霞む活躍
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今回始めはレイナ視点です。
『この小娘がぁぁああ!! 楽に死ねると思うな人間如きがぁ!!』
仲間を一体殺されたことに激怒し、こちらを叫び殺す勢いで怒鳴るドラゴンたち。
その咆哮だけで足が竦みそうになるけれど、絶対に怯えてなんかやるもんか。
怒っているのは、こっちのほうだ!
『死にさらせやぁ!!』
「お前がな!」
ドラゴンがこちらにブレスを放ってくる。
それは、例えるなら炎の大玉。アルマさんの攻撃魔法に似ているけれど、威力は段違いに高い。
雷属性のブレスなら短剣に吸収させて威力を減退することもできただろうけど、炎となると避けるしかない。
と、短剣が進化する前なら思っていただろう。
短剣を炎の大玉に向かって振るう。
一回、二回、三回と振るうたびに大玉が小さくなっていって、消えた。
『……なんだと!?』
『ブレスが、消え―――』
「はぁっ!!」
ブレスがかき消されたことに唖然としているドラゴンたちに向かって、そのまま【魔刃・遠当て】を放った。
放たれた遠当ては、命中したドラゴンの胴体を容易く真っ二つに両断した。
『き、貴様ぁ!! いったいなにをしたぁ!?』
「その無駄にデカい頭で考えろっす!」
……進化した短剣の能力、恐ろしく強力っすねー。
つっても、攻撃力が上がって雷属性以外の遠距離攻撃も吸収できるようになっただけなんすけど。
ヒヨ子ちゃんの使うイート・ビークによく似た能力だけど、こっちは吸収した攻撃を雷属性へ変換する効果がある。
ただ、吸収してから10秒以内に攻撃しないと、吸収した分の攻撃力補正が消えてしまうという弱点もあるけど。
この能力があれば、ドラゴンたちにも充分対抗できる。
強力なブレスも何回かに分けて斬れば吸収し切れるようだし、今の状況にピッタリの、攻防一体の能力っすね。
『お前ら、集まれぇぇええ!! このクソガキャア袋叩きにしてやらぁ!!』
『グガァァアア!!』
『ゲギャアアア!!』
「う、うわぁあっ……!」
……まあ、こんだけ戦力差があると自分一人でやり合うのは無理なんすけどね。
今も集まってきた何十何百ものドラゴンたちに怯え切ってしまってる、この銀髪魔法使いさんが襲われているのを見て後先考えずに出ていった結果がコレっす。
普通に考えたら、この人を見殺しにして回収した人たちと一緒に出直してくるのが正解だと思う。
冷徹な判断っすけど、これは戦争。一個人によるその場の感情で動いていい状況じゃない。
なのに、自分はなにをやってるんすかね。
見ず知らずの人のためにこんなことやらかして、ホントバカみたいっす。
「まあ、やるだけやってやるっすよ。魔法使いのお姉さん、死にたくなかったら自分にしがみついていてほしいっす」
「え、ええ……?」
「いいから早く!」
魔法使いさんと一緒に影潜りで逃げるために、建物の瓦礫に向かって縮地で移動。
くそ……! 周りの建物を滅茶苦茶に壊しまくってるせいで、潜って逃げられそうな瓦礫の影が見当たらないっす。
『逃ぃぃぃがすかぁぁああああ!!』
「わっぷ!?」
「ひいぃ!?」
直接こちらを狙うんじゃなくて、進行方向へ向かってブレスを吐いてきた。
まずい、今のブレスで周辺の瓦礫もなにもかも吹き飛ばされてしまったっす。
【土遁の術】っていう、地面に潜り込む技能もあるにはあるんすけど、自分一人にしか使えないからそれじゃダメだ。魔法使いさんが置き去りになってしまう。
今更見捨てるわけにもいかないし、どうしようか。
ってか、魔法使いさんが今のブレスを見て腰が抜けたのか、へたり込んじゃったっす。
「立って! 走って逃げるっす!」
「む、無理だよぅ……! もう私はいいからあなただけでも逃げてぇ……!」
「なに言ってるっすか! ボヤボヤしてると、ホントに死んじゃうっすよ!?」
活を入れながら逃げるように催促しても、立てないようだ。
もう、根性なさすぎっすよ! ……あれ、なんか足元濡れてないっすか?
