アイテム画面
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「ヒヒヒャァァァアアッ!!」
九つの尾が、まるで音速の鞭のように振り回される。
九尾の周りには同じく九つの扇が舞って、触れるもの全てを切り裂いていく。
「うわぁぁあっ!?」
「気を付けろ! 尾だけでなく、扇も飛んできよるぞ!」
「扇一つ一つが、まるでダイヤかなんかでできた丸ノコみたいだ! 当たったらやばいぞ!」
「ぁぁぁぁあぁぁあああははははっ!!」
もはや意味のある言葉すら発せず、禍々しい笑みを浮かべ叫ぶ九尾。
最早正気じゃない。あるいは狂った演技をしているだけかもしれないが。
「きぃぃいいいいっ!!」
「うぐぉぉおあああっ!!」
九尾の爪を、スパーダが剣で受け止める。
【気功纏】を使い、なんとか凌いでいるがそれでもギリギリといった様子だ。
今の九尾の強さはどれくらいのものなんだ……?
≪ステータス、確認できず。しかし、能力値換算するとおおよそ10000近いと推測≫
オイオイオイ、10000て。マジでラスボスと呼んでも過言じゃない強さじゃないですか。
まずいな、スパーダは気功纏を使っても大体5000あるかないかくらいだろうし、吉良さんはその半分もない。
アルマパパでも正直5ケタを超える相手はきついはずだ。
仕方ない、俺が本体を相手にする作戦でいくか。
「ジジイ、代われ! 俺が本体を叩くから、アンタらは尻尾と扇を撃ち落とせ!」
「む、無理じゃ若いの! いくらお主でも相手が悪い、こやつは強すぎる! 俺ですらこの有様なんじゃぞ!?」
「いいから下がってろやぁ!!」
「むおぉっ!?」
魔力の遠隔操作で無理やりスパーダを後ろに下がらせ、九尾に向かって突っ込む。
「キヒヒヒッヒ! エサ! エサ! 贄! 贄ッ!!」
要領を得ない言葉を発しながら、今度は俺に向かって九尾が爪を振るう。
魔力を纏った手で九尾の手を絡ませ、互いに手を掴み合う状態になった。
「ば、馬鹿者、そやつの力は尋常ではない! 手を握り潰されるぞ!」
「梶川君、無茶するな!」
確かに、能力値10000相当の膂力ともなれば、握力もアホみたいに高いだろう。
おそらく、鋼鉄くらいなら生クリームでも掴むようにひしゃげさせることもできるはずだ。
だが
「ギ!? ウググ……! グギギギギギ………!!」
「どうした、握り潰してみろ」
「ギギギギ、ギャァァァアアアアア!!!」
メキメキと九尾の手の骨が軋み、苦痛に顔を歪ませ叫ぶ。
部分的な気力強化ならば、こいつの倍くらいの握力を発揮することも問題なくできる。
魔力で覆ってあるから物理攻撃無効もはたらかない。
たかだか10000程度、今の俺なら余裕で対処できる。
そして、よくよく考えたらバカ真面目に握り合いを続ける必要はないよな。
握っている手から、九尾の掌に魔力パイルを発動!!
