追い詰められる愚間者
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今回始めはアルマ視点です
魔族側の間者がこのアジトに紛れ込んでいるという疑惑が浮上して、皆疑心暗鬼に陥りそうになっている。
本当なら今すぐ全員の持ち物やアリバイを洗っておくべき。
でも、今は孤立してしまっている人たちの救助を優先しなければならない。
最低人数だけ残して救助に向かおうとした時に、……私が魔族の仲間じゃないかという声が上がった。
「よく考えてみろ、コイツはさっきの戦いの際に剣と魔法両方を使っていた! そんなことができるのは魔族ぐらいなもんだろう!」
「それは、パラディン系職業の特性。条件は厳しいけれど、見習いからパラディンにジョブチェンジすれば剣も魔法も両方扱える」
「そんなデタラメ、通じると思うのか!」
……さっきからこのフードを目深に被っている男性が、しつこく私を魔族の手先だと疑ってくる。
仲間を信じたい気持ちは分かるけれど、それで私が魔族だと決めつけるのには証拠が足りない。
「デタラメだと思うなら、鑑定用紙を見れば分かる」
「こんなもの、いくらでも改竄できるだろうがっ!」
鑑定用紙の内容を見る前に、破り捨ててしまった。
駄目だ、頭に血がのぼっているようで話を聞いてもらえない。
「おい、落ち着けよ。この子が魔族だっていうのなら、そう疑われないように立ち回るだろう。さっきも剣か魔法どっちかを使っていれば、こんなふうに疑われないで済んだだろうに」
「鑑定用紙の内容も見ずに破るなんて、いくらなんでも乱暴すぎるだろ……」
「みんな、騙されるな! そもそも20体近くもの魔族に囲まれたのに、全員無傷で倒したうえにここまでこれたなんて話がおかしいんだ! こんな小娘にそんな芸当ができるわけないだろうが!」
「だから、鑑定用紙を確認してもらうために渡した。討伐履歴に魔族を倒した内容が表示されているから、見てほしい」
そう言いながら、予備の鑑定用紙を他の人に渡した。
それを再び破り捨てようとでもしているのか、フードの男性が奪い取ろうとしてきたけど、手で制して止める。
「……確かに、魔族を何十体も仕留めた履歴があるな。歳の割にえらくレベルが高いが、種族はちゃんと『人間』と表示されている」
「だから! そんなものは改竄すればいくらでも……!」
「いや、この鑑定用紙を作成したのは『鑑定師』のフィルスダイム氏のようだ。作成人の名前は如何なるスキルでも改竄不可能だし、『鑑定師』の作成したものならば内容の改竄などできるわけがない」
「つまり、この鑑定結果は本物というわけか。どうだ、これでも納得できないか?」
「くっ……!」
……おかしい。
このフードの男性、私を疑っているというよりも、むしろ私を犯人に仕立て上げようとしているようにみえる。
こちらの話を一切聞かないし、鑑定用紙まで破り捨てたのはどう考えてもこちらの証拠を破棄するためとしか思えない。
「悪かったな、お嬢ちゃん。ウチのもんが疑ったりして」
「この状況じゃ仕方ない。……それよりも、聞きたいことがある」
「……なんだよ」
私を疑っていたフードの男性を指さして、質問を投げかけた。
「あなたは、誰? 名前は? 職業は? いつからこのアジトにいる?」
「……っ」
「私は潔白を証明するために、鑑定用紙まで見せた。今度は、あなたの番」
「……おいおい、自分が疑われたからって、仕返しのつもりか? まるでガキみたいで大人げないぜ?」
肩を竦めながら、ふざけた様子で応えるフード。
……これは、当たりかな。
「怒っているわけじゃない。ただ、あなたのことが知りたいだけ」
「そういえば、いつの間にかアジトに混ざっていたけど、こいつのこと知ってる奴いるか?」
「……?」
「いや、知らねぇけど……」
フードの下の顔に、脂汗をかいているのが見える。
焦った様子で、フードが自己弁護しようと必死に口を開いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! これまで一緒に魔獣からアジトを守るために戦ったりしてただろ!?」
「ああ、確かに前回も、前々回の襲撃の時にもお前はいた。それはオレがこの目で見ている」
リーダーらしき茶髪の男性が、フードの言葉を援護するように言葉を続けた。
それに対して、どこかホッとしたような顔でフードが口を開く。
「そ、そうだろ、さすがリーダー、分かってくれたのか……!」
「だがオレはお前のことをよく知らん。この際だから少し聞かせてくれないか?」
「えっ?」
「レジスタンスメンバー全員の出身地から職業に年齢、好きな食い物まで分かっているつもりだったんだが、忙しくてお前のことだけを聞きそびれていたみたいでな」
「は……?」
意地の悪い笑みを浮かべながら、リーダーが質問を続けた。
……この人、どうやら相当人が悪いみたいだ。
「なあ、五日前の晩に急に現れて気が付いたらレジスタンスに混ざっていたお前は、いったい誰なんだ?」
「……ちっ!」
舌打ちをしながら、フードが部屋の出口へ向かって走り出した。
もう誤魔化しきれないと判断したのか、逃げるつもりのようだ。
「逃がすな、追え!」
「おいリーダー! アンタまさか始めから間者の目星がついてたのか!?」
「確信は無かったけどな! もしかしたら行くあてもなく彷徨ってた冒険者かなんかかと思ってたんだが、まさかスパイとは! いやぁ残念だ! ……クソッ!」
「いや、アンタ少しでも怪しいと思ったのなら俺らに相談するなりアイツを問い詰めるなりしとけよ!」
フードを追いかけながらリーダーが本当に残念そうな顔で言っている。
……もしも、事前にあのフードの正体を突き止めていたのなら、誰も孤立せず予定通りに攻略できたかもしれないのに。
過ぎたことを嘆いても何も解決しない。早くあのフードを捕まえないと。
~~~~~フードを被った間者視点~~~~~
走る、走る。
これまで上手く行ってたのに、バレちまった。捉まったら終わりだ……!
