夢の懸け橋
新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
クソ、想定内の事態とはいえ、いざその状況になると焦るな。
転移で移動した先に魔族が待ち構えている状況は予想していたが、まさか一人一人分断・孤立したうえで、しかも魔族側は連携しながら襲撃してくるとは。
魔族もなかなかやりおるわぁ。並の冒険者や兵士だったらちと苦戦しそうだ。
手口としては孤立した人類側の戦力を結界で囲ったうえで、補助魔法によるデバフをかけてから一斉にボコるというシンプルながらなかなかエグい戦術をとっているようで。
ちなみに俺相手にもそれやろうとしたのが何十匹かいたけど、結界張ったり補助魔法使ったりする前に全滅させちまったから、他の人が襲われているのを見て作戦内容を理解しました。
まあ、仮にその戦法にハマったとしても全然問題なかっただろうけどね。なんせ魔族側の戦力が大体Lv40~50程度だし。
実際、マップを確認してみたけど、アルマたちは弱体化しても問題なく処理できてるみたいだしな。
……ただ、アルマのほうへなにかが高速で移動しているのがまずい。
全速力の魔力飛行で、道中襲われている人たちを助けながら向かっているが、いかんせんかなり距離が離れているもんだから時間がかかる。
多分大丈夫だとは思うが、万が一ということもある。早く合流しないと。
くそ、あと一つでもレベルが上がればメニューの新機能ですぐに合流できるようになるらしいが、雑魚魔族を何匹倒したところで経験値が全然足りねぇ。
この気配は忘れもしない。魔獣草原で初めて見て、心に深い恐怖の傷を刻みつけた、デカい気配。
……やっぱ、王都での喧嘩ん時に殺しておけばよかったなー……なぁ?
もしも、アルマに髪の毛一筋ほどでも傷を付けてみろ。
ブチ殺して食ってやるぞ、クソトカゲが。
~~~~~『夢の懸け橋』リーダーキョウクハルト視点~~~~~
「くそっ、こいつ弱体化耐性の装備を着けてやがる!」
「だが孤立させることには成功した! 一気に叩け!」
包囲している魔族たちが声を上げながらこちらを追い詰めようとしてくる。
敵ながら悪くない連携だ。少々粗削りだがね。
やれやれ、一人で戦わなければならない状況など、何年ぶりだろうか。
夢を諦めて後進の育成に力を入れるようになってからは、いつも誰かとともに行動するようになっていたからな。
……ははっ。心細い反面、奇妙な懐かしさを覚えるよ。
攻撃をいなし、躱し、受け、避けつつ包囲網を突破しなければ。
とはいえ、皆が居れば苦戦しつつもなんとかなるだろうけど、さすがに一人でこの戦力差を埋めるのは厳しいな。
「こいつ、なかなか粘るな……!」
「逃がすな! こいつは状況判断が早く的確で、他の人間と合流させると厄介そうだ!」
「足を狙えっ!」
魔族小隊のリーダーらしき者が仲間に指示を出しているが、大声で足を狙えと言われればこちらも対応できると普通に考えれば分かるだろうに。
魔獣相手ならばともかく、言葉の分かる人間相手には悪手だ。暗号でも決めておけばいいものを。
やはりどこか指示がぎこちないな、実戦に慣れていない証拠だね。
……だが、いつまでも凌ぎきれる状況じゃなさそうだな。
「結界! 進路妨害!」
「撃てぇ! とにかく手数を増やせぇっ!!」
まずい、魔法と遠当ての弾幕の密度が増してきた。
しかも結界魔法でこちらの進行方向を限定したうえで撃ってくるものだから、とにかく避けづらい。
ダメだ、やはり誰かの助けがなければ突破できそうにない。
うっ、足に攻撃魔法が……!
「動きが止まったぞ、今だぁ!」
「【エクスプロード】ッ!!」
大型の火球が、私に向かって放たれた。
回避はできそうにない、盾術で受けなければ……!
派手な音を響かせながら、私のすぐそばで火球が爆発した。
爆発の衝撃を盾術で受け止めたが、そのまま吹き飛ばされてしまい壁に叩きつけられた。
「ぐ、あっ……!!」
……さすがにここまで強力な魔法を、片手用の盾で受けるのは無理があったか。
システィがいれば、あれくらいの魔法すぐに相殺してくれただろうけど、やはり私一人ではどうにもならないな。
全身を強打した影響か、身体に力が入らない。
……どうしたものかな、これは。
「しぶとい奴だな、敵ながら感心するぞ」
「だが、もうまともに動けまい。諦めるがいい」
「……最後に、少し聞いていいかな?」
私にトドメを刺そうと近寄ってくる魔族たちに向かって、声をかける。
こんなことをしても、ほんの少しの間しか時間は稼げないだろうが、諦めるわけにはいかない。
「君たちはなんのために、人間を殺す? なんのために人間を滅ぼそうとする?」
「愚問。魔族は人間に殺意を抱くもの。貴様らが親しい者を愛しく思うように、ただ殺意が湧くだけだ、と、今代の魔王様のお言葉を聞くまでは、そう答えていただろうな」
「……なに?」
てっきり、鼻で笑われるだけかと思ったが、思っていた反応と違う回答が返ってきた。
「我々はお前たち人間に殺意を抱くことは極々当たり前のものだと思っていた。しかし、そうではなかったのだ」
「魔王様から真実を聞かされた時に、この抑えがたい殺人衝動の理由を理解したよ」
「真実、とは?」
こちらへの殺意をさらに漲らせながら、魔族たちが言葉を続ける。
……その顔には、ただただ私への、いや人類への憎しみが見てとれる。
「我々魔族は人間と違い、子を授かることはない。その必要が無いからだ」
「生殖機能も寿命も存在しない。数が減れば、成体の状態で魔王様のスキルにより必要な数だけ新たに生み出される」
「その時代の魔王様が倒されれば眠りにつき、また新たな魔王様の手駒として働くのみ。それ以外の無駄な機能は排除されている」
「……こんな不自然な生物が存在すること自体、おかしいと思わないか? まるで与えられた命令を忠実にこなすだけの、機械人形のようではないか」
どういう、ことだ?