パイルが九尾の掌を貫き、爆ぜさせた。
「キャァァァァアアア!! アアア!? ッッァァァァアアアッ!!!」
両手が弾け飛んだ激痛と衝撃からか、わけの分からない絶叫を撒き散らす九尾。
尻尾と扇の動きも雑になっている。どうやら相当こたえたようだ。
「う、うわぁ、えげつなぁ……」
「あの馬鹿力を、さらに力ずくで押さえ込むか。どっちが怪物やら分からんのぉ……」
動きの鈍った尾と扇を斬り、または撃ち落としていきながら呟く吉良さんとスパーダ。やかましいわ。
確かにコイツの膂力は強いし、尾も扇も脅威だ。
だが、やっぱコイツも元々の力が強すぎて、戦闘技術がまるでなっちゃいない。あの白魔族もそうだったな。
ただ力が強く、ただ使える技や道具が強力なだけで、まるで使いこなせていない。
そんなスカスカな強さじゃ、能力値をこっちも強化するだけで楽に勝てる。
「アアアア!! ウァァァアアアア!!!」
「うるさい、死ね」
泣き叫びながら喚く美女に攻撃するのは正直気がひけるけど、こいつの今までしてきたことを考えると、ここで仕留めそこなうわけにはいかない。
頭に狙いを定め、火力特化パイルの準備をする。
発動まで、あと0.5秒。これで――――
「ァァァァァlアアア アハ❤」
泣き叫ぶ九尾の顔が、瞬時に余裕のある笑みへと変わった。
その直後、口から出てきた扇が槍へと変わり、俺の頭を貫いた。
「かっ………!?」
「アハハッ、あはははは! 馬鹿め、油断しおったな! わらわが狂うて暴れまわっていたとでも思ったか? 全ては、最も厄介そうな貴様を葬るためよ!」
「か、梶川君っ!!」
「若いのっ! おのれ、貴様ぁ!!」
「よせよせ、こやつが亡き者になった時点で、貴様らに勝ち目なぞないわ。さぁ、残る二人も贄へと変えてくれようぞ! ほほほ、はははははっ!」
「誰が死んだって?」
「ははは、……は?」
頭を貫く扇を、アイテム画面へと放り込む。
うわ、HPが1000近くも減ってる。さすがに盗賊の矢とは威力が文字通り桁違いみたいだな。
「な、なぜ? た、確かに頭を、頭を貫いたはずじゃ!」
「頭をぶち抜かれたくらいじゃ俺は死なん。心臓抉りだされたら死ぬけどな」
「いや、普通どっちも死ぬよ!? 梶川君マジで何者よ!?」
「……本当にどちらがバケモノか分からんのぉ。引くわー」
後ろうるさい! もうその手の感想は聞き飽きてるわい!
「ひっ、ひいぃっ!! ヒイイイイィィィ!! 来るな、くるな化物ぉぉおおおお!!!」
悲鳴を上げながら、本殿へと逃げる九尾。
誰が化物だ! おまいう!
「か、鏡! この鏡さえあれば!」
本殿に祀られていた手鏡を持ちながら、竹林のほうへと逃げようとする。
逃がさん! ここで逃がせば、またこいつは虐殺を繰り返す!
「待てっ!!」
「逃がすかコラァッ!!」
「ふほほ、遅いわ!!」
アイテム画面から石を取り出し魔力で覆って投擲。
吉良さんは例の近未来銃から炎の弾丸を連射しているが、どちらも尾と扇に遮られたり避けられたりして当たらない。
逃げる九尾を追ううちに、なにやら青白く光る魔法陣のようなものが見えてきた
……メニューさん、アレってもしかして。
≪解析完了。転移の魔法陣の模様。特定の対象、すなわち『九尾の狐』のみ使用可能な模様≫
まずい、あそこまで逃げられたらもう追いつけない!
間に合うか!? 気力で能力値を爆上げ! 魔力飛行で――――
「【セイントレーザー】!」
「ひゃ、ぐハッ………!!?」
距離を詰めようとしたその刹那、後ろから誰かの声とともに白い光の帯が現れ、九尾の胴体を真っ二つにした。
今のは、なんだ? いったい、誰が……!?
人影が、九尾の死体から手鏡を奪うと、その掌から鏡が消えた。
あれは……?
「ジジイ……?」
「お、おいおい、あんな技を使えるなら勿体ぶらずに使ってくれよ爺さん……」
「……済まん」
スパーダが、攻撃魔法で、九尾を仕留めたのか?
というか、手鏡はどこへ消えたんだ?
「済まん、済まんの……」
「い、いや、そんなに気にしなくてもいいよ。切り札としてとっておいたっていうなら、これ以上ないくらい上手い使いかただったし、おかげで九尾を倒せたんだ。気にするこたぁねぇよ」
「……ジジイ、アンタ……」
申し訳なさそうな顔をして謝るスパーダを吉良さんはなだめているが、俺は警戒の色を隠せなかった。
なぜ剣士系の職業の人間が、攻撃魔法を使えるんだ。
ギフトか? それとも攻撃魔法スキル付与の装備でも身に着けているのか? いや、それはまだ説明がつく。
だが、手鏡がスパーダの手から消えた、あの現象は、なんだ?
≪……………【アイテム画面】へと手鏡を収納した模様。また、あの手鏡は周囲の死者の生命力と魔力を貯めて、所持者をその世界の人間へと転生させる効果を持つ、異質オブジェクトである≫
つまり、こいつが、この、ジジイが……!?
≪魔王の前世の、過去の勇者である≫
お読みいただきありがとうございます。
……我ながらここまでのミスリードが露骨すぎたかなーと思う今日このごろ(;´Д`)