「畜生、ちくしょうチクショウ! あの女のせいで全部台無しだ!」
悪態を吐きながら、全速力で逃げ続ける。
魔法と剣両方使ってるのを見て、一瞬人間に擬態してる魔族かと思ったけど、違う。
魔族たちは人間に擬態して肌や目の色は変えられても、髪の色は変えられない。
黒髪の魔族なんてのは、魔王だけだ。つまりあの女は魔族じゃない。
けど、そんな情報を知っているのは魔族側にいるおれくらいなもんだ。
だから、あの女に間者の疑いのヘイトを押し付けて、今後の行動をしやすくしようと思ったのに。
なんでどいつもこいつもおれの思い通りに動かない!
どうしていつもおればっかりこんな目に遭うんだ!
「こっちだ! こっちにいるぞぉ!」
「逃がすなぁ!」
「クソが! 死んでろやぁ!」
「ぐっ!? こ、この程度でっ……!?」
懐から投擲用のナイフを取り出し、追手の喉元へ向けって投げつけた。
咄嗟に手で防いだみたいだが、刃に塗られた麻痺毒の効果で倒れたようだ。
こんなところで、捕まってたまるか! 死んでたまるか!
おれは、生きるんだ! 一分一秒でも、誰よりも長く生きるんだ!
もう少しで、近くに設置しておいた転移ポータルで脱出できる。
この拠点の情報を魔族に渡せば、まだおれの価値を認めてもらえるはずだ。
……ホント、いつからこうなっちまったんだろうな、おれは。
あの岩場に、ポータルがあるはずだ。
……ふぅ、どうやら無事に逃げ切れそうだ。
「悪いなみんな、これも仕事なんでな。あばよ」
ポータルに足を踏み入れようとする直前、その違和感に気付いた。
ポータルがある岩場の入り口に設置しておいた、侵入者識別用の糸が切れている……?
「っ!!」
その時、猛烈な悪寒。
これまで何度もこの感覚を覚えた時に死にかけてきた、忌まわしい記憶がフラッシュバックする。
反射的にポータルから縮地を使って離れた直後
轟音が鳴り響き、全身を強い衝撃が貫いていった。
「うわぁぁぁあああっ!!?」
いったい、なにが起きた!?
ポータルを設置しておいた岩場のほうを見ると、ポータルごと粉々に砕け散ってしまった岩場が見えた。
追手の攻撃魔法か? いや、もうある程度振り切ったはず。なら、いったい……
「………見つけたぞ、クソ兄貴」
「……っ!?」
爆発による土煙の中から、人影が出てきた。
おれと同じ、緑の髪と瞳。そして、短剣。
「て、めぇ……!!」
「もう逃がさねぇ。今度こそてめぇを仕留めてやる! ラジーヴィアぁっ!!」
「邪魔してんじゃねぇぞ、ラディアぁあっ!!」
死にぞこないの実弟が、短剣を構えながらおれに向かって突っ込んできた。
……あの時、ちゃんとトドメを刺しとくべきだったなぁ。
クソが! クソッタレ! ブチ殺してやるよ!!
お読みいただきありがとうございます。
>もう...ゴールしちゃいなよ(他人事)
勇者「そうなるくらいなら腹切って死にます」
実際、勇者君が将来男性的なイケメンにでもならない限りずっと追い回されそうな感じではある。
なおその予定はない(無慈悲
>進化したヒヨ子はどこぞのゲームみたいに―――
かなりご都合主義というか、敵に回すとかなり面倒な能力だと思います。
味方側にいると肉盾にも諜報員にもなれるという万能ぶり。詳しくはまた後のお話にて。
>ヒヨコ、ナニになったんだ気になる
近いうちに公開予定です。
もはやカジカワパーティの主力と言っても過言じゃないナニカになった模様。




