俺やん
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今回始めはラディアスタ視点です。
「ラディアさん、ご飯はもう済んだっすか?」
「! ……レイナか」
雑炊を食べ終えて、一息吐いていたところに後ろから声が聞こえた。
いつもの妙な口調で、レイナが話しかけてきた。
「お隣、失礼するっす」
「……おう」
他にスペースはいくらでも空いているだろうに、なぜかおれの隣に座りこんできた。
いつものように優し気な笑みを浮かべているが、どこかこちらを気遣うようにその顔には少し影があるようにみえる。
「……お兄さんのこと、残念だったっすね」
「まあな。アイツ、どこかでほんの少し我慢してればこんなことにはならずに済んだかもしれないのに、本当に大馬鹿野郎だったよ」
やり直すチャンスは何度もあった。
それを、逃げて、捨てて、振り払い続けた結末が、アレだ。
……もう、ああするしかなかった。兄貴はもうどうしようもなく、詰んでいたんだ。
「ま、自業自得だよ。残念といえば残念だけど、おれの手できっちりケリをつけられて、正直スカッとしてるところもあるんだ。実の兄貴を斬ったってのにな、ははっ」
「ラディアさん」
「なんだ?」
「今にも、泣き出しそうな顔してるっすよ」
「え、……っ?」
そういうレイナのほうこそすげぇ悲しそうな顔してるぞ、と言おうとしたけど、言葉が出なかった。
目頭が熱い。なにか喋っただけで決壊してしまいそうなくらい、おれの目には熱い水が滲んでいた。
「あ、れ、なん、で」
「ラディアさんは、実のお兄さんを斬って喜べるような人じゃないっす。泣きたくなるのは、当たり前っすよ」
「あ、あいつ、さ、いつも、おれや弟のおやつをとったりとかしてて、こんなやつが兄貴なんて最悪だって、いつも思ってた」
「……そうっすか」
「でもさ、なんでだろうな、今更、こんなになって、一緒に遊んだこととか、一緒に母ちゃんに叱られたこととか、……一緒に、泣きじゃくったこととか、おもいだしてきて、さ……っ」
頬を、熱い水が流れていく。
ダメだ、こんな顔、見せらんねぇよ……。
「ご、めん、こっちを、みないで、くれ……」
「……いいんすよ、泣いても。誰にも覗き見なんかさせないし、自分も誰にも言わないっす。今日は思いっきり泣きじゃくって、その分明日に強く立ち上がれば」
「う、ぐ……ううぅぅっ……!」
レイナの言葉に、堰が切れたのが自分でも分かった。
「うわぁぁぁあっ……!!」
声を上げて、恥も外聞もなく、泣き喚いた。
そんなガキみたいに泣いているおれの頭を、レイナはなにも言わずにただ抱いていてくれた。
~~~~~出歯亀野郎カジカワ視点~~~~~
んー、メニューさんに実況してもらっているが、ラディア君が奥の部屋で号泣してるらしい。
……クソ野郎とはいえ、兄貴を手にかけたことはやっぱショックだったみたいだな。
強いストレスを抱えた状態のままじゃ、下手したら自暴自棄になってなにやらかすか分からんし、メンタルケアは急務だった。
それを知ってか知らずか、レイナがラディア君を慰めに行ってくれた。
あの様子じゃ、今日はもうなにもできないだろうが翌日にはすっきりとした状態になっているだろう。多分。
いや俺もこんな盗み聞きするようなことしたくないんだけどやっぱ気になるというか(ry
ラディア君も最終決戦に臨むための重要なメンバーの一人だし、なにより見ていてつらいし。
……でもこれ以上はさすがに自重しとくか。
さてさて、まだまだやることは沢山ある。
まずこの街の住民たちを他の大陸までファストトラベルで避難させないとな。
これだけの人数をマーキングは無理だし、全員が接触している状態じゃないと集団転移はできないから、準備に時間がかかりそうだ。
転移した後は、カナックマートさんに頼んでおいた難民キャンプや仮設住宅でしばらく生活してもらう手筈になっている。
カナートさんには事前にこういった状況になる可能性は話しておいたし、国と連携してスムーズに住民たちを受け入れてくれるだろう。
その次は、レジスタンスたちとの合流とそのリーダーの治療。
てか、レジスタンスほぼ全員が決して浅くない傷をおして、日々魔族に抵抗しているようだ。
腕や足が代替品に代わっている人や、五感を司る器官が破損している人もちらほらいる。
……あんまり目立ちたくないけど、この惨状を放置するのはもっとアカン。
自重せずに一人残らず全員治療しましたとも、ええ。
「め、目が見える! 見えるぞぉぉお!!」