彼らはなにを言っている?
それではまるで、魔族という存在は、人類を殺すためだけに作られたのだと言っているようなものじゃないか。
誰が、そんな生き物を作った? 魔王、いや、ならばその魔王を作ったのは?
「貴様ら人類が存在している限り、我らは人減らしの道具でしかない」
「ならば殺す。殺して、殺し尽くして、人類を絶滅させた時に、初めて我らは自分たちの存在理由を自分たちの意志で選ぶことができるのだっ……!」
ああ、そうか。
彼らは、何万年も、なんの疑問も抱かず、ただ自分たちの殺人衝動という欲望のままに人類を殺してきたのだろう。
今代の魔王に、自分たちの存在理由を聞かされるまで。
何万年もまるで変化がなかったというのに、今代の魔王はなぜそのことに疑問を抱くことができたのだろうか。
いや、それよりも―――
「なんて、……なんて、可哀想な……」
「ん、なにか言ったか?」
「君たちは子を授かることも寿命もないと言ったが、人類を滅ぼした後もそれは変わらないのだろうか」
「それが、どうした」
「……それは、次の世代に託すことができず、永遠に生き続けなければならないということじゃないか。そんな、そんな憐れなことはないだろう」
私には、夢があった。
いつか祖父のように特級職へと昇格し、人々を導けるような立派な人間になるという、極々ありふれた目標だった。
ありふれた、というのは別に簡単というわけではなく、ただ誰もが憧れるようなという意味だ。
それがどれだけ困難な道かも知らずに、『いつかなれるだろう』という希望的観測ばかりを抱いていた。
成人した時に、その夢への第一歩を踏み出したと意気込んだ。
二十歳を過ぎたころに、ようやく中堅職になれたと達成感に酔いしれた。
三十路を超えたあたりで、自分の成長の遅さに焦りを感じた。
四十路にようやく上級職になって、自分にはおそらく無理だと悟った。
自分には、特級職の壁は高く厚すぎた。
先が見えない。人並み以上に努力してきたつもりだが、それでも私には無理だった。
心の中で挫折を胸に、自分の才能の無さに落ち込んでいたけれど、そのころになって一つ気付いたことがあった。
いつの間にか、私の周りには私を目標とする子たちが集まっていた。
いわく、ルーキー時代に冒険者としての心構えを教えてもらって、それが今でも自分の支えになっていると。
魔獣との戦いの際に気を付けるべきことを伝授してもらったおかげで、何度も危ない場面を切り抜けることができたと。
真面目で真摯な姿勢で冒険者を続けている姿を見て、いつか自分もそうなりたいと思ったと。
特級職になるというとてつもなく困難な目標を目指していると聞いて、自分も同じ夢を抱いた、と言ってくれた。
特級職になる、という夢はおそらくもう私には無理だろう。少々歳をとりすぎた。
だが、それでも、同じ夢を掲げている者たちを導くことくらいはできる。
五体に、力が戻っていく。
剣と盾を握る手に、先ほどの火球よりも熱い熱が籠る。
まだ、倒れるわけにはいかない。
私は彼ら魔族のことを、ただ人類に害をなす災害のような存在だと思っていた。
……こんなにも、悲しい憐れな存在だったのかと、初めて理解できた気がする。
だが、それでも彼らを倒さなければならない。
後を託す者たちのほんのわずかな露払いだけだったとしても、刺し違えてでもここで彼ら魔族を討たなければ!
剣を掲げ、力の限り声を上げながら、魔族に特攻を仕掛けた。
「まだ私は倒れてはいないぞ魔族たちよ! 私の名は、キョウクハルト! 次の世代の、夢への懸け橋であるっ!!」
「こいつ、まだ動けるのか……!」
「はっ、傷が癒えたわけでもあるまい! いい加減死んでろ!」
……ライーナンシー、ダイナルガ、システィナーカ、済まない。どうやら私が導けるのは、ここまでのようだ。
どうか、君たちだけでも生きて、夢を叶えてほしい。
魔族の放った魔法が頭に当たる直前、建物の影の中から伸びた手に引きずり込まれて、私の身体は影に溶けていった。
お読みいただきありがとうございます。
>完全に危ない人やw
言動も、物理的にもまごうことなき危険人物である。
……いつからこうなったんだろうね(;´Д`)
>…魔族って食えるのかな?―――
さすがに話が通じる人型を食べるのはカニバ要素が強すぎるので(ry
なお次回作の主人公。
>黒い疾風って伝説とかになりそうですね。―――
自然というか、不自然災害。
実際、「ええ、あの時急に現れたかと思ったら皆粉々になっていくんですよー私もう怖くて―(モザイク声」みたいな目撃情報が多発している模様。軽くホラーである。
>第1回勝手に人気投票のお時間です―――
はい、結果発表。
一位カジカワ「みんなありがとう」
二位カジカワ「フン」
三位カジカワ「神に感謝」
四位カジカワ「くっ……! カジカワに負けた……!」
五位カジカワ「順当な順位ですね」 以上(ボ並感
>最近の主人公はキレる事が多いですなー――――
よくよく考えたら最近に限らず大体のアクションものの主人公はキレてる気が(ry
なおこの戦争中にさらに進化する模様。誰か止めろ。




