どんぐりの背比べ
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「ウチのメンバーの配置を決める権限はリーダーの俺にあるはずだ。この子たちのスキルや実力が魅力的だかなんだか知らないが、勝手に自分たちの班へ取り込もうとするのは横暴だろう」
「あなたは一人でも充分な戦果を挙げられるのでしょう? ならば、余剰な戦力は他の班へ融通するべきだ」
「……この子たちが俺と一緒にいるのが嫌って言うのなら考えてもいいけどな」
「ヒカルと一緒がいい」
「この人なんか感じ悪いから嫌っす。カジカワさんに同行するっすよ」
『ピッ』
「だ、そうだ。諦めろ」
あ、レイナに拒絶されたあたりからこめかみに青筋浮かべてやんの。
ちょっと言いかたが直球すぎる気もするが、まあ事実だし。
納得できない、という表情の紫ロングに総隊長が口を開いた。
「それに、彼ら遊撃隊には激戦区における反撃の先駆けとなってもらう必要がある。戦力的にはあるいは一人でも充分かもしれないが、それでもできることには限界があるだろう。慣れない班で活動させるよりは、同じパーティで行動させたほうが互いのためだ」
「しかし、例えばレイナミウレの忍術スキルは大人数であっても接触さえしていれば影伝いに高速で誰にも悟られず移動することが可能です。奇襲をするのにうってつけですし、少人数の班におくよりはもっと人数の多い班へ回すべき技能ではないでしょうか。また、アルマティナの扱う多彩な戦闘用スキルも乱戦において柔軟に対応できることでしょう」
「それを言うなら、彼一人に魔族の集団相手に突っ込ませるより、彼女たちのサポートを受けつつ攻略させるべきだろう」
「あーあー、ちょっといいですか」
言い合いになっている総おじと紫ロングの間に割って入った。
このままグダグダ話し合っているのを見るのも時間の無駄だし。
それに、この子たちを値踏みするような視線と物言いが、酷く不快だ。
「……なにか?」
「繰り返し言うが、この子たちを他の班へ預けるつもりはない。大人数のほうがスキルを活かせるとかそれ以前に、この子たちを預けるに値するという証明がない相手のところへ行かせるわけがないだろう」
「それは、我々に対して不信感を抱いていると?」
「当たり前だろう。各個人の技能や実力によってそれぞれに適した戦場や班で行動するべきという考えにはおおむね同意するが、今の時点ではそれ以前の問題だ」
「それは―――」
こちらになにか言いかける紫ロングを遮って言葉を続ける。
「そしてそれはお互い様ということも分かる。アンタだってほんの数分前に会った俺のことを信用できるわけがないだろうし、逆も然り。たとえばアンタの部隊の人員を何名かこちらに譲れと言われたら、アンタはそれを承認するか?」
「できるわけがないだろう! ……っ!」
「そう、アンタの言うとおり、できるわけがない。今の俺も同じ気持ちであるということを、どうか理解していただきたい」
俺の言葉に苦虫を2、3匹噛み潰したような、苦い顔を見せる紫ロング。
……こんなふうに人のマウントとるような言いかたするのは我ながら気持ち悪いが、アルマたちを預ける預けないの話になるのならやむを得ん。
「この子たちはとても優秀だし、Sランクになれたのも彼女たちの能力を利用して成り上がっただけじゃないかとか思われるのも無理はないだろうけどね」
「……違うというのか。我々はまだ、あなたの力を見ていない。これまでのあなたの実績が本当にあなたの実力によるものだというのであれば、この場にて示していただきたい」
「ちょ、ちょっとビランナちゃん、なにしてんの!?」
剣を俺に向かって突きつける紫ロングに、金ロン毛が焦ったような声を上げる。
あー、やっぱこういうパターンかー。……目立つことは極力控えたいってのに、ホントにもう……。