あ、ああー……。そりゃ立てないっすよね。うん。……おぶって逃げようにも、自分の背中が大惨事になりそうっす……。
『おやぁ、もう逃げるのは終わりかぁ?』
『なら早く死ねやぁ!』
「うるさいっす! お前らのほうが死ねっすこのクソトカゲども!」
『吠えるな小娘が ボゴハァッ!!?』
激怒しながら、こちらに向かってブレスを吐こうとしていたドラゴンの横っ面を、誰かがぶん殴った。
「同感だな。よく吠えた、お嬢ちゃん」
一瞬カジカワさんかと思ったけど、違う。
赤く、ライオンの鬣を思わせる髪を靡かせながら、ドラゴンたちに真っ向から立ち向かっている筋肉質な男の人がそこにはいた。
……だ、誰っすか? 自分たちを助けてくれたのを見る限りじゃ、味方っぽいっすけど。
てか、この人からすっごい力を感じるっす。まるでアルマさんの御両親みたいっす。
「はぁ、こんな小さな嬢ちゃんたちが頑張ってるのに、俺がコソコソしてるのはやっぱ性に合わねぇや」
「あ、あの、どちら様っすか?」
「ん、俺か? 『ジュウロウ』っていう、ただの喧嘩屋だ。この喧嘩、ひとまず俺が預かろう。お嬢ちゃんたちは安全な所まで避難しときな」
「む、ムチャっすよ! あなたが強いのは見れば分かるっすけど、いくらなんでも多勢に無勢っす!」
「はははっ! 他人に心配されるのなんざ、いつぶりだろうな。だが、手出しも心配も無用だぜ」
屈強なドラゴンたちを前にしても、まるで恐れていない。まるでこんなのは日常茶飯事だと言いたげに、余裕たっぷりに笑っている。
それを見て癇に障ったのか、ドラゴンたちがジュウロウさんに目標を切り替えた。
『ゴミが増えたか、忌々しい……!』
「ほらほら、こいよ。遊んでやる」
『くたばれっ!!』
指をクイクイと動かしながら挑発するジュウロウさんに向けて、ドラゴンたちが爪を振るった。
ドラゴンの爪は、ミスリルやアダマンの塊を紙屑のように引き裂くほどの威力がある。生身で受ければ大怪我じゃ済まない。
それを、真正面から受け止め、掴み、ドラゴンの身体を地面に叩きつけ
『ゴハァッ!!』
「おぉらぁあっ!!」
『ガビョオッ!!?』
そのまま頭突きを顔にブチ当てて破壊した。
なんて、力任せの戦いかただろう。まるでキレた時のカジカワさんみたいっす。
「おいおい、こんなもんか? 期待外れだなぁ」
『くっ……こやつ、かなりやるな……!』
『やむを得ん、リーダーを呼べぇ!!』
『リーダー』ってことは、この群れを統率するボスみたいなドラゴンがいるってことっすか?
……! うわ、確かに他のドラゴンたちよりずっと強い魔力をもってるのが一体いるっす。少なく見積もっても、2~3倍くらい強い。
手下たちの危機を感じとったのか、その強い魔力反応がこちらに近付いてくる。
『ほぉ、なかなか骨のありそうなやつがいるじゃないか』
その気配の主は、並のドラゴンの何倍も大きな、真っ白な竜だった。
明らかに格が違う。魔王の手下になる前の黒竜さんよりも、ずっと強そうっす!
……こ、これはさすがにジュウロウさんでも勝てないかも……!
『リーダー! どうかあいつを!』
『どうか頼みます、ホワイト兄貴!!』
『言われずとも、すぐに喰い殺してやる。覚悟せよ、赤髪の雄よ』
「はっ、ゴタゴタ言ってねぇで、来いよ!」
『お前たちはその間に、ブレスでこのあたりの『掃除』でもしていろ。草木一本残すでないぞ』
『『『はっ!』』』
まずい、まずいまずいっす!
このままじゃ仮にあの白い竜を倒せたとしても、他のドラゴンたちをなんとかしないと回収して避難させたみんなが殺される!
『では行け……っ?』
「……え?」
「……ん、なんか起こったみてぇだな」
空から一斉にブレスを吐いて掃除をしようとしていたドラゴンたちが、次々と落下していく。
よく見ると、ドラゴンたちの首が斬り落とされている。
誰かが、空を飛んでドラゴンたちを次々仕留めていってる……!?
今度こそカジカワさんかと思ったけど、違う。
千里眼で空を飛ぶ相手を確認してみると、前髪が赤色と銀色で後ろ髪は長い金色の、小柄なのにボインボインな女の子が、変わった形の剣を振るっているのが見えた。
あれ、どっかで見たような顔っすね。……なんか、ネオラさんに似てるような……?
