腕を振るう職人 拳を振るう鬼
新規の評価、ブックマーク、感想をいただきありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
今回始めはゲン工房の弟子ことヒグロイマ視点です。
「うぐぬぅぅぅううう……!!」
「じゅ、ジュリアン大丈夫か? 力の入れすぎで顔が真っ赤だぞ」
「はぁ、はぁ、し、心配ご無用である。なにせオリハルコンに術式を刻むことなど初めてだからな、凄まじい硬度でこれは一筋縄ではいかなそうである……!」
「カジカワの野郎も、またとんでもねぇ素材を置いていきやがって……。ったく、腕が鳴るってもんだ!」
汗だくで、ほんの一ミリ術式を刻むだけでも渾身の力を籠めながら作業しているジュリアン。その顔は、疲労を浮かべつつも口角が上がっている。
ジジイも、Sランク魔獣の素材加工に悪戦苦闘しながら悪態を吐いているが、目が笑っている。黒竜の尾先を研いでいた時のように、満ち足りた表情だ。
二人とも、加工が難しい素材を扱っているのにもかかわらずそれを苦に思わず、いやむしろ楽しみながら作業を進めている。
しかし、極わずかな手先のブレすら許さない繊細な手付きから、神経を削るような集中を強いられているのが分かる。
戦闘職の中には、強敵と戦うことに歓びを見出すいわゆる戦闘狂と呼ばれる人種がいるらしいが、この二人も多分それに近いものがあると思う。
加工が難しいモノほど高い性能を発揮できる装備が作れるのだから、その苦労が報われた時の感動はひとしおだろうしな。
……それに、二人の渾身の合作であるあの『爆発する大槌』が、魔王に破壊されたことも関係しているだろう。
あの大槌は、正直言って人間には扱えない。
もう持ちにくいわデカいわ死ぬほど重いわで、どう考えても実戦での使用に耐えるような代物じゃない。
仮に持ち上げられたとしても、大槌に振り回されるのがオチだろう。
それをまるで自分の手足のように扱うカジカワがおかしいだけだ。人間の膂力じゃない。バケモンだ。
あれは壊そうと思って壊せるようなもんじゃなかった。
三人で運ぼうとしてる最中に、アダマンの金床の角に槌頭を落としてしまったこともあったが、それでも傷一つなくむしろ金床のほうが変形してしまったくらい丈夫だった。
それを、魔王はハエでも掃うかのように手首で弾いただけで粉々に破壊したらしい。
重さと頑丈さが売りの大槌をいとも容易く壊され、危うく殺されそうになったとか。
その話を聞いて、二人は強いショックを受けた様子だった。
自分たちが腕を振るって作った作品が、まるで魔王には通じなかったことに。
それを扱うカジカワですら、魔王の前では無力だったということに。
そして、自分たちの作品が弱すぎて、その持ち手を危うく死なせてしまうところだったという事実に。
カジカワは自分が死にかけたのは自分自身が弱いからだと気を使ってくれていたが、武器を壊されたことには変わりない。
あの大槌は自信作だったというのに、それですら魔王の前では玩具同然だということに、強い無力感を覚えたようだ。
そんな二人の沈んだ気持ちを再び奮い立たせたのは、カジカワの新たな依頼と持ってきた素材だ。
親方にはSランク魔獣の素材を見せて、これらを使って大急ぎで防具や武器を作ってほしいと言っていた。
魔王を相手取るのに強力な装備はいくらあっても足りない。そしてこれらを扱えるのはジジイくらいだと、惜しみなく超一級品の素材を渡してきた。
装備屋からすれば垂涎ものの品ばかりだが、加工に失敗する可能性も決して低くない。
それでも当たり前のように託したということは、それほどジジイの腕を買ってくれているんだろう。
素材を受け取った直後からジジイの目の色が変わり、憑りつかれたかのように装備を作り始めた。
……身体を壊さないか心配だが、まだそれほど顔色は悪くないから大丈夫か。
ジュリアンには『形状記憶生体金属』『オリハルコン』『焔竜結晶』『謎の真っ黒なブロック』を渡して、新たな大槌の作成を依頼していた。
前者の三つは大槌の持ち手と爆発機関に、そして黒いブロックは槌頭に使うようだ。
どれもこれも超々希少な素材やオーパーツばかりで、もう驚きを通り越して困惑するばかりだった。
特に『焔竜結晶』は、炎を扱う竜種の死骸が数千年の年月をかけてその身体に残った魔力を結晶化したもので、ほんの耳かき一杯ほどの量でも天文学的な価値がある素材のはずだ。
カジカワは親指ほどのサイズの結晶を持ってきたが、それでも同サイズのSランク魔石よりも遥かに出力の高い魔道具が作れる。