紫ロングを睨みつつ俺の腕を掴んだままのアルマの手を、なるべく優しく解いてから紫ロングのほうを向く。
「表に出ろ。私の剣で、お前の化けの皮を剥がしてやろう」
「『私の剣』っていうのは、これのことか?」
「は? ……っ!?」
俺に突きつけていた剣が、気が付けば俺の手に握られていた。
まあ、遠隔魔力操作で剣をアイテム画面に収納して、すかさずそれを装備しただけなんだけどね。
それを見た紫ロングと周りの人間が口を開けて唖然としている。なんつー顔だ。
今なにが起こったのか分かったのは、目を細め苦笑いしながら眺めている勇者君くらいなもんだろう。
「いつの、まに……!?」
「ああ、そうそう。アルマの魔法剣やレイナの忍術を評価してくれたことは正直嬉しく思う。そりゃ利用してるんじゃないかって疑われるのもまあ頷けるか」
そう言った直後、俺の握っている紫ロングの剣から青い炎が噴き出す。
最初のころに遊び半分で使っていたファイヤーソードじゃなくて、アルマの使っている火炎剣を模してみた。
纏わせた可燃性の空気を発火させるんじゃなくて、剣身から可燃性魔力を噴き出しつつ引火させることでかなり再現度の高い仕上がりになった。
実戦じゃ使わないけどね、燃費悪いし。
「それは、魔法剣……!? お前も使えるというのか!?」
「まあね。そもそも自分で使えるんだし、この子たちのスキルを利用して成り上がる必要はないってこった。……ああそうそう、あと誰にも発見されずに高速で移動するスキルだっけ?」
「! 消えっ……?」
魔力飛行による縮地モドキで紫ロングの背面へ高速移動。
気力操作でさらに速度を上げているので、並の人間からは一瞬で背後に回ったように見えるだろう。
「こんな感じで、頑張って速く動けば誰の目にも見えないから同じことだろ」
「い、いつ、どうやって、後ろに……」
狼狽した様子でぎこちなくこちらに振り返る紫ロング。
全然反応できてなかったっぽいなこりゃ。Lv62もあるのに。
……ヤバい、自分のやってることが本格的に気持ち悪く感じてきた。
こんなのに『俺は強いんだぞ』アピールなんかやってても空しいだけだ。
魔王の前じゃ、俺もこいつも等しくゴミみたいなもんだっていうのに。
こんなものはどんぐりの背比べ。幼稚園児に対して小学生がイキってるようなもんだ。
あ、ヤベ。剣が高熱で溶け出してきた。……【修復画面】で直しとくか。
「ビランナちゃん、もうやめときな。今の全然見えなかっただろ」
「くっ……」
「そもそも集団戦の指揮が上手い人が隊長になれるんだろうし、個人ごとの強さだけで比較するのはちょっと違うだろ」
「……遠回しに個での強さは自分が上だと言っているように聞こえるぞ」
「いや事実だし」
俺の言葉を聞いて不機嫌そうに顔を顰めているが、実際こいつ個人の実力は中堅よりちょっと強いくらいだと思う。
戦闘経験自体は俺よりあるかもしれんが、如何せんフィジカルがね。
「彼の実力が本物だということは理解しただろう? もうそのへんにしとけ。カジカワ殿、部下が失礼した」
「いえ、こちらも少し乱暴な物言いをしてしまいすみませんでした」
「ビジカランナ、お前も謝罪しろ」
「……申し訳ありませんでした、カジカワ殿」
怒るでも申し訳なさそうにするでもなく、無表情で頭を下げる紫ロング。
これ、多分内心はらわた煮えくりかえってるわ。日本で働いてた工場で、上司に理不尽な怒られかたされた挙句謝ってる同僚の顔そっくりだし。
「さて、ちょっとしたトラブルもあるにはあったが、後は残ったメンバーの班分けをするのみだな」
「オレのパーティと梶川さんのパーティは別にするとして、残りはどうしようか」
んー、残ったメンバーはアイザワ君にラディア君、ヒューラさんにガナンさん、そんでバレドとラスフィーンの合計6人か。
バレドとラスフィーンは同じパーティだから、必然的にこの二人は一緒になる。
……修業メンバーと同じ分けかたしてさっさと決めてしまおうか?
