最期はせめて責めないで
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今回始めもラディア視点です。
『お前のせいだ! おまえのせいだ! オマエが、オマエガァァアアアッ!!』
狼のように牙を剥きながら、兄貴がこちらに突っ込んでくる。
おれのせいだと何度も何度も繰り返しながら、泣き喚いている。
『アアアアァアアアア!!!』
「ラディアっ!」
魔獣のように伸びた爪で斬りかかってきたのを、アルマ姉ちゃんが剣で防いだ。
剣と爪がぶつかった瞬間、まるで至近距離で爆発でも起きたんじゃないかと思ってしまいそうなほど、強い衝撃と爆風が起こった。
「ぐうぅっ……!」
『ジャマ、スルナァァアア!!』
力任せにアルマ姉ちゃんを弾き飛ばそうと、まるで駄々をこねているガキのように連続で腕を振り回している。
速さも重さも、さっきまでの兄貴とは比べ物にならないほど強くなっているのが見るだけで分かる。
まだ面影の残っている、怒りに歪んだ顔を見ていると、こっちまで泣きそうになってくる。
どうして、なんで、こんな……。
おれの、せい?
おれが追い詰めすぎたから、兄貴は、あんなふうに……?
『ゴロス! チグショウ! ……ナンデ、なんでオレダケこんな目に! おれハただ、生きタカっただケだ!』
アルマ姉ちゃんと斬り合いながら、叫んでいる。
『家のカネを盗ンダのが悪いのカ!? ただ、支度金が欲しカッタんだ! イズレ大稼ぎできるよウニなっタら、返すつもりだっタ!』
『それとも、勝手にパーティを抜けたのがイケなかったのか!? おれイがいのやつらはみんな立派なソウビを着けてるノニ、ボロの装備のおればっかりが足手まといにナッテ、居心地が悪かったンダ!』
『だから、実入りのいい軍ニ入って今度コソ稼ごうと思っタノに、魔族に囲まレテ、おれだけ孤立しちまって、もう、死ぬしかないような状況にナッテ、死にたくなかった、ダから、軍の情報を売ってデモ、生き延ビテ……!』
嗚咽交じりに自分のしてきたことを、まるで懺悔するかのように漏らし続けている。
『死ニたくなかった! 死にタくない! 誰だってソう思うダろ! ソう思ってるだろ! それで生き延びようと足掻いたのが罪ナのか!? おれは、生きようとすることすら許されないってノかよォ!!』
『……もう、終わりなンダ! 魔族側の情報を手土産に軍に戻れば、罪を軽くしてもらえるんじゃないかトモ思ったさ! ああクソ、クソォ!』
『魔族側について魔王を見ちまった瞬間に『駄目だ』ってサトっちまった! あんなの、誰も勝てナイ! 人間は皆殺シにされちまう! 誰一人残さず殺さレる!』
『イヤダ! 死にたくない! 死にたくないのに、絶対にシヌって分かっちまう恐怖が、絶望が、分カるか!? 分かんねェのなら、お前らも死んじまえヨォォオオッ!!』
「っ!!」
アルマ姉ちゃんを思いっきり殴り飛ばして、再びこちらに矛先を向けてきた。
姉ちゃんはうまくガードしたみたいで、大きな怪我はしていないみたいだけどショックで崩れた体勢を直すのに時間がかかっちまってる。
「ラディア、逃げて! その人は、ソレは、もうあなたのお兄さんなんかじゃない!」
『ラディアァァァアアア!! 死ねェ! 頼む! 一緒に死んでクレェ!! もう、一人なんかイヤナンダヨォ……!! 誰か! 誰か! おれを救ってくれぇ!!』
違う。
それは、違うよアルマ姉ちゃん。
そして、兄貴も、違う。
「……兄貴」
『アアアアッ!! シネェァアアアアッッ!!!』
兄貴の爪が迫る。
このままだとあと半秒も経たずに、おれの心臓を貫くだろう。
兄貴の目からはもう憎しみは感じられない。ただおれと、一緒に死んでほしいから、だろう。
「ごめん、兄貴」
『気力操作』で全ての気力を使って、ほんの一瞬だけ身体に力を漲らせた。
迫る爪を腕で振り払うと、それだけで兄貴の手首から先が砕け散った。
『あ、アアァ……?』
懐からカジカワさんから受け取った『黒竜尾の短剣』を取り出し、渾身の力を籠めて振るう。
「ぎいぃぃがあああああぁぁぁぁああああっっ!!!」
自分でも無意識のうちに、叫んでいた。叫ばなければ、耐えられないような、最悪なことをした。
呆然としている兄貴の肩から腰までを、真っ二つに斬り裂いた。
徐々に体がズレて、落ちていくのが見える。
斬った。
おれは、兄貴を、この手で、斬ったんだ。
「う、うう、ぐ、ううぅううぅぅぅぅっ……!」
脳が、身体が震える。
斬った手が焼けるように熱いのに、寒気が止まらない。