「嘘だろ、ホントに腕が生えてきやがった……!」
「うおおおぉおおおああああっ!! オレは生きてる! 生きてるってすんばらしぃぃいい!!」
「さ、さっきまで『殺してくれ』とか呟きながら全員黒焦げになってた奴が、もうピンピンしてる……!?」
「アンタは最高位の神父様、いや、もしかして聖者様なのか……?」
ちゃうわ。誰が聖者や。
つーか聖者ってなんだ。
≪『聖者』は神聖職の人間が特定の称号を得たうえでLv70に達した際にジョブチェンジできる職業。身体の欠損を含めたあらゆる病・毒・状態異常を治療可能。条件さえ満たせば、死後間もない命の蘇生すら可能。ちなみに女性の場合は『聖女』≫
要するに『そうりょ』の最上位職業みたいなもんか。
そんな人が勇者パーティにいれば、と思わなくもないけど回復・攻撃両方こなせる賢者のオリヴィエールがいるからなー。
まあ、そもそもこれ以上勇者パーティの枠を余計な人員で埋めるつもりはないんだが。
治療が終わった後に、レジスタンスたちに各地での戦況の情報やらを提供してもらうことに。
俺がマーキングしておいた人たちを通してある程度の範囲は把握できるが、如何せん大陸全土となると広すぎるからな。
俺が生やした左腕で書類をめくりながら、レジスタンスのリーダーが特に気になる情報などをまとめてくれている。
「元々あちこちで大きな争いが起きていたが、アンタらが転移してからさらに魔族側の動きが活発になってきてるみたいだ。気を付けてくれ」
「分かりました。情報提供、感謝します」
「感謝するのはこっちだよ。いやー、一時はずっと腕と足が一本ずつの生活を続けなきゃならんのかとガチでへこんでたが、アンタのおかげでこの通りだよ。むしろ前より好調なくらいだ」
アンタもあちこちガタがきてたからな。ついでに治しておいたからその影響だろうね。
「そういや、どうもこの大陸で魔王と思われる存在の情報がいくつも寄せられてるんだが、アンタは見たことあるか?」
「っ!!?」
な、んだって……!?
待て。まだ魔王のメニュー機能は復活してないはずだ。
いや、転移魔法を使えば無理やり出てくることも可能なのか?
だが、なぜここで魔王が自ら乗り出してきたんだ!?
「そいつは黒い髪で、おおよそ人間には思えないような威圧感と強さだったらしい」
「どこで、いつ見たんですか……!? いったいなにをしていたんですか!?」
「落ち着きな。順番に話すから、冷静に聞いてくれ」
嫌な汗が出てくる。
歯の根が合わない
まずい、まだなにも準備が整っていないのに、万が一俺が生きているのが魔王にバレたりしたら、今度こそ殺される……!!
「まず、そいつは空を飛んでいて、進路上にいたものを粉々にしながらとんでもないスピードで移動していたらしい」
いやそれ俺やん。
「そいつはフィリエ王国の黒竜らしき相手と争っていて、辺り一面草一本残らない地獄絵図だったとか」
それも俺やん。
「あと、魔獣たちに鬼のような形相で活を入れながら、地獄の軍勢さながらの様相で侵攻をしていたとか」
俺やん。
「さらに、超巨大なSランク上位魔獣と思しきヘビ型の魔獣を素手で叩きのめし切り裂き引き千切り、逃げ出したヨルムンガンドを無慈悲に輪切りにしたとかなんとか」
だからそれ俺じゃねーか! いい加減にしろ!
「ただ、気になるのはどうも魔族にばかり被害が出ていて人類側の被害はほぼ報告されていないようでな、かといってそんな芸当ができるのは魔王以外に考えられないし、情報部も混乱していて真相を掴めていないらしい。……曖昧な情報ばかりで済まない」
「イエイエ、非常ニタスカリマシタヨーハハハー」
【朗報】魔王襲来、誤報だった模様
【悲報】俺氏、魔王呼ばわりされている模様
……嬉しいんだか悲しいんだが、複雑な心境だ。
お読みいただきありがとうございます。
>黒トカゲの丸焼きで千と千尋の神隠しが思い浮かんだ
あんなのでもジ〇リの飯はうまそうに見えるから困る。
個人的に一番美味しそうに見えたのはラピュタのパン。
>もうあれだ、ドラ○もんに出てくる何でも美味くなる調味料ぶっかけて―――
さすがにあのサイズを踊り食いはちょっと無理かと(;´Д`)
そういえば某財団に振りかけた対象を無理やり胃の中に転移させるオブジェクトなんかもあったっけ……。
>レイナの本当のお父さんがラディア君とたたかって―――
いやあのクソオヤジはそんな熱いセリフ言わないかと。言ったとしても絶対邪な動機だわ。
仮に戦うことになってもラディア君が相手じゃまずボコボコでしょうね。素手でも勝てる。