あ、もしかして、あの人は……。
~~~~~ボインボインTS勇者視点~~~~~
『な、なんっ ゴハッ!?』
『速すぎる! なんだこいつは!?』
『クソが! これでも喰ら ギャバッ!?』
ブレスを吐こうとする前のチャージ中、隙だらけになるドラゴンたちを次々と刀で斬り落としていく。
遅い遅い。チャージする間に軽く5、6回は斬れるわ。
ってか弱いなこのドラゴンたち。いや、勇天融合状態のオレが強すぎるだけか。
……ふふふ、やっと勇者らしくオレTUEEEできてすっごい爽快感だ。
今なら、誰にも負ける気がしない。
俺とレヴィアとオリヴィエのステータスが足されているので、ほとんど全ての能力値が6000~7000近くまで上昇している。
気力強化すればさらに何倍も強くなれるし、カジカワさんに魔力飛行を教えてもらったから機動力もドラゴンたちよりも遥かに優れている。
え、調子乗ってないかって?
これまで何度も死にまくってばかりでロクな活躍できなかったんだから、これくらいは大目に見てくださいよー……。
……にしても、強くなるのはいいんだけど、やっぱこの身体は慣れないわ。
もう動くたびにばるんばるん揺れるし、微妙にバランスとりづらいし。
自分の胸なんか触ってもなんも楽しくないし。
……というか、一回揉んでみたりしたら融合解除した後にレヴィアに殴られたし、もう触ろうとは思いません。はい。
間接的にレヴィアやオリヴィエのを揉んでるようなもんだし怒るのも無理ないか……。
レイナがドラゴンたちに囲まれてピンチだと、カジカワさんからチャットで救援要請があって、たまたま近くにいたオレが助けに行くことに。
レヴィアとオリヴィエと早めに合流できてて助かった。さすがに素の状態じゃこの数相手に戦うのはきつい。
『接近戦は不利だ! 遠距離からブレスを撃ちまくれぇっ!!』
『ははっ、いくら強かろうと、これだけの数相手にやり合えると思うなぁ!!』
おっと、さすがにあれだけ離れていると刀剣術じゃ届かないな。
ま、なにも問題ないけど。
「【セイントレーザー】っ!!」
指先から、光属性の上級魔法を放つ。
超高熱のレーザーを横一文字に薙いで、次々とドラゴンたちを落としていく。
魔法の威力も段違いに強くなってるな。別にオレは近接戦闘ばかりが能じゃないぜ君たちぃ。
てか、ドラゴン討伐の経験値エグいな。
もうLv80にまで上がっちまった。あ、新機能増えた。ファストトラベルの拡張? 便利そうだけど、試すのは後にしよう。
カジカワさんからも、できる限りこの戦争中にレベルアップするように言われていたし、残りのドラゴンを全部殲滅するつもりでいきますかね。
『こ、こいつやべぇ! まさか、こいつが人間たちの切り札、勇者ってやつか!?』
『まさか、ここまでの強さとは……!』
ふはははは、まるで竜がゴミのようだ!
もうオレに怖いモノなど、カジカワさんと教官二人ぐらいしかない! あとレヴィアの折檻と酔っぱらったオリヴィエも。
≪……結構あるじゃないですか≫
うるちゃい。あの人たちはもう色々おかしいから仕方ないの。
さーて、残りのドラゴンたちもまとめてぶった斬って――――
「う、うおおおおおぉぉおおお!! 勇者ちゃぁぁぁああああんっ!! 俺だぁぁあぁぁああ!! 結婚してくれぇぇぇえええっ!!!」
……。
いかん、精神攻撃でも受けたか。幻聴が聞こえてきた。
メニュー、状態異常回復薬をアイテム画面から出してくれ。
「男だなんて言ってたけど、やっぱ女の子だったんだな!! いや、それならそれでいいっ!! どっちでも愛してるよォォおおお!!」
メニュー、なにやってる! 早く出せ! 幻聴が酷くなってきてるから!
≪出しても意味無いです。現実を見ましょう。……なーんであのハゲオッサンまでこんなところにいるんですかねー……≫
「L・O・V・E!! 勇・者!! ゆうしゃちャァァァアアアんっ!!!」
「うるせぇぇぇぇぇええええええっっ!!! さっさとどっか行けハゲクソァ!!!」
もうやだ。こんなとこ来るんじゃなかった。帰りたい。
おいドラゴンたち、アイツならいくらでも焼き殺していいぞ。むしろはよ殺せ。はよ、はよ!
お読みいただきありがとうございます。
>人間の間者...クソ兄貴かただのモブですね?―――
さて、どうなのでしょうか。また後のお話にて。
禁忌魔法も通常の魔法に比べて代償と効果が桁違いに高いって以外は特に特徴無いですからねー。とりあえず禁忌って言っとけ感。なお近畿は関係ないとあれほど(ry
ヒュドラは魔力で作った顎で噛み千切ってます。その気になれば生身でも噛み切れそうですが。




