炊き出し 焚き付け
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仕事納めの後にも二日ほど仕事しろとかどうなってんですかね……。
はい、久々に料理実況のお時間です。
本日は街の住民全員分の炊き出しを行うというトチ狂った企画です。サポート役はアルマと勇者君。
ニンジン、玉ねぎをみじん切りにして、豚ミンチと一緒に鍋にぶち込み、水を入れて煮込む。
『時空推進機能』による時短ですぐに柔らかくなるから便利だわー。こいつが使えなきゃ何十分煮込むことになるか分からん。
なんせ街の住民たち全員の栄養補給のために、どでかいサイズの鍋いっぱいに作らにゃならんのだ。
それも5個や6個じゃ足りない。下手すりゃ数十個くらいの特大鍋がいる。
ちなみに勇者君にも時空推進機能を使って手伝ってもらってます。
「いや、多すぎだろ。オレらだけで全員分用意できるのか?」
「ファストトラベルで他の大陸に運ぼうにも、自力で動けない人が多すぎて無理だ。スタミナが危険域の人も少なくないし、早めになにか食べさせないと」
「まあ、メニューを使えばカップ麺並みに早く準備できそうだから別にいいけどさ、材料は足りるの?」
「問題ない。こっちの世界のも日本からの食材もアホみたいに買い込んでおいたから」
「そっすか。……そういや、なんでオレは日本に行っちゃいけないんだ? 魔王倒す前に逃げたりするつもりはないんだが」
「あー、日本に行くのがまずいんじゃなくて『勇者がこの世界からいなくなる』のがまずいんだよ」
「?」
仮に勇者君を連れて日本にファストトラベルした場合、とりかえしのつかない事態になってしまう危険性がある。
なぜかって? 答えは簡単。
魔王を倒す前に勇者がこの世界から離れた場合、死に戻りの恩恵が消えてしまうからですよ。
メニューいわく、勇者が死に戻りの恩恵を受けるにはこの世界そのものに刻まれた、神による祝福の術式と繋がり続けなければならないとか。
想像もできないくらい膨大な、それでいて極めてデリケートな術式らしく、勇者との接続が少しでも途切れてしまった時点で再接続はできなくなってしまうとか。
要するにもしも勇者君の死に戻りの恩恵が無くなった状態で、この戦争中にうっかり死んでしまったりしたらそれでアウト。もう誰も魔王を倒せなくなってしまう。
だからこそ、魔王を倒すまでは日本に連れていくわけにはいかない。すまぬ。
……まあ、どのみち死に戻りの恩恵には期待できなくなるんですけどね。
メニューさんの計画通りに事が進むのであれば、魔王との戦いは一発勝負になる。
歴代の勇者と違って、今回の戦いは魔王との決戦中に死んだらそれで終わりだ。
なーんで魔王は強くてニューゲームチート付きなのに、こっちはノーコンティニューなうえに難易度エクストリームなんですかね……。なにこの無理ゲー。
おっと、調理の続きをしないとな。
具に火が通ったら固形コンソメと塩コショウを入れて、炊いた後に水洗いしておいたご飯を入れて煮込む。
水洗いしておくとグチャグチャになりづらくサラサラした舌触りになるんだが、こんだけ量が多いと意味無さそうだな……。
仕上げに溶き卵を回し入れてから蓋をして、火を止めてから少し蒸らす。
卵が半熟状になったら、栄養補給用の炊き出し雑炊の完成である。
うむ、時空推進機能のおかげで非常に早く出来上がった。
鍋一つで軽く100人前はあるから、これをあと数十回繰り返せば全員に配られるだろう。
「できた分からどんどん器に掬って配っていってください。なるべく小さな子供かお年寄りを優先して」
「は、はええ、鍋一つ分作るのに5分もかかってねぇぞ……」
「これなら2~3時間もすれば全員に行き渡るだろう。配膳を急げ!」
「配られたら慌てずにゆっくり食べてくれ! スタミナが尽きかかってる時に急いで食べると命にかかわるぞ!」
「うぅ……ありがとう、おいしいよ……」