いやでも本人たちの希望も聞かないとだし、ああもうメンドクサー。
~~~~~
「申し訳ございません、残るは第3大陸の拠点のみとなってしまいました」
「我らの力不足故、このような事態に……!」
よい 想定内だ
例の魔法もどうにか実用できる段階までこぎつけた 少々使い勝手は悪いが うまく誘導すれば問題ない
「実用できる、ということは!」
ああ 最大の障害である勇者への対抗策は間に合った
これもひとえにお前たちの働きの賜物である ……よくやった
「勿体なきお言葉であります……!」
さて 後は第3大陸への戦力投入だが 不自然にならない程度に かつ最低限に留めよ
目眩ましに これも連れていくがいい
「そ、それは!?」
「フィリエ王国の、黒竜……!」
『……誰が、貴様になど従うものか!!』
約束は果たしてやっただろう
『もしも俺が生まれ変わったら、もう一度お前に会いに行って、同じ名前をつけてやる』とな
なあ 『バハムート』 本当に俺が分からないのか
『貴様は断じてリョータではない! リョータの記憶を持っただけの、魔王という名の役目の奴隷にすぎぬわ!』
『リョータはあの国を誰よりも愛しておった! あやつとの思い出が詰まった、大切な国だと言っていた!』
『だからこそ、儂にあの国を守るように託したのではないか! それを容易く滅ぼそうとする貴様が、リョータであるはずがないッ!!』
………
その通りだ
余は魔王
勇者でも 相馬竜太でも 日本人でもない
だから 人を滅ぼす
我らを下敷きに成り立つこの世界を引っ繰り返し 我らのための世界を築き上げるのだ
お前にその気が無くとも せいぜい働いてもらうぞ 黒竜
お読みいただきありがとうございます。
>1番怒らせちゃだめなナニカを怒らせてしまいました。あーあ―――
幸い、まだアルマたちに危害を加えていないからこの程度で済んだようです。
しかし、もしもこれ以上彼女たちにちょっかいを出したのなら……。
>この女にトラウマ植え付けようぜ。。(ボソッ)( -∀-)―――
不信感と脅威はこれ以上なく植え付けられましたが、恐怖とまではいきませんでした。こんなでも一応味方ですし。
……まあ、戦いかたを見たら別の意味でトラウマになるかもですが。
>お前やったな?このSCPは、絶対な怒らせちゃ―――
誰がSCiPか。財団世界じゃこいつも多分ユークリッド止まりでしょうけどねー。
あと、上でも書きましたが一応こんなんでも味方ですのでそうそう簡単に処すことは気がひけるようで。
実際戦っているのを見たら「……人間様の闘いかたじゃない」「何を申す」ってなるでしょうから留飲を下げるのはまた後のお話にて。
>魔王…魔王が来たでぇ…!!((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル―――
なお本物の魔王は黒竜にフラれてる最中の模様。
皆さま強めの制裁を期待しているようですが、カジカワ的にはまだそこまでキレてないです。
>モリッツゲイトさんの元ネタ『白鯨』?―――
白鯨……某アニメしか思い浮かばぬ(;´Д`)
cv大塚さんの船長がやたら印象に残ってます。イーキーテェーユクー
>ヒヨ子は呼ばれないんですね。
単なるペットとしか認識されてないっぽいです。
なお、ステータスは何気にレイナより上だったり。
>もしも主人公が悪魔の実を食べたとして、どんな能力に死体ですか?
>誤字ったー
空飛べるフワフワの実とか(意味なし
>あーあ、言ってはならない一言を…―――
現時点では、主人公たちがヤベーやつらだと知っているのはごく一部の人間だけだったりしますが、Sランクに上がったことで無駄に知名度が上がりつつあるという。
目立たないようにしていたのは、魔力操作絡みの無用なトラブルを避けるためだったのですが、もう隠さなくとも実力で誤魔化せるレベルなので。
……この紫ロング女隊長が白目剥くハメになるのはもうちょっと後なのでご了承を。




