薄い本展開は駄目です
アルマの言う【ダンジョン】だが、そもそも起源や誰がいつ造ったものなのかは定かではないとのこと。
世界中に点在しており、新しいダンジョンが年々発見されているらしい。
中にはこれまでそんな痕跡がなかったにもかかわらずいきなりダンジョンの入り口が現れたこともあるらしい。
自然発生するものにしては、宝箱があったり人工的な造りの場所があったり、明らかに人が作ったような構造で、その多くは謎に包まれているそうだ。
これもコトワリ由来の産物なのかねぇ。魔王もそうだけど、なんか発生する原因とか細かいところで粗が出ている気がする。
ダンジョンの中はフロアごとに魔獣やトラップ、あと宝箱なんかが設置されていて、奥に進めば進むほど凶悪なトラップが増えるうえに魔獣も段々強くなってきて危険だが、その分貴重なアイテムも手に入りやすいそうだ。
あと、一定周期でダンジョンの構造が変わるから、フロアの構造を覚えて攻略するのは基本無理らしい。ローグライクゲームみたいだな。
フロアを進んでいくと、一定の間隔で脱出用のポータルが設置されていて、使用すると一瞬でダンジョンの入り口に帰還可能という親切設計。作ったやつゲームクリエイターかなんかか?
ただ、それでもダンジョンに踏み込んで帰らぬ人になった者も少なくないらしいから油断は禁物だな。
今日は浅めの階層を探索するだけにしておこう。最初っから危険な階層には行きたくない。
街の南側に行ってみると、アルマの言っていた通り小さな洞窟があり、その入り口の前に『この先ダンジョンにつき、許可のないものは立ち入り禁止』と書かれた看板が立っている。
冒険者ギルドに所属している者ならダンジョンへ踏み込む許可が下りているらしいから問題ない。怪我や命を落とすのは自己責任だが。
持ち物を確認してから、いざ、ダンジョン初探索だ。
ダンジョンの中は松明もないのに、まるで昼間の屋外のように明るい。
壁や天井などに光る鉱石が点在していて、それが照明の役割をしているようだ。どんだけご都合主義の親切設計なんだか。便利でいいけどさ。
入ってしばらく進んでみたが、どうも魔獣の数が少ない。
まだ入って数十分だが、その間出くわしたのはゴブリン2体だけ。
おまけに宝箱を見つけたかと思ったら、中身はカラッポ。あれー?
「ダンジョンの浅い階層って、こんなもんなのか? 正直何もなさ過ぎて拍子抜けなんだが…」
「もしかしたら、他の冒険者の人たちが先に入っていってるのかも。魔獣森林での討伐はしばらくできないから、冒険者の人たちはダンジョンを探索するか、他の街に行くぐらいしか安定して稼ぐ方法無いし」
「多分それだな。誰が先行しているのやら」
まさかあのダなんとか率いる天空某じゃなかろうな。あんなのに関わるのはもう御免だぞ。
ん? 足元になにか落ちてる。アイテムか?
「ん、女性用のヘアピンか? ダンジョンのドロップ品ってこんなのもあるのか?」
「!それ、ミオクスメルが着けてるヘアピンによく似てる…!」
「ミオク…なに?」
「フィフライラのパーティの、銀髪の子」
ああ、そういえばそんな名前だったっけ? もうよく覚えてないな。
って、先行してるのあの子たちなのか? うーん、ダなんとかよりはまだましだけどなぁ。
「途中で落としちまったのかな。会ったら渡しておくか」
「ヘアピンを落として気付かないなんてこと、あるのかな?」
「なんか不測の事態が起こって、落としても回収どころじゃなかったとか?」
「分からない。ちょっと、心配…」
「…もう少し、先に進んでみるか」
なーんか嫌な予感。トラブルの匂いがしてきたな。
魔獣の餌食にでもなってなけりゃいいけど。いや薄い本的な意味じゃなくて。
~~~~~三人娘のミオクスメル視点~~~~~
「ああもう、フィフラ! どこ行ったんだよ! 聞こえてるなら返事ぐらいしろー!」
「し、シウルちゃん、あんまり大声出すと、魔獣たちまで寄ってきちゃうよ…」
「だからって、お互いの位置が分からないままでいるのもまずいだろ? 向こうは今一人なんだし、こっちより危険なんだぞ?」
「う、うん、そうだね…」
あうぅ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
スタンピードを無事に乗り超えられたのはいいけど、それ以来魔獣森林での魔獣討伐がしばらくできなくなっちゃったし。
アルマちゃんの勧誘が上手くいかなかったからって、八つ当たり気味にダンジョンの魔獣討伐に行って、ズンズン進んでいったら転移の罠を踏んじゃったフィフラちゃんとはぐれちゃうし、
おまけにお気に入りのヘアピンもどこかに落としちゃうし…。うぅっ、泣きそう…。
「なにグズついてんだ! 大丈夫だよ、フィフラのあの図太さとしぶとさはあたしらもよく分かってんだろ? 絶対無事だって!」
「ふぇ…う、うん。そうだよね…図太さは関係あるのかな…」
「転移の罠でどこまで飛ばされたか分かんねーけど、もしかしたらもうポータルを見つけて一足先に脱出してるかもしれないし、もうちっと奥に進んでみるか」
「し、シウルちゃん待ってー」
…シウルちゃんも、フィフラちゃんも強いなぁ…。
もしも、はぐれたのが私だったらと思うと、それだけで足が竦みそうになる。
いつも前向きで、私を引っ張ってくれる二人が居なかったら、私はどうなっていたんだろう。
きっと、一人でウジウジおどおどして、家に帰って引きこもりにでもなっていたのかもしれないなぁ…。
アルマちゃんは、いつも一人で、辛かったんだろうな。
最近は、黒髪のおじさんと一緒にいることが多くなって、あまり寂しそうじゃないけど、あの二人ってどういう関係なんだろう。
フィフラちゃんは、あのおじさんのせいで勧誘に失敗したって言ってたけど、同時にちょっと安心したような表情してたし、悪い人じゃないんだろうけど…。
って、いけない。そんなことより、フィフラちゃんを探さなきゃ。
「フィーフーラー! どこだっつってんだろー! 早く返事しないと置いて帰っちまうぞー!!」
「し、シウルちゃん! あれ!」
「あん?どうした……って、おい! フィフラッ!!」
叫んでいるシウルちゃんの隣で、辺りを見渡していると、隣の部屋の向こうで、フィフラちゃんの赤い髪が見えた。
地面に突っ伏してるみたいだけど、もしかして気絶してる…!?