冒険者や対魔族軍の人たちが次々と雑炊を配っていって、受け取った住民たちは熱い雑炊を吹き冷ましながら食べ始めた。
そんなごちそうでもないけど、今は味よりも栄養摂取が大事だ。まともな飯はもう少し我慢してほしい。
「うぅ、久しぶりにまともな飯が食える……うめぇ……!」
「目ぼしい食料はみんな魔族に持っていかれちまったからな……。生贄にするために最低限の食事は許されてたが、味気ないうえに量も少なくて、いつか飢え死にするんじゃないかと……」
そんな大したごちそうでもない雑炊を、美味そうに食べている。
こんだけ腹が減ってりゃ多少質素な料理でも満足みたいだな。不憫な。
「……ヒカル、切るの早いね」
「毎日料理してるからな。アルマも料理スキルが成長すれば俺よりずっと上手く早く切れるようになるよ」
「ん、頑張る」
アルマにはトントントントンと野菜をひたすらみじん切りにしてもらっている。
早いっつっても、俺一人じゃ限界あるからね。アルマがギフトに料理スキルを選んでくれて助かった。
しばらく野菜と肉とご飯を鍋にぶち込んでから時空推進機能で煮込む作業を繰り返して、やっと全員分作り終えることができた。
作っている間になんだか妙な揺れを感じたが、どうも地上のほうで誰かが喧嘩してるっぽい。
「赤いライオンみたいな髪型をしたおじさんが、白いドラゴンと戦ってるんすよ。自分もその人に助けられたっす」
「ふーん、加勢しにいったほうがいいかな?」
「いや、そのオッサン『手を出すな、コイツは俺の獲物だ』って楽しそうに言ってたし、下手に手ぇ出さないほうがいいと思うぞ」
そのオッサンも戦闘狂か。ヒューラさん第二号。
揺れて雑炊がこぼれるからほどほどにしてほしいんだが。
「ドラゴン相手に戦えるってことは、その人も特級職なのかな?」
「ああ。『ジュウロウ』っていうLv95もあるバケモン級に強いオッサンだった」
「……ちょっと会ってくる」
「おい、話を聞いてなかったのか? 喧嘩の邪魔したらヤバいっての」
「少し会うだけだよ。すぐに戻る」
手練れ、それも特級職となれば会わないわけにはいかない。
今は一人でも多く強力な人に会ってマーキングしておかなければ。
でなきゃ、この戦争の後に起こる事態に対応しきれない。
……クソ魔王が、性格悪い計画立てやがって。
全部台無しにしてやるぜケケケ。ざまぁ。
~~~~~ジュウロウ視点~~~~~
「おぉらぁっ!!」
『グォアァアアッ!!』
白い竜の爪と俺の手刀がかち合うたびに、火花が散って閃光と金属音に似た甲高い音色があたりに響いていく。
いてて、さすがに強ぇな。地上最強のドラゴンサマの名は伊達じゃねぇってか。
だが、イイ。とてもイイ。
全力でぶん殴れる相手とやり合えるってのは、やっぱいいもんだなぁ!
爪を弾きながら、体勢が崩れたわずかな隙を狙って横っ面を思いっきりぶん殴る!
「喰らえぃっ!!」
『おごぁっ……!? こ、の、虫けらごときがァァアアッ!!』
竜の顎が俺の顔に迫る。首から上を噛み砕く気か。
イイねぇ、その本能的で容赦のない殺意。人間相手じゃまず味わえないだろうな。
『アアアグゥゥァアアッ!!』
「あぁぁあッグ!!」
『ギャァアッ!!?』
ギリギリのところで頭を退いて、そのまま今度は竜の顔面に噛み付き皮ごと肉を食い千切った。
皮硬ぇなこいつ。高ランクのドラゴンなだけあって、肉の味は生でもイケるが。
「意外とウメェなお前、もっと食わせろ!」
『たわけぇ! 貴様こそ、今すぐ喰い殺してやるわぁっ!!』
白い竜の目に、殺意がいや増した。
いよいよ、本気で俺を殺しにかかってくるつもりのようだ。
いいねぇ。
遠慮のない、純粋な殺意。肌にビリビリ突き刺さるようで、たまらねぇ。
言葉が通じようと通じまいと、敵だろうと味方だろうと拳を通して通じ合えるこの感覚は、何度味わってもいいもんだ。
やっぱ喧嘩ってのは最高の交流方法だな!
「あ、お取込み中失礼します」
…………………。
!?
