あいすくりーむ!
新規のブックマークありがとうございます。
続けてお読み下さっている方々にも感謝。
料理パート多すぎへん?
もうこれも恒例にしようかな。(今更)
ダンジョンから脱出し、三人娘と街に帰還した。
街で別れる際に、今日俺が戦っていた時のことは他言無用でいるように釘を刺しておく。
単なる口約束に過ぎないが、こちらに助けてもらった手前そう簡単に口を滑らせることはないと信じたい。
戦闘時と違って、笑顔のうえに穏やかな口調で真摯に頼んだら青髪ちゃんと銀髪ちゃんは頭がもげそうな勢いで首を縦に振ってくれた。うむ、分かってくれたか。顔面蒼白だったのが気になるが。
赤髪の子はそんな二人を見てひどく困惑していた。説明聞いても意味わからんって顔してたけど、我が事ながらあれを上手く説明しろって方が無理じゃね?
で、急いで乳製品を置いてる店に牛乳と生クリームの代わりになるものを購入。
≪【クリムスライムの体液】体の構成成分が生クリームに酷似しているスライムの体液。起源はテイムしたスライムを牛乳のみを与えて長期間育てた結果変異・品種改良したもので、広い地域で飼育・養殖されている≫
またすげー食材があるもんだなおい。
スライムって、与える餌によって変異するのか。
例えば果物ばかり食わせてたら、フルーツゼリーみたいになったりするのかな。
≪実際、いくつかそういった種も存在する模様≫
いるのかよ! すげーな!
ファンタジー生物の神秘というかなんというか。ちょっと俺も飼ってみたくなってきた。
その後調味料を扱っている店で塩を購入。
まだストックはあるけど、これから結構消費する予定なので一応補給しておく。
これで材料は揃った。あとは道具だな。
と言ってもこれらの材料を密閉するためのものだが、何がいいかな。
水筒とか売ってる店に丁度良さそうな容器があった。
魔獣の胃袋を加工して作った、密閉性抜群で柔らかい袋状の水筒だ。
外気の影響を受けやすく、中に入れた液体を常温で保存するためのものだが、これから作る物の入れ物の条件にピッタリだな。
ついでに大きめの薄い革袋を購入。これで道具も揃った。
宿に戻って、キッチンに上機嫌で向かう。
まだ夕方にもならないが、おやつどきだし丁度いい。
というわけで、アイスクリーム作りまーす! いえーい!
いや、なにがというわけでなのか分からんだろうけど、俺も分からん。
バニラビーンズの代用品を手に入れて、テンション上がったまま色々購入してたけど、それだけで今日の成果赤字やん。ダンジョンの魔物は討伐報酬出ないし、素材もほとんど手に入らなかったし。
でも仕方ないんやぁ。どうしても作りたくなったんやぁ。こっちの世界に来てからお菓子も時々作ってるけど、材料が足りないからどうしても風味に欠けるもんしか作れなかったし…。
アルマからも好きにすればいいってお許しをもらったけど、今後はその日の収支を考えて物を買うことにしよう…。
よし反省完了。気を取り直して調理にとりかかりますか。
まずダンジョンで手に入れたバニラの代用品になる豆を3粒ほど乾煎り。
≪【バニソイ豆の種】乾煎りすると地球のバニラビーンズに酷似した香りを放つ豆の一種。実は食べると辛苦く、一般的に食用にはされていない。≫
お菓子の香り付けなんかに使われてるんだろうな。
何処の店にも売ってなかったし、旅の商人の誰も持ってなかったのが気になるが。
≪主にアロマやフレグランスとして使用されていて、スイーツ等には使われていない模様≫
も、もったいねぇぇ! いや、地球でもバニラの香水とかあったかもしれんけどさ。
バニラの風味が加わるだけで色んなお菓子が一気に美味くなるというのに、なんということだ。
うーん、どっかにバニラの有用性を広めてくれる人がいないかな。特許とかいらんから、高名な料理人が作ったバニラ系のスイーツとか食べてみたいし、いつか機会があったら広めたいものだ。
乾煎りして、甘い香りを放っている豆を砕いて、すり鉢で粉状にして布で覆い、火にかけた牛乳にティーパックの紅茶のように入れて香りを染み渡らせる。
これに砂糖を入れればバニララテになりそうだけど、今日はやめとこう。飲み過ぎてアイスの分が無くなる気しかしない…。
「いい匂いがする…甘そうな匂いだね」
「ああ、バニラの香りだな。こっちじゃ香水に使われるのが主らしいが、俺の故郷じゃお菓子の香り付けに使われてることの方が一般的だったな」
「何ができるか、楽しみ」
「あ、そうだ。良かったらアルマも一緒に作るのに挑戦してみないか?」
「え? わ、私、料理のスキル無いから、美味しくできないと思うけど…」
「大丈夫。このお菓子は包丁も火も使わないし、匙加減は俺が調整してるから。簡単に美味しく作れるよ」
「…なら、やってみる」
よし、説得成功。
たまには一緒に料理に挑戦してみるのもいいじゃないかと思って誘ったが、まんざらでもなさそうだ。
なにせこれからの作業は一人じゃちょっときついからな。
生活魔法で作った水を、魔力操作で宙に浮かべて、さらに熱エネルギーの逆ベクトル、冷気に変えた魔力で凍らせる。
容器に移した水を凍らせたら、張り付いて取れなくなったから、こんな派手なことする羽目になってしまった。周りに人目がないからいいけどさ。
作った氷に塩をふりかけて揉みこむ。こうするとマイナス10℃くらいまで温度が下がって、アイスクリームを作るのに適した状態になるらしい。
で、さっきの牛乳と砂糖、あとクリムスライムの体液を混ぜて水筒にいれて密閉。
さらにその周りを塩を混ぜた氷で覆い、革袋で包む。
そして後はとにかく振るべし、振るべし、振るべし!