「だ、大丈夫なの!?」
「分かんねぇ! とにかく傍まで行くぞ!」
思わず急いで倒れてるフィフラちゃんのもとまで駆け寄った。
この時、もう少し周りに気を配っておくべきだったと思う。
部屋に入った途端、ガシャンッと部屋の入り口が鉄格子で閉じられて、
『ギイィイッ!!』
『グルアアァァァッ!!』
私たちの周りを、10体以上の魔獣たちが囲んでいるのが見えた。
ゴブリンだけならなんとかなっただろうけど、ホブゴブリンやハイコボルト、さらにLv20を超える強敵、オークまでいる。
フィフラちゃんを囮にして、私たちを誘い込む罠をしかけていたみたい。
「あ、ああぁ……」
絶望のあまり、思わず声が漏れる。
気を抜くと違うものも漏らしてしまいそう…。
「…ちっ、魔獣のくせに待ち伏せかよ……!」
「ど、どうしよう、どうしよう!」
「落ち着け! この状況でパニック起こしたらホントに終わりだぞ!」
そんなこと言っても、前衛のフィフラちゃんがいないこの状況じゃ、接近されただけでピンチだ。
シウルちゃんの武器は弓だから、素早い連射ができない。私の魔法は近距離じゃ自爆の危険があるから至近距離じゃ使えない。
数も質も向こうが上。付け入る隙も、逃げ場もない。
魔獣たちは、捕らえて屈服させた女性を自分たちの慰み者にするケースもあるらしいけど、今、まさに自分たちがその状態になろうとしているんじゃ、と最悪の想像をしてしまう。
「や、やだよぅ…こんなところで…うえぇ…!」
「泣くなっつってんだろ! 犯られんのも殺られんのも嫌なら最後まで足掻けっ!!」
涙を流して泣き出す私をシウルちゃんが厳しく、力強い言葉で励ましてくれているけど、状況は変わらない。
今にも一斉に魔獣が襲い掛かってきそう、もう駄目だ、と諦めかけた時に
ズガァンッ! と音を立てて、部屋の壁が崩れて、誰かが入ってきた。
「こっちの方から声が聞こえたけど、うわぁ、本当に薄い本一歩手前みたいな状態じゃん。間に合ってよかった」
「ウスイホン?」
「いやごめんそこはスルーしてくださいマジすんませんでした」
緊張感を感じさせない会話をしながら足を進める、黒髪の男女二人の姿が見えた。
「あ、アルマちゃん…?」
「それと、ステータスが終わってるおっさんじゃねーか…!?」
「おっさんはやめてください。俺、泣いちゃうよ?」
「ヒカル、それより周りの魔獣たちをなんとかしないと」
よ、よかった!おじさんはともかく、アルマちゃんがいれば、魔法剣とかいうスキルで前衛を任せられる!
もしかしたら、助かるかも!
『グルオオオォォォオオオッッ!!』
と、内心安堵していたら、おじさんに向かってホブゴブリンが大きな棍棒を振り上げているのが見えた。あ、危ない!
「お、おじさん! 危ない!」
声を上げたけど、駄目だ、間に合わない!
「だから」
その瞬間、おじさんが、振り下ろされた棍棒を左手で受け止めて
「おじさんじゃないって」
右手をホブゴブリンの腹に当てて
「言ってるだろっ!!」
ダァンッ! ゴシャアッ!
怒ったような声を上げたかと思うと、ホブゴブリンの体がすごい勢いで吹っ飛んで、そのまま壁に激突したのを見た。
…あれ? この人、もしかしてすごく強い? あんなステータスなのに?
なにがどうなってるの?
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