ドラゴンの咆哮に一瞬だけ瞬きをした直後に、目の前に誰かが立っているのが見える。
そいつが視界に入った時から、しばらく頭の回転が止まったような感覚を覚えた。
そして、目の前のそいつの存在を認識した途端に、全身に鳥肌が立った。
外見は、なんとも頼りなさげな黒髪の優男だ。
見た目なんざどうでもいい。そんなものまるで当てにならないと、脳が、全身の細胞が告げている。
いつ、こいつは目の前に現れたんだ。
そしてこの得体の知れない存在感はなんなんだ……!?
「初めまして。ええと、あなたが『ジュウロウ』さんですか?」
「お、おう?」
「俺は梶川光流と申します。数時間前にウチのパーティのレイナがドラゴンたちに囲まれている時に助けてくださったそうで、本当にありがとうございました」
一人称以外は礼儀正しい敬語で、綺麗に腰を曲げた一礼をしつつ謝辞を述べている。
え、なんだ、まさかそんなことを言いにわざわざ喧嘩に割って入ったってのか? 空気読めよ。
「あ、すみません喧嘩の邪魔しちゃって。ただそれだけ伝えたかっただけなので、おかまいなく続きをどうぞ」
「……分かってるなら話しかけてくんなよ。まあ気持ちは受け取っとくがな」
とんだ闖入者のせいでちと空気が弛緩しちまったが、まあいい。
気を取り直して、喧嘩の再開といくか。
……?
『グォォオオオッ!!』
白い竜が、上空に向かって飛び上がった。
おいおい、まさか今更になって逃げるつもりじゃねぇだろうな。
『グハハハハハッ! 馬鹿め、隙を見せおったな! 消し飛ぶがいい!!』
空高くまで高度を上げてから、ブレスの予備動作をしている。
チッ、コソコソしやがって。そんなセコい真似せずに真正面から撃ってきやがれってんだ。
って、ちょっと待てよ。真下にいる俺に向かってブレスを放ったりしたら、地下にいる他の連中や住民たちまで巻き添えをくうんじゃねぇか……?
いけねぇ、俺の勝手な喧嘩にカタギを巻き込むのは、さすがに筋が通らねぇ。
ドラゴンのブレスを弾けるか? いや、できるできないじゃねぇ、やるしかねぇか!
さぁ、きやが――――――
「おい」
静かで、なのに低く重い声が俺の耳に入ってきた。
声の主、黒髪の優男が口を開きながら空を掴むような仕草をすると、白いドラゴンの動きが止まった。
まるでなにかに首を強く掴まれているかのように、苦しそうな呻き声を漏らしながらもがいている。
『がっ……!? か、カッ……!!』
「百歩譲って喧嘩するのはそちらの勝手だ、だがブレスをこんなところで吐くんじゃない。地下の人たちの迷惑になるだろうが」
『がぁぁ……!! き、さま、なに、を、して……!?』
「誰が喋っていいっつった。黙れ」
『ひぃっ……!?』
まるでゴミでも見るかのような、冷ややかな目で白いドラゴンを見上げている。
さっきまで穏やかな顔と口調で話していた男と本当に同一人物なのかと疑いたくなるような豹変ぶりだ。
……こいつアレだ、あの世界最強夫婦やギルドのグランドマスターと同じタイプだ。
普段は穏やかなのに怒りによる感情の起伏が激しくて、キレれば周りへの被害は計り知れない。しかも間違ったこと言ってないのがタチが悪い。
……こいつと喧嘩したら文字通り死ぬほど楽しいだろうが、焚き付けたらヤバそうだ。この戦争中には自重しとくか。
お読みいただきありがとうございます。
>なぜ攻撃を喰らってないのに血が……?――――
ソレ素直に鼻血って言ったほうがまだマシじゃないですかね……(;´Д`)
>主人公視点の時はギャグよりで良いと思います。――――
ありがとうございます。一応、完全なシリアスになるのは避けたいと筆者も意識しているつもりなのですが、まあスパイスとしてはどうしても入れておきたいので。
あと、終末状態なのは第3大陸だけで他の大陸はちょっと被害が出てる程度でまだ比較的平和です。
まだ。
>バルーンボディ...風船...破裂...あっなんだいつもの事か
いや確かに色んな魔獣や魔族を爆発四散させていますけれども(*´Д`)
なんて嫌な平常運転だ。
>アルマちゃんは、すごい想像力(意味深)を持っているフレンズなんだね。
なにを思って血ぃ出しちゃったんでしょうねー(棒