シャカシャカと皮袋ごと振っているが、これが意外と腕が疲れる。
時々中身を軽くもんで様子を見ながら振る、振る、振る。…うでだるい。
「ち、ちょっと交代。腕がだるくなってきた」
「その袋を振ればいいの? そんな料理見たことないけど…」
「ああ、簡単だろ? ちょっときついが、その分出来上がった時の美味しさもひとしおだと思うよ」
今度はアルマに袋を振ってもらう。
随分気合入れて振ってるな。若いねぇ。
…い、いかん。袋より別のモノが揺れてる方に視線が行ってしまう。自重しろ俺。邪念を捨てろ!
「こ、こんな感じでいいの?」
「あ、ああ。うん。その調子で頼む。ありがとう」
「? なんで、ありがとう?」
「いやなんとなく」
我ながらセクハラじみた思考をしてしまって、ちょっと罪悪感。
でもこれは仕方ないと思う。男なら誰でも見ちゃうって。
で、しばらく振り続けてようやく中のクリームがいい感じに固まったようだ。
んー? 生クリームの代わりにクリムスライムの体液使ったからか、なんというかソフトクリームのような粘度になってるな。
食べるには最高の状態だ。いいぞこれ。
お皿にソフトクリームのように巻きながらアイスを盛り付ける。
角を上手く垂らすのを忘れずに。
「できたー! アイスクリーム完成!」
「変わったお菓子だね。柔らかくて、美味しそう」
うむ、出来栄えは上々だな。ではいただきます。
口に入れた途端、まず牛乳の濃厚な味わいに砂糖の甘み、そしてそれらを引き立てながらも強い存在感を感じさせるバニラの風味が口の中に広がっていく。
舌触りも滑らかで、なおかつごく微細に凍り付いた牛乳の粒が程よいアクセントになっている。
うっっっま。なにこれ超美味い。地球でもこんな美味いアイス食ったことないぞ。異世界バニラ恐るべし。
「予想以上に美味いなこれ、ここまで美味いと店で出しても恥ずかしくないくらいだ」
「こ、これ、本当に私も一緒に作ったの? こんなに美味しいお菓子、初めて食べた…!」
「ああ。俺一人じゃ腕がだるくて作るのが大変だっただろうな。アルマが手伝ってくれたおかげでこんなに美味くできたよ」
「ふおぉ…!」
ふおぉって。そんなに感激したのか。
うん、やっぱり一緒に作るように誘ってよかった。とても満足そうだ。
こうやって誰かと一緒に調理するのもおつなもんだな。というかかなり楽しい。
ああうん、多分、俺の気持ちっていうのはこういうことなんだろうな。
恩返しだの気持ちに応えるだのの前にもっと単純なことだ。
アルマと一緒になにかしているだけで、それだけですごく楽しいんだ。
修業でも、買い物でも、こうやって料理を作って、一緒に食べてるだけでも、心が満たされているのを感じられる。
まあ、向こうじゃずっと一人で暮らしてたから誰かと一緒なのが新鮮に感じてるんだろうなぁ。
俺の当面の目標は決まった。
これから先何がしたいのか、と考える前に、今を楽しく生きるために何をすればいいかを考えるようにしよう。
刹那主義的な考えにも聞こえるかもしれないけど、こっちで生活する分にはそれぐらいで丁度良さそうだ。
で、アルマの楽しみがなんなのかを考えて、期待に沿えるように努力しよう。
うむ。我ながら大雑把かつ分かりやすい目標だな! 頭の悪さがにじみ出ているようだ! ハハハ。
そのためにも金策しないとな。今日の出費だけで結構お金を使ったし、しばらく節約しないと。
今を楽しく生きるとか言っといて現実はこんなもんである。世知辛いのう。
お読み頂きありがとうございます。
食用スライムは他にも色々種類豊富という設定なのでそのうち登場するかも。