Aランクの魔石ですら山をも砕く威力を発揮していたことを考えると、この結晶ならどうなるのか……。
この結晶があれば、他にも機能を追加できそうだとジュリアンは言っていたが、最終的にどんな武器が出来上がるのか最早予測できねぇ。恐怖しかない。
他にもSランク火属性の魔石なんかを渡して色々と依頼していたが、どれもこれも破壊的、いやむしろ破滅的な注文ばかりでさすがのジュリアンもドン引きしていたな。
『正直言って恐ろしい! しかし、だからこそやってみることに意義がある!』と、最終的にはノリノリだったが。……やっぱこいつもおかしいわ。
ドゴバァンッ!! と、どこからか爆音が聞こえてきた。
工房が、いや都市全体が揺れている。とんでもない衝撃だ。
……今日だけでもう何回目だろうか。
「さっきからうるせぇな! 手元が狂うだろうが!!」
「ふはは! どうやらマイ・カスタマーは未だに山の鬼神と殴り合っているようだな! こちらも負けておれん!」
……最近、魔獣山岳で謎の魔獣が暴れまわってるっていう話を聞いた途端、カジカワが顔を青くして山岳のほうへ文字通りすっ飛んでいってからもう1時間近くになる。
まだやり合ってんのかよ。いい加減さっさと切り上げろや。
~~~~~鬼神の弟子視点~~~~~
『グルァッ!』
「どぁぁあああ!!?」
嵐のような、否、嵐がまるでそよ風に感じるような猛攻を、辛うじて凌ぐ。
気力操作で能力値を鬼先生の3倍近くまで上げて、ようやく防戦一方という有様。……気のせいか、最後に会った時よりも強くなってなーい?
滅茶苦茶不機嫌そうな顔していきなり殴りかかってきたけど、どう考えても料理の献上を半月近く絶っていたことが原因だよな。
なだめるために料理を出しても、一瞬で食われてすぐに追撃かましてきやがる! 食うか殴るかどっちかにしろよ鬼先生! いやできれば食うほうに集中してくださいお願いします!
で、料理を出しては殴られ殴り返してのやりとりをかれこれもう1時間近く続けているわけですが、そろそろ力尽きそうです。既に魔力・気力ポーションが尽きてるし。
ジュリアンたちから話を聞いた時には血の気が引いたけど、まさかここまで怒り狂ってるとは思わなかった。
放っておかれたことに怒りを溜めて、会った途端に爆発させるとか。ははぁん、ヤンデレ?
『グルッ!!』
「ぐほぁあっ!!」
みぞおちに鬼先生の肘打ちがクリーンヒット。HPが尽きて超痛い。
違うわ。全然デレがないわ。怒りしか感じないわ。
向かいの山の、さらに先の山までぶっ飛ばされて、ようやく殴り合いが終わった。
今後、鬼先生を放置するのは極力控えよう。次は本当に殺されるかもしれない。怖ひ。
……にしても、ニセモノとの戦いの時にも思ったけど、鬼先生との戦闘時間がいつの間にかかなり延びていて、少しは成長できてたんだなーと実感。
やっぱ弟子入りしておいて正解だった。ありがとう鬼先生。でも八つ当たりはほどほどでお願いしますホントに。
魔王ほどじゃないけど、まだまだ俺よりもはるかに強いことには変わりないということを再確認できた。
魔王討伐に連れていきたいくらいだけど、制御できる気がしねぇ……。
≪……ちなみに、拳の鬼神が魔王に戦いを挑んだ場合、勝率は約10%程度と推測≫
あー、やっぱ魔王強いなーそりゃ無理だよなー。
……てか、10回に1回は勝てんのかよ鬼先生。やっぱアンタもついてこい。切に。
お読みいただきありがとうございます。
>今まで読んだ魔王の中で1番魔王が魔王してて魔王ってやっぱり怖いなぁっと思いました。はい…
昨今、なんというか割とフレンドリーだったりお茶目だったり人間側の王よりも平和主義だったりする魔王が多いですからねー。アレはアレでギャップがあっていいのですが。
>両腕両足付け根からもいでくっ付け直せば―――
(アカン)
多分、やってるカジカワのほうが先に参るんじゃないですかね……。
なお、魔族相手なら平気でやれる模様。外道。
>この魔王の野望が、大魔王バーン未満な件。―――
あの世界は地上が魔界の蓋みたいなんのですからねー。
魔界に太陽をもたらしたいのなら、その上を覆っている邪魔な天井を壊せばいいじゃないというスケールのデカいゴリ押し。これぞ魔王って感じですよね。
……あと、予想通り鬼先生がキレ散らかしていた模様。
>ごちうさ3期、とても楽しみです。
それはここで書くことなのでしょうか(困惑)
ああ~楽しみでぴょんぴょんすr(ry




