探してたもの
ブックマークありがとうございます。
読み続けて下さる方々にも感謝。
今回ちょっと長いです。
「う、うぅん……」
「あ、ふ、フィフラちゃん、目が覚めた…!?」
「やっと起きたか。ったく心配させやがって」
「あ、お、おはよう。…あれ? ここどこ?」
魔獣たちとの戦闘から十分くらい経った頃、ようやく三人娘の赤髪の子の目が覚めた。
後頭部を棍棒か何かで殴られて気絶していたみたいだが、特に大きな怪我はなさそうだ。
「フィフラちゃん、どんどん一人で先に進んで転移の罠を踏んではぐれちゃってたんだよ」
「で、ようやく見つけたかと思ったら気絶してて、魔獣たちにあたしらをおびき寄せるための餌に使われてたってワケだ」
「そ、そういえば足元が光ったかと思ったらいきなり魔獣の群れが目の前にいて、応戦しようとしたら頭に痛みが走って…」
「きっと後ろから殴られたんだろ。まあ、囮にするために特にそれ以上なんかされなかったのは不幸中の幸いだな」
「本当、無事でよかったよぅ…ふえぇ…!」
「な、泣かないでよ。ごめん、ちょっと早く一人で進み過ぎたことは謝るから、ね?」
美しい女同士の友情が目の前で展開されております。トウトイワー。
「囮って言ってたけど、魔獣たちは気絶してる私に向かってあなたたちを誘い込んで襲うつもりだったのかしら」
「ああ。お前に近付いたところで、逃げ道を塞がれて魔獣たちに囲まれた時はもう駄目かと思ったよ。アルマとおっさんが来なけりゃ死んでたか、最悪アレだ、苗床」
「う、うえぇ、嫌なこと想像させないでよぉ…」
「ってアルマ!? あの子来てたの!?」
おっさんもイルヨー。あ、無視ですか、そうですか。そのままお気になさらずどうぞ。はい。
こちらに気付いた赤髪の子に向かって、アルマが声をかけた。
「起きたばかりなのに、元気そうで何より」
「あなたも来てたのね。あー! みっともないところ見せちゃったわ! もう!」
「誰だって上手くいかない時くらいある。今回はたまたま運が悪かった」
「いえ、私がイラつきながらヤケになって進んで、罠への対処を怠ったのが原因よ。本当、みっともないわね、私。…助けてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。…イラついてた? なにかあった?」
「…ごく個人的な理由よ。気にしないで」
んー、てっきりアルマを誘ったのに断られたからイライラしてたのかと思ったけど、違うのかな?
いや、もしそうだったとしてもこの状況じゃアルマが原因だーなんて言えないだろうな。
…まあ、女の子だしイライラする日があるのは仕方ないよな。うん。
「そっちのアンタが、アルマとパーティを組んだっていう男? 前々からアルマをおぶって宿に入ったりしてるおっさんじゃない。アルマに変なことしてな――」
「わー! わー! お、おいフィフラ! このおっさん怒らせちゃダメだ! 超怖ぇから!」
「フィフラちゃん! せっかく助かった命は大事にしないとだめだよ!」
こちらに向かって何やら失礼なことを言いそうになった赤髪ちゃんをさらに失礼な言葉で諫めようとする二人。
…君たち、一応これでも助けに入ってあげたのにその対応はどうかと思うの。
俺もちょっと乱暴に怒鳴り過ぎたとは思うけどさ。
「このおっさん素手でホブゴブリンを一発で殴り殺したり、ゴブリンを次々と軽々投げ飛ばしたりするバケモンだぞ! 喧嘩売るにしても相手がやばすぎる!」
「おまけに怪力のオークを押さえ込みながらなんか電気をビリビリ発したりしてたから! フィフラちゃん死んじゃうって!」
「え、えぇぇ…? 私が気絶してる間に何があったの……? ていうかなにそれ……?」
こんなわけわからん説明聞かされても困惑するしかないだろうなぁ。
え? ワケワカメなのは俺の行動だって? そうですね。
今後、人前で暴れる時はもうちょっと方法を考えようか…。
「…なんだか分からないけど、とりあえずアンタにも助けられたみたいだし、礼は言っておくわ。…ありがとう」
「どーも」
「……こんな時になんだけど、一つ、聞かせてもらってもいいかしら?」
「別にいいが、ホントにこんな時になんだな」
「言いたくなければ無理にとは言わないわ。ただ、…ただ、アルマと、どういうつもりでパーティを組んでいるのか、聞かせてほしいの。これまで何度も誘ったのに断り続けてきたアルマが、貴方を選んだ理由がなんなのか、知りたいの…」
え? それ聞いちゃう? そういうこと話すの普通に恥ずかしいんですけど。
断ろうかと思ったけど、よく見たらアルマもそれが気になるのかこっちを凝視している。そっちも聞きたいのか?