吐き気がする。嫌だ。腕に感触がこびりついて消えてくれない。
『ら、でぃあぁ……!』
上半身の、さらに半分だけの身体でこちらを見ながら、赤く変わっちまった瞳でこちらを見ながら呻き声を上げている。
……もう、長くないだろう。
「ごめん、ごめんな、兄貴。一人が寂しいのは、おれだってよく分かる。ただ、楽しく生きたかっただけってことも分かる。死にたくなかっただけってことも、分かる。おれも、そうだ。死にたくないからって、泣いてる兄貴を殺してでも、生き延びたかったんだ」
『ああ、ぐ、ぅう……なあ、ラディア。……おれは、どうすりゃ、よかったんだ……誰も、おれを、たすけて、くれなかった。……ははは、まあ、当たり前、か。おれも、だれも助けなかったもん、な』
「違う、違うよ兄貴。アンタは確かに自己中の大馬鹿野郎だった。けど、ほんの少し間が悪かっただけなんだ」
『なに……?』
「父ちゃんと母ちゃんは、アンタが冒険者としてやっていけるように準備を進めてた。装備やポーションとか、兄貴が成人した時に困らないように冒険者の必需品を少しずつ買っていたんだよ。アンタは、それに気付かずに成人する前日に家の貯蓄を勝手に持っていっちまったんだ……!」
『なん、だって……』
「この靴底に仕込んだアダマンのナイフだって、アンタが抜けたパーティの人たちに詫びを入れようとした時に受け取った物なんだ。『お前の分の装備、買うの遅れちまって済まなかった』って言ってたよ」
『嘘……だ……!』
「嘘じゃない。それに、フィリエ王国軍の魔族討伐作戦の時に、アンタが孤立して囲まれちまった時も、救助隊が結成されてて、アンタが諦めて降伏せずにもうほんの少しの間凌いでいれば、助けられたかもしれないって……」
『うそだ、うそだぁっ……!! そんなの、しんじ、られる、かよぉ……! それじゃあ、まるで、おれひとりが、馬鹿やってた、みたい、じゃ……』
死ぬ間際まで子供のように泣き続ける兄貴の姿は、ほんの少しだけいじらしく、絶望的なまでに憐れに見えた。
「ああ、馬鹿だよ。アンタは大馬鹿野郎だ。……どうして、どうしてどこかでほんの少しだけ、我慢ができなかったんだ、アンタはっ……!」
『……ひぐっ……! ぐうぅっ……!』
残った右腕で目頭を押さえながら、すすり泣いている。
無念、ただただ無念という感情だけが、感じられた。
「もう、助けてやることはできない。……ただ、死ぬまで傍にいてやることくらいはできるから……」
『ラディ、ア……』
「もうアンタを責めたりしない。もう、安らかに、休んでくれ」
すすり泣く声が急に止まって、苦しそうな吐息だけが聞こえる。
何秒か経ったころに、兄貴が口を開いた。
『……おい……聞け……』
「……なんだ」
『この、大陸の、魔族の、拠点は、地上じゃなくて、地下に、ある……』
「……え?」
『『ハルカウバ』、っていう、街の近く、に、なにもない、岩場が、ある。そこの、岩の一つ、は、魔法で、つくった、まぼろ、し。その岩を、通り、ぬけて、くだって、いけ……ば……』
「なに、言ってんだ……?」
『……じゃ、あな……ハナ、タレ……ラ……ディ……』
「兄貴……? おい、兄貴……!」
それだけ呟いて、もう、兄貴が声を出すことはなくなった。
魔獣みたいに変わり果てちまってるのに、安らかな顔のまま目を閉じて動かなくなった。
~~~~~アルマ視点~~~~~
「ラディア、大丈夫……?」
「……ああ、すまねぇ。悪かったな、こんなやつ埋めるのを手伝ってもらっちまって」
「ううん。……さっきはあんなことを言ってしまったけれど、やっぱりこの人はラディアのお兄さんだから……」
「……そうだな。ありがとう」
泣き腫らした目を擦りながら、ラディアが地面に短剣を突き刺した。
本当はお兄さんに渡すはずだったアダマンのナイフを、お墓代わりに置いていくらしい。
「こんなやつでも、おれの兄貴だったんだ。……今になって、一緒にメシ食ったりしたことなんかが思い出してきちまうよ」
「……そう」
「けれど、これ以上は時間を無駄にはできねぇ。ホントのことかどうかは分かんねぇけど、兄貴の遺した情報を皆に伝えてやらねぇと」
きっと、本当のことだと思う。
最期に話していた時の声だけは、兄としての想いが籠められていたように感じたから。
「埋葬は終わったかー? なら早く他の援軍の救助に行くぞー。やれやれ、左の手足が無くなっちまったぜ。いてて、しばらく疼くなこりゃ……」
止血を済ませた様子のリーダーが、ケンケン跳びで近寄ってきた。
貧血のせいか少し顔色が悪いけど、命に別状は無さそう。
