がいるはずのアジトの奥へ奥へと進んでいく。
……人間相手にはもう慣れてるけど、魔族にまで性別間違われるとかさすがに凹むわぁ……。
っと、いけない落ち込んでる場合じゃなかった。
さっさと幹部を倒して大陸を破壊する魔法陣を止めないと!
「勇者、さま」
勢いよく先へ進もうとしたところで、聞き慣れない声色で誰かがオレを呼んだのが聞こえた。
いや、この声どっかで聞いたような……?
「……え?」
声のほうを向くと、紫の長髪美人がこちらに向かって剣を構えているのが見えた。
この人は確か、第4大陸の対魔族軍の部隊長……!?
「勇者さま」
「勇者様」
「ゆーしゃさま」
「勇者殿」
「勇者」
「勇者」
「勇者」
な、んだこれ……?
虚ろな目をした武装した集団が、オレのほうへにじり寄ってくる。
こいつらは、いや、この人たちは、人間?
虚ろな目の奥に、見覚えのある紫色の光がボンヤリと燻ぶっている。
アレは、梶川さんが洗脳されていた時と同じものか……!?
「ね、ネオラさん、この方々は……!?」
「魔族が人間に化けている、にしては様子が変ね。というか、小さい子供まで混じってるんだけど……!?」
「二人とも、傷つけちゃダメだ! この人たち、スキルで洗脳されてる!」
レヴィアとオリヴィエが困惑した様子で洗脳された人たちを牽制している。
くそ、よく見たら明らかに非戦闘職の人間や幼い子供まで混じってるじゃねぇか。見境無しか。
多分、対魔族軍や冒険者たちだけじゃなくてこの大陸の住民まで操られてるなこりゃ。
どう対処したものかと思ったところで、洗脳されている人たちが道を空けるように動いた。
その間を誰かが歩いて近付いてくる。……青い肌の女? こいつも、魔族か。
「はぁい、ハジメマシテ勇者サマ。御機嫌いかが?」
「……誰だ、テメェは」
「駄目よぉ、そんな怖い顔しちゃ。女の子なんだからもっと可愛くスマイルスマイルぅ」
「男だわ馬鹿野郎!」
「……え?」
「いや、え? じゃねぇよ! 男だっつったんだよチクショウがぁ!!」
「そ、そう。なんかゴメンナサイねぇ」
やめろ、割と真面目に申し訳なさそうな顔で謝るのヤメロ! なんか逆に悲しくなってくるわ!
こいつもか、こいつも間違えるのか!
ちょっと深刻そうな状況だったのに台無しだよもう……。
「オホンッ、……では改めて。強くて可愛い勇者様、この人たちを解放してほしいのならば、最深部のほうまで御同行願いますわぁ」
「……なんのつもりだ」
「答える義務があるとでもぉ?」
……わざわざ魔族たちから奥へ誘うだと? いったい、なにを企んでやがる。
洗脳されてる人質の数は、おおよそ50人程度か。これならマーキングしてからファストトラベルで―――
「ああ、そうそう。ファストトラベルとやらで人質やあなたたちが逃げたら、人質たちを全員自害させますのでそのつもりでねぇ」
「なっ……!?」
「転移した時点で首をかき切るように、既に指示を出してあります。迂闊なことはしないようにねぇ」
クソが! そこまで読まれてんのかよ!
……どうする、元々最深部まで行く予定だったが、このまま魔族たちについていくのはどう考えてもヤバそうだ。
どうする、下手に逃げようとすれば人質が死んじまうし、かといって言いなりになるわけにも……。
「ネオラ、ここはひとまず言う通りにしましょう」
「やむを得ません。この方々を見捨てるわけにはいきませんから」
「……そう、だな」
「うふふ、賢明な判断、痛み入りますわぁ。では、こちらへ」
手招きしつつ、奥のほうへと誘導する女魔族。
……ヘラヘラ笑いやがって。
「案内よろしく頼むぜ、お姉さんよ」
「うふふ、誠心誠意籠めてお導きいたしますわ」
「ああ、あと、これだけは言っておく」
「んん? なにかしら………っ!?」
目に気力を集中しながら、思い切り女魔族を睨みつつ口を開いた。
「最深部に着いたら、必ず人質全員を解放しろ。反故にしやがったら『お願いですから殺してください』と懇願してくるまで嬲り続けてやるからそう思え」
「ふ、ふふふっ……。ええ、承りましたわぁ。……魔王様の天敵というだけはあるわねぇ」
一瞬余裕を崩して冷や汗をかきながらも、再び飄々とした口調で了承してきた。
こんなもん気休め程度の反抗でしかないが、やられっぱなしは癪だ。
まあ、もしも本当に反故にしたら容赦しないが。
「……アンタ、やっぱあのオッサンに似てるわ」
「え?」
「れ、レヴィアさん、ちょっと失礼では。さすがにカジカワさんほど怖くはないですよ」
……あの人に対するこの二人の印象がバケモノみたいになってる件。
ちょっとキレ気味に釘を刺しただけなのに梶川さんの真似みたいに思われるとか。あの人どんだけ恐怖の象徴なんだよ……。
お読みいただきありがとうございます。
>強くなった蜥蜴は、何にして食べるつもりですか?
ステーキ、ハンバーグ、生姜焼き、照り焼き、つくね団子、ケバブ、刺身、フライドドラゴン、甘辛煮、ホルモン焼き、燻製(ry