ここで話さなかったら、それはそれで気まずい雰囲気になりそうだなぁ。うぐぐ、逃げ場がないぃ。
…観念するか。
「…ああ、うん、どこから話したらいいのかな。まず、アルマと初めて会った時に、俺は魔獣に襲われてるところを助けてもらったんだ。情けない声で助けてーって言ってたなぁ、はは」
「…嘘ぉ」
「…あ、あんなに強いのに?」
「正直、あの時助けが必要だったのか、今でも疑問だったりする…」
そこの青髪、銀髪、黒髪。余計なチャチャいれるな。
こうして並んでみると、カラフルな色合いしてんな。もう一色増えたらなんとか戦隊とか結成できそう。あるいは何キュアとか。…関係ない方向に脱線する自分の思考回路が憎い。
「それで、行くあてがないことが分かると、俺を街まで案内してくれたり、ギルドに紹介してくれたり、他にも色々助けてくれた」
「行くあてがないって、あなたどこから来たの?」
「分からない。どうやってこの辺りまで来たのかさっぱり分からないんだ。寝て起きたら見たこともない場所で寝っ転がってたよ」
「あなたも、なにか妙な事情を抱えているみたいね」
事実、こちらの世界に来る時の過程がすっぽり抜け落ちてるから、どうやって来たのかさっぱりです。
マイゴッド、せめてチュートリアルくらい用意しようぜ。勇者じゃないからって扱い雑過ぎだろ。
「で、恩返しのつもりで日々の食事を作ったりとか修業の補助をしたりとかして過ごしているうちに、アルマが魔法剣のスキルを獲得して、パラディンにジョブチェンジすることができた」
「ちょっと詳しくは言えないけど、ヒカルが修業を手伝ってくれたから、パラディンになれた。他にも色々助けられて、そのお返しを今度は私がしたいから、パーティを組んでほしいって頼んで、今に至る、というわけ」
「…不遇職だったアルマを救ってくれたのが、あなただったのね。アルマの事情は分かったけれど、あなたの気持ちはどうなの?」
俺の気持ちかぁ、うーん。
「なんというか、上手く言えないけど、俺って今まで人から頼りにされたりしたことがほとんどなかったんだよな。そんな俺を必要だって言ってくれて、…正直、泣きそうになるくらい、嬉しかった。その気持ちに俺なりに精一杯応えたいっていうのが、今の気持ちだと思う」
それは、綺麗事だ。
いや、全部が嘘ってわけじゃない。アルマに必要とされて、その気持ちに応えたいのは本当のことだ。
でも、それは理由であって、気持ちとはまたちょっと違う気がする。
俺の気持ちって、なんだ?
「…はぁ、そんなこと言われたら、納得するしかないじゃない。どーぞ、末永くお幸せに」
こらこら、結婚祝いみたいにいうのはやめなさい。
「さーて、一息ついたところで今日はもう帰ろうか。色々ありすぎてもう疲れちまったよ」
「結構進んだし、ポータルは近くにあると思う。もうひと頑張りだよ」
話が終わると、青髪の子、銀髪の子がそう言って先に進む準備を始めた。
ちょっと口元がニヤニヤしてる気がする。なんだあの顔は。
「…私たちも、行こうか」
「ああ」
アルマに促されて、こちらも立ち上がって歩き始めた。
…気のせいか、いつもよりアルマとの距離が近い気がする。なんだか気恥ずかしい。
しばらく進むと、なにやら魔法陣のような光る文様が地面に描かれている部屋が見えた。
「あ、ポータル発見!」
「あー、やっと帰れるわ。もう今日はシャワー浴びて早めに休みましょう」
「うん、ちょっと汗かいちゃったし、頭を洗ってすっきりしたいね。…頭と言えば、ヘアピンどこに落としちゃったんだろう。うぅっ、お気に入りだったのに」
「それ、もしかしてこれのこと?」
「そ、それだよ!拾ってくれてたの?」
「これが落ちてたおかげで、あなたたちになにかあったんじゃないかって気付けた」
「はうぅ…! ありがとう!」
ヘアピンも無事返却。正直忘れてたわ。
ああ、それにしても初のダンジョン探索はあんまり実入りがよくなかったな。
オークの使ってた斧はまあまあ使えそうだが、兜は臭すぎて被れたもんじゃなかったし。
ホブゴブリンの棍棒なんか絨毯爆撃の弾にしかならないし、ゴブリンの装備なんか論外。
せめてお宝の一つでも…お?
「あ、ポータルの部屋の隣に宝箱がある」
「あなたたちにあげるわ。こっちは命だけで充分よ」
赤髪の子がこちらに譲ってくれた。
そういうことなら、遠慮なく。
さーて中身は何かなー?
中身を確認すると、なにかが入った巾着袋が一つ、ぽつんと入ってた。
しょぼい。い、いや、袋の中に宝石でも入ってるかもしれんし、まだ分からん!
袋の中には、黒い豆のような物が入っていた。
…宝箱の中に黒豆なんか入れるな!ガッカリ感が半端じゃない。
「お、おっさん、元気出せ。そういうこともあるさ」
「か、カラッポよりましだと思う」
気を使ってフォローしてくれる青髪銀髪。ヤサシーナー。がっくし。
てかなんの豆だコレ? ちょっとメニュー確認。
!?
なっ、何ぃぃいっ!!?
旅の商人とかが持ってないか何度か確認したことがあるけど、結局見つからなかったものが、こんなところで手に入っただと!?
マジか。正直宝石より嬉しいかも。
「な、なんかおっさんがニヤニヤし始めたぞ…?」
「怒りのあまり、笑えてきたとかじゃないよね…!?」
安心しろ、今の俺は最高の気分だ。
まさか、バニラの代用品がこんなところにあるとは。ダンジョン潜ってよかった。
お読み頂きありがとうございます。
サブタイが真面目そうに見えて全然真面目じゃない罠。