「アンタ、レジスタンスのリーダーだよな。その手足、大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃねぇよ、超痛いわ! ああもう、これからずっとこんな感じで移動しなきゃいけねぇのか、とほほ……」
「私のパーティのリーダーなら、治せると思う」
「え、マジか!? 嬢ちゃんところのリーダーって、最高位の神聖職かなんかなのかい?」
「違うけど、治せる。合流した時に治療してくれるように頼んでみる」
「んー、頼りになるか微妙そうだが、まあ無いよりマシか……期待せずに待ってるぜ」
四肢が二つも無くなったのに、大してショックを受けていないように見える。不便そうには見えるけど。
……リーダーだから、そう簡単に狼狽えないように振る舞っているんだろうか。
「各地から連絡が入ってるから、救助できそうなところへ急いで向かってくれ。危険地帯なんかには近付かないようにな」
「危険地帯……?」
「ああ、例えばここから少し東側の街道沿いで足の生えたクジラとバカでかいニワトリが争っているらしいぞ。巻き込まれたらただじゃ済まんだろうな」
……ニワトリ? ヒヨコのことかな。
でも、『バカでかい』? やっぱり違うのかな。
「そうそう、ちと遠いが『ジャング』って街には行くな。現在、大量のドラゴンたちが上空を飛んでいて街は壊滅状態らしい」
「しかも、なにやら影に人が次々と引きずり込まれていくのが見えたっていう不気味な報告も上がっているようだ。騒ぎが落ち着くまでは、近寄らないほうがいい」
影に引きずり込まれる……レイナのことだと思う。
影潜りで回収しつつ、救助を進めているようだ。ドラゴンが近くに飛んでるらしいけど、大丈夫かな。
「近くの牧場近くで大量の魔獣を従えた男が魔族たちを蹂躙しながら進軍しているらしい。魔族の飼育していた魔獣たちを奪い取ったようだ」
「敵の戦力を削って、こちら側の戦力を増やすとは、なかなかのやり手だな。コイツと合流するのもアリかもな」
魔獣使いの人が、魔族の飼っていた魔獣をテイムしたのかな。
まさかラーナイア・ソウマだろうか。……無事に、助かったのかな。
「……あと、大陸の中心部には絶対に近付くな」
「え、どうかしたのか?」
「『終焉災害指定』の魔獣が3体も発生したのが確認されている。『ヨルムンガンド』と『ヒュドラ』と『ヤマタノオロチ』だそうだ」
「な、なんだって!? そんな魔獣たちがもしも大々的に暴れ出しでもしたら、この大陸は……!」
「いや、それが、さらにおかしな情報が入っていてな……」
「え?」
「その3体の魔獣を殴り倒したり地面に叩きつけたり食い千切ったり食われたかと思ったらそのまま腹を突き破ったりして、終いには逃げ出そうとしたヨルムンガンドを鬼のような形相で追い掛け回している空飛ぶ黒髪の男がいるとか訳の分からん報告が上がってるんだが……」
「……無線魔具の不具合かなんかじゃないか?」
ヒカルだ。絶対ヒカルだ。
なかなか帰ってこないと思ったら、他の場所で暴れてるみたい。
……大丈夫かな、この大陸。
お読みいただきありがとうございます。
>さっさと仕留めないとこうなる例。慈悲はいらない。はっきり分かんだね。
でもそのおかげで情報が手に入ったのもまた事実。
……まあ、時間が経てばどのみちカジカワ辺りが見つけてそうではありますが。
>こうゆうタイプのクズがそう簡単に終わる訳無いですよね〜。―――
ちなみに魔獣化兄貴のステータスは大体7000近くで、まともにやり合えばアルマでも苦戦するレベルだったり。
捨て身紛いの一撃必殺でなければ、ラディア君が倒すのは無理だったでしょうね。
>ヘイト稼ぎすぎです。 第二形態とか、もうええがな…―――
「おかあちゃん」だけ不採用に。いや他二つだけでも情けない気はしますが(;´Д`)
>人としてはクズでも食材としては…ですかね?―――
それこそ一山いくらにもならんでしょうに(;´Д`)
カニバる描写は書きたくないでござる……。
>さあ、弟君もうソイツは人間じゃねえ、これで躊躇しなくて良くなったな。
躊躇はしませんでしたが、身内を斬ったという事実は事後に圧し掛かってくるという地獄。
ある意味、最後まで救いようのないクズでいてくれたほうがマシだったのかも。
>とうとう誰が主人公なのか判らない感じになりましたね。――――
258話の感想ありがとうございます。
まあ、『この世界の主人公』は一応勇者君ですので。
……ただ、やっぱもうちょっと主人公らしく表にでて活躍させたほうがいいのでしょうか……(;´Д`)




